私のサイン AZX総合法律事務所 パートナー弁護士 菅原 稔


AZX総合法律事務所で若くしてパートナーに就任された菅原先生。ジャフコでのインハウス経験で得たもの、リーガルテックにいち早く取り組んで見えたものの2つを中心に、お話を伺いました。


—本日は、本年1月よりAZX総合法律事務所のパートナーにご就任された菅原稔先生に取材のお時間をいただきました。この度は、おめでとうございます。

ありがとうございます。

昨年、出向していた株式会社ジャフコからAZXに戻りまして、そこからの約1年間、弁護士としての業務に加え、事務所の組織体制づくりなどを担いました。

その傍、今後の進む道を考え、結果ベンチャーのそばにいたいという思いが強く、AZXの中でパートナーとなることに決めました。

—中途採用ではなく所内生え抜きでパートナーに就任された先生は、貴所ではまだ少ないのですよね。

企業法務事務所のパートナーという意味では、修習同期でもまだ少ないかもしれません。

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ベンチャー特化型のAZX総合法律事務所

—さて、AZX総合法律事務所といえば、特にベンチャー企業のサポートでは日本で有数の法律事務所として有名だと思います。先生も、やはりベンチャー企業へのアドバイスが多いのでしょうか。

時期にもよりますが、私の場合、だいたいベンチャー企業のサポートが業務の80%ぐらい、残り20%がベンチャーキャピタル側のサポートという感じです。

—最近のクライアントの傾向や相談の多いビジネス領域など、変化や特徴があればお気付きの範囲でご教示いただけるでしょうか。

ご想像のとおり、昨年から仮想通貨、ブロックチェーン関係の新規ビジネスのご相談が多くなりました。

インターネットが普及しはじめた初期のころも、同じような感じだったのではないでしょうか。最初はプロバイダ事業にあたる仮想通貨の取引所がやりたい、そんな相談からはじまり、昨年末から今年に入って、仮想通貨のファンドを組成したい、仮想通貨を使って何かビジネスをしたい、そんな周辺領域の相談へと変わってきています。同時に、相談者の仮想通貨に対する理解度がぐっと上がり、いただくご質問のレベルも上がっています。

個人的には、2017年はVR元年かなと思って研究・準備をしていたのですが、残念ながら読みがはずれてしまいました(笑)。VRに近いエンターテインメントの分野では、まだ相談の数は少ないものの、バーチャルユーチューバーなどアバターを使った配信は個人的には興味が強いし、好きな領域ですね。リアルユーチューバーのみなさんのキラキラした感じについていけない人、匿名でチヤホヤされたいという欲求を持った人って、とても日本人的な気がしていて、たくさんいらっしゃると思います。事業としてさらに伸びるのではないでしょうか。

人の変化というところで、若手の経営者がよく勉強し、貪欲に知識を吸収しようという意欲が強くなったなと感じます。ただ、体系的に学んでいるわけではなく、バズワードに飛びつく検索型学習のようです。エンジェルの方や、私のような投資契約の分野で多少経験を積んでいる人間がある種の教育機関として機能すれば、吸収力の高さはすばらしいのですぐに優秀な経営者に育っていくものと思います。

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インハウスローヤー経験は弁護士としての大きな糧になる

—先生は企業法務弁護士としてご経験を積まれたのち、2016年から1年間、企業へのご出向の経験をお持ちです。しかも、国内トップクラスのベンチャーキャピタルであるジャフコに出向されていたと。これはご自身で希望されたのでしょうか。それともお誘いがあったのでしょうか。

どちらからというより、双方のタイミングがちょうど合致した形です。

弁護士3年目の春ぐらいから、弊所代表の後藤には「ベンチャーキャピタルに出向させてほしい」と言っていました。この頃、ベンチャーでも大型の資金調達が増えてきて、ベンチャーキャピタルの仕事にとても興味を持っていたんですよね。いくつかツテのあるベンチャーキャピタルにお話をさせていただいたのですが、後藤が親しくしているジャフコの役員の方と会食した際、ちょうど先方も人員が足りていない状況があり、首尾よく話がまとまりました。

—企業に勤務して、弁護士としてのそれまでの業務とのギャップはありましたか。

質問の趣旨とずれるかもしれませんけれど、管理部に配属され、ちょうど新年明けたタイミングでもあり、一番最初の仕事が年賀状をオフィス内の各座席に配る仕事でした。

弁護士としての私を知っているジャフコの友人からは、オフィスを回る私を見て「何してるんですか、菅原先生(笑)」と笑われたりしましたよ。その後も、社内旅行の幹事なんかもやってましたし。

