法律・法改正・制度の解説

建設業法グレーゾーン解消制度による電子契約の適法性確認—建設工事請負契約の電子化がさらなる規制緩和

建設業法グレーゾーン解消制度による電子契約の適法性確認—建設工事請負契約の電子化がさらなる規制緩和

書面による契約締結が原則として法律に規定されている、建設工事の請負契約について、クラウドサインでは、経済産業省と国土交通省によるグレーゾーン解消制度を活用し、サービスの適法性を確認しています。本記事では、その内容を解説します。

1.  建設業法の条文は「原則は紙で契約」「ただし情報通信技術の利用も可」

建設業法では、工事請負契約の締結方式について、書面による締結を原則としつつ、一定の条件下で電子契約による締結を認めています。

1.1 建設業法19条3項が定める書面契約の原則と電子契約の例外

まず、建設業法における契約締結方式に関する規定部分を確認してみます。

(建設工事の請負契約の内容)
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない
(略)
3 建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。

建設業法19条1項を読むと、「書面にサイン(署名)かハンコ(記名押印)を押して相互に交付」と書いてあるのがわかります。つまり紙の契約書を取り交わすことが原則とされているわけです。

これに対する例外として、その下の3項に、

  • 相手方の承諾があり
  • 情報通信の技術を利用する方法であり
  • 国土交通省令で定めるもの

によるならば、書面の代替手段として認める、ということが書いてあるのが確認できます。情報通信の技術を利用する方法とはすなわち電子契約のことであり、これはあくまで書面原則に対する例外として法律に規定されていることがわかります。

1.2 建設業法施行規則第13条の4第2項で技術的基準を規定

次に問題となるのが、建設業法の条文からリンク先として指定されている「国土交通省令」に、どのような条件が規定されているのかという点です。

この国土交通省令にあたるものが、建設業法施行規則です。以下、一部抜粋します。

(建設工事の請負契約に係る情報通信の技術を利用する方法)
第十三条の四 法第十九条第三項の国土交通省令で定める措置は、次に掲げる措置とする。
一 電子情報処理組織を使用する措置のうちイ又はロに掲げるもの
イ 建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)と当該契約の相手方の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する措置
ロ 建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された法第十九条第一項に掲げる事項又は請負契約の内容で同項に掲げる事項に該当するものの変更の内容(以下「契約事項等」という。)を電気通信回線を通じて当該契約の相手方の閲覧に供し、当該契約の相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該契約事項等を記録する措置
二 磁気ディスク等をもつて調製するファイルに契約事項等を記録したものを交付する措置
2 前項に掲げる措置は、次に掲げる技術的基準に適合するものでなければならない
 一 当該契約の相手方がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものであること。
 二 ファイルに記録された契約事項等について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。
 三 当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること。
3 第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機と、当該契約の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。

ポイントとなる要件は、2項の1号・2号・3号です。

  1. 建設工事請負契約書をPDFファイルとして閲覧、印刷を行うことが可能
  2. 公開鍵暗号方式による電子署名又はタイムスタンプの付与の手続などが行われることで、当該PDFファイルが改ざんされていないことを証明することが可能
  3. 契約当事者による本人確認措置を講じた上で公開鍵暗号方式による電子署名の手続きが行われることで、契約当事者による契約であることを確認することが可能

この3点について、法の求める水準を満たす必要があります。

2. 建設業法施行規則13条の4第2項第3号が要求する「本人性の確認」要求レベルとクラウド型電子署名の利用可否

ここで、電子契約を建設工事請負契約に利用されているユーザーの皆様が懸念するポイントが、建設業法施行規則13条の4第2項第3号が要求する「本人性の確認」要件についてです。

2.1 クラウド型電子署名でも建設業法上適法に建設工事請負契約を締結できるか

クラウド型電子署名は、旧来型のローカル型電子署名やリモート署名と異なり、第三者である認証局による本人確認を必要としません。これを理由に、クラウド型が同法施行規則にいう「本人性の確認」要件を満たしていないのではないか、と誤解される方もいらっしゃるようです。

この「本人性の確認」要件を定めた建設業法施行規則13条の4第2項第3号は、2020年10月1日に施行された建設業法施行規則改正により、新たに追加された条文です。

2020年と言えば、感染症の流行によりクラウド型電子署名がリモートワークで活用されはじめた年。この改正後に建設業法グレーゾーン解消制度の申請を行った事業者は、当然にこの点についても確認を求めて申請を提出しています。これに対し、経済産業省および国土交通省は、

