SaaS・サブスクリプションビジネスの利用規約—契約終了(サービスの停止・廃止)措置の合法性


入門編第4回は、契約終了に関する法的責任について、(1)ユーザー企業を原因とするサービス停止の場合と(2)SaaS・サブスク事業者を原因とするサービス廃止の場合に分けて整理します。

トラブルの無い限りは契約更新が前提となるSaaS・サブスクサービス

SaaS・サブスクリプションサービスの利用規約では、数ヶ月〜1年程度の契約期間を設定した上で、一定の予告期間内に通知がなければ、自動的に更新することを前提としているものがほとんどです。

Y Combinatorひな形の5.1条を見てみると、「少なくとも契約期間満了日の30日前にいずれかの当事者から契約終了のリクエストが無い限り、申込書記載の初期サービス期間と同一期間、本契約は自動的に更新される」旨定められています。日本のSaaS・サブスクサービスの一般的な利用規約でも、基本的な構成は同様です。

5.1 Subject to earlier termination as provided below, this Agreement is for the Initial Service Term as specified in the Order Form, and shall be automatically renewed for additional periods of the same duration as the Initial Service Term (collectively, the “Term”), unless either party requests termination at least thirty (30) days prior to the end of the then-current term.

このように、トラブルの無い限り契約を更新することを前提に両当事者が継続的な契約関係に入ることが多いSaaS・サブスクですが、それだけに、契約が途中で終了しサービスが提供されなくなる事態が発生した場合の合法性 が論点となります。

ここでは、ユーザー企業に起因するサービスの停止措置と、SaaS・サブスク事業者に起因するサービス廃止措置に分けて整理をします。

(1)ユーザー企業を原因とするサービス停止

ユーザー企業が契約違反・債務不履行を発生させた場合には、事業者からサービス停止→契約解除ができるよう利用規約に定めるのが通常です。

その一般的水準について、前回に続き、一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)が定める「ASPサービスモデル利用規約」をチェックしてみましょう。

JISA「ASPサービスモデル利用規約」 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/legal/download/asp_policy_model.pdf
JISA「ASPサービスモデル利用規約」 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/legal/download/asp_policy_model.pdf

支払不能や事業譲渡など、ユーザー企業の支払能力・事業継続性に関わる事態に陥った場合はもちろん、利用規約に違反した場合にも、本条および本条を引用する第12条3項により、合法的にサービス停止→契約解除ができるよう定めています。

ただし、ここで気をつけたいのは、支払不能等の場合はただちに契約解除ができるようになっているのに対し、利用規約違反を理由とするサービス停止・契約解除については、「違反の是正を催告した後合理的な期間内に是正されない場合」と一定の猶予を設けている点です。

金銭債務の不履行とは異なり、例えば意図しない禁止行為への抵触など、契約違反の該当性が微妙なものもあります。予告や警告なくサービス停止・契約解除に踏み切り、ユーザー企業に何ら理由の説明や是正の機会を与えない場合、正当な理由なき解除として事業者側に損害賠償義務が発生する可能性がある ためです。

クラウドサービスの裁判例ではないものの、ネットオークションサービスで、著作権法違反(「ダビング品」の記載)や薬事法違反(「おなかスッキリ」等効能の記載)のおそれを踏まえ「サイトポリシー違反」という抽象的な説明のみで事業者が出品削除措置に踏み切ったことにつき、不法行為責任が認められた事例が存在します(東京地判平成20年12月18日 平成19年(ワ)第22746号)。

(2)SaaS・サブスク事業者を原因とするサービス廃止

反対に、事業者の都合でサービスが廃止され契約を途中解除される場合もあります。SaaS・サブスクサービスのユーザー企業が契約期間の更新を前提としていたならば、承服しかねる事態です。こうした場合、ユーザー企業は事業者に対し責任を問うことはできるのでしょうか?

この点、民法651条によれば、準委任契約において「相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは(略)相手方の損害を賠償しなければならない」との定めがあります。

第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

しかし、民法のこの定めは強行規定ではなく任意規定であるため、契約上別段の定めをしている場合は適用されません。そして実際には 多くのSaaS・サブスク利用規約において、一定期間の予告をもって契約を途中解除できる規定が設けられており、事業者からの解除は原則としては合法 となります。

ASPモデル利用規約第17条においても、一定期間の予告または不可抗力事由をもって廃止できる旨の定めが設けられています。

JISA「ASPサービスモデル利用規約」 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/legal/download/asp_policy_model.pdf
JISA「ASPサービスモデル利用規約」 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/legal/download/asp_policy_model.pdf