お客様扱いにならないように気を遣ってもらっていたのだと思いますが、おかげさまで、出向者という意識なく、楽しく過ごせました。

—印象に残った・思い出の契約案件について、ご披露いただけますとありがたいです。

シンガポール企業に投資するプロジェクトに参加させてもらったのですが、その英文投資契約は印象に残っています。というのも、初めて「チーム」で仕事をして契約をdoneしたという実感があったからです。

もちろん、投資先のデューデリジェンス(企業調査)の場面などでは、弁護士でもチームで仕事をすることはあります。とはいえ、最終的には範囲を区切ってそれぞれの弁護士が分担して進めますよね。

その投資プロジェクトでは、会社の中で部署横断的にメンバーが集められ、毎日のように深夜まで侃侃諤諤議論し、投資契約書を作り、契約交渉もやり、ギリギリのタイミングでクロージングし、その日はみんなで朝まで丸の内で飲み明かすみたいな(笑)、絵に描いたようなチームでの仕事を経験できました。弁護士の立場ですとやはり外部からのサポートですから、こういう経験はできなかったんです。しかも、インハウスは自分にも決定権があります。これはやりがいがありました。

チームで仕事をする、という感覚は、事務所に戻った今でも大事にしています。「先生とクライアント」という関係ではなく、クライアントと「チーム」を作っていく感覚が非常に重要だと思っています。

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—両者やってみた上で、インハウス(企業内弁護士)としてのお仕事で、ご自身の成長につながったとお感じになった点はどんなものがありますか。

はっきり言って、法律の知識が劇的に増えたということはありません。そこに物足りなさを感じたのは事実です。

その一方で、投資事業会社の意思決定方法と考え方、さらに、投資ファンドの背後にいるLP(Limited Partner)さんへの対応を間近で見れたのは、ベンチャーの投資を日常的にサポートしている弁護士として、よい経験になりました。

—インハウスにも楽しみを感じながら、それでもパートナーに就任し、外部から企業を支えようとお考えになった1番のポイントはどこにあったのでしょうか。

めちゃくちゃ楽しかったんですけど、外から法務の情報が入ってきにくい環境では、このままいると2〜3年で今の自分の知識が古いものになってしまい、スピードの早いベンチャー法務の業界では弁護士としての価値がなくなるのではと考えたからです。

投資事業会社のキャピタリストとして生きる覚悟が持てれば、会社に残ったのだと思います。それを考えたとき、自分の能力でキャピタリストとなっても、影響を与えられる範囲は狭いのではないか、出向中の経験を活かしベンチャーのそばで弁護士を続けるほうがベンチャー業界の役に立てるのではないか、そんなことを考え、迷いましたが、AZXに戻りました。

リーガルテックの先駆者として

—AZXでは、もう数年前から、契約書作成サービス「KEISUKE」などのリーガルテックの走りともいうべきサービスを積極展開されていらっしゃいました。こちらの現状や今後の展望について、お伺いできる範囲でお聞かせください。

KEISUKEは、起業したてで法務にあまりコストをかけられないようなベンチャー企業にも、弊所が何かお役に立てれば、という思いで始めたサービスです。AZXはFrom A to Z and eXtra valueを意味していますが、その名のとおりAからZまでの全てのステージのベンチャーに対して、あらゆるサービスを提供したいと考えています。ただ、創業初期の頃は、どうしても費用感が合わずにサービスが提供できないといったこともあり、その空白地帯を解消したいという思いがありました。

KEISUKEでは弁護士が監修したひな形を安価に提供するわけですが、これはある意味無償で利用できるGoogleを競合とするビジネスなわけです。Google検索で出てくる契約書サンプルのリスクを理解できないような方にも安心して使っていただける、交渉のスタートラインとして品質が保証された文書を提供しようというものですから。KEISUKEのサービスローンチ当初は検索した契約書で十分という方も多かったですが、ここ数年で起業家の法務に対する意識が高まり、それにともなってKEISUKEも徐々に受け入れられてきているという手応えを感じています。

