ビジネスモデルキャンバス完全ガイド|9つの要素と作成手順解説
ビジネスモデルは「事業の設計図」です。しかし、多くの企業において、製品やサービス、顧客との関係性、販売チャネル、収益の仕組みなどが、イメージや経験則にとどまっており、活用しやすい形で明文化されていません。
この状況を「一枚」で整理できるのが「ビジネスモデルキャンバス」です。この記事では、ビジネスモデルキャンバスのメリットや基本構造、9つの構成要素に加え、作成手順から応用方法までを徹底解説します。
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ビジネスモデルキャンバスとはなにか?基本概念と重要性
ビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas)とは、企業の事業構造を「9つの要素」で整理し、一枚のシート(キャンバス)に描き、可視化するフレームワークです。
【ビジネスモデルキャンバスのイメージ】
2010年にスイスの経営学者アレックス・オスターワルダー氏とイヴ・ピニュール氏によって開発され、世界中の企業で活用されています。
ビジネスモデルキャンバスは、以下9つの要素で構成されています。
- 顧客セグメント(CS:Customer Segments)
- 価値提案(VP:Value Propositions)
- チャネル(CH:Channels)
- 顧客との関係(CR:Customer Relationships)
- 収益の流れ(RS:Revenue Streams)
- 主要資源(KR:Key Resources)
- 主要活動(KA:Key Activities)
- 主要パートナー(KP:Key Partnerships)
- コスト構造(CS:Cost Structure)
ビジネスモデルキャンバスの価値は、事業全体を一枚に集約できることです。従来のビジネスモデル(経営戦略・財務戦略・販売戦略など)は、断片的な議論になりがちでした。本来、それぞれの要素は連動し合うことによって、価値を最大限化できます。
要素が断片化したまま議論を続けると、それぞれの戦略自体はよく練り上げられていても、うまく連動しないため、企業の利益には繋がりにくいでしょう。いわゆる「木を見て森を見ず」の状態になり、事業の核心的な本質を見失うことは少なくありません。
ビジネスモデルキャンバスを使えば、経営の複雑な要素を「俯瞰」と「構造化」によって可視化・整理が可能です。加えて、戦略フレームワークの目的である「共有」と「合意形成」、そして「戦略実行」に繋がる土台も形成できます。
ビジネスモデルキャンバスを作成するメリット
ここからは、ビジネスモデルキャンバスを作成するメリットを具体的に紹介します。
- ビジネスの全体像を把握できる
- 関係者とのコミュニケーションがスムーズになる
- 事業の改善点や新たな可能性を見つけられる
- 競合他社の分析に役立つ
- 事業計画書の作成に役立つ
- 発想力を養い、人材育成に役立つ
- 顧客ニーズに寄り添ったビジネスモデルを考えられる
ビジネスの全体像を把握できる
ビジネスモデルキャンバスを使用し、ビジネスモデルを「一枚」に整理することで、事業全体の「地図」として可視化できます。これにより全体像を鳥瞰図的に把握でき、意思決定の質が大きく向上できるでしょう。
関係者とのコミュニケーションがスムーズになる
ビジネスモデルが可視化されたことにより、社内外の関係者と事業構造を共有する「共通言語」として機能する点もメリットです。これにより合意形成に必要なコミュニケーションがスムーズになり、実行フェーズに移しやすくなります。
事業の改善点や新たな可能性を見つけられる
ビジネスモデルキャンバスによって視野が広がれば、これまで気づかなかった改善点や新たな成長機会に気づきやすくなります。事業改善のヒントを得られ、事業拡大の新たな可能性を見つけやすくなる点も、ビジネスモデルキャンバスの大きなメリットです。
競合他社の分析に役立つ
ビジネスモデルキャンバスは、競合他社の事業構造を整理するツールとしても有効です。強みや弱み、差別化ポイントを客観的に比較でき、自社が市場で取るべきポジションや提供すべき価値が見えてきます。
事業計画書の作成に役立つ
ビジネスモデルキャンバスは、事業計画書を作成する際の骨組みとして非常に有効です。9つの要素をあらかじめ整理することで、計画書に必要な事業概要や提供価値、ターゲット設定、収支計画などがスムーズに書けるようになります。補助金申請や金融機関の融資資料、投資家向けピッチ資料の作成においても、大いに役立つでしょう。
発想力を養い、人材育成に役立つ
管理職や社員の発想力・戦略思考を育てる実践ツールとしても活用可能です。顧客視点や収益構造を考えるプロセスそのものが、主体的に自分で考える力を鍛えます。また、継続的に話し合いの場を設ければ、現場感覚に基づいた改善案やアイデアの提案が期待できるでしょう。
顧客ニーズに寄り添ったビジネスモデルを考えられる
