現場が動くSOP(標準作業手順書)とは?マニュアルとの違いや作成手順・注意点を徹底解説

「業務品質が人によってバラバラ」
「ベテラン社員が休むと、途端に現場が回らなくなる」
「業務効率化を進めたいが、何から手をつければいいかわからない」
SOP(標準作業手順書)の作成を検討されている方の多くは、こうした現場の「属人化」や「品質の不安定」に悩まれています。企業が成長し、組織が拡大する中で、業務を誰でも同じ品質で遂行できる仕組みづくりは避けて通れません。
そこでこの記事では、「SOPとは何か」という基礎知識から、マニュアルとの決定的な違い、そして現場が実際に動けるSOPの作成手順までを徹底解説します。単なる書類作りで終わらせず、組織の生産性を底上げするための実践的なガイドとしてお役立てください。
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SOPとは何かをわかりやすく解説
SOPという言葉を耳にする機会が増えましたが、その本質を正しく理解している人は意外と多くありません。まずはSOPの定義と、なぜ今多くの企業がSOP導入を急いでいるのか、その背景を解説します。
SOPの基本的な定義
SOPとは、Standard Operating Procedureの略称で、日本語では「標準作業手順書」と訳されます。
具体的には、業務を遂行する上で「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行なうべきかを、具体的かつ順序立てて記述した文書のことを指します。ここでのキーワードは「Standard(標準)」です。
単に作業手順を記したメモ書き程度のものではなく、「この手順通りに行えば、誰がやっても必ず同じ結果(品質・成果)が得られる」という基準(スタンダード)を示すものがSOPです。
たとえば、製造業であれば「ボルトを締める」という作業に対し、「どの工具を使い、どの程度のトルクで、何回回すか」まで規定します。営業事務であれば「見積書の作成」に対し、「どのフォーマットを使い、誰の承認を得て、どのフォルダに保存するか」までを定義します。これにより、作業者の経験値に依存しない業務遂行が可能になります。

SOPが企業で求められる理由
なぜ今、SOPが重要視されているのでしょうか。主な理由は以下の3点に集約されます。
品質の均一化(属人化の解消)
特定の担当者しか知らない「暗黙知」が多い組織では、担当者の不在や退職が即座にリスクとなります。SOPによって「暗黙知」を「形式知」に変えることで、誰が担当しても一定の品質を担保できるようになります。結果として不良率が下がり原価率が改善され、顧客からの信頼獲得につながります。
業務効率の向上と教育コストの削減
SOPがないと、作業のたびに迷いや手戻りが発生します。SOPがあれば迷う時間がなくなり、新入社員への教育もSOPを読み込ませることでOJTの時間を大幅に短縮できます。
コンプライアンスと安全性の確保
医療、製造、金融など規制の厳しい業界はもちろん、一般的な企業活動においても、コンプライアンスや安全管理は重要です。SOPに準拠することは、正しいルールで業務が行われたという証拠(証跡)にもなり、リスク管理の観点からも必須となります。
SOPがDX推進で重要な理由
近年、多くの企業が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)においても、SOPは土台となる重要な要素です。
DXとは単にデジタルツールを導入することではありません。業務プロセスを変革し、競争力を高めることが目的です。しかし、元の業務プロセスが整理されておらず、手順がバラバラな状態(カオスな状態)でデジタル化を進めても、自動化は失敗します。
たとえば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入する場合、ロボットに指示する手順が明確でなければなりません。SOPを作成する過程で業務フローが可視化・標準化されるため、どの部分をデジタルに置き換えるべきかが明確になります。つまり、SOP作成はDXを成功させるための「整地作業」と言えるのです。
SOPとマニュアルの違い
「SOPとマニュアルは何が違うの?」という疑問は、SOP導入時によくある質問の一つです。両者は混同されがちですが、その「目的」と「粒度」において明確な違いがあります。
簡単にいうと、マニュアルは業務の全体像を説明しているのに対し、SOPは特定の業務をミスなく実行するための詳細な手順について記載しているという違いがあります。
目的と役割の違い
マニュアルとSOPの違いを端的に言えば、マニュアルは「教科書」、SOPは「手順リスト」です。
| 特徴 | マニュアル(Manual) | SOP(標準作業手順書) |
| 主な役割 | 業務の全体像や背景、機器の操作方法などを 網羅的に説明する「教科書」 |
特定の業務を完遂するための具体的な行動を 記した「手順書」 |
| 視点 | 知識の提供(What, Why) | 行動の指示(How) |
| 内容の粒度 | 広い範囲をカバーする。 例外処理や周辺知識も含む |
作業の流れに沿って、 一つひとつの動作を詳細に記述する |
| 対象 | 初心者から熟練者まで、 学習や参照のために使う |
実務を行なう作業者が、 手元で確認しながら進めるために使う |
たとえば、新しい会計ソフトを導入したとします。
