私のサイン 株式会社ビズリーチ 法務室室長 弁護士 小田将司


大手法律事務所を経て2016年に株式会社ビズリーチのセールス部門へ飛び込み、2019年よりグループ法務機能(2020年2月より「ビジョナル株式会社」をホールディングカンパニーとするグループ経営体制に移行し、Visionalグループが誕生。グループ全体の法務機能を担う)の本格立ち上げを担うインハウスローヤーの小田将司先生と、法務マネージャーの仕事についてディスカッションしました。

4ヶ月で50人もの法務パーソンと面談

—小田さんとは、年始にお会いして以来の再会になります。この間もずっと採用活動に注力なさっていたそうですね。成果はいかがですか?

昨年の暮れから採用活動を本格化し、弊社のオウンドメディア「Reach One」やTwitterでもメッセージを発信しつつ、約50人の法務の方々と、実際にお会いする機会をいただきました。そのうち、2~3割くらいの方が部長職やマネージャー職の経験者でいらっしゃったと思います。

おかげさまで、3名の方から内定承諾をいただきました。

私自身は、マネジメントを含めた体制をどう構築していくか、役割分担をどうしていくかなど、入社してくださる皆さんがパフォーマンスを発揮しやすいように、準備をしているところです。

—人数の限られた法務の転職市場の中でスカウト活動も大変だと思いますが、実際に50人もの法務パーソンとお会いになって、何か共通した特徴などはありましたか?

一言でいうと、(私自身もそうですが)一般的な意味におけるマネジメントをされている“法務のマネージャー”は非常に少ないのだな、と思いました。

営業のマネージャー職と違い、法務でマネジメント経験をお持ちの方でも、部下は2~3人というケースがほとんどです。さらに詳しく話を聞くと、多くの方がプレイングマネージャーとしての役割を担われています。「人・組織を通じて成果を出す」というマネジメントの一般的な原理・原則のとおりに動いている方は、なかなかいらっしゃいませんでした。

そういうスタイルがよくない、と言っているわけではないです。どのような会社でも、法務のマネージャーである以上、専門性が根幹にあることを経営から期待され、プレイングもすることも役割になっているのだ、と思いました。

特に法務は、管理部門の中でも比較的小人数であることが多い部署ですので、メンバーに任せたくても、マネージャー自身もプレイングせざるを得ない実情もあります。私もそうしたプレイングマネージャーの一人ですから、これがあるべき姿なのか?と自分に問いかけながら、まだ結論がだせていないところです。

採用面談を通じて感じた、いまどきの法務パーソンのキャリアに関する悩み

—話を少し戻します。たくさんの法務パーソンとの面談を重ねる中で、彼ら・彼女らが共通して抱える悩みには、どんなものがありましたか。

「新しいことに挑戦したい」
「今の会社の変化のスピードが遅い」

この2つは、面談した多くの方々が口を揃えておっしゃっていました。法務の仕事はルーティーンになりがちで、飽きやすいということの表れなのかもしれません。

それと、キャリアップの手段という文脈で「マネジメントをやりたい」という声も多かったです。

—法務の転職において、マネジメント経験があったほうが有利だ、という声はよく耳にしますね。

法務のキャリアップの手段として、マネジメント経験は本当に必須なのでしょうか?私は、会社組織において、法務マネージャーの数自体はそこまで必要ないと思いますし、法務の本質的な価値はマネジメントではないと考えています。

—法務のキャリア形成にマネジメント経験はかならずしも必要でないと。これは興味深い意見です。詳しく聞かせてください。

私は、いわゆるマネージャーが確実に管理した法務組織より、個性の強いプロフェッショナルがたくさんいる法務組織の方が強いと思います。

ただ、その個性派のプロ達が集団としてアウトプットを出す時には、マネージすることは難しくても、コーディネイター・指揮者のような人は必要です。共通のゴールがなく個人が好き勝手にやっても組織として成果を上げることは難しいですし、適材適所に配置をする役割は必要で、それができる人であってほしいとは思いますが、これは典型的なマネジメント像とはちょっと違います。

ちなみに、そういうコーディネイターの仕事が上手くなることが面白いか、やりがいがあるのかと問うと、人によってだいぶ好みは分かれるような気はしますね(笑)。

—私もそういうコーディネイターのようなマネージャーをやっていた時期がありましたが、面白くなかったです(笑)。個性ある侍たちに気持ちよく働いてもらえる環境づくりをするのは、正直疲れますから。それでも、企業においては必要ということですか。

法律事務所の場合、そういう役割の人はいなかったような気がします。それがなぜなのかを考えてみると、比較的短期間で、特定のプロジェクトに対して仕事をアウトプットするスタイルだからだと思います。

