「従業員より経営者をAIにすべき」深津氏が語る、2026年の生成AI展望と地方中小企業の活用戦略
AIブームの到来から数年。多くの企業が「業務効率化」や「議事録作成」といった初期段階の活用に留まる中、THE GUILD代表の深津貴之氏は、より本質的な「生成AI活用の未来」を見据えています。
「2025年は、ついにAIが『マス』のものになった年」。そう総括する深津氏が語る、地方中小企業こそが持つ生成AIとの親和性と、経営者が直視すべき「不都合な真実」。そして、2026年に訪れる「頼む前に解決されている」世界とは――。
クラウドサインが運営するウェブ媒体「業務改善プラスジャーナル」が、日本のDXの最前線を走る深津氏に2026年の生成AIの活用展望を伺いました。
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契約書のチェックに生成AIを活用することで、法務人材不足・リーガルチェック費用の削減を図る企業様も多いことでしょう。しかし、生成AIを使ったリーガルチェックには4つのリスクが存在します。この資料では、リスクとその解決策について紹介します。
目次
2025年AI総括「Googleが成果を出し始めた年」
――まず、2025年の振り返りから入りたいと思います。ここ数年、毎年が「AI元年」と言われてきた感覚がありますが、深津さんは2025年をどのような年だったと定義されていますか?
深津貴之氏(以下、深津): おっしゃる通り、2023年も2024年も「元年」と言われ続けて、正直その言葉の鮮度は落ちていますよね(笑)。ただ、あえて2025年を定義するならば、「GoogleのAIが本当の意味で成果を出し始めた年」であり、「AIが一部の愛好家から一般層(マス)へ広がった年」だと言えます。
一昨年あたりまでは、ChatGPTのような新しいツールを、技術トレンドに敏感な一部の層が「これすごいぞ」と面白がって使っているフェーズでした。しかし、これに危機感を抱いたGoogleが「レッドアラート(緊急事態宣言)」を出し、全社を挙げてAI開発に舵を切りました。検索ビジネスや広告ビジネスなどの既存の主力ビジネスがAIによって脅かされる前に、自社がAI技術を主導する側に回るんだ、という強烈な意思表示です。
その成果が結実したのが2025年です。Gemini(ジェミニ)の実用性が飛躍的に向上し、AndroidやPixel、ChromeといったGoogle製品を使っている何億人ものユーザーが、自然な流れで「生成AIユーザー」になった。市場のパイが一気に広がったのが2025年の特徴です。

――確かに、身の回りのツールに当たり前にAIが組み込まれるようになりました。技術的な側面での進化はいかがでしょうか?
深津: 「チャット」から「エージェント」への進化が決定打ですね。
これまでのAIは「1対1対応」でした。「Aをやって」と言えば「Aをやりました」と返す。しかし2025年に定着したエージェント機能は、「Aを達成したい」と伝えると、「そのためにはBとCとDの作業が必要です。まずBをやって、その結果を判定してCへ進みます……」というように、複雑な工程をAIが自律的に判断し、ゴールを目指すことが可能になりました。
この「自律稼働」が可能になったことで、ビジネスにおけるAIの役割は、単なる「相談相手」から「実行部隊」へと質的な転換を迎えたのです。
地方中小企業こそAIと相性がいい理由
――2025年はこうしたAIの進化もあり、日本全国で生成AI活用がさけばれました。資金が豊富な都心の大企業はもちろんのこと、地方中小企業における生成AI活用についてどのようにお考えでしょうか。
深津: 僕は常々言っているんですが、地方の中小企業と生成AIこそ、めちゃくちゃ相性がいいんです。
――その心は?
深津: 理由は大きく2つあります。
1つ目はシンプルに「労働力不足の解消」。
地方企業にとって、人を採用できないというのは死活問題ですよね。先ほど申し上げたように、来年以降のAIは「自律稼働」が当たり前になっていくと考えられます。単純作業はもちろん、ある程度の判断を伴う業務までAIエージェントが担えるようになる。これは「人がいないために業務が回らない」という、地方の構造的課題を克服する鍵になり得ます。
そして2つ目。こちらの方がインパクトが大きいかもしれませんが、「言語と距離の壁の消失」です。