このような準委任契約の途中解除の特約については、多くの裁判例において有効と認められてきました。しかしその一方で、継続的契約では正当な理由を要求する裁判例も増加 しています。

たとえば、自動更新条項のある新聞販売店契約の更新拒絶をめぐり、新聞会社が契約の定めどおり契約期間満了の3ヶ月前に更新拒絶を告知したところ、新聞販売店が拒絶の無効を主張して争った事案で、「継続を期待しがたい重大な事由が存することが必要である」と判示し、更新拒絶を無効とした裁判例(札幌高判平成23年7月29日判時2133号13頁)などです。

また、メール配信サービスにおいて 事業者からの中途解除権が契約書に明文化されていなかった事案で は、「契約満了日の3か月前に、書面による更新拒絶の意思表示がなされない限り,同一条件での契約が更新される」という自動更新条項があったことから類推解釈し、中途解除にあたっても 少なくとも3か月前の予告が必要と判断した裁判例 もあります(東京地判平成22年3月30日 平成22年(ワ)第1263号)。

これらを踏まえると、今後、クラウドサービスやSaaS・サブスクサービスでの契約途中解除に関する判例の動向については、一層の注意が必要となりそうです。

契約の両当事者にとってバランスの取れた途中解除・契約終了条項とは

以上、日本の業界水準および類似事例における裁判例の動向を見た上で、あらためてY Combinatorひな形の5.2条を見てみると、

  • 重大な契約違反、かつ
  • ユーザー企業・事業者いずれも30日前予告(ただし金銭債務不履行の場合は予告不要)

があった場合に限り、契約を途中で解除しサービスを終了させることができる旨定められています。つまり、このひな形が前提としているのは、「ユーザー企業もSaaS・サブスク事業者も、重大な契約違反が無い限りは契約期間途中の予告解除は行わない」というスタンスです。

5.2 In addition to any other remedies it may have, either party may also terminate this Agreement upon thirty (30) days’ notice (or without notice in the case of nonpayment), if the other party materially breaches any of the terms or conditions of this Agreement. Customer will pay in full for the Services up to and including the last day on which the Services are provided.

「事業者側のみ任意の途中解除を可能にしておこう」と考えがちな日本の利用規約の水準と比較すると、サービス継続責任をより重く規定したものにも読め、一見すると事業者の自殺行為なのではないかと思われるかもしれません。しかし裏を返せば、

  1. ユーザー企業にも契約期間を強くコミットさせ途中解除を認めない
  2. SaaS・サブスク事業者としても契約期間の終期をもって任意かつ合法的に終了させる選択肢を確保する

という、強い意思の現れと捉えることもできます。実務上、契約期間を1年以下の長期に過ぎない期間で設定しておけば、これも十分に機能しうる考え方と評価できます。

こうした 両当事者にとってバランスの取れた適切な契約期間の設定とその更新サイクル管理の徹底こそが、SaaS・サブスクサービスの契約終了において紛争を発生させないための最重要ポイントとなっていく のではないでしょうか。

他サービスへの移行猶予期間と代償措置

なお、サービス終了後ユーザーが他サービスに移行するための猶予期間や代替措置を提供することができれば、契約終了の合法性が認められやすくなるだけでなく、ユーザー企業にとってのサービス導入時・終了時の安心感 にもつながると考えられます。

たとえば、Y Combinatorひな形5.2条には[]でSaaS・サブスク事業者のオプションとして、契約終了後30日間限定で顧客データの救済措置期間を設けるサンプル条文が提案されています。

[Upon any termination, Company will make all Customer Data available to Customer for electronic retrieval for a period of thirty (30) days, but thereafter Company may, but is not obligated to, delete stored Customer Data.]

サービスは停止・廃止したとしても、ユーザー企業がデータを取り出し、そのデータに何らかの加工を加え他のサービスに移行できるチャンスがあれば、実務上もユーザー企業との間のトラブル低減が期待できるでしょう。

なお、代償措置に言及された裁判例として、携帯電話を用いたデータ通信サービス廃止にあたり、

  • サービス終了6ヶ月前にプレスリリースを実施し、以降4回に渡るダイレクトメールを送信していたこと
  • 代替サービスを利用できる端末への無料交換サービスを実施していたこと

などが評価され、事業者の債務不履行責任が問われなかった事例(東京地判平成26年6月10日 平成25年(レ)第385号)が参考になります。

参考文献

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画像: den-sen / PIXTA(ピクスタ)、Zenzen / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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