【図解】変形労働時間制を簡単に解説|残業計算や導入のポイント

働き方改革が進む中、多くの企業が直面しているのが「業務量の波」と「労働時間管理」の課題です。
「月末だけ極端に忙しく、月初は暇になる」
「季節によって稼働時間が大きく異なる」
このように、時期によって業務量に波(繁閑差)がある業界や職場で注目されているのが「変形労働時間制」です。
本記事では、変形労働時間制とはどのような制度なのか、その基礎知識から具体的な種類、導入するうえでのメリット・デメリット、そして複雑になりがちな残業代(時間外労働手当)の計算方法までをわかりやすく解説します。自社に最適な運用方法を見つけるための手引きとしてご活用ください。
目次
変形労働時間制とは何か
変形労働時間制とは、繁忙期や閑散期にあわせて労働時間を柔軟に配分できる制度のことです。まずは、その基本的な仕組みと、一般的な制度との違いについて解説します。
変形労働時間制の基本的な仕組み
労働基準法では原則として、「1日8時間、1週40時間」という法定労働時間が定められています。これを超えて労働させる場合は、原則として時間外労働(残業)となり、割増賃金の支払いが必要となります。
しかし、業務には波があるのが通常です。そこで、一定の期間(1か月や1年など)を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えていなければ、特定の日や週や季節に法定労働時間を超えて労働させることができる仕組みとして存在しているのが変形労働時間制です。
たとえば、ある週の労働時間が50時間になったとしても、別の週の労働時間を30時間に抑え、期間全体で平均して週40時間以内に収まっていれば、50時間働いた週についても残業代(割増賃金)は発生しないという考え方をとります(※所定の要件を満たす必要があります)。
一般的な労働時間制度との違い
一般的な「固定時間制」では、毎日同じ始業・終業時刻が設定されています。
たとえば「9時から18時(休憩1時間)」という定時がある場合、業務が少なくても定時までは会社にいなければなりませんし、逆に忙しい日に18時を超えて働けば、即座に残業扱いとなります。
一方、変形労働時間制では、業務の繁閑にあわせて所定労働時間を変動させることが可能です。
- 一般的な制度: 毎日8時間勤務。忙しい日は残業、暇な日も8時間拘束。
- 変形労働時間制: 忙しい日は10時間勤務、暇な日は6時間勤務と柔軟な設定が可能。
このように、業務の実態にあわせて労働時間を「枠」の中で柔軟に動かせる点が最大の違いです。
変形労働時間制が必要となる背景
この制度が求められる背景には、多くの企業が抱える「固定的な労働時間と、変動する業務量とのミスマッチ」という経営課題があります。
とくに中小企業においては、限られた人員で生産性を改善、最大化する必要があります。無駄な待ち時間を減らし、必要なときには集中して業務を行なう。このメリハリをつけることで、総労働時間を削減しつつ、従業員のワークライフバランスの向上や、企業の人件費適正化を図る目的があります。また、働き方の多様化に伴い、従業員自身も柔軟な勤務体系を望むケースが増えていることも、導入を後押しする要因の一つです。
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変形労働時間制の種類を理解する
一口に「変形労働時間制」といっても、対象期間の長さや運用のルールによっていくつかの種類に分かれます。自社の業務サイクルにどの制度が適しているかを見極めることが重要です。
1か月単位の変形労働時間制とは
もっとも導入事例が多く、使いやすいとされているのが「1か月単位の変形労働時間制」です。
これは、1か月以内の一定期間を平均して、週の労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、日ごと・週ごとの労働時間を設定できる制度です。
【適している企業・職種、業種の一例】
- 月末・月初に業務が集中する経理部門や請求書発行業務
- 20日締めなどのサイクルで繁忙期が決まっている業種
- シフト制を採用している病院や介護施設、店舗など
この制度では、あらかじめ就業規則などで各日の労働時間を特定しておく必要があります。「今日は忙しいから延長、明日は暇だから早退」といったその場しのぎの運用は認められません。事前にシフトやカレンダーで勤務時間を確定させておくことが要件となります。
1年単位の変形労働時間制とは
「1年単位の変形労働時間制」は、1か月を超え1年以内の期間を対象として平均労働時間を調整する制度です。
【適している企業・職種、業種の一例】
- お中元・お歳暮シーズンが忙しい百貨店や配送業
