電子契約の基礎知識

電子帳簿保存法で定められた契約書の「データ保存」要件とは 適法な保管・保存方法を解説

電子帳簿保存法で定められた契約書の「データ保存」要件とは

電子帳簿保存法に定められた「電子取引のデータ保存」の義務と要件を解説します。契約書をデータ化し、文書保存の負担を適法に減らすにはどうすればよいのかがわかります。

1. 電子帳簿保存法とは—電子契約(電子取引)のデータ保存を義務付けた法律

電子帳簿保存法とは、正式な名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、電子取引(電子契約)を行なった際のデータ保存に関する義務を定めた法律 です。

クラウドサインのようなインターネットを用いた電子契約は、税務上の用語で「電子取引」と呼ばれます(電子帳簿保存法2条1項5号)。所得税および法人税を納税する企業が電子取引を行った場合、電磁的記録(その取引のデータ)を保存しておく必要があります(同法7条)。

電子帳簿保存法

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
五 電子取引 取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。

第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

電子契約は、ここでいう「電子取引」に該当することになることから、この電子帳簿保存法の要件を満たさない電子契約サービスを利用して契約を保存すると、法違反となってしまいます。

2. 電子帳簿保存法で定められた電子契約におけるデータ保存の具体的要件

それでは、どのようにすれば契約のデータ保存が適法となるのか、その具体的方法について確認してみましょう。

まず、電子契約を単にPDFファイルとしてサーバーに保存するだけでは、民法や電子署名法上で有効なものとして取り扱えても、電子帳簿保存法の要件を満たさず税務リスクが存在することに注意が必要です。

先ほど確認した第7条の条文中に「財務省令で定めるところにより」とあるように、保存義務の詳細な要件が別途細かく定められている ためです。この財務省令とは、電子帳簿保存法施行規則 を指します。以下、電子帳簿保存法とあわせ、この電子帳簿保存法施行規則の中身をさらに細かく解説していきます。

基本的な保存義務—納税地で7年間保存

まず基本的な義務として、見積書・注文書・契約書・領収書等の取引情報に係る書面は、7年間保存する義務があります(所得税法148条・同法施行規則63条および法人税法126条・同法施行規則59条ほか)が、電子取引の場合には、取引情報に関する電磁的記録を同じ期間適切に保存しなければなりません(電子帳簿保存法7条・同法施行規則4条ほか)。

第四条 法第七条に規定する保存義務者は、電子取引を行った場合には、当該電子取引の取引情報(略)に係る電磁的記録を、当該取引情報の受領が書面により行われたとした場合又は当該取引情報の送付が書面により行われその写しが作成されたとした場合に、国税に関する法律の規定により、当該書面を保存すべきこととなる場所に、当該書面を保存すべきこととなる期間、次に掲げる措置のいずれかを行い、第二条第二項第二号及び第六項第六号並びに同項第七号において準用する同条第二項第一号(同号イに係る部分に限る。)に掲げる要件(当該保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、同条第六項第六号(ロ及びハに係る部分に限る。)に掲げる要件(当該保存義務者が、その判定期間に係る基準期間における売上高が千万円以下である事業者である場合であって、当該要求に応じることができるようにしているときは、同号に掲げる要件)を除く。)に従って保存しなければならない。

条文にいう「場所」と「期間」は、所得税法・法人税法に従い、以下のように読み替えます

  • 当該書面を保存すべきこととなる場所 = 取引関係書類が作成・受領された日本国内の納税地
  • 当該書面を保存すべきこととなる期間 = 7年間

なお、保存場所の要件については、電子契約システム・サービスのサーバーが海外にあっても国内からアクセスできれば差し支えない ことが、国税庁の見解として示されています。したがって、海外にサーバーが置かれているようなクラウドサービスであっても、問題ありません(国税庁「電子帳簿保存法一問一答 【電子取引関係】」(令和4年6月)問24  13頁)。

