電子契約がESGに貢献できること


ESG経営への対応は、事業部や広報・IR部だけの課題ではない。法務領域からも積極的にESGに貢献する手段としての、電子契約活用の可能性について考えてみたい。

ESGとは—電子契約によるESG貢献

ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の3要素から成り立っており、投資家がその投資対象を判断する際の一つの基準となるものである。企業はその基準を満たすために、ESGの各要素の評価向上に向けた取組を行うことになる。

2006年4月、当時の国連事務総長を務めていたコフィー・アナン氏が、各国の金融業界に向けてESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)イニシアティブを提唱。

日本では、2016年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資家に加わったことで、その影響を広げることとなった。

具体的な評価項目としては、例えばESG評価会社であるFTSEが掲げる下の図のようなものである。企業は、このような観点に沿って自社のESGの方針を決め、活動し、社外に向けて情報発信をするのである。

https://www.ftserussell.com/ja/data/sustainability-and-esg-data/esg-ratings 2021年6月28日最終アクセス
https://www.ftserussell.com/ja/data/sustainability-and-esg-data/esg-ratings 2021年6月28日最終アクセス

本記事では、電子契約がどのような観点でESGに貢献しうるかを整理したい。

環境(Environment):ペーパーレスと輸送量削減による貢献

まず、電子契約は、以下の点でESGの「Environment」要素に貢献できていると言える。

ペーパーレス化

従来、紙の契約書の締結には当然ながら紙を使用する必要があった。

仮に年間1,000件の契約を締結しており、1件の契約書に自社と相手方をあわせて6枚の紙を使用していたとすると、年間で6,000枚の紙を使用していることになる。A4用紙1枚あたりのCO2排出量を6gとすると、年間で36kgのCO2排出量 となる(A4用紙1枚あたりのCO2排出量については、用紙の種類等によっても異なるため、日本製紙連合会・LCA小委員会の「紙・板紙のライフサイクルにおける CO2排出量」を参照)。

なお、実際には案内状や封筒など、締結プロセスには更に多くの紙が使用されていると思われるため、CO2排出量は更に多くなるだろう。

電子契約は紙が発生しないため、これだけのCO2排出量削減に貢献するポテンシャルを秘めていることになる。

輸送量の削減

紙の契約書の場合は、物理的に書面に押印をする必要がある。そのため、その書面の移動には、大抵の場合には配送・輸送作業が必要になるだろう。その配送の過程ではCO2が排出される。先の例で言うと、自社と相手方との往復で年間2,000回配送作業 が行われることになる。

また、契約締結のためのジェット機での移動を伴う出張 も少なからずある。

電子契約であれば、これらの輸送は全て無くすことができる。

社会(Social):多様な働き方の実現による貢献

続いて、「Social」の要素に対しては、以下の点で貢献できていると言える。

多様性の実現

電子契約は、いわゆる「ハンコ出社」を無くし、原本の郵送作業等を無くす。これらの作業は場所や時間を拘束するため、本来はオフィスに出て作業をしなければならないものだ。場所や時間の拘束は、その職場から多様性を奪う。身体の不自由や家族の介護の必要性など、拘束が無ければ本来働ける人がいたはずだからである。

また、筆者はいわゆる「ハンコ出社」をしてきた過去があるが、電子契約導入による「ハンコ出社」の激減から、子育てや家事に積極的に参加できるようになり、結果として筆者の妻がこれまでより長く働くことができるように なった。

この例からも、電子契約が解放した拘束は、社会全体の多様性にも貢献できていると言える。

ワークライフバランスの実現

前述のとおり、電子契約はリモートワークを実現する。リモートワークの実現は、出社に要していた準備時間や通勤に必要な時間を削減 する。また、電子契約は 押印にまつわる業務を削減するため、手間の削減と生産性向上 にもつながる。

役職員は、これらの時間を「ライフ」部分に転用することで、ワークライフバランスの実現が図られる。

企業統治(Governance):リスク削減による貢献

最後に、Governanceの要素への貢献としては、以下の点が挙げられる。

文書偽造リスクの消滅

押印偽造技術や3Dプリンタ技術の発展等により、印鑑の安全神話はもはや崩壊している。(関連記事:裁判所による押印偽造事件—書記官はどうやって印影を写したのか

印影から印章を複製し、押された印鑑が、間違いなく相手方の実印だと断言できる時代ではなくなった。今や重要文書において押印で対応をするということは、リスクとも言える。

押印を必要とせず、署名後の改変を暗号技術により不可能にする電子契約は、文書偽造リスクの低減に貢献 する。

無権代理リスクの統制

企業によっては、押印権限をある程度の地位の者に委譲し代理させている場合もあるだろう。契約書の数が増加し、社長名義の印鑑による押印では間に合わないといった場合の対応として、合理的な方法である。

しかし、この権限委譲により、実際にどのような文書にその権限が行使されているかが見えなくなる。この見えなくなるという状態が、不正等を引き起こす原因となる。

もちろん、電子契約であってもこのような事故は起きうる。しかし、電子契約サービスは、担当者レベルでの勝手な契約を制限する様々な機能や、監視機能を提供し、これらの問題に対処している。

例えばクラウドサインの場合では、アカウント登録制限機能、特定の承認者をフローに入れなければ送信ができない承認機能、監視ログ機能 などがある。これらの活用により、企業統治に貢献できる。

ESGとサステナビリティ経営

紙と押印による契約を続けているかぎり、こうした環境負荷・働き方の硬直化・内部統制への悪影響は増え続け、それに対応するためのオフィススペースや人員の増大が必須となる。それでは、持続可能な組織と言えないだろう。

ESGは長期的な目線で世界を長生きせ、持続可能なものにしていこうという取組である。電子契約の導入により、CO2排出を削減し、役職員の働き方の多様化させ、企業統治を強化することで、組織の持続可能性に貢献 することができる。

(文:あいぱる、画像:tiquitaca / PIXTA)

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。