対して企業では、例えばグループコンプライアンス一つとっても、数カ月単位で業務が終わることはまずなくて、時間軸を長く取って取り組まなければいけない。そうすると人の出入りの可能性もあるし、時には調子やモチベーションの波も出てくるかもしれない。そうすると、全員のエネルギーのベクトルを整え、全体最適に配置しなおすコーディネイター的な意味でのマネージャーが必要になるのだと考えます。

加えて企業の場合、人材の育成観点も重要です。時間軸を長く取るということは、継続性の担保が重要になってきます。すでにできる能力のある人をその都度雇うのと違い、長期的な視点での成長にも期待しながら、誰に任せるべきかを考える人が必要になります。

そう考えると、法務のマネージャーの重要な役割とは、アウトプットを最大化するための適材適所の「配置」と、法務組織を長期安定させるための「採用」と「育成」なんでしょうね。

法務の採用と転職で大切にしたいこと

—小田さんが昨年10月にマネージャーとして法務の仕事に戻って以降、まず力を入れて取り組んでいらっしゃることはなんですか。

これまでは採用に注力してきました。脳内シェアの9割ぐらいを割いていたと思います。自社サービスはもちろん、IT業界に興味をお持ちの法務パーソンが利用していそうな、他社サービスのデータベースに登録されている法務パーソンのレジュメは全て拝見しました。

それと驚いたのが、法務のみなさんって想像以上にTwitterを見てるんだなあと。スカウトをお送りした方々が、「ビズリーチのことはなんとなく視界に入っていたが、小田さんのTwitterを見直して、改めて面白そうだと思った」「誰かのリツイートで小田さんの投稿を読んで興味を持った」と応募してくださった方が何人もいらしたのです。

実際に入社が決まった方の中にもそういう方がいらっしゃいましたから、Twitterの効果は大きかったです。

—ビズリーチの法務採用は順調ということですが、法務関係の読者の方の中には、採用できずに困っている企業も多いと思います。採用のプロとして、みなさんに共有していただけるコツなどありますか?

「当社でできること・できないこと」を、ハッキリお伝えすることでしょうか。

本音たっぷりの、思いっきり暑苦しい長文のスカウトメールをお一人お一人に送りました。

そうすると当然、「合わないな」と思う方からの返信は来なくなるでしょう。しかしそれ以上に、実際お会いした時にミスマッチにならないことが重要です。正直に情報をお伝えした方が、面談をしたときにお互いにとって良い時間にすることができます。せっかく大切なお時間をいただくのですから。

—面接の前に、たくさんの書類選考もされたかと思います。候補者へのアドバイスとして、レジュメでこの辺はよく見られるよというところがあれば。

私の場合は、ファーストキャリアをどこで積んだかと、法学部出身であるかどうかは、重視しています。いずれにも共通していますが、法務パーソンとしての土台の部分がしっかりしていれば、細かい知識などがなくともキャッチアップは容易だと考えているからです。

ファーストキャリアが法務組織のしっかりとした大手企業の法務部ですと、お話ししていてもその点の安定感があります。必ずしも法学部出身でなくともどこかで基礎法学を集中して学んだ時期があれば、もちろん構いません。ですから、そういった能力や経験がある方は、レジュメから読み取れるようにしておかれたほうがよいと思います。

実務経験だけで対応してきた場合には、感覚に頼りすぎる仕事のスタイルが身に付いてしまうことが少なからずあるように感じています。落としどころを判断する嗅覚は極めて重要ですし、それは絶対に必要なもの。でも、なぜその判断が正当化されるのかについて、ロジカルに説明できなければ、それは法的な判断ではないということです。

そうはいっても、あくまで最重視しているのは面談です。会った時のフィーリングを大切にしています。

—そのフィーリングとおっしゃる部分を、もうすこし詳しく分解していただけますか。

スキル以前に、マインドセットが今の当社が大切にしているミッションやバリュー、そして当社のフェーズに合致するかが最も大切ということです。そこは妥協したくないと思っています。

「あなたにとって本当に価値のあること、楽しいことはなんですか」とお聞きしています。「何をやりたいか」が明確な方は、話していて魅力的だなと感じます。人生を通じて何を成し遂げたいのか、何を大事にしている人かということと、当社の提供できる環境がフィットするかが重要です。

また、勉強が好き、事業が好き、はおそらくどのフェーズでも変わらず必須のマインドです。これだけ世の中が変化し、事業が変化しているわけですから、その2つが好きでないとキャッチアップしていけないと思います。

法務はどこまでも裏方として事業を支える存在

—経営者からもフロントからも頼られる法務マネージャーとして必要な人格・能力・資格について、小田さんのお考えをお聞かせいただけますか

法務に限らずマネージャーという存在は、プロフェッショナルとして信頼される人でなければならないと思います。やっぱり何らかの面において「圧倒的にすごいな」「この人の言うことには従いたい」と思わせる何かを持った人と仕事がしたいのではないでしょうか。

