私のサイン ルフェーブル・ペルティエ・エ・アソシエ外国法事務弁護士法人 金塚法律事務所 フランス資格弁護士 マージュ パスカル・聡平

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「5年後には日本発のフランス案件を背負って立つはずの次世代弁護士がいる」—そんな熱い推薦を受け、パリからやってきた異色の日仏ハーフ弁護士を取材しました。

裁判所の荘厳な雰囲気に憧れて弁護士を目指す

—はじめまして。大手事務所に在籍する私の知り合いの先生から、「ぜひ記事に取り上げてみてほしい異色の弁護士がいる」とご紹介いただき、本日はお邪魔いたしました。

今日は取材にきてくださって、どうもありがとうございます。フランス資格弁護士のマージュ パスカル・聡平です。

「サインのリ・デザイン」は日本の法務メディアの中でも評判が良いと聞いて、光栄に思います。

—とんでもございません。では早速ですが、先生の生い立ちや、日本との関わりといったあたりから、お話をお伺いできるでしょうか?

日本に初めて来たのは、幼稚園の時です。フランス人である父が日本に駐在することになったのがきっかけでやってきました。

そのまま小学校卒業まで日本にあるフランス人学校に通います。その後、6年制の中学・高校の前半4年をパリで過ごしています。

残り2年はまた日本に来たのですが、フランスにはバカロレアという国家試験としての卒業試験がありまして、その準備のためにパリに戻って1年間地元の学校に通い、パリ第2大学に入学し、法律を学びました。

大学卒業後はフランスの企業で3年ほど働いた後に弁護士となり、そこから3年間フランスの法律事務所で勤務して、こちらの事務所に転職し、日本にやってきたところです。

通算すると、だいたいフランスに23年、日本に10年住んでいた計算になります。

—企業に入ってしばらく勤務されてから、弁護士になったのですね。

企業のアセットを買い外国で売る投資事業のようなことをやっていた小さな会社で、「ジュリスト」と呼ばれる企業の中の法務職として働いていました。

少数精鋭で、仕事はそれなりに楽しかったのですが、2年、3年と経つとどうしても同じことの繰り返しという部分もあります。

私がそこに限界を感じはじめていたのを、私の妻が見抜きまして、「年齢を重ねてから弁護士になる道もあるのかもしれないけれど、パスカルはいま弁護士になるべきだよ。そうしないと後悔するよ」と応援してくれて。すごくありがたかったですね。

—弁護士になろうという思いは、企業に就職する前からあったのですか?

大学生の時に、裁判所でアルバイトをしていました。といっても、当時の仕事は専門的な法律職ではなくて、書類を運ぶのがメインの事務職です。

それでも、手待ち時間に見学した法廷に漂う荘厳な雰囲気には憧れましたね。弁護士を目指す動機の一つになりました。

日仏の「架け橋」になりたい

—弁護士になってからの、お仕事の内容について教えてください。

弁護士になってからはまだ3年ぐらいのキャリアです。主にITのクライアントを中心に、フランスへ進出する日本企業のお手伝いをしています。契約書作成・レビューだけでなく、オフィス開業準備、雇用契約、ビザ取得を含めた企業法務全般のアドバイスを行います。

フランスでビジネスをやろうとすると、「商業権」が必要な場合もあります。これは日本にないコンセプトなので、その法的説明を行うところからスタートします。

たとえば、どこかのビルの店舗スペースを借りてカフェを開くのは、日本ではそれほど大変ではありません。一方、フランスではカフェを開くためにはこの商業権が必要になります。さらに、お店でお酒も出そうなんてことになると一大事です。なぜなら、酒を出すお店の商業権は、もう新たに発行されないことになっているからです。そうなると、どこか既存のお店から商業権を買いとらなければいけなくなります。

こうした日仏の制度の違いを、地道にコミュニケーションをつないでクライアントにわかるようにご説明するのは難しい仕事ですが、それができる弁護士は少ないので、やりがいがあります。

—弁護士として、日本のクライアントを理解するために心がけていること、苦労していることはありますか。

日本のお客様には、こちらの質問の意図や趣旨を丁寧に説明して、安心していただくことが重要だと考えています。

というのも、日本人のみなさんって、秘密主義というか、こちらから積極的に聞かないとなかなかお話ししていただけないし、質問もしていただけないんですよね。フランス人は何も聞かなくても勝手にアピールしてくるんです(笑)。そんな文化の違いを日仏ハーフとしてあらかじめ理解していることは、私の強みにもなっています。

それと、フランス企業とのスピード感のギャップを埋めることには、細心の注意を払っています。

スピード感の違いがもっともあらわれるのが、日本企業の「稟議」システムです。フランスには稟議がないので、フランス企業に日本企業の稟議の文化を説明するのはいつも苦労しますよ。なんでそんなことやっているの?と、フランス人は皆不思議に思っています。

—日本を拠点にするというお考えは、前からあったのでしょうか。

日仏両言語に対応できる自分の強みを生かして、両国の架け橋になりたい。そう考えると、クライアントと直接お会いしてお話ができるという点で、日本にいた方がいいというのは明らかでした。

フランスにジャパンデスクがあっても、フェイス to フェイスの時間がないと、クライアントと深い信頼関係を構築するのは難しい。これを解消するのが、今回日本に来た目的でもあります。LPA東京はフランス国内のジャパンデスクも、日本の事務所の体制もしっかりしています。

