法律文書作成サービスが超えてはならない一線—グレーゾーン解消制度の法務省見解

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離婚協議文書案自動作成サービス等を行おうとする企業がグレーゾーン解消制度を申請したところ、「弁護士法に違反すると評価される可能性がないとはいえない」との結論に。いったい何が問題とされたのでしょうか。

基本的に「NG」が出ることはほぼなかったはずのグレーゾーン解消制度”

日本の過剰規制を是正し産業競争力を強化することを目的として、経済産業省が運用する制度の一つに、「グレーゾーン解消制度」があります。この制度は、新事業活動を実施しようとする企業が、その新事業を管轄することとなる主務大臣に対し、規制の解釈と法令適用の有無について確認を求めることができる制度 です(産業競争力強化法7条)。

クラウドサインも、この制度を活用し、建設請負工事で問題なく利用できるサービスであるというお墨付きをいただいたことがあります(関連記事:グレーゾーン解消制度を活用して、クラウドサインによる契約の適法性を確認しました)。

本制度では、経済産業省を通じ、事前に主務官庁に照会内容を相談(打診)することが可能ということもあって、照会案件のほとんどが「問題なし」の二重丸(◎)回答を得るのが通常です。

ただし、下表のように、照会する分野や申請時の照会内容の記載方法によっては、主務官庁の意向により一定の「条件付・留保つき」(◯)の回答となることもあります。

事業名 回答日 回答主務官庁 照会結果
人材の受け入れに係る申請書類等
作成支援サービスの提供
令和2年12月25日 総務省
車両運転中の音声チャット機器の使用 令和2年12月11日 国家公安委員会
ブロックチェーン技術を用いた臨床データの
モニタリングシステムの提供
令和2年12月4日 厚生労働省
推薦機能を用いた人材紹介マッチング
サービスの提供
令和2年11月17日 厚生労働省
電子契約サービス 令和2年10月14日 国土交通省
原動機付自転車を使用した自動車運転
サービスの提供
令和2年8月26日 国土交通省、国家公安委員会
資格試験申込者のモチベーション維持の
ためのサービスの提供
令和2年8月14日 消費者庁
顔認証技術を活用した無人チェックイン
サービスの提供
令和2年7月29日 厚生労働省
人材紹介、労務管理システム及び振込代行の
一体提供サービス
令和2年6月29日 厚生労働省
自費診療(定期健康診断及び予防接種)の
利用企業紹介に対する報酬の提供
令和2年6月19日 厚生労働省
税理士のリモートワークを可能とするための
クラウド型税務申告ソフト
令和2年5月29日 国税庁
ジェネリック医薬品等後続医薬品への切替え
のためのコンサルティングサービス
令和2年5月21日 消費者庁
外国人労働者に係る監理団体、登録支援機関、
送出機関の広告・紹介サービス
令和2年4月24日 厚生労働省、法務省
RFID(IC)機能付きパスポートリーダーによる
旅券の写しの保存
令和2年4月6日 厚生労働省
銀行代理業者紹介サービス 令和2年3月27日 金融庁
賃金立替払いサービス 令和2年3月27日 厚生労働省
水素ステーションのコンパクト化の実現 令和2年1月17日 経済産業省

とはいえ、いずれにしても、正式に申請された案件について「NG」のバツ印が付くことはほとんどない ことは、令和2年に回答書が示された上記全17件の結果を見ても、おわかりいただけるかと思います。

令和3年第1号回答案件「離婚協議書の自動作成サービス等」の結果はほぼ全面NG

ところが、令和3年になって初めて公開されたグレーゾーン解消制度でこの先例を覆す回答 が出されました。このことがいま、リーガルテック業界で物議を醸しています。

リーガルテックのように、本来弁護士等法律専門家が行う法律業務に近接するサービスを企業が提供する際に遵守しなければならない法律に、弁護士法72条・73条があります。

