日本のリーガルテック・トレンド 2019年前半まとめ

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昨日の日経新聞に、日本のリーガルテックの現状をまとめた記事が掲載されました。1年の折返し地点であり慌ただしい株主総会シーズンにも突入する6月、2019年前半のリーガルテック市場を振り返り、後半を展望してみたいと思います。

大手企業法務部が契約書レビュー業務の効率化に着手しはじめた2019年前半

6月4日付日本経済新聞13面「デジタルトレンド」欄に、米国と対比しての日本のリーガルテックの現状をまとめた記事が掲載されています。

「『リーガルテック』契約書をAI点検」日本経済新聞 2019年6月4日

この記事でも冒頭に登場し、2019年前半のリーガルテック業界で最もメディアに取り上げられたサービスといえば、昨年の契約書タイムバトルにも出場していただいたAI契約書レビューツール「Legalforce」でしょう。

同日経新聞記事でも、ユーザーの一社であるサントリーホールディングス法務部のコメントを交え、大きく取り上げられています。角田CEOによれば、4月の正式版リリース以降、契約書のレビュー業務に追われる 上場大企業の法務部門を中心にすでに50社で導入 されたとのこと。日本の法務業務に変革をもたらすカンフル剤としての期待を一身に集めています。

また、このAIを使った契約書レビューの分野では老舗の「AI-CON」も、順調に実績を積み上げているようです。こちらはLegalforceのようにツールをユーザーに提供するのではなく、弁護士業務をAIにより定型化・パッケージ化し、契約レビュー結果を提供するというアプローチ。同社ウェブサイトの導入事例を見ると、京王電鉄や東急ハンズ等の大手ユーザーからの評価の声 を確認することができます。

同記事に登場していないサービスでは、契約書バージョン管理に優れる「Hubble」も営業を本格化しているほか、先月の記事でも特集したエディタ型ナレッジ管理システム「LAWGUE」も参入。両サービスともに 総合商社や法律事務所などを中心に採用が進んでおり、こうした契約書作成フェーズのツールが契約テックの第三勢力を形成しつつあります。

記事の中ほどにもコメントされているように、クラウドサインのユーザーも3月に4万社を突破。契約書ビッグデータが豊富な英米法圏に比べ遅れ気味と言われていた日本のリーガルテックも、こうしてみると大手法務部門を中心に静かに、しかし確実にこれを取り入れ変化しはじめていることがわかります。

国も「デジタルファースト/トランスフォーメーション」「国際競争力強化」文脈でリーガルテックに注目

こうした民間主導の法務分野デジタル化の動きに呼応するように、国もその重い腰を上げはじめています。

その一例が、「デジタルファースト/トランスフォーメーション」の流れをふまえての、国土交通省による「IT重説社会実験」の動きです。これまで 書面による重要事項説明を必須としていた不動産取引において、クラウドサイン型の電子契約による書面交付を認める社会実験 がはじまります。

「重要事項説明書等(35条、37条書面)の電磁的方法による交付に関する社会実験の実施について(案)」のP5・P7に「クラウドサイン」の記述

また経済産業省において、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」のワーキンググループでもリーガルテックに注目。日本企業の国際競争力の強化に資するサービスとして契約テックの採用を提唱 しています。

経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」事務局資料 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/homu_kino/jisso_wg/pdf/004_01_00.pdf

裁判のIT化の分野でも、遠隔裁判を行うWeb会議システムとして「Microsoft Teams」を採用することが決定。国が国内ベンダー×オンプレミスのこだわりを捨て、グローバルベンダーからクラウドサービスを調達しはじめています。

最高裁判所は2020年から一部の地方裁判所などで民事裁判の争点整理手続きに日本マイクロソフトのクラウド型チャットツール「Teams」を導入することが分かった。2019年5月17日に同社が開いた公共市場の戦略説明会で、佐藤知成執行役員常務パブリックセクター事業本部長が明かした。
(中略)
佐藤執行役員常務によれば、最高裁は裁判官と原告・被告双方の弁護士が裁判所に出向くことなく、クラウド上で争点を整理できるようにするシステムの導入を企画し、入札を実施したという。
(「霞が関にもクラウドブーム到来か、日本MSが裁判所にTeams導入へ」日経 xTECH/日経コンピュータ https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/02183/ 2019年6月5日最終アクセス)

2019年後半は契約ビッグデータ活用と消費者法テックの新領域へ

このように2019年前半を振り返ってみると、根強い「契約書は紙」文化に阻まれて笛吹けど踊らずの状態が長い間続いているように見えるこの日本の法務領域も、実は 大手企業、そして国からデジタル化・テック利用への歩みが静かに始まっている ことがわかります。中小ベンチャー企業にはもともと何らためらいもない以上、不可逆的変化に入ったと言ってよいでしょう。

では、2019年後半はどのような領域へと広がっていくのでしょうか?その一つが、日経新聞の記事後半でも触れられている ビッグデータとしての契約情報活用 だと考えています。クラウドサインも、SCAN事業を発展させるかたちで「契約アナリティクス」事業を重点領域としていきます。

5月28日にインフォコム社および弊社よりプレスリリースされた「My Quick」とのリーガルテックエコシステム連携もその一つ。クラウドサインを利用して締結された契約情報が自動的に「MyQuick」に取り込まれ、台帳二重入力が不要となるほか、同社がすでに実装している契約書情報のAI自動抽出機能の活用により、紙の契約書のビッグデータ化も現実のものとなりつつあります。

文書管理システム「MyQuick」をバージョンアップ~AIによる自動入力、電子契約サービス「クラウドサイン」との連携~ https://www.infocom.co.jp/ja/news/news2019052801.html

そしてもう一つが、日本ではまだまったくの未開拓と言っても過言ではない 消費者法テック(Consumer Tech) の領域ではないかと考えています。これについては、サービスがいくつか立ち上がりつつあるところです。

昨年秋に公開しご好評をいただいたeBook『日本のリーガルテック』の2019-2020版では、このあたりの最新動向もご紹介していく予定です。

画像: weedezign / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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