フレックスタイム制導入の教科書|失敗しない決定項目と事務負担を減らすコツ
フレックスタイム制は柔軟な働き方を実現する有効な手段ですが、導入には細かなルール設計と、労使協定の締結、就業規則の定め、契約変更といった煩雑な事務作業が伴います。
本記事では、フレックスタイム制導入に必要な「決定すべき5つの重要項目」を詳しく解説するとともに、導入時の事務負担を劇的に減らし、スムーズな運用をスタートさせるためのポイントをご紹介します。
目次
フレックスタイム制とは?メリット・リスクを解説
まずは、フレックスタイム制の基本的な仕組みと、導入によって得られるメリット、そして見落としがちなリスクについて整理します。
フレックスタイム制の仕組みとコアタイムの定義
フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)において、平均した一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間(40時間。特例事業では44時間)を超えない範囲で、一週又は一日の法定労働時間を越えて労働者を労働させることができる、という制度であり、その枠内で従業員が日々の始業・終業時刻を自ら決定できるものです(労働基準法第32条の3)。
この制度では労働時間は大きく分けて2つの時間帯で構成されます。
- フレキシブルタイム
従業員がいつでも出退勤してよい時間帯です。 - コアタイム
必ず勤務していなければならない時間帯です(※設定は必須ではありません)。
従来の固定時間制とは異なり、個人の裁量を大きく認めるのが特徴です。
企業側・従業員側それぞれのメリット
フレックスタイム制の導入は、労使双方に大きなメリットをもたらします。
| 従業員側のメリット | 企業側のメリット |
| 通勤ラッシュの回避、育児・介護との両立、 プライベートの充実など、ワークライフ バランスが向上します。 |
柔軟な働き方をアピールすることで、 優秀な人材の確保や定着率向上が期待できます。 また、業務の繁閑にあわせた効率的な働き方を 促すことで、生産性向上にもつながります。 |
多くの企業が見落とす「労務管理リスク」とは
一方で、フレックスタイム制導入にはリスクも伴います。
「フレックスタイム制を導入するうえで最も注意が必要なのは、「労働時間の把握と管理」です。
自由な働き方=管理不要ではありません。企業には労働時間を適正に把握する義務があります。とくに、コアタイム以外の時間帯における「隠れ残業」や、清算期間を超えた労働時間の繰り越し処理などの管理が複雑化します。
また、導入にあたっては労使協定の締結が必須要件となります。ここで定めたルールが曖昧だと、後に労使トラブルに発展するケースも少なくありません。法的な要件を満たしつつ、実務に即した協定書を作成し、適切に管理・更新していく体制づくりが不可欠です。
【比較表】フレックス制と類似制度の違い
なお、フレックスタイム制と似たような制度として「変形労働時間制」や「時差出勤制」もあります。
自社に合っているのは本当にフレックスタイム制なのか、他の制度と比較して確認しましょう。
| 項目 | フレックスタイム制 | 変形労働時間制 | 時差出勤制 |
| 始業・終業時刻 | 従業員が日ごとに決定 (会社は指定できない) |
会社がシフト等で指定 (個々の従業員には始業・ 終業時刻の裁量はない) |
会社が決めたパターンから選択 |
| 1日の労働時間 | 従業員の裁量で日によって増減可 | 会社の裁量で日によって増減可 (シフトによる) |
固定 (例:8時間) |
| 残業代 | 清算期間の総枠を超えた分について発生 | 対象期間の平均が週40時間を超えた分等 | 1日8時間を超えた分について発生 |
| 導入の手続き | 就業規則改定+労使協定 | 就業規則改定+労使協定 (期間による) |
就業規則改定 |
| こんな企業に | 個人の裁量で効率的に働かせたい。 個人のワークライフバランスを 大切にしたい。 |
事業の繁忙期と閑散期の差が激しい (会社主導で調整したい) |
通勤ラッシュだけ回避させたい |
この中でもとくに「変形労働時間制」はフレックスタイム制とよく比較される重要な制度です。「事業全体で忙しい時期と暇な時期があるので、メリハリをつけたい」という目的の場合、フレックスよりも変形労働時間制(1か月単位や1年単位)のほうが適しているケースも多いため、気になる方はこちらの記事も参考にしてください。
【実務ガイド】導入時に必ず決めるべき「労使協定」の5項目
フレックスタイム制を導入するためには、就業規則への規定とともに、労使協定の締結が必要です。
とくに労使協定では、法律で定められた以下の5つの項目を具体的に決定しなければなりません。ここが制度設計の「核」となります。
1. 対象となる労働者の範囲
