私のサイン 『仕事ごっこ』著者 業務改善・オフィスコミュニケーション改善士 沢渡あまね

投稿日:

コラボレーションを阻害する悪気のない「仕事ごっこ」をどうすれば撲滅できるか?契約における「印鑑ごっこ」の慣習をやめることはできるのか?7月6日発売の新刊『仕事ごっこ』の著者 沢渡あまねさんに、お話を伺うことができました。

コラボレーションをいかに無駄なく・手戻りなく・スピーディに行うか

—新著『仕事ごっこ』のご出版、おめでとうございます。編集を担当された技術評論社の傳さんより、沢渡さんが本書の中でクラウドサインについて触れてくださっていると伺いまして、インタビューをお願いいたしました。

こちらこそ、ありがとうございます。

書籍情報

仕事ごっこ ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?
  • 著者:沢渡あまね/著
  • 出版社:技術評論社
  • 出版年月:20190706

—まず最初に、沢渡さんのご経歴について、お尋ねしてもよいでしょうか。

サラリーマン時代の16年間を振り返ると、IT×広報をキャリアの軸 としていました。

日産自動車時代は、ITの調達からスタートし、後に海外マーケティング部門に異動。広報担当として社内と海外グループ会社向けのITシステムの導入・推進支援を担当しました。広報の立場で、グループ会社向けのインターナルコミュニケーション(いわゆる社内広報)も推進しています。

その後、よりITに興味を持ち、SIer であるNTTデータに転職しました。ITオペレーションデスク/サポートデスクの立ち上げ、オフショア拠点の立ち上げと業務移管および運用管理を本業としつつ、一時期は広報部門を兼任。グローバルブランド戦略策定を支援しました。

2社のキャリアに共通しているのは、ITをコミュニケーションとして使っていく視点と作っていく視点。この経験を踏まえ、現在は作家活動を中心に、フリーランスで大手企業の業務改善・コミュニケーション改善、マネジメント変革のお手伝いをしています。

「コラボレーション」をどう無駄なく・手戻りなく・スピーディに行うか。これをずっと考え、IT、広報、コンサルティングそして書籍を通じてみなさんにお伝えしてきました。そして、この「コラボレーション」が、今回の書籍のテーマにもつながっています。

—「コラボレーション」という言葉は、やや抽象的にも聞こえます。沢渡さんのおっしゃるコラボレーションとは、どのような意味合いでお使いになっていますか。

同じゴールに向かって仲間として共創しあうこと だと思います。特にこれからの時代において、お互いが対等であることが大きな前提になります。

少子高齢化、グローバル競争の激化、終身雇用の崩壊によって、「取引」から「共創」へと時代が変化 しています。お客様は神様、なる時代は終わり、パラダイムシフトが起こっています。自分たちを下に見る客先からは、取引先は遠ざかっていく。さらには、お客なのだから決裁に時間がかかって当然、煩雑な契約手続きに、取引先は従って当然。いわば、そのような従来の客先側の常識が「共創」の邪魔をするような「仕事ごっこ」にまみれている状況は、客先にとっても取引先にとってもリスクにしかなり得ないのです。

その中心を担っているのは、45歳以下の中間層です。この層はいま、大企業に勤めていてもリストラの対象となりかねないこと、年金受給開始年齢がどんどん伸びていること、このダブルパンチに悩まされ、危機感と不安感を抱いています。

そしてこの層から、自分が所属する組織が「仕事ごっこ」まみれ、そしてその中の人材として自分自身が「仕事ごっこ」まみれであることについて、不健康さに疑問を感じ、声を上げ始めている のです。

コラボレーションを阻害する悪気のない慣習が「仕事ごっこ」

—「仕事ごっこ」が、コラボレーションの支障になっていると。

そうです。私は 「仕事ごっこ」の定義を、<生まれたときには合理性があったけれども、時代の変化や環境の変化によって、悪気なくコラボレーションを邪魔するものになってしまった慣習・仕事> と置いています。

その代表例が、クラウドサインさんの領域で言えば印鑑ですよね。印鑑、紙の書類、郵送。これらは、百害あって一利なしの慣習です。

ZIPファイルを送ったあと、パスワードを別送するのも「仕事ごっこ」の代表例でしょう。

—そういった「ごっこ」がなかなか変わらない、やめられないで生き残っているのがこの日本ですが、沢渡さんはこの本で、どのようにその「ごっこ」を乗り越えようと提案されているのでしょうか。

社内世論の形成がポイント だ、とお伝えしています。

何かしらのきっかけがないと、社内で健全に言語化して合意形成していくことはできません。そこでちょっと刺激的な、でもみんなが「うんうん、そろそろやめたいよね」と共感してくださるだろうこの言葉を本のタイトルにつけて、共通言語にしていただければいいなと思いました。

この本や私のことは悪者にしていただいて構わないので、「仕事ごっこ」を共通言語・ツールとして使って社内で話し合う、そんなふうになれば私としても本望です。

—たしかに刺激的なタイトルです。沢渡さんの大ヒット著作『問題地図』シリーズもキャッチーでしたが、いずれも編集は傳さんが手掛けられていらっしゃるのですね。

技術書としては異例のヒットになった私の著作『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』(シーアンドアール研究所, 2015)をご覧になった傳さんからお声をかけていただいて以来、共著も含めて既に8冊お世話になっています。