弁護士法72条・73条により、弁護士以外の者が法律事務を提供することは禁止されている

この弁護士法の規定に、昨年12月に申請された「離婚協議書の自動作成サービス等」が抵触するかについて、

  1. 離婚協議書案の自動作成サービス→「弁護士法第72条に違反すると評価される可能性がないとはいえない」
  2. 養育費に関する収納代行サービス→「弁護士法第72条本文に規定するその他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことに当たり、同条に違反すると評価される可能性があると考えられる」
  3. 上記に関する弁護士広告サービス→「全体として弁護士法第72条に違反すると評価される可能性があると考えられる」

と、留保条件もほとんどない、滅多に出ないはずの「ほぼ全面NG」回答が出てしまうという珍事 が発生したのです。

http://www.moj.go.jp/content/001339374.pdf 2021年1月26日最終アクセス

法律文書の自動作成サービスに対する法務省スタンスの詳細分析

今回の照会対象事業は、「1 離婚協議書の作成 / 2 養育費収納代行 / 3 離婚弁護士紹介広告」を連動させてしまうという、攻めに攻めすぎた事業設定だったことが厳しい評価につながったのは間違いなく、もう少し丁寧にビジネスモデルを設計し、申請の仕方に気をつけるべきだったのでは?という印象も否めません。

それを少し脇においても特に注目せざるを得ないのが、1の「離婚協議書案の自動作成サービス」に対する法務省の評価と解釈です。ここで法務省が言及した不適法見解を敷衍すると、離婚協議書の作成にとどまらず、現在利用が拡大しつつある契約書や登記申請等法律文書の自動作成サービスにも影響を与えかねない ためです。

そこで、今回の離婚協議書案の自動作成サービスに関する法務省見解と論点につき、下表に整理をしてみました。

離婚協議書案の自動作成サービスに関する法務省見解と論点の整理

まず(ア)について、最終的に出力されるものが「ひな形(ある程度パターン化された法律文書)」だったとしても、個別具体的な事案に関して当事者と連絡を密に取り、それにマッチした文書を出力するサービスとなると、弁護士法に抵触しやすくなる と判断したものと読めてしまいます。

この論点については、弁護士法とリーガルテックの関係について詳細に分析した文献である松尾剛行「リーガルテックと弁護士法に関する考察」(情報ネットワーク・ローレビュー 第18巻,2019)19頁においても、以下のとおりネガティブな見解が示されていました(関連記事:リーガルテックと弁護士法)。

具体的事情を踏まえて最適な書式を選ぶ書面作成システムは、そのオーダーメイドの程度(具体的事情を踏まえる程度)や、専門性の程度によってはやはり、「法律事件」に関する「法律事務」を取り扱ったとされる可能性が十分にあるように思われる

なお、(イ)の論点について、広告手数料等にも紐づかない完全無料サービスであれば(ア)に対する評価が変わったのかについては、はっきりしない書き方となっています。しかしながら、上記松尾文献でも引用されている日本弁護士連合会調査室『条解弁護士法』(弘文堂,2019)643頁で、

現金に限らず、物品や供応を受けることも含まれる。また報酬の多少や名称のいかんも問わない

との見解が示されているとおり、業(ビジネス)として反復継続する以上、無料・格安だからという理由で適法を主張すること自体は、あまり筋の良いものとはならない のは、間違い無いでしょう。

法律文書自動作成型リーガルテックに求められる配慮

石橋を叩いて渡りたい事業者にとって便利な制度であるものの、照会の方法を間違うと、「やぶへび」リスクを招くこともあるグレーゾーン解消制度。今回のケースは、そのやぶへびリスクがそのまま具現化してしまった案件と評価せざるを得ず、回答で示された基準のグレーさもまた、後続のサービスを萎縮させかねないものとなってしまいました

チャット等での具体的な質疑応答を行わず、AI技術を用いて法律文書を自動作成またはレビューするサービスについては、法務省はどのように評価するのか?

個別事件性が高いことから本来は弁護士が行う業務であるとの認識に立った上で、どうすれば利用者に危険を及ぼさず、弁護士業務と峻別が可能なサービス範囲を画定・線引きできるか?

法律文書の作成業務を代行するリーガルテックサービスの適法性について、これまで以上に丁寧な分析と議論が必要となるフェーズを迎えようとしています。

画像:タカス / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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