そうした信頼を勝ち得るためには、オールマイティである必要はないけれども、「この部分では誰もかなわない」という一面を持っている必要があります。

—そうした個人の特異性で牽制力を担保するのって、システムによって内部統制をすることが求められる今の時代にはそぐわないのではないかという気もするのですが、その点はいかがでしょうか。

会社法上の内部統制システム構築義務というのは、あくまで最低限守るべき水準であると理解しています。

最低限のディフェンスを超えた法務としての付加価値に属人的な要素が生じるのは避けがたいし、それを否定するのは現実的ではないと思っています。

—なるほど納得しました。今の議論は法務組織内のことだと思いますが、フロントから信頼を得られるようにするためにはどうすればいいか教えてください。

言葉遣いにはかなり気を遣っています。ダメなことは覚悟をもってダメと言い切る。言い切った内容に納得と信頼を感じてもらうためには、専門性はもちろん、その法的テーマについて誰よりも考え抜いているという自信がなければなりません。

「法務は決断・決定できない仕事だ」といわれることってよくありますよね。でも、GoかNo Goかの決断を迫られているフロントの責任者に代わってその問題について考えぬいて、背中を押してあげることはできます。法務として明確なポジションをとり、「小田さんがそこまで言うなら」と決断してもらいビジネスを前に進めるのは、この仕事の醍醐味です。

もちろん、職責上はフロントや経営者が責任を取りますが、それはあくまで職責上の話であって、本気で決断する心意気のある法務パーソンであれば、実態として法務の言ったとおりに物事が進むケースはいくらでもあります。フロントや経営者は孤独ですから、代わりに自分が意思決定するのだという覚悟をもった法務パーソンが頼られるのだと思います。

—弁護士資格の有無はいかがでしょうか。

今のビズリーチの法務マネージャーに、資格は特に必要ではないです。一般的にも、法務としての提供価値に資格の有無は関係ないと考えています。

もちろん、PR・IRなどの対外的な意味合いであるとか、法務の責任者に一定の能力があることについての説明コストが下がるなどの実務的なメリットはあるかもしれません。

しかし、資格を持っていても勉強を続けていなければ、資格も形だけのものになってしまいますし、事業が好きかどうかの方が重要だと思います。

法務としてではなく、日本を変える企業の一員として貢献する

—経産省の「法務の在り方研究会」では、法務人材を起点にグローバル競争を勝ち抜こうという議論がなされています。そうした法務発のビジネススター待望論もあれば、法務は黒子に徹するべきという意見もあります。こうした議論について、何か思うところはありますか。

スターかどうかは周りにいる人が判断すればいいと思います。ただ、本質的に法務は裏方だと思います。作って売る、がビジネスの本質ですから、どこまでいってもビジネスのスターは作るエンジニアと売る営業だというのが僕の考えです。

管理部門の中であえて「スター」的なものを観念するとしたら、CFOだと思います。CFOが「カネ」を集めないと事業を生み出すことはできないし、育てることもできません。しかし、CLO(チーフリーガルオフィサー)がいなくても事業は成り立つ場合は多くあります。一方で、金融や医療など、法律が商売に直結する特殊な業界でCLOが求められているのはわかります。

結局のところ、事業にどれだけ貢献しているかどうかが重要で、「法務の存在価値を高めたいからCLOを増やす」というニュアンスで議論がなされるのであれば、それは手段が目的化しているように思います。

—それなのに小田さんが法務という道を選ばれたのは、なぜでしょうか。

この事業に貢献して、社会の課題を解決して、日本を変えるのが目的だからです。

私自身のことを言えば、CFOになりたいと思ったこともあったけれども、自分には財務的なバックグラウンドはなかったし、営業も数年間必死に取り組んだけれども、自分で成功と言えるレベルには至らなかった。でも、このビズリーチという会社と事業が日本を変えるという確信には変わりありません。

自分一人では日本は変えられませんから、同じ志をもつ仲間と同じ船に乗り、皆で一緒に日本を変えるというゴールに到達すればよい。私自身のキャリアが第三者から見て成功しているかどうかは関係なく、目的ではないということです。

ですので、今募集している法務マネージャーのポジションも、単純に法務パーソンとしての自身のキャリアを突き詰めたい、という方とは合わないかもしれません。わたしたちの事業に対して強く共感し、その事業成長に対して貢献し続け、社会の課題が解決された「結果」として自分自身のキャリアも形成される、という順番で考えていただけるかどうかが重要だと考えています。

—本日はありがとうございました。最後に、新型コロナウイルスでさまざまなビジネスへの影響が懸念される中で、不安を感じている法務パーソンも少なくないと思います。人材ビジネスのビズリーチのマネージャーとして、読者のみなさんにメッセージをいただければと思います。

当然、どんな業界にもダウントレンドはあります。それでも揺るぎない基幹事業を持ち、新しい事業にチャレンジする気概をもった組織であれば、乗り越えられると信じています。ぜひ私たちと一緒に、日本を変えるビジネスを創っていきましょう。

(聞き手 橋詰)

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