第三者である認証事業者ではなく『契約当事者』、つまり本人同士が(メールアドレスを用いた)本人確認措置を行った上でクラウド上で電子契約を行なっているのであればそれで足り、クラウド事業者が第三者として本人確認を行うことは要件ではない

との見解を主務官庁として示しました。

よって、建設業法上、クラウド型電子署名によっても問題なく適法に建設工事請負契約を締結することができます(関連記事:事業者署名型電子契約と本人確認—令和2年建設業法グレーゾーン解消制度で明らかにされた新解釈)。

2.2 2020年以前に申請された建設業法グレーゾーン解消制度は有効か

クラウドサインは、2018(平成30年)年1月に他の事業者に先駆けて建設業法グレーゾーン解消制度に基づく回答を受理。建設業法が定める建設工事請負契約をクラウドサインによって電子契約化することについて、適法性確認を得ました。

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その後、2020年に建設業法施行規則が改正されたことで、それ以前に申請した弊社を含むクラウド型電子署名サービス事業者の適法性確認は無効なのではないか、とのお尋ねをいただくこともあります。

この点、念のため当社より建設業法を所管する国土交通省 不動産・建設経済局 建設業課に確認を求めたところ、2021年8月16日付けで、以下回答を得ています。

  • 近年では、クラウドを利用した契約サービスを提供する企業のプラットフォームを利用した契約が増加しており、利用登録の方法によっては、別の者が当事者を名乗ることで契約を締結することが容易になり、建設業法第19条の趣旨である建設工事の請負契約に係る紛争の防止が確保されない可能性がある。
  • 上記を踏まえ、省令において、電磁的方法に係る技術的基準として、『当該契約の相手方が本人であることを確認するための措置を講じていること』を規定したところ。
  • 本人性担保の考え方については、従前より『建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン』(平成13年3⽉30⽇通知)においても言及されていた。今回の省令改正は、電子契約の方法が多様化してきたことを踏まえ、本人性担保の部分を省令において明確化したにすぎず、技術的基準に関する要件を改正前と比べて厳格化したものではない

したがって、2020年以前のグレーゾーン解消申請の結果に対しても、影響はありません。

3. 2022年グレーゾーン解消申請により、本人性担保に電子署名が不要であることが明らかに

なお、2022年に入ってから新たに申請された建設業グレーゾーン解消申請に対する回答によれば、以下4方式について、そのいずれもが適法であると示されています

方式 名称 概要
1 当事者署名型電子署名 ID、パスワードを用いたログイン認証(1要素認証)を行い、認証局が本人確認を行い発行する電子証明書、タイムスタンプにて署名する電子署名
2 事業者署名型電子署名(2要素認証) ID、パスワードを用いたログイン認証、及びSMSでのパスコード入力(2要素認証)を行い、事業者の証明書、タイムスタンプにて署名する電子署名
3 事業者署名型電子署名(1要素認証) ID、パスワードを用いたログイン認証(1要素認証)を行い、事業者の証明書、タイムスタンプにて署名する電子署名
4 電子捺印 ID、パスワードを用いたログイン認証(1要素認証)を行い、印影イメージ(名前、会社名、スキャン画像など選択可)、タイムスタンプを付与する方式

この回答内容について特に注目すべきは、以下2点です。

  • 認証方式として、2要素認証等の厳格な認証は求めていない(1要素認証であっても問題ない)
  • 本人性担保について公開鍵暗号方式・電子証明書を利用しない簡易な電子契約サービスでも可(サーバー記録型の電子契約でも可)

特に、方式4については、本人性担保には電子署名を用いずサーバー記録のみとし、非改ざん性担保のためにタイムスタンプを利用するものとなっており、これが建設業法上も有効な電子契約として認められているのが特徴的です。電子署名法上の電子署名を利用しない、いわゆる「電子印鑑」「電子サイン」サービスと呼ばれる簡易な電子契約サービスであっても、建設業法上適法な電子契約が締結できることが確認されました。

現在、デジタル庁で開催されているトラスト法制の検討会議においては、従来型の電子署名方式を維持したい勢力から、このような簡易な電子契約を規制すべきという声も聞かれます。そんな中、規制緩和の流れに沿った解釈を採用した国土交通省による見解は、ユーザーから歓迎されるのではないでしょうか。

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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