売買契約の民法(債権法)改正対応


民法改正に伴う契約書ひな形の見直し、それに伴う取引先との契約書の巻き直しのために、電子契約への移行を検討される企業が増えています。今回は、企業において特に使用頻度の高い売買契約の民法改正対応について、ポイントをリストアップします。

売買契約書ひな形の民法改正対応

売買契約とは、契約当事者の一方が財産権を相手方に移転させる代わりに、相手方がその代金を支払うことについて合意する契約 をいいます(民法555条)。

売買契約とは財産権の移転とそれに対する代金の支払いについて合意する契約
売買契約とは財産権の移転とそれに対する代金の支払いについて合意する契約

民法では、典型的な13種類の契約があらかじめパターン分けされ条文として定められていますが、そのうち贈与契約に次いで2番目に規定され、いうまでもなく社会生活の中でも出現頻度の高い契約です。加えて、売買契約に関する民法の規定は、その他の有償契約にも準用されることから(民法559条)、ビジネス取引の原則ルールを理解するためにも欠かせない知識となっています。

この売買契約を規律してきた条文のいくつかについて、2020年4月に施行される改正民法により、多くの企業が実務上対応を要する改正が施されることになりました。

売買契約書で見直すべき条項リスト

売買契約の目的物となるものは、動産・不動産・債権・有価証券・知的財産権等さまざまです。今回は特に、各企業においてもっとも利用頻度が高いであろう 物の売買契約書のひな形に通常設けられる条項に関し、要改正対応ポイントをリストアップ してみたいと思います。

(1)品質条項

後述する(4)担保責任条項のところで詳しく説明しますが、売買の目的物の不具合・キズを表す法律用語として用いられていた「瑕疵」という語が、改正民法によって「契約不適合」に置き換えられました。その関係で、売買の目的物がどのような状態の場合に「不適合」にあたるのか、その品質基準の定め方が改めて論点に なるケースが増えると考えられます。

手間を惜しまず仕様書を添付するのが理想ですが、その品質に関する記載が過度に低い・高い基準となっていないかは、見直しが必要となるでしょう。

仕様書を添付せず、「買主の要求する品質」や民法401条で用いられる「中等の品質」を用いる契約書も存在します。しかし、これらの文言が品質に関する紛争解決の基準としてはあまり役に立たないことは、容易に想像されるところです。

(2)検査(検収)条項

民法の改正に直接影響がある条項ではないものの、後述する(3)危険負担条項と(4)担保責任条項の2つにも連動する売買契約において重要な条項の一つに、検査(検収)条項があります。

商人間の売買では、民法に加えて商法も適用されます。判例(最判昭和47・1・25集民105号19頁)では、買主が商法526条1項の「遅滞なく検査」する義務、および同条2項の「直ちに通知義務」を怠ると、瑕疵・数量不足を理由に代金減額請求・損害賠償請求・解除はできないと判示しているため、そうならないための条文を契約書に規定 するのが通常です。

具体的には、「遅滞なく検査」「直ちに通知義務」の猶予期間を明確にするため、「買主は目的物の受領後XX営業日以内に、具体的な不適合の内容を示して、売主に通知する」といった文言を規定することになります。

なお売主としては、担保責任との関係で負担する責任範囲と期間を短く限定するために、「不適合が検査時に発見できないものであったときは、検査完了日からXXヶ月に限り、次の各号に定める権利のいずれかを行使できる」といった文言を検討する必要もあるでしょう。

(3)危険負担条項

改正前民法534条では、たとえば中古のクルマや建物などの特定物(当事者がその物の個性に着目した物)の売買契約において、引き渡す前に自然災害などでこれが滅失・損傷した場合、売主はその責任を問われず、買主の代金支払い義務だけが残る不合理な規定となっていました。

改正民法ではこの規定が削除され、引渡し前に滅失・損傷した場合、買主は代金の支払いを拒めるのがデフォルトルールとなります(改正民法536条1項)。

とはいっても、実務上用いられていたほとんどの売買契約書において、法律上の規定を上書きするかたちで、引渡し前は売主が・引渡し後は買主がそれぞれ滅失・損傷リスクを負担するといった文言が規定されていた実態があり、そうした一般的なひな形であれば修正は不要 と考えられます。

ただし、買主有利に作成された売買契約書の中には、「買主による検収(検査)の完了をもって引き渡しとする」といったトリッキーな規定を設け、検収(検査)までの危険負担を売主に転嫁しようとするものもありますので、改めて確認しておくべき でしょう。

(4)担保責任条項

改正前民法570条では、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」は、買主は損害賠償の請求および契約の解除ができると定められていました。しかし、この「隠れた」「瑕疵」という概念は一般人になじみがないばかりか、学説および判例上も争いがあり、どのような場合にどのような救済措置を請求できるかが明らかではないという問題がありました。

そこで改正民法では、目的物が「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない」場合について、「瑕疵」という言葉を用いずに「契約不適合」と呼ぶことにしました。その上で、この売買の取引が契約不適合にあたるときは、買主が以下の権利を行使できることを定めています(562条、563条)。

  • 履行の追完(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)請求
  • 相当の期間を定めて履行の追完がなされないときは代金の減額請求
  • 損害賠償の請求
  • 解除

これまで、日本の多くの売買契約書ひな形において「瑕疵」という文言が使われてきたため、ほとんどの企業で修正対応が必要 となるはずです。修正方針としては、おおよそ以下2通りが考えられます。

  1. 改正民法で削除された「瑕疵」概念を当事者間の契約上は維持することとし、売主の責任を限定的にするため、「瑕疵」の定義と効果を契約書上明文化する
  2. 「瑕疵」「瑕疵担保責任」を「契約不適合」「契約不適合責任」に書き換え、売主が負う責任についても改正民法の水準に合わせる

もともと日常でも使用されない「瑕疵」の文言を使いづつけることで無用な紛争を生まないためにも、2の契約不適合への書き換えがトレンドとなることが予想されます。

ひな形を作成する立場となることが多い売主としては、過剰な担保責任を背負わないためにも (1)で述べたとおり 種類・品質・数量を契約上明文化しておく とともに、改正民法が認める契約不適合責任のうち、受け入れられないものを排除する(代金減額請求権や解除権の除外)条項を付け足す 必要があります。

(5)その他一般条項

その他の一般条項については、既に公開済みの記事「基本契約および一般条項の民法(債権法)改正対応」もご参考ください。

売買契約では、特に譲渡制限条項や保証条項の改正対応に漏れがないか、売主・買主双方の立場から確認が必要と考えられます。

売買契約の電子化が業績向上および顧客満足度向上につながる

以上、売買契約書の民法改正対応ポイントを挙げてみました。

売買契約書を電子化した企業からよく聞かれるのは、「管理の徹底を目的に導入を率先した法務よりも、営業の現場が一番喜んでいる」というご評価です。なぜかといえば、月末にもう1件受注できれば部門業績目標を達成するというタイミングで、紙の契約書・注文書の押印・郵送による取り交わしが必要なくなることにより、受注スピード向上に直接的に貢献するからです。

契約の締結が早まることで、結果として納品・検収も早期化でき、お客様満足度の向上にもつながります。

改正民法の施行日も迫る中、数多くの取引先とスピーディに、かつ漏れなく契約を締結し直すためにも、印刷・製本・押印・郵送が不要となり、契約相手方からの回収、契約後の検索・管理も容易 な電子契約クラウドサインのご利用をご検討ください。

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(橋詰)

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