フランスに進出するクライアントの不安の一つに、いざというときにフランスで訴訟を起こしたり起こされたりしたとき、日本と同様に戦えるのかという点があります。「先生がいるおかげで、フランス人の顔と言葉で交渉も訴訟もできて、交渉相手にも裁判官にも舐められないで済む。鬼に金棒だ」なんて褒めてもらったことがあったのですが、そんな瞬間はうれしいですね。

—フランスでは、弁護士はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

6万人ぐらいだったと思います。国土の広さや人口数のわりに、結構多いんですよ。

日本と同様、弁護士が増えすぎたという反省があって、昨年から司法試験制度が変わり、合格者数が制限されるようになりました。

ただし、その中で日本語・フランス語両方をビジネスレベルで使いこなす弁護士となるとほとんどいません。それもあって、私自身は順調に仕事をやらせてもらえています。

契約につきものの「言語の壁」を乗り越える

—このメディアは「契約」をメインテーマに取り扱っているのですが、パスカル先生は、契約の仕事についてはどんな姿勢で取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

契約書というものは、必ず相手があるものです。自社の都合、自分たちの権利ばかりを守ろうとする契約書を作っても、相手からマークアップですごいのが戻ってきて時間がかかるだけで、ビジネスはいつまでも生まれません。

だからこそ、契約書を結ぶ前の交渉をしっかりやっておく必要があります。ここで、特にグローバルな取引の場合、契約書を作成するシーンだけでなく、その事前の契約交渉をするにも、言語の壁が立ちはだかります。この言語の壁を自分の強みを生かして乗り越える瞬間は、やりがいがあります。

契約書の作成作業そのものは、経験を積んでいけばテンプレートも溜まっていきます。「昔やったあの案件に似ているな」とすぐに欲しい契約書は見つけられて、作成もすぐできるようになります。そうした書類づくりのノウハウや文言の知識よりも、その手前の準備の過程こそがポイントになると考えています。

—ちなみに、日仏の企業間の契約書ってフランス語になるのでしょうか?フランスの皆様は、自国の言語にプライドを持っていらっしゃると聞きますが。

確かにフランス人はプライドが高い人種だと思います。それでもさすがに、ビジネスで使うのは英語ですね。フランス語の国際契約書はほとんど見ませんよ。

—それは意外でした。フランスの裁判所は英語の契約書を証拠として受け付けてくれるのですか?

いや、それがダメなんですよ(笑)。ですので、訳して提出する必要があります。ただ、先進国として英語を訴訟で使えないことについては、問題意識もあります。

パリの商事裁判所では英語をつかって尋問も取り入れた裁判を実験的に取り入れていますし、英語への対応はどんどん進んでいくと思います。

—先生が関わった案件で、特に印象深かった契約について、教えてください。

契約書に管轄条項が定められていなかったことで揉めてしまった案件を担当したことがあります。

企業間でライセンス契約を締結していたのですが、採算が合わないと判断したライセンシーが店舗を閉め、それに気づいたライセンサーが契約違反を訴えて訴訟を起こした、という事案です。締結されたタームシートは、準拠法を日本法と指定していたにもかかわらず、裁判管轄の記載がありませんでした。

フランスで起訴されたところ、代理人として管轄裁判を起こし、無事訴訟には勝ったのですが、こんな初歩的なミスがこんな大きな契約で発生するのかと、本当に驚かされました。

日本はまだまだ成長可能性のある画期的な国

—弁護士としてこれから注目している分野や、手がけたい分野はありますか。

アドテク、ブロックチェーン、フィンテック。弁護士としては、そうした新しいテクノロジーを活かすビジネスに特に興味があります。

私が生きているうちに、インターネット革命に続くIT革命がもう一度来るだろうと考えています。もともと技術に強い国である日本は、そこで成長のチャンスが訪れるはずです。

お隣の中国の台頭や少子化という問題もありますが、やはり日本は画期的なアイデアを生み出すIT先進国だと信じています。

—そう言っていただけると心強いですが、リーガルテックや電子契約一つとっても、根強い印鑑と紙文化が障害になっていて、なかなか普及がすすまないのが日本です。

そうですよね。外国の企業に対して印鑑の説明をすると、だいたい30分はかかります。世界でも、ビジネスの契約に印鑑を使うのは、もう日本ぐらいなのではないですかね。僕は好きなんですけどね。

—裁判所のデジタル化も、日本ではなかなか進みません。

フランスの裁判所はすでにデジタルに振り切っていて、専用のプラットフォームでデジタルな書面をやりとりするんですよ。だから証拠の交換もとてもラクです。

—個人への送達なんかもデジタルに行われるんですか?

いえ、そこはまだ古き良き文化が残っていますね。郵便局員が届ける日本とも違っていて、執行官が直接足を運ぶんです。よく映画などでも描かれていますけれども、レストランでごはんを食べているといきなり隣の人が「ハイ、これ」って渡してくる。あの世界なんですよね。

古い文化と新しい文化、両方が共存した美しい国という意味では、フランスも日本もそっくりです。日本の法制度もすぐ新しいものを取り入れてくるだろうと思います。

—だいぶ長いお時間を頂いてしまいました。最後に、読者のみなさまにメッセージをお願いします。

外資系法律事務所ということで、ご相談に躊躇されるお客様も多いと聞きます。

弊所は、私のように日仏両方対応できる者も複数名います。またパートナーの金塚弁護士は日本人でありながら、日本法・フランス法の両資格を持って活動もしています。

どうぞお気軽に、弊所にご相談にいらしてください。

(聞き手 橋詰)