ビジネスモデルキャンバスは、「誰の・どのような課題をどう解決するか」を繰り返し問います。具体的には、「なにを・どこで・いくらで・どのように提供するか」を明確にするため、顧客視点での価値提案(マーケットイン)の深化を促す効果が期待できるでしょう。
ビジネスモデルキャンバスの9つの要素を徹底解説
次に、ビジネスモデルキャンバスを構成する9つの要素をひとつずつ解説します。
1.顧客セグメント(Customer Segments)
顧客セグメントは、自社のビジネスが「誰に向けて価値を提供するものか」を明確にする要素です。年齢・性別・地域といった基本属性だけでなく、悩みや課題、購買動機や行動特性といった心理的・行動的特徴まで掘り下げ、顧客像(ペルソナ)をより明確にします。
2.価値提案(Value Propositions)
価値提案は、顧客セグメントに対して「どのような価値を提供するか」を明確にする要素です。商品・サービスの「機能的価値」だけでなく、ブランドイメージなどの「情緒的価値」、環境配慮をはじめとする「社会的価値」など、顧客が得る総合的なメリットを含めて考えます。
3.チャネル(Channels)
チャネルは、顧客へ「どのように価値を届けるか」を明確にする要素です。販売・流通・コミュニケーションの経路についてはもちろん、オフライン(店舗など)、オンライン(ECなど)、SNSなど、多角的にルートを検討します。その際、コストや人的リソースと整合性を取ることが重要です。
4.顧客との関係(Customer Relationships)
顧客との関係は、顧客と「どのような関わり方を築くか」を明確にする要素です。関係性強化による既存顧客のロイヤルティ向上を通じて、LTV(顧客生涯価値)の最大化に繋がる施策を検討します。
5.収益の流れ(Revenue Streams)
収益の流れは、顧客から「どのように収益を得るか」を明確にする要素です。単純な「販売価格×数量」だけでなく、サブスクリプション、ライセンス料、アップセル・クロスセルといった収入源を多角的に設計できます。併せて、顧客の支払方法やどの程度収益を得られるかを洗い出すことも重要です。
6.主要資源(Key Resources)
主要資源は、価値提供するための経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」を明確にする要素です。どのリソースを、どこに、どの程度投入する必要があるかが明確になれば、不足しているリソースの特定にも繋がるでしょう。社内リソースに限定せず、外部からの調達を含め検討すると、戦略に厚みが増し、実効性が高まります。
7.主要活動(Key Activities)
主要活動は、顧客に価値を届け続けるために必要な「業務・プロセス・オペレーション」を明確にする要素です。製造や販売、営業といった中核業務だけでなく、市場調査、マーケティング、顧客サポート、物流、ITシステム運用も含まれます。中核業務と非中核業務を整理できれば、リソースの最適配分に繋がるでしょう。
8.主要パートナー(Key Partnerships)
主要パートナーは、事業を支えるために不可欠な「外部組織やサプライヤー」を明確にする要素です。典型的なパートナーとしてあげられるのは、仕入先・外注先・物流業者・販売代理店・ITベンダー・金融機関・研究開発パートナーなどです。これらのパートナーシップを整理・最適化すれば、限られた経営資源の中でも、競争優位を築きやすくなります。
9.コスト構造(Cost Structure)
コスト構造は、事業で発生する「すべてのコスト」を明確にする要素です。基本的には、人件費・原材料費・在庫・家賃・設備投資・広告宣伝費・物流費・外注費などが対象で、固定費と変動費に分けて把握します。コスト構造の可視化は、持続可能な収益モデルを構築するための生命線といえるでしょう。
ビジネスモデルキャンバスの作成手順と実践ポイント
ここからはビジネスモデルキャンバスを実際に作成する手順を解説します。
準備するものと書き出しのコツ
まず「書きやすい環境」と「基本情報」を準備しましょう。大きめの紙やホワイトボード、オンラインのテンプレートなど、全体を俯瞰できるツールを用意し、付箋やマーカーを使って自由に書き込める状態を作ります。必要に応じて顧客データや売上構成など、事業を理解するための最低限の数字も手元に置くと作業がスムーズに進むでしょう。
書き出しのコツは、「誰に」「どんな価値を」提供するかという、ビジネスの中心部分からとりかかることです。すべての項目を一度に埋めようとしたり、最初から完璧を求めたりしないようにしましょう。
仮説や思いつきを付箋に書き出し、複数の視点で見直していくプロセスが有効的です。「書く・見る・修正する」のサイクルを繰り返すうちに、全体像が少しずつ鮮明になり、より実践的なビジネスモデルキャンバスに仕上がっていきます。
各要素の記入方法と順番
各要素を記入するときは、視覚的に見やすい箇条書きがおすすめです。実際に書き出せば、視覚化がしやすく、全体像も見えやすくなるでしょう。記入方法と順番は以下を参考にしてください。