マニュアルはソフトの機能一覧、画面の見方、困った時のQ&Aなどが書かれた分厚い冊子となりますが、SOPは、「月次決算処理」という特定の業務において、「1. 売上データを取り込む」「2. 経費データを照合する」といった具体的なアクションステップが書かれたシートとなります。つまり、マニュアルという大きな枠組みの中に、具体的な作業手順が書かれたSOPが含まれていると考えると理解しやすいでしょう。
現場の実行度を高める点の違い
マニュアルは「知っている状態」を作るのに適していますが、SOPは「できる状態(実行)」を作ることに特化しています。
マニュアルを読んだだけでは、「操作方法はわかったけれど、今の業務で具体的にどういう順番で使えばいいの?」という疑問が残ることがあります。対してSOPは、「思考停止しても、書いてある通りに手を動かせば業務が完了する」レベルまで落とし込まれています。
現場の実行度を高める、つまり「ミスなく、遅滞なく業務を終わらせる」ためには、マニュアルではなくSOPが必要不可欠なのです。
どの業務をSOP化すべきか
すべての業務をSOP化する必要はありません。SOP化すべき業務には特徴があります。
- 定型業務(ルーチンワーク): 毎日、毎週、毎月など、繰り返し発生する業務。
- 複雑な手順を要する業務: 手順が多く、記憶に頼るとミスが起きやすい業務。
- 複数の担当者が関わる業務: 人によってやり方が異なると困る業務。
- 品質や安全に直結する重要業務: 1つのミスが大きな損害や事故につながる業務。
逆に、新規事業の企画や、毎回状況が全く異なるクリエイティブな業務は、手順を固定化することが難しいため、SOP化は不向きです。ただし、企画書提出のフローなど、定型部分はSOP化可能です。
SOP作成の基本ステップ
ここからは、実際にSOPを作成するための具体的なステップを解説します。いきなり文章を書き始めるのは失敗の元です。
以下の手順に沿って、着実に進めていきましょう。
1. 対象業務の洗い出しと可視化
まずは、SOP化する対象となる業務をリストアップします。
現場の担当者にヒアリングを行い、どのような業務が存在しているかを棚卸ししましょう。
この際、「5W1H」を意識して情報を整理します。
- Who: 誰が担当しているか(主担当・副担当)
- When: いつ、どのタイミングで行なうか(頻度・期限)
- Where: どこで(オフィス、リモート、特定のシステム上)
- What: 何をする業務か(入力、承認、加工など)
- Why: なぜその業務が必要か(目的・ゴール)
- How: どのように行っているか(使用ツール、手順)
とくに「今のやり方が本当に最適か?」という視点を持つことが重要です。無駄な手順がそのままSOPになってしまっては意味がありません。現状を把握した上で、ECRS(Eliminate:排除、Combine:結合、Rearrange:交換・入れ替え、Simplify:簡素化)の原則を用いて、業務プロセス自体をスリム化できないか検討します。
2. 業務フロー図を作成する
手順を文字で書き始める前に、「業務フロー図」を使って業務の流れを図解します。
業務の開始から終了までを矢印でつなぎ、分岐条件(Yes/No)を明確にします。関係者が複数いる場合は、「スイムレーン図」(部門や担当者ごとにレーンを分けたフロー図)を作成すると、「誰が」「どのタイミングで」ボールを持つのかが一目瞭然になります。
このフロー図があることで、SOPの全体構成がブレなくなり、書き漏らしを防ぐことができます。また、フロー図自体もSOPの一部として添付することで、視認性が大幅に向上します。
3. 手順書のテンプレートを整える
組織内でSOPのフォーマットがバラバラだと、読み手にとってストレスになります。作成に入る前に、標準テンプレートを用意しましょう。
一般的なSOPテンプレートに必要な項目は以下の通りです。
- ヘッダー情報:
SOPタイトル
管理番号・バージョン番号
作成者・承認者
作成日・最終更新日 - 目的・適用範囲: このSOPは何のためにあり、誰がいつ使うものか。
- 用語定義・必要ツール: 専門用語の解説や、作業に必要なツール・権限。
- 手順(本編): 具体的なアクションステップ。
- 関連資料・参照先: 関連するマニュアルやデータへのリンク。
- トラブルシューティング: エラーが起きた際の対処法。
4. SOPを文書化する際のポイント
いよいよ具体的な手順を記述します。ここで意識すべきは、「読み手が誤解する余地をなくす」ことです。
- 一文一義: 1つのステップには1つの動作だけを書く。「Aを確認してBに入力し、Cボタンを押す」ではなく、「1. Aを確認する」「2. Bに入力する」「3. Cボタンを押す」と分けます。
- 命令形で書く: 「〜します」「〜してください」よりも、「〜する」「〜を入力する」と言い切る形の方が、指示として明確です。
- 主語と述語を明確に: 誰が何をするのかを省略しない。
- 具体的な数値を使う: 「適量」「しばらく待つ」といった曖昧な表現はNG。「5ml液体を追加する」「30秒待機する」などと数値化します。
5. レビューと現場への落とし込み
作成者が書き上げたSOPは、あくまで「ドラフト(下書き)」です。必ず、実際にその業務を行なう現場担当者にテスト運用(ウォークスルー)をしてもらいましょう。
作成者の頭の中では当たり前の手順が、現場にとっては「意味がわからない」「現状と違う」ということが多々あります。