- 夏期や冬期に繁忙期が偏る観光業やリゾート施設
- 季節によって受注量が大きく変わる製造業
- 年間を通じて繁閑の差が激しい建設業(※)
※編注…2024年4月以降の規制適用について 建設業や自動車運転の業務(配送業など)は、業務の繁閑差が大きいため本制度の導入に適していますが、2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が適用されています。(出典:時間外労働の上限規制わかりやすい解説、厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
1年単位の場合、対象期間が長くなるため、従業員の健康管理の観点からより厳しい制限が設けられています。たとえば、対象期間における労働日数の限度(原則280日、出典:労働基準法 第十二条の四)や、1日・1週間の労働時間の上限などが細かく規定されています。導入を行なうには、就業規則の変更だけでなく、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必須となります。
フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制も変形労働時間制の一種(清算期間を設けて労働時間を調整する制度)ですが、決定的な違いは「始業・終業時刻の決定権が誰にあるか」という点です。
- 1か月・1年単位の変形労働時間制: 会社が事前に勤務シフトやカレンダーを決め、従業員に提示する。従業員に決定権はない。
- フレックスタイム制: 従業員自身が日々の始業・終業時刻を決定する。
会社側が業務に合わせて時間をコントロールしたい場合は「1か月・1年単位」を、従業員の自律的な働き方を促したい場合は「フレックスタイム制」を選択することになります。両者を部署ごとに使い分けている企業も少なくありません。
1週間単位の非定型的変形労働時間制とは
これは非常に限定的な制度です。規模が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店においてのみ採用が認められています。
日ごとの業務の繁閑が激しく、かつ直前にならないとシフトが組めないような業種が対象です。この制度では、1週間単位で労働時間を調整できますが、1日の労働時間は10時間までという制限があります。一般的なオフィスワークの企業では適用できないため、注意が必要です。
変形労働時間制のメリットとデメリット
制度導入を検討するときは、メリットだけでなくデメリットやリスクも正しく理解しておく必要があります。
企業側のメリット
最大のメリットは、「残業代(割増賃金)の削減」と「業務効率化」です。
通常であれば残業扱いとなる長時間労働の日があっても、あらかじめ所定労働時間として設定しておけば、平均の範囲内であれば割増賃金が発生しません。無駄な残業代を抑え、その分を原資として賞与や基本給に還元することも可能です。
また、業務量に合わせて人を配置できるため、「仕事がないのに会社にいなければならない」という非生産的な時間を削減できます。これにより、組織全体の労働生産性が向上します。
従業員側のメリット
従業員にとっては、「メリハリのある働き方」と「休日・休暇の増加」が期待できます。
閑散期には労働時間を短く設定したり、休日を増やしたりすることができます。たとえば、1年単位の変形労働時間制を導入し、閑散期にまとめて長期休暇を取得するといった働き方も可能です。
「忙しいときは集中して働き、休めるときはしっかり休む」というライフスタイルを実現しやすくなります。
企業側のデメリット
企業側にとっての課題は、「勤怠管理と運用が複雑になる」点です。
日によって所定労働時間が異なるため、残業時間(所定外労働時間)の計算が通常よりも複雑になります。また、事前にシフトやカレンダーを作成・周知する手間が発生します。とくに1年単位の場合は、年間の計画をあらかじめ立てる必要があり、急な受注変更に対応しにくいという側面もあります。
適切な管理システムを導入していないと、人事・総務担当者の負担が大きく増える可能性があります。そのため、導入検討の際には、システム導入に詳しい専門家との事前相談を推奨します。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットとしては、「生活リズムが不規則になりやすい」ことが挙げられます。
日によって勤務時間が変わるため、家庭の用事や習い事などの予定が立てにくくなる場合があります。また、繁忙期には1日の労働時間が長くなるため、一時的に疲労が蓄積しやすくなるリスクもあります。
導入にあたっては、従業員の生活への影響を十分に考慮し、丁寧な説明を行なうことが不可欠です。
変形労働時間制の残業代の考え方
