ブックレビュー 川崎令子編『平成30年8月改訂 印紙税実用便覧』

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印紙税の実務書を何冊買うことになっても、こちらは契約法務を担当するのであれば必ず手元に備えておきたい、いわば印紙税実務六法ともいうべき一冊。3年ぶりの改訂です。

書籍情報

平成30年8月改訂 印紙税実用便覧
  • 著者:川崎令子/編
  • 出版社:法令出版
  • 出版年月:20180913

基本書がない印紙税の世界

紙で契約書を締結している限り、つきまとうのが印紙税の納税義務です。

電子契約が普及し始めたとはいえ、現時点ではさまざまな事情から紙で締結する契約書はまだまだあります。そのたびに、

を、毎回毎回間違いのないように確認し、印紙を購入して貼付する必要がでてきます。

契約書のトレーニングをかねて、若手法務担当者に印紙税額の判定作業を行わせている企業も少なくないでしょう。ところが、そんな若手のために、印紙税法を条文をもとに解説する基本書はないものかと探してみると、それらしい書籍が見つからないのが、この印紙税の世界の不思議なところ。仕方なく、国税庁OBが書いた実務書を買ってみたりしながら、OJTを通じておそるおそる身につけてきたのではないかと思います。

これだけ日常業務に密接に関わっている法律にもかかわらず、どうして印紙税法には基本書がないのでしょうか?

印紙税の実務ルールを決めているのは128条におよぶ「印紙税法基本通達」

その理由は、実は 印紙税法は、その条文では具体的判定ルールをほとんど定めていない という点にあります。印紙税法の条文では、以下第二条と第三条にあるように、「別表に定めるとおり」ということしか言っていないのです。

(課税物件)
第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

(納税義務者)
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
(2項省略)

しかしながら、この別表をみても、どのような判定基準で課税物件の種類が分類されるのか、分からないことは往々にしてあります。

印紙税額一覧表

では、この「別表」に記載された用語の解釈を含め 印紙税の具体的判定ルールを定めているものはなんなのかというと、国税長官が定めた128条からなる「印紙税法基本通達」がそれにあたります。この通達は、六法全書にも収録されていません。その「印紙税法基本通達」を完全収録しているのが、本書『印紙税実用便覧』なのです。

川崎令子編『平成30年8月改訂 印紙税実用便覧』P426-427

本書に収録されている基本通達を読むと、課税対象となる文書を例示しながら、かなり各論で課税・非課税・不課税の別に言及しています。一般に、国税庁OBが書く印紙税の実務書のほとんどは、独自の条文解釈から見解を導き出しているわけではなく、この基本通達の記載を編集し直したり図を足したりしただけにすぎないものであることがわかると思います。

この「印紙税法基本通達」はe-Gov法令検索にもなく、現状はかろうじて国税庁のウェブサイトにも掲載されているのですが、残念なことに、各節ごとにページが分断されてしまっており、非常に利用しにくい作りになっています。なおさら、ハンディな一冊に収録された本書を手元に置いておく必要があります。

電子メール(電磁的記録)で送信した請負契約の注文請書は不課税文書

本書のコンテンツは、「印紙税法基本通達」だけではありません。全600ページの前半283ページまでは、具体的な文書名があいうえお順に並べられてり、それらの各文書ごとに、印紙税の課否および課税物件表における所属(何号文書に該当するか)が示されています。

川崎令子編『平成30年8月改訂 印紙税実用便覧』P198-199

印紙税法の初学者がいきなり印紙税法基本通達を読んでも、専門用語についていくのに精一杯になってしまうはずです。むしろその段階では、具体的な文書での課否例が並ぶこの前半パートを流し読みしながら、頭の中であてはめを練習することで、印紙税課税判定の感覚値がある程度つかめてくると思います。

また、この前半パートのもう一つ注目点としては、196ページで、電子メール(電磁的記録)で送信した請負契約の注文請書を例に挙げ、

注文請書の現物が交付されない以上、たとえ電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、課税文書を作成したことにならない→不課税文書。(P196)

と、電子契約では印紙税が不課税となることについて具体的に言及している点が挙げられます。

「サインのリ・デザイン」では、電子契約が不課税となる根拠とされている当局見解を詳細に引用して解説しているのですが(収入印紙が電子契約では不要になるのはなぜか?—根拠通達と3つの当局見解)、一般に出版されている印紙税法の実務書のどれもが触れていない論点です。本書は電子契約業界にとっても、電子契約をご利用いただくお客様にとっても、重要な文献となっています。

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(橋詰)