東京都民の印鑑登録率に見る「ハンコ廃止」の難易度—マイナンバー署名は実印を超えられるか?

投稿日:

行政手続きのDXの第一歩として、ハンコ廃止に向けた活動が本格スタートしましたが、乗り越えるべきハンコ文化の根強さはどの程度か?これを測る参考指標として、東京都民の実印保有率を調べてみました。

安倍内閣の「脱ハンコ」は菅内閣で「ハンコ廃止」へ

令和2年9月16日、安倍内閣の総辞職に伴い、菅義偉新内閣が発足しました。その中でも、行政改革とデジタル改革をそれぞれ担当する河野大臣と平井大臣の一挙手一投足に、国民の注目が集まっています。

「ハンコ、すぐなくしたい」 河野行革相にデジ相も賛同(朝日新聞デジタル)

河野太郎行政改革相は23日、首相官邸で開かれた「デジタル改革関係閣僚会議」の初会合で、日本の「ハンコ文化」の見直しの必要性を訴えた。平井卓也デジタル改革相が記者団に明らかにした。
河野氏の発言をめぐり、平井氏は「本人確認のためではなく、ただ『ハンコを押した』という事実だけが必要なケースは、すぐにでもなくしてしまいたい、という趣旨だった。私も賛同する」と語った。

同会議では菅首相からも、マイナンバーカードの普及促進を一気呵成に進めるとの意向も示されました。 不要な押印手続きの削減とともに、マイナンバーカードに内蔵された電子署名機能への置き換えを図っていく ようです。

マイナンバーカードには署名用電子証明書が内蔵されている。 https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kojinninshou-01.html 2020年9月29日最終アクセス

日本のハンコ文化の根強さを定量的に表す数字としての「印鑑登録率(実印保有率)」

電子署名法の解釈論争にはすでに決着が着き、クラウドサインのような事業者型の電子契約サービスでも、一定の要件を満たすことで法的効力が認められるようになって(関連記事:「電子署名法第3条Q&A」の読み方とポイント—固有性要件はどのようにして生まれたか)、移行準備はすでに整ったようにも見えます。

しかしその一方で、日本におけるハンコ文化の根強さを指摘する声もあります。ハンコを押すシーンは仕事でもプライベートでもまだまだ多いのは事実とはいえ、本当に「文化」というほどのものなのか。ハンコ文化の根強さを測るメルクマールとなるような、定量的な数字はないのでしょうか

この問いに答えるべく本メディアが目をつけたのは、個人の「印鑑登録率(実印保有率)」です。

アパートの賃貸契約や保険契約、日常的な宅配物の受け取りなどでは認印(三文判)でまったく問題なく取引してくれても、住宅ローンの手続きや中古車の売買などでは、相手企業から実印の押印と印鑑証明書の提出を求められることがあります。そんなときに、面倒を感じつつも市区町村への印鑑登録が必要となります。

もし、こうして必要に迫られて行う印鑑登録者の人数やその率が分かれば、それは日本の「ハンコ文化」の根強さを数字で表したものと言ってもよさそうです。

東京都区市町村年報から算出した印鑑登録率は59.9%

国の統計局が国民の実印登録率を出してくれていれば簡単だったのですが、そのような統計は残念ながら見当たりません。それもそのはず、実は、国は 法人印と違い個人の実印登録について国はまったく関知しておらず、各地方自治体に任されてきたため です。

そこで、地方自治体の統計資料に登録率を算出できる数字がないか当たってみたところ、「東京都区市町村年報」の中に、印鑑登録の登録総数・登録申請者数等のデータが掲載されているのを発見。

「東京都区市町村年報」 https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/05gyousei/annual_report/2018.pdf 2020年9月29日最終アクセス

東京都の本籍人口(12,621,845人)でその印鑑登録総数(7,564,750件)を割り算すると、東京都民の印鑑登録率(実印保有率)は59.9% と算出できました。登録したきりで使用していない非アクティブ登録者も多いだろうとはいえ、なかなかのボリュームです。

一つの目標値として、実印相当のマイナンバー署名を可能とするカードの普及率がこの数字を乗り超えられるかが、個人の単位までデジタル化が浸透したかを測る基準 と考えてもよさそうです。

マイナンバーカードの普及率が60%を超える日はいつか

平井大臣をはじめとする内閣府は、マイナンバーカードの普及をテコにしたデジタル化の推進を企図しています。カードが全国民に行き渡れば、民間の電子認証局に頼ることなく、内蔵された電子証明書を用いて実印相当の電子署名を行うことができ、脱ハンコの大きな切り札にもなりうるためです。

一方で マイナンバーカードの現状はといえば、交付枚数率は全国で20%を下回っており、印鑑登録率にはまだ遠く及びません

マイナンバーカードの交付枚数率 https://www.soumu.go.jp/main_content/000674166.pdf 2020年9月29日最終アクセス

2020年に入って通知カードを廃止し、マイナポイント付与制度を導入し、健康保険証や運転免許証の機能を兼ねることも計画されるなど、マイナンバーカードの交付率を上げるための施策が急ピッチで進められています。しかしながら、こうした施策を実施してもカード交付率はしばらく年率1〜2%の上昇にとどまっていました。

そんなカード交付率が仮に年率5%程度に上昇すると仮定しても、印鑑登録率59.9%を超えるためには単純計算で8年超の歳月が掛かります。しかも、一度登録すれば永久に有効な印鑑と違い、カードが内蔵する電子証明書の期限は最長5年と法律で定められている ハンデもあります(電子署名法施行規則6条4号)。初年度にカードの交付を受けた全員について期限により無効になり始めていることからも、かなりハードルの高い目標です。

報道によれば、菅総理大臣は2022年までにほぼ全国民にマイナンバーカードを交付できるよう指示を出したとされますが、中途半端にインセンティブを与える政策ではなく、強制的にマイナンバーカードを交付するような施策を採用しない限り、マイナンバー署名が実印を超えるのは難しい かもしれません。

(橋詰)

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら