反社チェックの実務 —契約前に行うべき反社チェックの具体的方法

企業法務向け専門書でも具体的な方法論までは言及されない「反社チェック」の実務を解説します。契約でトラブルに巻き込まれないための一番のポイントは、契約書を締結する前に契約相手の信用を見定めることですが、反社会的勢力の排除はその大前提です。

反社チェックの必要性

「反社チェック」とは、反社会的勢力(暴力団等と何らかの関係が疑われ、企業として関係を持つべきでないと判断する勢力)を企業が見極め、契約の前に排除していく活動 のことをいいます。

現在では、多くの企業が契約の前に反社チェックを実施していることと思いますが、そもそも、企業がなぜ反社チェックを行わなければならないのでしょうか

一言でまとめるならば、取締役としての善管注意義務を果たすためなのですが、その根拠や考え方を、以下4点に分けて整理します。

(1)政府指針

まず第一に、政府指針です。平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の中に、「反社会的勢力による被害を防止するための基本原則」が定められています。

この中で、「取引を含めた一切の関係遮断」について、以下のように記載されています。

反社会的勢力が取引先や株主となって、不当要求を行う場合の被害を防止するため、契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入するとともに、可能な範囲で自社株の取引状況を確認する。
取引先の審査や株主の属性判断等を行うことにより、反社会的勢力による被害を防止するため、反社会的勢力の情報を集約したデータベースを構築する。同データベースは、暴力追放運動推進センターや他企業等の情報を活用して逐次更新する。

要は、①契約に反社条項(暴排条項)を入れ、②情報を集めながら反社勢力のデータベースを自社で構築する、この2点が具体的アクションアイテムとされています。

政府指針は法令ではなく単なる指針であり、拘束力はないとされますが、政府としては、内部統制システム構築を行うべき取締役の善管注意義務の判断基準として、裁判所によって参考される可能性について述べています(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針の解説」P1)

なお、法的拘束力はないが、本指針策定後、例えば、取締役の善管注意義務の判断に際して、民事訴訟等の場において、本指針が参考にされることなどはあり得るものと考えている(例えば、東証一部上場のミシン等製造販売会社の取締役に対する損害賠償請求訴訟における最高裁判決(平成18年4月10日)が参考となる)。

(2)各都道府県の暴力団排除条例

次に条例です。各都道府県は、2009年〜2011年にかけて一斉に暴力団排除条例を制定しました。そこでは、企業に対して、以下の対応を求めています。

たとえば、東京都暴力団排除条例(平成23年3月18日条例第五四号)第18条には、以下の定めがあります。

(事業者の契約時における措置)
第十八条 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
一 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。
二 工事における事業に係る契約の相手方と下請負人との契約等当該事業に係る契約に関連する契約(以下この条において「関連契約」という。)の当事者又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約の相手方に対し、当該関連契約の解除その他の必要な措置を講ずるよう求めることができること。
三 前号の規定により必要な措置を講ずるよう求めたにもかかわらず、当該事業に係る契約の相手方が正当な理由なくこれを拒否した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約を解除することができること。

ここでは手法論は述べられていませんが、①反社チェックの実施と②解除権を備えた反社条項の設定努力義務が明記されています。

罰則はなく努力義務とはいえ、怠った場合には、政府指針同様に取締役の善管注意義務違反が問われる材料になるものと考えられています。

(3)金融庁の監督指針

特に金融機関に対しては、政府方針を受け、金融庁が2008年に「反社会的勢力による被害の防止」に関する規定を、「主要行等向けの総合的な監督指針」という文書の中に設けています。

そこでは、政府指針では言及されていない一元的な管理体制の構築が求められているのが特徴です。

III -3-1-4-2
(2)反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築
反社会的勢力との関係を遮断するための対応を総括する部署(以下「反社会的勢力対応部署」という。)を整備し、反社会的勢力による被害を防止するための一元的な管理態勢が構築され、機能しているか。

(4)企業としての取引の安全性確保

最後に、企業の自衛という目的です。企業を守るのは、最終的には契約書ではなく、契約の相手方との信頼関係だからです。

上記政府指針や条例の有無にかかわらず、契約を締結する前に取引の相手方がそもそも信頼に足る企業・人物かをチェックすることは、企業としての取引の安全性確保のための前提となります。

反社チェックの具体的手法

さて、反社チェックの必要性について確認したところで、具体的な反社チェックの方法と、チェックすべき観点 について、整理をしてみたいと思います。

企業の規模やステージにおいて、行うべき反社チェックのレベル感や流儀はさまざま であり、正解はありません。ただし、ベースラインとなる一般的な反社チェックの方法はこの数年の運用で確立されています。

まずこの水準を確認した上で、懸念情報が発見された場合に、その取引のリスクに照らしてさらなる調査をどこまで尽くすか、バリエーションがあります。

レベル1:一般的な反社チェック

手法 チェックの観点
1.反社条項に対する反応観察 a.反社条項の締結を回避・変更依頼が入る
2.データベーススクリーニング a.日経テレコン等記事DBキーワード検索
b.インターネットキーワード検索
c.自社DBとの照合
3.企業基本情報の確認 a.商業登記情報(履歴事項全部証明書)による役員・商号・住所・事業目的の変更履歴確認
b.業歴
c.業績
d.取引実績
e.取扱商品・サービス

1と2は、反社チェックのセオリー・常套手段として、各社とも採用していることと思います。ちなみに、1については、個人的にはあからさまに自白を促すことに意味があるのだろうかと疑問に思うところはあるものの、数度、「反社条項の対象から○○は除いて欲しい」という修正要望を受けたことがあります。