全従業員を対象にするのか、特定の部署(例:開発職、営業職など)に限るのかを決定します。
「著しく業務に支障をきたす部署」や「時間の管理が馴染まない業務」は対象外とすることが一般的です。
2. 清算期間(労働時間を集計する期間)
労働時間を調整できる期間を定めます。
従来は1か月が上限でしたが、2019年4月の労働基準法改正により、上限が3か月に延長されました。
- 1か月単位:毎月の給与計算サイクルとあわせやすく、管理がシンプル。
- 3か月単位:月をまたいだ調整が可能(例:4月は繁忙期で多く働き、5月は閑散期なので労働時間を短くする)。
3. 清算期間における総労働時間(所定労働時間)
清算期間全体で、従業員が働くべき「総枠の時間」を決めます。
これは以下の計算式で算出される法定労働時間の総枠の範囲内で設定する必要があります。
従業員が働くべき「総枠の時間」計算式
- 清算期間の暦日数 / 7日 × 40時間
4. 標準となる1日の労働時間
有給休暇を取得した際に、「何時間働いたこととみなすか」の基準となる時間です。
一般的には、会社全体の所定労働時間(例:8時間)を設定します。ここが決まっていないと、有給取得時の給与計算ができなくなります。
5. コアタイム・フレキシブルタイム
コアタイムとは、従業員が必ず勤務すべき時間帯のことを指します。設定は必須ではありませんが、「業務の効率」と「組織の一体感」を維持するうえで大きなメリットがあります。
たとえば、コアタイムを「午前11時から午後3時」と定めておくと、定例会議をその時間帯に設定することができます。
仮にコアタイムがないと、「あの人は朝早い、この人は夜遅い」とバラバラになって、定例会議などが設定できなくなってしまいかねないので、そのような事態を防ぐことができます。
なお、コアタイムの設定は必須ではありません。コアタイムを一切設けない制度を、通称「スーパーフレックスタイム制」と呼びます。
一方、フレキシブルタイムとは従業員が自らの決定で始業・終業を行なえる時間帯(出退勤可能な時間帯)のことです。通常、コアタイムの前後に設定されます。
▼コアタイム・フレキシブルタイムの設定例
| コアタイム | 午前11時〜午後3時。 この時間帯は必ず出勤(稼働)している必要があります。 |
| 始業フレキシブルタイム | 午前7時〜午前11時。 この間の好きな時間に出社(始業)できます。 |
| 終業フレキシブルタイム | 午後3時〜午後10時。 この間の好きな時間に退社(終業)できます。 |
フレキシブルタイムの開始時刻と終了時刻は、必ず労使協定で定める必要があります。「24時間いつでもOK」とする場合でも、形式上はその範囲を定めることになります。
コアタイムとフレキシブルタイムをどのように定めるかは、労使協定で任意に設定できます。
ただし、次のような制度や運用は始業終業時刻を従業員の自主的な選択に委ねたことにならないため、フレックス制度とは言えません。
コアタイム・フレキシブルタイムの誤った設定例
- 例1)フレキシブルタイムが極端に短い場合(たとえば始業時30分、終業時30分)
- 例2)コアタイムと標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合
- 例3)コアタイムの時間帯以外の時間帯について、会社が従業員にある時間までに出社するよう命じる、または、ある時刻まで残って仕事するよう命じる。
導入を成功させるための具体的なステップ
決定すべき項目が整理できたら、実際の導入プロセスに進みます。ここでは事務手続きの効率化も視野に入れたステップを解説します。
ステップ1:社内ルールの策定と就業規則の改定
決定した5項目に加え、緊急時の連絡ルールや遅刻・早退の扱いなどを策定します。
その後、就業規則に「始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を規定し、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
ステップ2:労使協定の締結
従業員代表と、先ほどの5項目を定めた労使協定を締結します。
この労使協定は書面での締結が一般的でしたが、要件を満たせば電磁的記録(電子契約など)での締結・保存も認められています。
なお、フレックスタイム制に関する労使協定については、清算期間が1か月を超える場合は労働基準監督署への届出が必要です。違反すると罰則として30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため、対応をしましょう。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
参考:労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について(厚生労働省)
