マイクロソフトによるGitHub買収を予言していたかのような契約リーガルテック「Hubble」


法律家たちが使い慣れたWordで作成した文書を、GitHubのようなインターフェースで履歴管理できるリーガルテックサービス「Hubble」を紹介します。

GitLawムーブメントがなかなか広まらなかった理由

マイクロソフトが75億ドル(1ドル110円換算で8,250億円)をかけて買収したことに加え、日本においては日経新聞の「設計図共有サイト」なる“迷”見出しのおかげもあって、にわかに注目されたGitHub(ギットハブ)。ソフトウェアのソースコードをサーバー上で変更履歴とともに保存・管理(ホスティング)し、複数人が協働してソフトウェアを開発するのを助けてくれるサービスです。

ソースコードのホスティングサービス「GitHub(ギットハブ)
ソースコードのホスティングサービス「GitHub(ギットハブ)」

そして、このGitHubのソースコードのバージョン管理の仕組みにヒントを得て米国の法律家たちが考えたのが、「GitLaw」というコンセプトでした(水野祐+平林健吾 Edit × LAW
第13回「GitLaw」参照)

GitLawのコンセプトは、エンジニアたちがソースコードをオープンに共有し開発していくように、法律の条文や契約書の条項もみんなでオープンに開発してはどうか?というもの。それ以前から、「Xがinputされた場合、Yをoutputする」という処理をロジカルに書いた文書という意味で、ソースコードと契約書はよく似ていると言われていました。そして、ソースコードと同様、契約書はバグが許されない文書である点も似ています。そうしたロジカルかつミスが許されない契約書を作成しレビューするプラットフォームとして、GitHubは最適ではないか、というわけです。

とはいえ、ツールとしてのGitHubを活用したGitLawムーブメントに法律家たちがすぐに乗れるかというと、そこは別問題。普段、Microsoft Wordに頼って文書を作成している法律家たちが、ソースコードを扱うエンジニア向けのインターフェースや記法にキャッチアップするのは、やはり困難です。さらに、契約書を作成する際には、「これまで作成した大量の契約書Wordファイル」という資産を活用・再利用したいというニーズも強くあります。

文書作成が商売そのものである法律家や企業法務は、Wordというアプリケーションに強く依存しロックインされてしまっている存在なのです。

GitHub+Word=Hubbleの誕生

リーガルテックが新しい市場となりつつあるここ日本で、この課題に目をつけたのがRUC株式会社。法律家たちが普段使い慣れているWordで作成した文書を、GitHubのようなインターフェースで履歴管理できるHubbleというウェブサービスを開発するスタートアップ企業です。

契約書を複数人で作成する際に、1つのファイルのどこを誰がいつ直したのか、Wordファイルのままではその順序や時系列を追いながら変更履歴を同期させていくことは至難の技です。これを解決するため、作業目的ごとにブランチ (Branch) と呼ばれるコピーを作り、適当なタイミングでブランチに対して行われた更新をオリジナル (Master Branch) に反映するというGitHubの仕組みを取り入れ、変更履歴をそれぞれデータとして保持しながら同時並行で作業・編集ができるようになっています。

Hubbleの基本UI
Hubbleの基本UI

GitHubと大きく違うのは、変更作業自体はローカルのWordをアプリケーションとして使用する点。エンジニアが使う特有の記法もGitHubの操作も覚える必要がなく、慣れ親しんだWordの機能をそのまま使って、直感的にファイルを変更することができます。

使い慣れたWordを呼び出して文書を作成・修正
使い慣れたWordを呼び出して文書を作成・修正できる

そうしてお互いが変更を重ねた後、ファイルを統合(merge)していきます。統合の経緯は左カラムのマップで分かりやすく視覚化された上に、統合する前のそれぞれのバージョンについても履歴が保持されます。変更趣旨のコメントを残すこともできます。こうしたバージョン管理を緻密にログとして残せるので、後で経緯をたどるのも容易になるというわけです。

統合の経緯を可視化しながら、ファイルをバージョン管理し、修正趣旨をコメントで残すこともできる
統合の経緯を可視化しながら、ファイルをバージョン管理し、修正趣旨をコメントで残すこともできる

写真は、早川晋平さん(CEO)と藤井克也さん(CTO)の二人の創業者。β版をリリース後ユーザーインタビューを重ねながら、製品版にむけてブラッシュアップ中のとのこと。新たに弁護士酒井智也さんを取締役に迎え、次なる成長のための資金調達に向けて、めまぐるしい日々を送っていらっしゃいます。

藤井克也CTO(右)、早川晋平CEO(中央)と弊社橘大地(右)
藤井克也CTO(左)、早川晋平CEO(中央)と弊社橘大地(右)

日本におけるGitLawコミュニティのリーダーシップ争いが始まる

日本においてHubbleが真っ先に現実にし始めたGitLaw。これを後からそのままなぞったかのようなの買収劇は、まるでHubbleが預言した未来を見ているかのようです。

ところで、マイクロソフトがGitHubをここまで高い金額で評価したのはなぜでしょうか?それは、GitHubのサービスや技術そのものというよりも、GitHubのユーザーが形成するコミュニティの価値に対する評価によるところが大きいと言われています。それを直感的に見抜いているGitHubユーザーは、自分たちのコミュニティが買われることに対する反発から、類似サービスへ移行(離脱)する動きも見せ始めています(「マイクロソフトはGitHubの買収で、オープンソースの世界にも『君臨』する」参照)。こうした動きを見ていると、コミュニティを味方にできるサービスが作れるかどうかが、この分野での勝敗を決する最大のポイントになっていくのかもしれません。

マイクロソフトも一目置く新しいプロジェクト管理・コラボレーションツールの市場に、日本でいち早く注目し、法務向けに特化したサービスとして磨き上げようとしているRUC株式会社。巨人マイクロソフトに対して先駆者として日本のGitLawコミュニティ作りを成功させ、「柔よく剛を制する」ことができるのか。楽しみな存在です。

(橋詰)

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