また、保存期間について、欠損金の繰越控除をする法人は、最長で10年間の保存が必要となります(法人税法施行規則8条の3の10 1項ほか)。

この基本的な保存義務のもと、電子帳簿保存法施行規則に詳細に定められた保存の要件について、以下解説します。

要件①:真実性の確保のための措置—認定タイムスタンプ、訂正削除できないシステムの利用または事務処理規程があること

データ保存の要件の中で一番わかりにくいのが、真実性の確保のための措置の要件です。

第四条 (一項柱書省略)
一 当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、当該取引情報の授受を行うこと。
二 次に掲げる方法のいずれかにより、当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すとともに、当該電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。
イ 当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことを当該取引情報の授受後、速やかに行うこと。
ロ 当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことをその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(当該取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。
三 次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムを使用して当該取引情報の授受及び当該電磁的記録の保存を行うこと。
イ 当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
ロ 当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
四 当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと。

従来は、全ファイルへの認定タイムスタンプの付与が求められてきました(施行規則4条1項1号または2号)。しかし、認定タイムスタンプを付与するのにはコストがかかるという批判を受け、令和2年の電子帳簿保存法の改正により、

  • 訂正削除の履歴が残るか、そもそも訂正削除ができないシステムを利用する(施行規則4条1項3号イまたはロ)
  • 訂正及び削除を制限する事務処理の規程を定める(施行規則4条1項4号)

ことでも可とされ、前者により、クラウドサービスによる保存でも(訂正削除の履歴が残るかできないものであれば)、要件を満たすこととなりました。

なお、クラウドサインでは事務処理の規程の具体的な作り方や電子取引に移行する場合のシステム選定のポイントを解説した資料をご用意しています。下記リンクから無料でダウンロードいただけますので、事務処理規程の準備を予定されている方はぜひ参考にしてみてください。

要件②:見読可能性(可視性)の確保—納税地で画面とプリンターで契約内容が確認できること

納税地または事業所その他準ずる場所(税務調査を受ける場所)で、対象の電子取引データについて見読可能性を確保しておくことが要件となっています。具体的には、ディスプレイやプリンターを使って電子契約の内容が速やかに画面または書面で確認できるようにしておくこと が必要です(施行規則2条2項2号)。

第二条 (一項省略、二項柱書省略)
(一号省略)
二 当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をする場所に当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プロ
グラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと。

要件③:電子計算機処理システムの概要書等の備付け—マニュアルが備え付けられていること

自社開発したシステムを利用する場合には、概要書を備え付けておくことが求められます(施行規則2条2項1号)。

第二条 (一項省略、二項柱書省略)
一 当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存に併せて、次に掲げる書類(当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理に当該保存義務者が開発したプログラム(略)以外のプログラムを使用する場合にはイ及びロに掲げる書類を除くものとし、当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理を他の者(当該電子計算機処理に当該保存義務者が開発したプログラムを使用する者を除く。)に委託している場合にはハに掲げる書類を除くものとする。)の備付けを行うこと。
イ 当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理システム(電子計算機処理に関するシステムをいう。以下同じ。)の概要を記載した書類
ロ 当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理システムの開発に際して作成した書類
ハ 当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理システムの操作説明書
ニ 当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理並びに当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存に関する事務手続を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書並びに当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存に関する事務手続を明らかにした書類)

要件④:検索機能の確保—主要項目を範囲指定および組み合わせで検索できること

電子契約システム・サービスにおいて、電子取引の履歴から税務調査対象年度等特定の範囲にデータを絞り込んで検索できるようにすることが求められています(施行規則2条6項6号)。

六 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を確保しておくこと。
イ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(ロ及びハにおいて「記録項目」という。)を検索の条件として設定することができるこ
と。
ロ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
ハ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。

以下3つの検索機能があれば要件を満たすと考えられます。

  • 取引年月日その他の日付・取引金額・取引先が検索条件として設定できる
  • 日付と金額については範囲指定して検索できる
  • 2つ以上の項目を任意に組み合わせて検索できる

3. 電子帳簿保存法の遵守と電子契約の利用についてよくある質問

電子帳簿保存法で認められた契約書の保存方法とは?