「この説明で迷わず作業できたか?」「抜けている手順はないか?」をフィードバックしてもらい、修正を加えます。このプロセスを経ることで、現場にとって「自分たちのための使えるSOP」になります。
6. 運用後のアップデート方法
SOPは「作って終わり」ではありません。業務環境やツール、法令などは常に変化します古い情報のまま放置されたSOPは、現場の信頼を失い、誰も見なくなります。
誰が更新の権限を持ち、どのように周知するか「更新ルール」を明確に決め、半年に1回など、定期的に見直すようにしましょう。
また、現場が「手順がおかしい」と気づいた時に、すぐに報告・改善提案できる仕組みを作るのもポイントです。
SOP作成の成功ポイント
SOP導入を成功させるためには、ただ手順を羅列するだけでは不十分です。現場に定着し、実際に活用され続けるための「成功の鍵」となるポイントを3つ紹介します。
属人化を排除する書き方の工夫
最も重要なのは、「解釈のズレ」を生まない書き方です。
たとえば、「顧客に丁寧に対応する」というSOPがあったとします。これでは「丁寧」の基準が人によって異なります。
- 悪い例:「顧客に丁寧に対応する」
- 良い例:「電話に出る際は3コール以内に出る。第一声は『お電話ありがとうございます、〇〇株式会社でございます』と明るい声で名乗る」
このように、行動ベースで具体的に記述することで、ベテラン社員の「丁寧」と新入社員の「丁寧」の基準を揃えることができます。経験や勘に頼る部分を言語化・数値化することが、属人化排除の鉄則です。
画像・動画の活用で理解を促す
文字だけのSOPは、読むのにエネルギーが必要で、敬遠されがちです。
「百聞は一見に如かず」です。テキストを補完するビジュアルを積極的に活用しましょう。
- スクリーンショット: システム操作の場合、クリックするボタンを赤枠で囲った画像を添付します。
- 写真: 物品の配置や機械の操作などは、実物の写真を載せます。OK例とNG例の写真を並べるとより効果的です。
- 動画(スクリーンキャスト): 複雑な動きや、微妙なニュアンスを伝えるには、1分程度の短い動画を埋め込むのが最強の手段です。現在は画面録画ツールも普及しているため、手軽に動画SOPを作成できます。
SOP管理ツール活用のメリット
WordやExcelで作成し、ファイルサーバーで管理する方法は、初期コストはかかりませんが、運用フェーズで限界が来ます。
「どれが最新版かわからない」「検索しにくい」「スマホで見られない」といった問題が発生するためです。
本格的にSOPを運用するなら、SOP作成・管理ツールの導入をおすすめします。
クラウド型のツールであれば、以下のようなメリットがあります。
- 検索性が高い: キーワード検索ですぐに必要な手順が見つかる。
- バージョン管理が容易: 常に最新版が表示され、過去の履歴も残る。
- マルチデバイス対応: 現場からタブレットやスマホで確認できる。
- 動画埋め込みが簡単: ドキュメント内に直接動画を再生できる。
- 作成負荷の軽減: 整ったテンプレートに沿って入力するだけで見やすいSOPが作れる。
まとめ|SOPで業務効率化を加速させる
SOP(標準作業手順書)は、単なる「作業の手順書」ではありません。組織のパフォーマンスを最大化し、品質を保証し、企業の成長を支える「資産」です。
SOPの作成において最初は手間に感じるかもしれませんが、一度しっかりとしたSOPを構築すれば、教育コストの削減、ミスの激減、業務効率の向上といった形で、投資した時間以上のリターンが必ず返ってきます。
まずは、「最も属人化が進んでいて困っている業務」や「頻繁にミスが起きる業務」を1つピックアップし、スモールスタートでSOP化に取り組んでみてください。現場が変わる実感を一度得られれば、SOPの文化は自然と社内に広がっていくはずです。
SOPによって標準化が進んだ先には、DXという変革が待っています。しかし、属人化している業務などを標準化せず、システム等を急いで導入してしまうと経営者と現場にズレがおき、DXがうまく進まないということが起きることがあります。
そこでクラウドサインでは「会社全体でDXや業務改善を進めたいけれど、なかなかうまくいかない」と悩む経営者やDX推進担当者に向けて、DX推進が進まない原因や、取り組みのポイントをまとめた資料をご用意しています。
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ダウンロードする(無料)この記事の監修者
奥田豊
中小企業診断士
都市銀行で融資業務、製造業(プライム企業)で本社経理・工場管理に従事。工場管理業務においては、在庫管理やSOPなどを経験。その後、中小企業診断士を取得し、財務コンサル会社へ転身し、管理部門の経理部門長として管理部門体制強化に貢献し、自社のIPOを実現させる。現在は独立し、経理業務改善等のコンサル業務に従事している。
この記事を書いたライター
業務改善プラスジャーナル編集部
業務改善は難しそう、大変そうという不安を乗り越え、明日のシゴトをプラスに変えるサポートをします。単なる業務改善に止まらず、組織全体を変え、デジタル化を促進することを目指し、情報発信していきます。契約管理プラットフォーム「クラウドサイン」が運営。
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