1.顧客セグメント
誰に価値を提供するかを明確にします。行動特性・課題まで掘り下げるのがポイントです。
例:近隣の会社員、20~30代の健康志向ランチ層、忙しくランチの時間を短縮したい
2.価値提案
顧客の課題をどう解決し、どんな価値を届けるかを定義します。
例:短時間で提供できるヘルシーランチ、地元食材の地域限定メニュー
3.チャネル
価値をどのように届けるか、販売・流通・コミュニケーションの経路を整理します。
例:店舗、デリバリーアプリ、Instagram告知
4.顧客との関係
顧客との接点の持ち方や維持・強化の方法を決めます。
例:LINEクーポン配布、常連向けイベント招待
5.収益の流れ
顧客からどのように収益を得るか、支払方法や価格設定も含め整理します。
例:ランチ単品売上+テイクアウトセット+月額コーヒーパス
6.主要資源
ビジネスモデルを支える経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を洗い出します。
例:熟練スタッフ、厨房設備、地元産食材ブランド
7.主要活動
価値提案を実現するための日々の業務やプロセスを明確にします。
例:メニュー開発、仕入管理、店舗運営、SNS運用、衛生管理
8.主要パートナー
自社の強みを補完する外部組織や個人をリスト化します。
例:地元農家、物流業者、広告代理店
9.コスト構造
発生するコストを固定費・変動費に分け、コストドライバーを把握します。
例:固定費=家賃・人件費、変動費=食材費・デリバリー手数料
ビジネスモデルキャンバス記入例
以下に、実際の事業を想定した飲食店の記入例をご紹介します。各ブロックの書き方や深さ、具体性のレベルを確認しながら、自社や新規事業に置き換えて活用してみてください。
【飲食店を想定したビジネスモデルキャンバスの記入例】
まずは、上記のような簡易なものを作成し、議論を重ねる中で解像度を上げていくとよいでしょう。
ビジネスモデルキャンバスの応用的な活用方法
最後にビジネスモデルキャンバスの応用的な活用方法を紹介します。
ズームイン・ズームアウト
「一枚」で全体像を俯瞰できるビジネスモデルキャンバスに、「ズームイン・ズームアウト」の視点を加えると、ビジネスモデルの分析が一段と深まります。
「ズームイン」とは、9つの要素の中から、特に重要なブロック(例:提供価値や顧客セグメントなど)を取り出し、詳細に掘り下げて検討する方法です。たとえば「顧客セグメント」をズームインしてライフステージ別・利用シーン別に細分化すれば、新しいニーズや隠れた機会が見えてきます。
「ズームアウト」とは、少し思考の範囲を広げ、外部環境(市場トレンド・競合状況)を考慮して自社に影響する外的要因を分析する方法です。たとえば、「市場トレンド」までズームアウトして市場動向や新たな技術革新を把握すれば、市場における自社の位置づけ、パートナーシップの組み方、長期的な成長シナリオなどを整理しやすくなります。
この「ズームイン・ズームアウト」を活用すれば、検討の深さと広がりを同時に確保でき、戦略の柔軟性や実効性を高められるでしょう。
他のフレームワークとの併用
他のフレームワークと組み合わせれば、分析の精度を高められます。たとえば、以下のようなフレームワークとの併用が可能です。
- リーンキャンバス:スタートアップや新規事業の仮説検証に最適
- バリュープロポジションキャンバス:顧客セグメントと価値提案をより精緻に分析
- アンゾフの成長マトリクス:市場浸透・新市場開拓・新製品開発・多角化を整理
- 事業環境マップ:外部環境(市場動向・競合・規制・技術トレンド・顧客変化)を俯瞰
このように、ビジネスモデルキャンバスを「全体の骨格」として位置づけ、その周辺に詳細分析ツールを組み合わせることで、単なる構造整理にとどまらない、実行可能性の高い戦略立案へと発展させられます。
まとめ
ビジネスモデルキャンバスは、単なるリストや図表ではありません。事業の全体像を可視化することで、社内外の関係者にとって共通言語になるだけでなく、改善や成長の方向性を見つけるための実践的なツールにもなります。
最初から完璧なものを仕上げたり、一度にすべてを網羅したりしないよう注意してください。まずは、既存事業をキャンバスに描き出すことから始めてみましょう。基礎的なビジネスモデルキャンバスを作成したあとも、定期的に見直し・更新を続け、「戦略の生きた地図」に育てていくことが重要です。
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高桑清人
中小企業診断士
前職ではBPO企業にて12年間、業務設計・品質管理・人材マネジメントなどの管理業務に従事。独立後は中小企業の経営支援に携わり、新規事業の立ち上げや事業計画策定を伴走型で支援。学習塾講師として16年・1万時間超の授業経験もあり、「聴く・伝える・支える」現場感を大切に活動している。
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