一方で、KEISUKEをリリースした当時の技術の限界もあり、より起業家にとって使いやすい、価値あるサービスとするために、まだまだ改善できる点も多くあると感じており、それは今後の課題ですね。

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—最近、エンジニアや弁護士がリーガルテックで起業するケースが多くなっています。ご覧になってのご感想、先輩事業者としてアドバイスなどがあればお願いいたします。

当時は夢物語でしたが、今はAIが現実味を帯び、契約書のレビューなどを自動で行ってくれるようなサービスを作ろうとチャレンジしている起業家もいらっしゃると聞きます。クラウドサインでもそこは検討されているのかもしれません。本当にそうなったらすばらしいですね。

弁護士がAIに仕事を奪われるといった話もありますが、もし本当にAIが契約書のレビューや細かな契約書の手直しをやってくれるのであれば、私は今すぐにお願いしたいです(笑)

リーガルテックは、安価にリーガルサービスを提供するという点にも意味がありますが、本来よりクリエイティブな仕事をするべき弁護士を機械で代替できる仕事から解放して、よりクライアントのためになる高度な仕事をできるようにする、という価値が大きいと考えていますので、リーガルテックには本当に期待しています。

ベンチャーにとって何が便利かを追求していきたい

—企業法務系の事務所を背負って行くパートナーとして、目標とされる弁護士像や、抱負・課題を教えてください。

こういう「弁護士」になりたい、というよりも、こういう「人」でありたいというのはあります。リーガルという専門性を持った上で、スタートアップとコミュニケーションが取れて、一緒にチームを作っていける、その結果としてスタートアップから常に必要とされる、そういう人物であり続けたいと思っています。

ここでいう専門性というのは、単に会社法の知識があるとか、そういうことではないと思っています。というのも、私の普段のアドバイスで「ここが有益だ」と思ってもらえているところは、単なる法律知識ではない部分がその大部分を占めているのではないかと思うからです。弁護士だったら一定の法律知識があることは大前提で、その上澄みとしての個々の弁護士の個性からうまれる専門性、この部分の価値が問われていると感じます。私の場合は、VCにいた時の経験や、AZXにいるからこそ日々得られるベンチャーに関する知見がそれにあたります。

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—AZXをどのような事務所にしていきたい、というビジョンをお聞かせください。

AZXの本質というのは、代表の後藤が昔から守っている「ベンチャーにとって何が便利か」を追求すること、これに尽きると思っています。AZXではこれをSuper Highway for Success、自分たちがベンチャーを成功に導くための超高速道路になるという言葉で表しています。

たとえば、新しいサービスをやりたいが官公庁の規制が厳しい、どうにかならないのか、そんな相談を受けたときに、役所の事情や理屈を一生懸命クライアントに解説しても、しょうがないですよね。どうしたらベンチャーのみなさんが便利になるかを一緒に考え、必要とあればそのルールを変えるべくサポートすることが、AZXにご相談をくださるベンチャーの期待だと思っています。この部分は後藤の思いを踏襲し、レベルをより高くもっていきたいと思います。

あとは、専門家を増やしていくことが必要なフェーズだとも考えています。弊所は「ベンチャーのかかりつけ医」として基本的な相談はなんでも対応できるということを一つの価値にしてきました。法律事務所だけでなく、税務会計、特許、社労事務所とあわせて1つのグループを構成しているのも、何でも対応できるというワンストップサービスがベンチャーにとって使いやすく、価値があると思っているからです。ただ、最近はベンチャーの業種もより多様化・細分化し、「かかりつけ医」よりも「専門医」を希望するクライアントも多くなってきました。この期待に答えられていなかった部分を、専門家、それも、この分野なら自分が日本一詳しいと言えるレベルの専門家を増やすことで、対応できるようにしていきたいです。もっとも、単に中途で専門家を採用するというよりは、事務所の中からそのような人が育っていくという環境を作っていきたいと思っています。

私の強みを生かし役立てていくという意味では、やはり投資分野で1件でも多くベンチャー・VCをお手伝いしていきたいと思っています。ベンチャーキャピタルに在籍経験のある弁護士は日本にほとんどいないと思うので、自分の経験を存分に還元していきたいですね。投資を受けるということになったら、AZXにはSkypeでの無料相談などもありますので、ぜひお気軽に私のところにご相談にいらっしゃってください。多少なりともお役に立てると思います。

—頼もしいメッセージ、ありがとうございました。

(聞き手 橘・橋詰)

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