電子帳簿保存法によれば、帳簿書類に関するデータの電磁的記録による保存は、以下の3つに分類されています。

  1. 電子帳簿等保存
    帳簿書類を電子的に(手書きによることなく)作成しそれをデータのまま保存する方法
  2. スキャナ保存
    紙で受け取った、あるいは作成した書類を画像データとして保存する方法
  3. データ保存
    データで受け取った情報をそのまま保存することです。

このうち、取引相手と共同で作成する(自社単独では作成できない)契約書に関するデータ保存の手段としては、2のスキャナ保存と3の電子取引データ保存のいずれかを選択することとなります。

しかし、ここでわざわざスキャナ保存による方法を選択するということは、(Wordファイルで作成した契約書を)紙にプリントし押印してからスキャナーでデジタル化を行うという、必要のない工程・二度手間を採用することになります。

作業負担だけでなく法的手続き負担の面からも、紙に押印した契約書を後でスキャナ保存するよりも、はじめから電子契約を選択しデータ保存する方法のほうが、より少ない手間とコストで保管スペースの削減ができ、賢い選択です。

所轄税務署への事前届出は必要?

電子で締結した電子契約をそのまま「データ保存」する場合については、所轄税務署長の事前承認は不要 です。

国税庁のリーフレットでも、以下括弧書きのとおり解説されています。

これまで、電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要とされました (電子的に作成した国税関係書類を電磁的記録により保存する場合についても同様です。)。

契約書を書面で締結した後、電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件に従って保存しておけば、契約書はシュレッダー等で廃棄してもよい?

スキャナ保存の方法を採用して契約書を電子化した場合、電子帳簿保存法上の義務は果たせても、民事訴訟法上よび印紙税法上の問題が発生する可能性があります。

紙の契約書をスキャンしたデータは、民事訴訟法上の証拠としての評価・取扱いは、ただの「コピー」扱いとなってしまいます。また書面で締結した契約書には収入印紙を貼付して印紙税を納める義務が発生しますが、この義務も遵守できていないことになります。

こうした電子帳簿保存法以外の法律をしっかり遵守するという意味でも、電子取引についてはスキャナ保存ではなく、データ保存の方法がより適切といえます。詳しくは、契約書のスキャナ保存と電子帳簿保存法改正対応のポイントをご確認ください。

クラウドサインは電子帳簿保存法の要件を満たせるのか?

クラウドサインは上記2で解説した電子帳簿保存法の電子取引保存に関するシステム要件①〜④を満たすことができる電子契約サービスです。契約書の電子化を進めるにあたって電子帳簿保存法にへの対応を気にされている方は、クラウドサインを導入し、電子帳簿保存法で定められた対応をしていれば、問題なく運用いただけます。

下表でクラウドサインの電子帳簿保存法における電子取引情報保存義務への対応をまとめていますので、電子帳簿保存法に対応する形で契約書を電子化したい方はおさえておきましょう。

まず要件①について、クラウドサインは記録事項の訂正削除ができないシステムとなっています。そのため、施行規則4条1項3号ロの要件を満たすことになります。なお、2018年3月22日以降スタンダードプラン以上の有償プランをご契約いただいたお客様、および2020年9月7日以降フリープランをご利用いただくお客様の締結済みファイルに、認定タイムスタンプも付与しています。

要件②に関しては、クラウドサインで締結し保存された書類は、ディスプレイの画面、およびプリンタで印刷する書面に速やかに出力することが可能ですので、これを満たします。

要件③について、自社開発したシステムとクラウドサインとを連携していない場合には、お客様側の対応は特に必要ありません。

最後に、要件④「検索機能の確保」を満たすためにお客様の方で「書類情報」として以下の情報を入力いただく必要があります。書類情報を入力しておくことで、検索条件を設定して検索することができるようになります。

  • 取引年月日その他の日付
  • 取引金額
  • 取引先

クラウドサインでは要件④に対応するために必要な書類情報の手入力について、入力にかかる時間やコストを削減する機能として、AIによって契約書情報を自動で解析・入力し、効率的に契約書を管理することができる「AI契約書管理機能」を搭載しています。

「AI契約書管理機能」はクラウドサインで契約締結した書類はもちろん、紙書類をスキャンしてインポートしたPDF書類にも対応している上、クラウドサインで締結を行った書類、インポートした書類の書類情報(締結先の企業名、契約 開始日・終了日、取引金額、自動更新の有無など)の自動入力に対応しています。

クラウドサインは、電子署名を電子ファイルに施し、スピーディーかつ安全に当事者間の合意の証拠を残すことのできる電子契約サービスです。導入社数250万社以上、累計送信件数 1000万件超の国内シェアNo1の電子契約サービスとして、業界業種問わず多くの方にご利用いただいております。

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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