クリエイターが考える新しい契約のかたち—高解像度な同意のためのシンプルで納得感のある道筋

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「契約」という言葉から受け取るイメージは「面倒」の2文字

普段某ネットストアなんかでは、3クリック程度で売買を行っているけれど、いざ「売買契約」なんて言うと仰々しくなる。それが 個人による対企業の「業務委託契約」の確認ともなると途端に面倒くさくなるのはなぜだろう

「契約」と名のつくものはたいてい内容が複雑になるものが多いから、当たり前ではあるのだけれど。そこに目にするのは普段あまりお目にかからない単語、もうそれだけで読む気がしなくなる。

「過失」「重過失」「履行遅滞」「損害賠償」。もう不穏な言葉のオンパレードだ。

さらに頭も身体も重くなるのは、自分がこれから同意しようとしている「契約」によって、起こりうるトラブルの実例やその予測がしにくい 点にある。自身の業務契約によるピンポイントなトラブル事例なんてどこで調べればいいんだろうかとか。簡単に理解できるものなのだろうかとか。大損害にならない程度にちゃちゃっとならないものだろうか。考えていると、最初に沸き起こった意欲はどこへやら、順を追って萎んでいく。

その上で、書面にある各項目が将来的にどう自分と相手に降り掛かってくるのかが、個人では見通しがつきにくい。想定外のトラブルがどれだけあるのかなんて、その筋に強い人間じゃなきゃ、ガラケーで撮影した写真で景色をみているようなもので、細部なんかわかりはしないのだ。それが 低解像度であることに気づいてすらいない場合は。もう悲劇でしかない

では、と検索スペースでいくら単語を入れて調べても、納得感のある答えなんか一向に出てこない。検索汚染と揶揄される昨今のWeb事情。出てきた答えに対して、その真偽の判断を再び検索する悪循環が始まってしまう。結局、納得感のある答えは見つかったことはない。

だったら、とデザイナー(フリーランス)の友人に契約の状況を聞いてみれば、トラブルが発生した際の損害、その全てが降り掛かってくるような恐ろしい内容だったこともある。

「なんでこの内容でOK出したの?」と聞けば、「昔から一緒に仕事をしていた人からの紹介だし、会社がこの内容じゃないと駄目って言うから」と返ってくる。「いい人だよ」とも加える。

「その人いなくなったらどうするの?」だとか「その人と契約したんじゃなくて、その人が所属している会社と契約したんだよね?」とか、「それは”本当”にいい人なの?」なんてことを聞くのは野暮なのだろうか。

結局もやもやしたまま時間は過ぎていく。

どうせお高いんでしょう?

だからといって、クライアントや案件ごとにわざわざ専門家に見てもらうには、あまりにもコストがかかりすぎる。その人の専門やプロジェクトの規模などによるだろうが、自身が普段関わっている範囲のライティングや撮影の仕事では、専門家のチェックコストで賃金の大半を削られてしまうか、下手すると足が出かねない。

そもそも 企業と個人のような関係であれば、契約書にまつわる経験値に差がありすぎる という点もある。委託者が社と個人の間に挟まれながら提示してくれた内容に対してどれだけ適切な評価できるのか。問題に対して低い解像度のまま、最終的にはお気持ちで判断をしている人も多いのではないだろうか。

昨今では、AIを使った契約書チェックサービス、スキルの売り買いをするサービスなども増えてきているが、それでも足が出てしまうことがあり、仕事するだけ損する状況になる人達の顔はすぐに浮かぶ。

口約束は通用しない

「新たにオープンする施設の撮影をお願いします。楽しそうに遊んでいる人の写真です。x月xx日新宿の〇〇で。2時間▲万円で。」

と電話があった。

昔からの友人だったため、2つ返事で最初は気にもとめてなかったけれど、現場に向かう途中ではたと気づく。

委託する側としても、本人が当日現れなかった場合や代理の人間が来たとき、これまでの突合による信頼性を担保にしても、重大なトラブルが発生したときに、今後どうなるかなんてわからない。