『問題地図』シリーズのヒットの特徴は、本を普段読まない層にも届けられたことにありました。それは、文章ではなく「地図」というビジュアルを全面に出すことで、ハードルを下げたからなんですね。

そこで今回の『仕事ごっこ』では、さらにハードルを下げるべく、「童話」仕立てにしています。童話は、世代を超えて共感を得やすい特徴があります。ビジネスの現場の問題を、桃太郎さんや、お殿様や、ヤギさんやブタさんやカエルさんが柔らかく指摘してくれます。その辺りも楽しみながら、時に職位や立場を超えて、幅広い層のみなさまにワイワイ読んでいただきたいです。

「印鑑ごっこ」も正しくケンカすれば必ず無くせる

—業務改善士である沢渡さんにご相談なのですが、日本企業が「印鑑ごっこ」を終わらせること、これはできるとお思いですか?

できると思いますよ。

—クラウドサインのお客様とお話をしていると、取引先の理解だけでなく、法務部門のような社内関係者の抵抗がなかなか変わらない・変えられないというお声もいただきます。何かアドバイスをいただけるでしょうか。

正しくケンカする。これこそがポイントだと思います。

成長のためにコラボレーションが必要不可欠なこの時代に、それを邪魔する慣習を続けるのは、組織としても個人としても衰退の道を進むことを意味します。一言で言って、ヘルシーじゃない。

印鑑がもはやヘルシーな慣習ではないことは、ビジネスをやっていれば皆さん実は分かっている。わかっているけれども、営業担当者や研究員の本来の業務の時間を割いて印鑑にまつわるペーパーワークをやらせてしまう。それを放置すれば、その時間は永遠にコラボレーションに使えません。内向きな時間ばかり増えていく。

印鑑をやめれば、営業担当者や研究員が本来の業務に集中でき、より成果を発揮しやすくなり、ヘルシーに成長していく。そのことを理解してもらう働きかけが、ここでいう正しいケンカです。

シニア層は、これまでやってきたことを「仕事ごっこ」と言われると、なにか自分のやってきたことを否定された気がしてイラっとするかもしれません。でもイラっとして欲しいんですね。正しくイラっとして欲しいんです。時代や技術が変化し、グローバル企業と競合しなければならない、これからの時代において、古いやり方は組織のヘルシー化を邪魔していると、客観的かつ相対的に気づいてほしいと思います。

—印鑑以外の契約業務についても、大手企業にお勤めだった経験から、沢渡さんには「仕事ごっこ」に見えるものがあるんでしょうね。

たとえば製造業の方と取引しようとすると、必要以上に重苦しい契約や審査を強いられることがあります(私は、平気で断ることがありますけれど)。

たった1回の講演をするだけで、重たい基本契約を結び、個別契約を締結し、さらには口座開設のための手書きの書類を提出しなければならない。なんの罰ゲームでしょうか?それらは、製造業において長期継続的かつ大量の原材料を仕入れるような取引であれば、与信管理のために必要なことかもしれません。でも、1回の講演のために果たしてそれは必要でしょうか? 講演者は講演が本業です。作家はものを書くことが本業です。相手のプロとしての貴重な時間や成長機会を奪ってしまいます。

こうした 悪気のない慣習は、契約にまつわる業務にはたくさん残されている と感じます。

「働き方改革」よりも「仕事ごっこ、やめようぜ」

—そういった「仕事ごっこ」は、一人の力では治せない。だからこそ、共通言語が必要だというわけですね。企業の中のそうした課題って、まさに沢渡さんのような外部の専門家が内部に一定期間入って働きかけを行なって治してきたのだと思いますが、今回の著書があれば、そういった力も借りずに済んでしまいそうです。

ご自分たちで気付いて治していただければ、それが一番ですよね。でもそのためには小難しい退屈なツールではなく、『問題地図』しかり『仕事ごっこ』しかり、わかりやすいツールが必要だと思っています。

—クラウドサインとセットで『仕事ごっこ』をお配りしたら、効果てきめんかもしれません(笑)。

ぜひそうしてほしいです。『仕事ごっこ』は問題提起と問題意識の合意形成に重きを置いています。契約業務の改革をするためのより具体的なソリューションが「クラウドサイン」である、そういう関係だと思います。

おなじような文脈で、日本では近年 「働き方改革」なる言葉が使われてきましたが、私はこの言葉は正直ニガテ です。バズワードとして浸透はしたけれども、働き方はぜんぜん良くなってない。なぜなら、組織や個人の成長につながる実感がわかないからです。むしろ、現場は(私も)この言葉になんかイラっとしている。現場からすれば何かこう、言葉遊び感があります。

それよりは、コラボレーションを円滑にするための「仕事ごっこ、やめようぜ」のほうが、その先のヘルシーな世界をイメージしやすいのかなと思います。

—印鑑をやめてヘルシーになりましょうと。

「仕事ごっこ」という言葉は、やりたくない仕事を単にののしったり、ワガママを言って拒絶することとは違います。コラボレーションを邪魔する慣習を、この本を使ってやさしく滅ぼして、みんなで健康になりましょうと言っている にすぎません。

印鑑は印鑑で、芸術や工芸品など、「雅な世界」で付加価値を追求する道が別にあるはず。ビジネスの世界でコラボレーションを邪魔して忌み嫌われるのではなく、雅な世界で存分に輝いて欲しいです。

—本日は、ありがとうございました。

(聞き手 橋詰)