リクルート内定辞退予測データ販売事件で問われるHRTechの合法性

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リクルートが「リクナビ」上の行動履歴を利用して学生の内定辞退率を予測し、38社に有償提供していたことを認めました。個人情報保護委員会の調査を受け、7月末に販売を停止したとのことですが、HRTech業界に及ぼす影響は甚大です。

リクルートによる企業への「内定辞退率」情報の提供

就職情報サイト「リクナビ」で企業の新卒採用支援市場において独占的な地位を築いたリクルート。

そのサイト上での学生の行動履歴を利用して当該企業の内定辞退率を予測し、企業に有償提供していたことが、個人情報保護委員会の調査と8月1日付日本経済新聞の報道により明らかになりました。

▼ 就活生の「辞退予測」情報、説明なく提供 リクナビ

リクナビは2018年から、就活生がどの企業情報を閲覧したかなどを人工知能(AI)で分析。「選考や内定の辞退確率」を予測し、大手メーカーなどに販売した。
(中略)
内定辞退は企業を悩ませる問題で、予防につながるデータは貴重だ。同意手続きが適切なら法的な問題はなかったが、専門家から「具体的な利用法が示されず有効な同意でない」(板倉陽一郎弁護士)との見方が出た。個人情報保護委員会は「どう使われるか本人にわかるようにしないと不十分」とし、7月にリクナビに聞き取りを行った。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48076190R00C19A8MM8000/ 2019年8月2日最終アクセス)

これを受けて、同サービスを運営するリクルートキャリアは8月1日深夜にプレスリリースをうち、報道に対する釈明とサービスの停止を表明しています。

▼ 当社サービスに関する、一部の報道につきまして

本サービスの提供にあたっては、各種法令にも照らしつつ、学生の個人情報保護を最優先にサービスの設計や各種規約を整備してまいりました。しかしながら、昨今では個人情報保護に関する社会の認識も大きく変化しております。海外におけるルール整備の潮流も受け、本日の一部報道にもあります通り、関係各所から当社のプライバシーポリシーの表現が学生に伝わりにくいものとなっているのではないかとご意見をいただきました。こうした背景から、2019年7月31日(水)をもって、サービス提供を一時休止させていただくことを決めました。
https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2019/190801-02/ 2019年8月2日最終アクセス)

リクナビ利用規約・プライバシーポリシー上の取り扱い

問題となった利用規約・プライバシーポリシーを確認してみます。

https://job.rikunabi.com/2020/open/navg/help/privacy_policy.html 2019年8月2日最終アクセス

まずリクナビが学生から取得する個人情報の利用目的についての同意根拠となっている「プライバシーポリシー」において、ウェブ上の行動履歴の利用に関しては、「I.属性情報・端末情報・位置情報・行動履歴等に基づく広告・コンテンツ等の配信・表示、本サービスの提供」と記載されています。

一見すると利用の同意を得ているようにも見えますが、今回問題となっている「内定辞退率」の提供は、内定辞退による損害を避けたい企業に対して行われたものであり、学生に対し情報提供を行うサービスではないため、「本サービスの提供」に含まれるという拡大解釈は困難 です。

また、プライバシーポリシーの後段には、「属性情報・端末情報・位置情報・行動履歴等の取得及び利用について」という項も設けられています。

https://job.rikunabi.com/2020/open/navg/help/privacy_policy.html 2019年8月2日最終アクセス

ここでいう

採用活動補助のための利用企業等への情報提供(選考に利用されることはありません)。

に該当するとの整理は可能かもしれません。しかし、内定辞退率は、その企業の内定者の母集団全体に対して予測されても意味がなく、特定個人の「学生A」について何%内定辞退しそうなのかが分かることにこそ、企業にとって価値のあるデータ になります。

このようなデータ、すなわち「行動履歴等から推測する学生Aの内定辞退率」を学生A本人の同意なく企業に対して提供していたとすれば、

なお、行動履歴等は、あらかじめユーザー本人の同意を得ることなく個人を特定できる状態で第三者に提供されることはございません。

の文言によっても、「行動履歴等から推測する学生Aの内定辞退率」情報を得たい企業と利益相反の関係にある学生Aからの同意は得られていなかったと見るのが自然でしょう(「第三者」に当該学生Aの内定企業は含まれないという解釈の余地があるかという問題)。

リクルートのプレスリリースによれば、「学生の応募意思を尊重し、合否の判定には当該データを活用しないことを企業に参画同意書として確約いただいています。」とのことですが、企業側からその利用範囲について配慮する旨の同意を得ても、そもそも提供を認めるか否かという学生本人の同意意思とは無関係です。

リクルートが今回の「リクナビDMPフォロー」サービスを即日休止したことから、同社としても、プライバシーポリシーに抵触していると解釈せざるを得ないという判断にいたったものと思われます。

懸念されるHRTech業界への影響

こうした人事系の行動履歴データ分析サービスは「HRTech」と呼ばれ、AIを活用する次世代のデータ活用サービスとしてはもっとも実現可能性が高く、近年注目を浴びている領域です。

類似サービス事例で言えば、従業員の勤怠履歴・有給休暇取得状況・業務活動量・チャットやPCの使用状況をモニタリングし、休職・退職リスクをAIで予測するタレントマネジメントサービスなどが企業向けに提供されています。しかし、このようなサービスを導入する際に従業員等から適法な同意を取れているのかは、大きな論点となりえます。

タレントマネジメントサービスの一例 https://www.workday.com/en-us/applications/human-capital-management/hcm-reporting-and-analytics.html 2019年8月2日最終アクセス

リクルートの存在感があまりに大きいだけに、 日本のHRTech市場に冷や水をかぶせるようなかたちで今回の事件の影響が大きく広がることが懸念 されます。

(橋詰)