――言語と距離の壁、ですか。
深津: 極論を言いますね。例えば、地方の町工場や、伝統的な染物屋さんがあるとします。技術は超一流だけど、販売先は地元や国内に限られ、語学力や海外の販路がないために、国際展開が難しかった。これが従来の制約でした。
しかし、生成AIのエージェントを使えばどうなるか。「世界中のトップブランドのトレンドを調査して、我々の染物技術と相性が良さそうなブランドをリストアップしてくれ」と頼む。さらに「そのブランドの担当者に刺さるような提案メールをフランス語で作成し、アポを取ってくれ」と指示する。
商談が成立すれば、リアルタイム翻訳を介して、日本語で交渉すればいい。
――なるほど。いきなりグローバルマーケットが商圏になると。
深津: そうです。地方が地方であるがゆえに抱えていた「人・予算・距離・言語」というハンデを、AIによって飛び越えることも可能になるんです。
たとえば、パッケージのデザインが現地向けじゃないから売れなかった地酒も、AIによる市場調査やデザインの補助を活用することで、よりグローバルに適したボトルが作れるかもしれない。ブランディングや営業の専門家を雇うコストが出せなかった企業こそ、AIという高性能かつ低コストなツールを「スタッフ」として使いこなすことで、一気にゲームチェンジできる可能性があるんです。だから、地方企業がAIを有効に活用すれば、すごく面白いことが起こるはずなんですよ。
――夢が広がりますね。一方で、AI導入に失敗する、あるいは相性が悪い業務というのはあるのでしょうか?
深津:あります。一番相性が悪いのは、「人間・機械・人間・機械」と、交互にボールが行き交うような業務フローです。
「機械・機械・機械」なら自動化できます。「PC・PC・PC」も爆速で回せる。でも、間にいちいち人間が挟まると、そこで必ず「待ち時間」や「確認作業」が発生します。AIの処理速度が0.1秒でも、人間の確認に1時間かかっていたら意味がないですよね。
同様に、対面の接客や、儀式的な挨拶回りなど、「人間がそこにいること」自体に価値がある業務も、AIには置き換えづらい。
逆に言えば、「AIに任せたら、あとはAIだけで1万回試行錯誤してくれる」ような領域は最強です。
「100万件の営業リストに、それぞれ個別の文面でメールを送っておいて」とか、「世界中のニュースから、地元の農業に役立つ情報を毎日収集してまとめておいて」といった、数が成果に直結する分野。ここは人間が太刀打ちできない領域なので、すぐにでもAIに任せるべきです。

「経営の意思決定の質向上」にAIを使うべし
――実際にAIを導入する際、多くの経営者は「現場の業務効率化」から考えがちです。ここに落とし穴はありますか?
深津: ありますね。これもまた極論めいた話をしますが、経営者は「従業員をAIに置き換えるより、経営者をAIに置き換える」ことを真剣に考えたほうがいいです。
――経営者を、ですか?
深津: はい。インパクトの桁が違うからです。
たとえば、中小企業のカスタマーサポート業務をAI化して、月数万円、年間数十万円のコスト削減ができたとします。もちろん大事なことですが、会社の命運を左右するほどではありません。
一方で、社長が「勢い」や「勘」だけで、勝算のない新規事業に手を出したり、無駄な工場を建てたりして失敗したらどうなるか。一度の判断ミスでも数千万円、数億円の損失が発生する可能性があります。場合によっては会社の存続にも関わりますよね。
中小企業において最もリスクが高いのは、実は「経営者による直感的・独断的な判断」なんです。だからこそ、その判断をAIで検証・補完するほうが、よほど経営へのインパクトが大きい。
――耳が痛い経営者も多そうです。具体的にはどうすればいいのでしょうか?
深津: まずやるべきは、「経営会議にAIを参加させること」です。
やり方は簡単です。会議の議事録をすべてテキスト化して、AIに読み込ませる。その上で、AIにこう問いかけるんです。
「この議事録をレビューしてくれ。我が社の経営目標に対して、本来議論すべきなのに放置されている課題はないか?」
「エビデンスに基づかず、誰かの『勢い』だけで決定されている事項はないか?」
「3ヶ月間、○○の問題について一度も議論されていないが、リスクはないか?」
――なるほど、AIを「忖度のない社外取締役」にするわけですね。
深津: その通りです。人間はどうしても空気を読みますから、社長が強い意志で方向性を示したときに、、「いや、データを見ると危険です」とは言い出しにくい。でもAIは空気を読みません。
「社長、その投資判断は過去のデータと照らし合わせるとリスクが高いです」と冷静に警告してくれる。
――確かに、最強のパートナーになりそうです。
深津: ファイナンス(財務)もそうですね。
中小企業だと、税理士とは年に1回、決算の時しか会わないというケースも多い。でも、AIに毎月の試算表や入出金データを読ませておけば、「来月、資金繰りが厳しくなる可能性があります」「原材料費が上がっているので、今のうちに価格転嫁を検討すべきです」などのアラートをタイムリーに出すことができます。
「挨拶メールの自動作成」よりも、こういう「経営の意思決定の質の向上」にAIを使うほうが、間違いなくROI(投資対効果)は高いですよ。