ステップ3:従業員への周知と労働条件の変更通知
制度導入により、個々の従業員の労働条件(始業・終業の時刻など)が変更になります。
そのため、就業規則の周知だけでなく、対象となる従業員に対して「労働条件通知書」を新たに交付するか、契約内容の変更について同意を得る必要があります。
ステップ4:勤怠管理システムの選定・設定
フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムを導入、または設定変更を行ないます。
とくに清算期間が1か月を超える場合、月々の労働時間の繰り越しや残業代計算が複雑になるため、システム対応が必須となります。
【Q&A】フレックスタイム制の導入時によくある疑問を解消
はじめてフレックスタイム制を導入する際、人事担当者が悩みやすいポイントをQ&A形式でまとめました。制度設計の参考にしてください。
Q. フレックスタイム制にすると残業代は発生しないのですか?
A. いいえ、発生します。
フレックスタイム制は「残業代をなくす制度」ではありません。「実労働時間の合計」が「清算期間における法定労働時間の総枠」を超えた場合、その超過分は時間外労働(残業)として割増賃金を支払う必要があります。
具体的には、以下の計算式で算出します。
時間外労働(残業)時間の計算式
- 実労働時間の合計 - 法廷労働時間の総枠 = 時間外労働(残業)時間
「法定労働時間の総枠」とは、その月の暦日数によって決まる上限時間のことです。
| 暦日数 | 法廷労働時間の総枠 |
| 31日の月 | 177.1時間 |
| 30日の月 | 171.4時間 |
たとえば、31日ある月に合計で180時間働いた場合、「180時間 - 177.1時間 = 2.9時間」が残業代の支払対象となります。逆に、ある特定の日に10時間働いたとしても、月全体の合計が枠内に収まっていれば残業代は発生しません。
Q. コアタイムに遅刻した社員はどう扱えばいいですか?
A. コアタイムは「必ず勤務していなければならない時間帯」ですので、この時間に遅れることは遅刻(欠勤)扱いとなります。
ただし、フレックスタイム制は本来、時間を柔軟に使う制度ですので、その分の時間をフレキシブルタイムで補填して働けば、給与カット(欠勤控除)は行なわないという運用をする企業も多いです。
どのような扱いにするか、就業規則で明確に定めておく必要があります。
Q. 一部の部署だけ適用外にしたり、一部の部署だけ適用したりすることは可能ですか?
A. 可能です。
たとえば、「顧客対応が必要なカスタマーサポート部門は固定時間制、開発部門はフレックス制」というように分けることができます。
その場合は、労使協定の「対象となる労働者の範囲」で適用対象を明確に定義し、トラブルにならないよう周知しましょう。
フレックスタイム制の導入の事務負担を軽減する「電子契約」の活用法
フレックスタイム制導入をスムーズに進めるための「事務効率化」のヒントをお伝えします。
労使協定や労働条件通知書のペーパーレス化
前述の通り、フレックスタイム制の導入には「労使協定の締結」や、全対象者への「労働条件通知書の交付(兼 同意取得)」が発生します。
対象者が50名、100名となると、紙の書類を印刷・配布・回収・ファイリングするだけで膨大な時間がかかります。さらに、書類に不備があれば再回収の手間も発生します。
電子契約サービスを活用すれば、これらの業務を一括送信で完了でき、回収状況もウェブ上でリアルタイムに把握できます。従業員もスマホから簡単に確認・同意ができるため、手続きのスピードが劇的に向上します。
制度変更に強い組織をつくる基盤として
働き方の多様化に伴い、今後も「テレワーク規定」や「副業規定」など、新たな制度導入が必要になる場面は増えるでしょう。
その都度、紙の書類を回覧していては、スピード感のある経営判断はできません。
「新しい働き方を導入したい」と思ったとき、すぐに契約変更や合意形成ができるデジタル基盤(電子契約)を整えておくことこそが、柔軟な組織づくりの第一歩といえます。
まとめ
フレックスタイム制の導入は、従業員の働きやすさを向上させる強力な施策ですが、その裏側には綿密なルール設計と事務手続きが必要です。
「制度の中身を詰めるだけで手一杯で、書類の準備まで手が回らない」
そうお考えの人事担当者様は、ぜひ一度、当社の電子契約サービスをご検討ください。
フレックスタイム制導入時に発生する大量の契約変更手続きを一括で処理できるだけでなく、法改正に対応したコンプライアンスの強化も実現します。
導入手続きの負荷を減らし、よりスムーズな制度開始をサポートするために、まずは無料の資料請求で、どれくらい業務が効率化できるかをお確かめください。
この記事の監修者
玉上信明
社会保険労務士
三井住友信託銀行にて年金信託や法務、コンプライアンスなどを担当。定年退職後、社会保険労務士として開業。執筆やセミナーを中心に活動中。人事労務問題を専門とし、企業法務全般・時事問題・補助金業務などにも取り組んでいる。
この記事を書いたライター
業務改善プラスジャーナル編集部
業務改善は難しそう、大変そうという不安を乗り越え、明日のシゴトをプラスに変えるサポートをします。単なる業務改善に止まらず、組織全体を変え、デジタル化を促進することを目指し、情報発信していきます。契約管理プラットフォーム「クラウドサイン」が運営。
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