2については、どのようなキーワードを入れて検索するかがノウハウとなりますが、以下のようなキーワードと法人名・取締役等の氏名とでand検索をして検索します(※大人の事情により、一部キーワードの掲載を見合わせております)。

暴力団, 反社, ヤクザ, 総会屋, 検挙, 釈放, 送検, 捜査, 捜索, 指名手配, 逮捕, 摘発, 訴訟, 違反, 容疑, 不正, 処分, 疑い, 詐欺, インサイダー, 相場操縦, 株価操縦, 暗躍, 闇, ヤミ, グレー, 漏えい, 申告漏れ, 脱税, 課徴金, 追徴金, 行政処分, 行政指導

3については、社名変更や住所移転の状況、業種・業態などから、反社の「におい」を掴み取るセンスが問われます。レベル1とは言いながら経験と知識によってスクリーニングの精度に大きく差がでてしまうところでもあります。たとえば、特定の取扱商品・サービスの組合せから、反社のフロント企業ではないかという気配をつかむのは、一定の業界で働いた経験があれば可能でも、新入社員には難しい仕事になるでしょう。

レベル2:懸念情報があり慎重な調査が必要な場合

手法 チェックの観点
4.風評チェック a.同業者・業界内での評判・うわさ
b.業界団体への問合せ
5.オフィスの現地確認 a.周辺環境・場所
b.入居する建物
c.同じビルに入るテナントの顔ぶれ
d.オフィス内の雰囲気
6.資料の追加提供依頼 a.詳細な会社概要・商品サービス案内の追加提供を拒絶するなど
7.取引開始経緯の再確認 a.取引を行うことになった流れ
b.相見積もりの有無
c.紹介者のスジ
8.取引条件の再確認 a.妙に契約を急かされていないか
b.例外的・破格の条件が提示されていないか

レベル1で何らかの懸念情報が出てしまった場合には、上記のような調査をさらに追加的に行います。

火のないところに煙は立たないとはいいますが、4のように業界団体等に問合せることでビンゴ、となることは少なくありません。また、BtoBでもオンラインで申し込みを受け付けることができる現代においては、現地オフィスを確認しに行くことで、一目瞭然の異常に気づくこともしばしばあります。

上述3.企業情報の確認フェーズで業種・業態に怪しさを感じたときは、この6のように資料の追加提供を求めると、露骨に拒絶されたり、そのまま連絡が途絶えるというケースが往々にしてあります。。

7および8については、「うまい話には裏がある」というようなケースです。特に、契約を急かされるケースでよくよく調べると怪しい相手だったということは、少なくないものと思います。

レベル3:懸念が払拭できない危険度の高い取引先の場合

手法 チェックの観点
9.厳格な本人確認
 ※特に個人事業主
a.運転免許証、パスポート、住民基本台帳カード
10.専門調査機関への調査委託 a.調査会社による情報収集・レポート
11.行政機関に対する照会 a.暴追センターへの照会(個人名・生年月日・住所)
b.警察相談

レベル2まで実施して、かなり確度が高いとなれば、手間やコストはかかりますが、上記の手段で確認を徹底します。

9については、特に個人事業主については、全ての名寄せの拠り所にもなりますので確認が必要となってきます。

11について、暴追センターはまさにこの対応のための機関ではありますが、カッコ書きの情報を証明書等で本人に確認する必要や、会社の委任状をもってセンターを訪問して初めて情報開示が受けられるなどのハードルがあります。警察も、普段からの関係づくりが重要です。

10の専門調査機関は、かなり数は限定されていますが、こうした分野を得意とする調査会社が存在します。ただし、そのレポートは「周辺関係者へのヒアリングによれば、○○とのつながりがあるとの黒い噂がある」といった、抽象度の高い報告となります。

反社会的勢力の可能性が高いと判断したときの対応

以上のような反社チェックを行った結果、懸念すべき取引先であることが判明した場合、担当者としてはどのように対応すべきでしょうか。

迷ったらまわりに相談する

取引を拒絶する、または停止するという措置は、反社チェック担当者だけでなく、営業部門にとっても企業にとっても重い判断です。

確信できるような情報があれば別ですが、多くは微妙な・グレーな情報が多いと思います。しかし、ここで下手に躊躇をしてしまうと、せっかく調査をしたのにもかかわらず反社勢力と取引がはじまってしまい、関係が断絶できなくなるなどの大きな被害をもたらすこともあります。

担当者が迷った際には、自分一人で考えるのではなく、すぐに組織の上司や取締役に懸念情報をインプットして相談すべき です。

そうした相談の結果得られるさまざまな観点から再調査をすることで、新たに懸念情報が発見され、確度が高まることもよくあるからです。

判断の経緯詳細は相手方に伝えない

もう一つ重要な点として、反社と判断して取引を止めるにしても、その経緯詳細は相手方には伝えない ことが挙げられます。

そもそも、契約締結前であれば取引できない理由を伝える義務もなく、また、伝えたところでそれに対する反論やクレームがはじまってしまうだけです。反社であったとしても(なかったならなおさら)、相手がその事実を突きつけられて納得して去るなどということは期待できません。

「弊社が行う取引審査の結果、弊社基準によりお取引ができない」「弊社基準は公開していない」旨だけを簡潔に伝えるだけにとどめるべきでしょう。

参考文献

画像:
bee / PIXTA(ピクスタ)
CG-BOX / PIXTA(ピクスタ)
Fine Graphics / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)