変形労働時間制を導入するうえでもっとも注意が必要なのが、残業代(時間外労働手当)の計算方法です。通常の「1日8時間超=残業の対象」という単純な計算ではなくなります。
所定労働時間と割増対象の考え方
変形労働時間制における残業(時間外労働)は、以下の3つのステップで判定します。
ステップ1:1日の残業を判定する
あらかじめ設定された「所定労働時間」が8時間を超える日は、その時間を超えて働いた時間が残業となります。
所定労働時間が8時間未満の日は、8時間を超えて働いた時間が残業となります(※所定を超えても8時間までは法定内残業)。
ステップ2:1週間の残業を判定する
ステップ1で残業とされた時間を除き、週の所定労働時間が40時間を超える週は、その時間を超えて働いた時間が残業となります。
週の所定労働時間が40時間未満の週は、40時間を超えて働いた時間が残業となります。
ステップ3:変形期間全体の残業を判定する
ステップ1および2で残業とされた時間を除き、変形期間全体の労働時間の合計が「法定労働時間の総枠」を超えた場合、その超えた時間が残業となります。

画像引用元:1か月単位の変形労働制をとる場合の時間外労働の考え方(労働基準監督署)
このように、日ごと、週ごと、そして期間全体という段階的なチェックが必要になります。これを手計算で行なうのは非常に困難であるため、変形労働時間制に対応した勤怠管理システムの導入を強くおすすめします。
繁忙期と閑散期の残業計算の違い
たとえば、繁忙期に1日10時間を所定労働時間として設定した場合、10時間までは「定時」扱いとなり、割増賃金は発生しません。10時間を超えてはじめて残業となります。
一方、閑散期に1日6時間を所定労働時間とした場合、6時間を超えて働いた分はどうなるでしょうか。
法的には、8時間までは「法定内残業(割増不要)」、8時間を超えると「法定外残業(割増必要)」となります。
ただし、就業規則で「所定労働時間を超えた分はすべて割増賃金を支払う」と定めている場合は、6時間を超えた時点から割増が必要です。このあたりは自社の規定をよく確認する必要があります。
変形労働と法定労働時間の関係
重要なことは、変形労働時間制であっても「法定労働時間の総枠」は変わらないという点です。
たとえば1か月(31日)の場合、法定労働時間の総枠は以下の式で求められます。
この枠の中に収まるようにシフトを組むのが変形労働時間制の基本です。シフトの時点でこの枠を超えて組んでしまうと、その超過分については最初から割増賃金の支払い義務が発生します。
「変形労働時間制=残業代を払わなくていい制度」ではなく、「枠の中で時間を再配分する制度」であることを忘れてはいけません。
適用できる従業員の範囲
変形労働時間制は、全社員一律に適用する必要はありません。部署ごとや雇用形態ごとに適用するかどうかを決めることができます。
変形労働時間制の対象者の条件
基本的には、業務の繁閑の波がある部署や職種の従業員が対象となります。
ただし、育児や介護を行なう従業員、妊娠中の女性などについては、本人の請求があれば変形労働時間制の適用から外したり、労働時間を制限したりする配慮が求められます(育児介護休業法などの規定による)。
また、年少者(満18歳未満)については、原則として変形労働時間制を適用することができません。
パート・アルバイトの取り扱い
パートやアルバイトの従業員にも変形労働時間制を適用することは可能です。
とくにシフト制で働くパートタイマーの場合、1か月単位の変形労働時間制を適用することで、週ごとの労働時間のばらつきを調整しやすくなります。
ただし、契約上の労働時間と実際のシフトに乖離が出ないよう注意が必要です。また、複数の事業所を掛け持ちしているパートタイマーの場合、労働時間の通算管理が複雑になるため、慎重な運用が求められます。
就業規則と労使協定の整備ポイント
変形労働時間制を導入するには、法的根拠となる規定の整備が不可欠です。したがって、労働法規に詳しい社会保険労務士など専門家のアドバイス、事前チェックを受けることを強くお勧めします。
- 1か月単位の場合: 「就業規則」への記載、または「労使協定」の締結のいずれかが必要です。一般的には就業規則に規定を設けて運用します。
- 1年単位の場合: 「労使協定」の締結と、所轄労働基準監督署への届出が必須です。あわせて就業規則にもその旨を記載します。
規定には、対象となる従業員の範囲、変形期間、起算日、各日の労働時間などを具体的に明記する必要があります。「業務の都合により時間を変更することがある」といった曖昧な表現だけでは、変形労働時間制として認められないリスクがあります。
導入時に必要な手続きと注意点
実際に導入を進める際の実務的な手順と、トラブルを防ぐためのポイントを解説します。