この手の口約束では、若人のベンチャーはおろか、そこそこ名のしれたWebメディアでさえ多々ある。最近では超がつくほどの人気アニメ映画を担当した制作会社が、個人のアニメーターとの間のトラブルで公正取引委員会から下請法違反で指導 されていたりもする。

劇場版FGO」アニメ制作会社が下請法違反、公取が指導 「被害」の作画監督が実名告発「あまりにひどい状況」

アニメ制作会社「Signal-MD」(シグナル・エムディ)が、公正取引委員会から下請法違反で指導を受けたことが2021年1月28日、分かった。同社の親会社「IGポート」が取材に明かした。

契約書のやりとりによる煩雑さというのはわかる。面倒って罪作りであるし、一部の既得権益者以外は誰も得しないだろう。公正取引委員会から指導が出るほどの一方的な押しつけはそもそも論外だ。

さらには、2020年12月に経済産業省が「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)の策定を行っており、その中の「第3 フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項 」の2「発注時の取引条件を明確にする書面の交付に係る基本的な考え方」において、

発注事業者において、当該フリーランスが発注時の取引条件を書面で確認できるようにするなどの対応をしておくことが必要である。
(中略)
優越的地位の濫用となる行為の誘発を未然に防止するという意味において、発注時に取引条件を明確にすることが困難な事情があるなどの正当な理由がない限り、発注事業者が当該書面を交付しないことは独占禁止法上不適切である。

と記載している。1月末の時点では「ガイドライン(案)」ではあるものの、今後ほぼこの内容で周知されていくのではないだろうか。

納得感のある同意はどうしたら得られる?

では、どうしたら納得感が得られる状態で契約書の同意できるのか。それには、

  1. 「過去のトラブル事例」
  2. 「他者比較」
  3. 「リスク予測」

の3つを挙げたい。

過去のトラブルを探ることができ、他者はどのような契約をしているのかがわかる。項目の1つ1つを入力するたびに、リスクが瞬時に可視化される。それも、アドベンチャゲームのストーリーボードのようにナラティブに体感できるようであれば、同意の際の納得感は得られやすいのではないか。

契約の合意についても、押印から電子へと切り替わり始めている。さらに夢のような話ではあるが、今後は電子契約とも全く違うアプローチでの同意方法があってもいいだろう。

かなり夢物語のような話ではあるが、PCゲームのオンラインプラットフォームを運営するアメリカのValve社は、現在、「脳」にフォーカスを行っているようだ。ブレインインターフェースと呼ばれるその研究は、脳の信号を読み取るといった内容もふくんでいるという。脳に直結するインターフェースで契約を体感し、同意の信号を発信、相手方がそれを読み取る ということが、遠い未来ではありえるかもしれない。

Gabe Newell says brain-computer interface tech will allow video games far beyond what human ‘meat peripherals’ can comprehend

The head of US gaming company Valve Corporation says a future is fast approaching where video games will use data from people’s brain signals to adjust the experience they get — and even a future where people’s minds can be adjusted by computers.

契約は「成果物と報酬」という関係をどれだけシンプルにできるか

現在、兼業・副業やフリーランスなど、新しい働き方を定着を政府が推進していることもあり、「契約」という事象に個人で触れる機会が今後ますます増えていくのは、間違いないだろう。そしてその分だけトラブルも増加していくはずだ。

取引のあるフリーランスの方々には事務作業が非常に苦手な傾向があり、請求書の発注の催促をこちらからすることさえままある。そんな状況の下で適切な「契約」を結ぶ、なんていうことが可能なのだろうか。

双方が望んでいないトラブルを、どれだけ減らせるか。成果物と報酬という関係をどれだけシンプルにできるか が至上命題だろう。

「契約」というお互いの同意をよりシンプルに納得感のある状況にするのが、リーガルテック、ひいてはテクノロジーの使命ではないだろうか。

(写真・文 宗田)

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