AIはレバレッジ。活用場所を間違えると、無駄な作業を増幅させる
――経営判断にAIを使うという視点は非常に重要ですね。活用において気をつけるべき注意点は何かありますか。
深津:「自社の利益を最大化するにあたって、どこがボトルネック(制約)になっているのか」を見誤ると、AIを導入しても成果には繋がりません。
わかりやすい例で言うと、AIを使って素晴らしい営業ツールを作り、受注を100倍に増やしたとします。でも、もし工場の生産ラインが「1日2個」しか作れない限界があったとしたらどうなるか。
対応できない98件の受注に対して、謝罪や説明のコストが増えるだけで、利益は1円も増えませんよね。むしろ現場は混乱して疲弊します。
――部分最適の罠ですね。
深津: そうです。この場合、AIが解決すべきは営業ではなく、「工場の生産能力をどう上げるか」あるいは「単価をどう上げるか」です。
AIはレバレッジ(てこ)なので、適切な場所に使えば大きな成果が出ますが、誤った場所に使えば、かえって無駄な作業を増幅してしまうことにもなりかねません。
「自社にとって、強化すれば最も利益インパクトが大きくなるポイントはどこか?」
それを見極めるのが経営者の仕事であり、AI導入の第一歩です。
2026年のAI展望:「お願いする前に解決している」世界
――少し未来の話をさせてください。2025年が「エージェントの年」だとしたら、2026年はどのような年になると予測されますか?
深津: 2026年以降のトレンドとして僕が注目しているのは、「プロアクティブ(先回り)なAI」です。
これまでは「お願いしたら、対応してくれる」AIでしたが、今後は、「お願いする前に、もう解決している」という動きが見られるようになります。
――お願いする前に、ですか?
深津:たとえば、AIが日々の生活データを分析していて、「最近カルシウムが足りていないようだから、今日のお弁当にはイワシを多めに入れて発注しておきました」とか。
トイレットペーパーの使用状況をもとに、「そろそろ在庫がなくなると判断し、Amazonで注文しておきました」とか。
人間が「あ、困ったな」と認識する前に、AIがバックグランドで対応を済ませ、問題発生そのものを回避するような仕組みが登場しつつあります。結果として、「何もしていないのに、なぜか生活の質(QOL)が上がっている」という状態が実現していくと考えられます。
――それはビジネスにも応用されそうですね。
深津: されますね。海外ではすでに、カレンダーやメールの内容を分析して、「あなたに必要な情報だけをまとめた専用のポッドキャスト」を毎朝生成して配信するAIサービスも登場し始めています。
「最近、自動車業界の人とのミーティングが多いですね。では、最新のEV技術のニュースと、相手との話題になりそうなトピックを解説した音声番組を作っておきました。通勤中に聞いてください」といった具合です。
これまでの「レコメンド(おすすめ)」は、既存のコンテンツの中から合いそうなものを選んでいただけでした。これからは、「その人のためだけに、必要な内容をゼロから生成して渡す」時代になります。教育も、エンタメも、すべてが「個」に最適化されていくでしょう。
――深津さん個人として2026年に実験してみたいことはありますか?
深津:「僕の仕事を代わりにやってくれるAI」を一つつくりたいですね(笑)。
極論、Slack上のやり取りだけで済む仕事なら、僕の過去のログを学習させたAIが自動で返信文を生成して、案件処理の補助をしてくれないかなと。あるいは、大学の講義なども、僕の思考パターンをベースにした僕のアバターとAI音声が、自律的に授業を代行してくれるなら、僕はその時間に別のことができますから。
実際にそれが通用するのか、クライアントやお客さんが満足するクオリティを出せるのか。実験的にやってみたい気持ちがあります。
――非常に楽しみです。最後に、読者である中小企業のリーダーたちへメッセージをお願いします。
深津: AIの進化は、2022年より23年、23年より24年と、確実に加速しています。当然、2025年よりも2026年の方が変化のスピードは速いでしょう。
ここで「AIなんて」と様子見をする人と、波に乗る人の格差は残酷なまでに開いていきます。でも逆に言えば、地方の小規模なチームでも、AIという武器を使えば、大企業と対等以上に戦えるチャンスの時でもあります。
コツは一つだけ。「ガンガン触って、ガンガン試すこと」。
食わず嫌いをせず、好奇心を持ってAIに触れ続けること。それが、不確実な未来を生き残る唯一かつ最強の戦略です。
――ありがとうございました。

深津 貴之(ふかつ・たかゆき)
株式会社THE GUILD 代表 / 弁護士ドットコム株式会社 CXO
サービスデザイナー。ユーザーの行動設計や体験設計を主軸に、新規事業の企画やグロース、新技術の導入などの伴走を行う。2009年 株式会社Art&Mobile、2013年 クリエイティブファームTHE GUILDを設立。現在はnote株式会社や弁護士ドットコム株式会社のCXOを務めるほか、横須賀市のAI戦略アドバイザーなど、領域を超えた事業アドバイザリーを行う。執筆、講演などでも精力的に活動。
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この記事を書いたライター
業務改善プラスジャーナル編集部
業務改善は難しそう、大変そうという不安を乗り越え、明日のシゴトをプラスに変えるサポートをします。単なる業務改善に止まらず、組織全体を変え、デジタル化を促進することを目指し、情報発信していきます。契約管理プラットフォーム「クラウドサイン」が運営。
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