就業規則変更と届出の手順
導入のステップは以下の通りです。
現状分析とシミュレーション
部署ごとの繁閑を分析し、どの種類の変形労働時間制が最適か検討します。過去の勤務データを元に、新制度での労働時間や残業代をシミュレーションします。
従業員への説明と同意
労働条件の変更となるため、従業員代表や労働組合と協議を行ないます。
労使協定の締結(必要な場合)
1年単位の変形労働時間制などの場合、書面で協定を結びます。
就業規則の変更・届出
新たなルールを就業規則に記載し、労働基準監督署へ届け出ます。1年単位の場合は労使協定届もあわせて提出します。
周知・運用開始
変更後の就業規則を全従業員に周知し、新しいシフト表やカレンダーでの運用を開始します。
シフト作成・勤務管理の運用ポイント
運用においてもっとも重要なのが、「勤務カレンダー(シフト)の事前明示」です。
変形労働時間制では、対象期間が始まる前に、各日の労働時間を確定させて従業員に通知しなければなりません。
「明日忙しそうだから変形労働にして時間を延ばそう」と、期間の途中で勝手にシフトを変更することは、原則として認められません。やむを得ず変更する場合のルールも事前に定めておく必要がありますが、頻繁な変更は制度の趣旨に反するとみなされる可能性があります。
また、勤怠管理システムの設定変更も忘れてはいけません。変形労働時間制に対応した集計ロジック(日、週、期間の3段階チェックなど)が正しく機能するか、テストするようにしましょう。
トラブル防止のための説明と周知
導入時にもっとも多いトラブルの代表例が、「残業代が減った」という従業員の不満や、「いつ働けばいいのかわかりにくい」という混乱です。
これらを防ぐためには、導入の目的(単なるコスト削減ではなく、効率的な働き方によるワークライフバランスの向上など)を丁寧に説明することが大切です。
また、給与明細の見方が変わる場合は、その内訳についても解説を行なうとよいでしょう。ウェブ社内報や説明会などを通じて、疑問点を解消する機会を設けることが、スムーズな導入の鍵となります。
まとめ:変形労働時間制導入の要点
変形労働時間制は、繁閑の差がある企業にとって非常に有効な制度です。適切に運用すれば、会社にとっては人件費の適正化、従業員にとってはメリハリのある働き方というWin-Winの関係を築くことができます。
ぜひ自社の働き方をより良くするための戦略的なツールとして、変形労働時間制を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、変形労働制など新しい働き方を導入する際は、雇用契約書を巻き直すか、契約書自体はそのままにし、変更点(労働時間制度)だけを記載した「労働条件変更通知書」を本人に渡すといった対応が必要になります(※トラブル防止のため、この通知書に対しても「同意のサイン」をもらうのが一般的です)。
どのような対応をするにせよ、紙の契約書のままでは管理が煩雑になり、人事労務担当者の業務負荷が大きくなる可能性があります。
こうした問題への解決策として、電子契約サービスを導入することが挙げられます。
電子契約とは、従来の「紙と印鑑」の契約書類を電⼦化することで、作業時間とコストを⼤幅に削減することができる仕組みのことです。
【電子契約のイメージ】

電子契約は、以下の3つの理由から働き方改革を推進する企業様に導入がおすすめされます。
- 印刷や郵送といった業務が大幅に削減できる
- どこで契約が止まっているか、締結状況を可視化できる
- 過去の契約書もパソコンですぐに検索できる
クラウドサインでは、雇用契約書や労働条件通知書のデジタル化をこれから検討する方に向けた資料をセットにして無料でご提供しています。気になる方はぜひダウンロードのうえ、ご活用ください。
この記事の監修者
梅原和也
日本経団連 認定キャリアアドバイザー
1987年に理学部数学科を卒業後、国内金融機関にて人事総務部門配属。以後、大手グローバルコングロマリット企業、老舗外資系企業で採用統括責任者、HRBP、エリア人事責任者を歴任し、人事人材戦略策定や人事管理、労務管理全般にまつわる業務に約30年従事。現在は、高等学校の非常勤講師として従事するほか、キャリアカウンセラーや組織人事コンサルタントとして活動中。
この記事を書いたライター
業務改善プラスジャーナル編集部
業務改善は難しそう、大変そうという不安を乗り越え、明日のシゴトをプラスに変えるサポートをします。単なる業務改善に止まらず、組織全体を変え、デジタル化を促進することを目指し、情報発信していきます。契約管理プラットフォーム「クラウドサイン」が運営。
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