法律・法改正・制度の解説

東京都民の印鑑登録率と「ハンコ廃止」の難易度

契約業務のDXを目指してはみたものの、ハンコ廃止は思ったよりも難しいと実感されている法務ご担当者も多いようです。この記事では、法務DXのために乗り越えなければならない「ハンコ文化の根強さ」を測る参考指標として、東京都民の実印保有率を調査します。

印鑑登録率と実印使用率からハンコ廃止の難しさを計測する

電子署名法の解釈論争に決着が着き、クラウドサインのような事業者署名型の電子契約サービスでも正面から法的効力が認められるようになりました(関連記事:「電子署名法第3条Q&A」の読み方とポイント—固有性要件はどのようにして生まれたか)。

しかしその一方で、日本におけるハンコ文化の根強さから、電子契約への移行が一向に進まないとの指摘もあります。

ハンコを押すシーンは仕事でもプライベートでもまだまだ多いのは事実とはいえ、本当に「文化」というほどのものなのか。ハンコ文化の根強さを測るメルクマールとなるような、定量的な数値はないのか

この問いに答えるべく本メディアが目をつけたのは、個人の「印鑑登録率(実印保有率)」とその使用率です。

印鑑登録率と実印使用率からハンコ廃止の難しさを計測する
印鑑登録率と実印使用率からハンコ廃止の難しさを計測する

アパートの賃貸契約や保険契約、日常的な宅配物の受け取りなどでは認印(三文判)でまったく問題なく取引してくれても、住宅ローンの手続きや中古車の売買などでは、金融機関等から実印の押印と印鑑証明書の提出を求められることがあります。そんなときには、面倒を感じつつも市区町村への印鑑登録が必要となります。

こうして、必要に迫られて行う印鑑登録について

  • 印鑑登録率(実印保有率)
  • 印鑑登録した実印の使用率

が分かれば、それは日本の「ハンコ文化」の根強さを数字で表したものと言ってもよさそうです。

「東京都区市町村年報」に印鑑登録手続き件数データを発見

国の統計局が国民の実印登録率を出してくれていれば簡単だったのですが、そのような統計は残念ながら見当たりません。

それもそのはず、国は法人の代表者の印鑑は法務局を通じて管理しているものの、個人(自然人)の実印登録についてはまったく関知しておらず、各地方自治体に任されてきたから なのです。

では、地方自治体の統計資料に登録率を算出できる数字はあるのでしょうか?

調査をしてみたところ、「東京都区市町村年報」の中に、印鑑登録の登録総数・登録申請者数等のデータが掲載 されているのを発見しました。

「東京都区市町村年報」 https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/05gyousei/annual_report/2020.pdf 2021年12月10日最終アクセス
「東京都区市町村年報」 https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/05gyousei/annual_report/2020.pdf 2021年12月10日最終アクセス

東京都民の印鑑登録率と実印使用率

この東京都区市町村年報2020年版には、令和元年度における

  • 東京都の本籍人口
  • 印鑑登録の総数
  • 印鑑証明書発行件数

が記録されています。これらのデータから、東京都民の印鑑登録率は

印鑑登録率: 登録総数 7,565,854 ÷ 本籍人口 12,660,383 = 59.7%

と、東京都民の印鑑登録率(実印保有率)は59.7% と算出できました。思ったよりも高い、という感想をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

では、そうして面倒な手続きを経て登録した実印は、実際にどのくらい使用されているのでしょうか?

年間使用回数: 印鑑証明書発行件数 3,964,287 ÷ 本籍人口 12,660,383 = 0.31回

この単純計算では、一人当たりの実印使用率は年あたり約30%。実印を使用しても、必ずしも印鑑証明書を添付しないだけなのかもしれませんが、法的な手続きのために必要に迫られ一度登録はしても、ほとんど活用されていない、という実印の実態も浮き彫りにしています。

個人実印のデジタル化はいつやってくる?—マイナンバーカード所有率が60%を超える日

日本全体のDXのKPIを考えたとき、実印相当の法的効力を有する電子署名ツールであるマイナンバーカードの普及率がこの実印登録率を乗り超えられるかは、個人の単位までデジタル化が浸透したかを測るメルクマールと考えてもよさそうです。

マイナンバーカードには署名用電子証明書が内蔵されている。 https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kojinninshou-01.html 2021年12月10日最終アクセス
マイナンバーカードには署名用電子証明書が内蔵されている。 https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kojinninshou-01.html 2021年12月10日最終アクセス

デジタル庁は、マイナンバーカードの普及をテコにしたデジタル化の推進を企図しています。カードが全国民に行き渡れば、民間の電子認証局に頼ることなく、内蔵された電子証明書を用いた実印相当の電子署名を行うことができ、脱ハンコの大きな切り札にもなりえます。

一方で マイナンバーカード普及の現状はといえば、交付枚数率は全国で39.1%。現状は印鑑登録率にはまだ遠く及びません。ただし、21.8%だった1年前と比較すると、一気に18ポイント伸びてもいます。

マイナンバーカードの交付枚数率(令和3年11月1日現在) https://www.soumu.go.jp/main_content/000777036.pdf
マイナンバーカードの交付枚数率(令和3年11月1日現在) https://www.soumu.go.jp/main_content/000777036.pdf

一度登録すれば永久に有効な印鑑と違い、カードが内蔵する電子証明書の期限は最長5年と法律で定められたハンデがあります(電子署名法施行規則6条4号)。しかしこの1年間で18%伸ばしたのであれば、健康保険証や運転免許証との一体化、公金受け取り口座の登録によるマイナポイント付与のキャンペーン強化なども予定されていることから、印鑑登録率を抜くことも不可能ではないかもしれません。

「2022年中にほぼ全国民にマイナンバーカードを行き渡らせる」と指示を出した岸田文雄総理大臣・牧島かれんデジタル大臣の実行力が試されます。

(橋詰)

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