「賃貸借契約更新に関する覚書」とギザギザの電子印鑑

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電子印鑑がプリントされた賃貸借契約の更新書類を送りつけ、捺印して返送せよと求めてきた管理会社に、限られた知識でささやかな抵抗をしてみたい。

管理会社から送りつけられた賃貸借更新契約書の捺印は「ザ・電子印鑑」だった

恥ずかしながら、今年2回目の捺印となった。

自宅が賃貸物件で今年更新を迎えたためだ。更新料の振り込みはスマートフォン経由で瞬時できた。しかし、更新契約書については、署名捺印の上で郵送による返送が必要だという。

先方から送られてきた書類上にある賃貸人(甲)の部分には、

の記名部分に加えて、ハンコのようなものが押されている。

「のようなもの」というのは、よく見ると、外枠の丸い部分が、解像度不足のせいかジャギーがあって円がギザギザしているのだ。その色についても、とても朱肉を使った色には見えない。

これがいわゆる「電子印鑑」とか呼ばれているものだろう。紙に印刷されたただの画像であって、電子署名と違い法的な効力はないはずだが(関連記事:電子印鑑は電子契約導入の入り口になるか?電子印鑑と電子署名の違いを解説)、この電子印鑑のギザギザが、まるで今の僕の心境を表現してくれるかのようだ。

目を瞑れば、スーツを来た職員たちが、電子印鑑付き契約書をカラープリンターで大量印刷した後、封筒に詰め、宛名書きをし、ポストに投函するまでの過程が映像として浮かぶ。

意趣返しで、こちらからも電子印鑑で送り返してやろうかと企む。しかし、そのために書類を取り込む時間のほうが余計にかかる。加えて、僕は自分の電子印鑑データなんて持っていないから、作らなきゃいけない。

この書類が郵送で届いてしまった以上、残念ながらハンコを押す方がはるかに早い。

賃貸借契約の更新は現行法でもオンライン化可能

こと不動産に関しては、電子化という点で非常に腰が重い印象だ。不動産業界にいる友人がコロナ禍にもかかわらず軒並み出社しているのも、気のせいではないだろう。

法律的にはオンライン対応は不可能なのだろうか?現時点では、書面義務が残る主な契約書は以下のとおり(参考記事:電子化に規制が残る文書と契約類型のまとめリスト)。

文書名 根拠法令
不動産取引における重要事項説明書面等 宅地建物取引業法34条の2、35条、37条
定期借地契約、定期建物賃貸借契約書面 借地借家法22条、38条、39条
マンション管理業務委託契約書面 マンション管理法73条
特定継続役務提供等における契約前後の契約等書面 特定商取引法第4条、第42条ほか
金融商品のクーリングオフ書面 金融商品取引法第37条の6

今回の賃貸借契約は更新契約なので重要事項説明書の交付義務はない。定期建物賃貸借契約でもない。つまり書面化は必要なく、オンライン上での締結が可能な状況ではあるわけだ。

調べてみれば、すでに賃貸借契約やその更新契約について電子化を行っている管理会社もあった。

この事実をもとに管理会社に電子化での対応を確認したところ、

という回答だった。

契約書を送らなくても、借地借家法が守ってくれるが

いずれにせよ、今回の契約更新に関しては、署名捺印をした書類の返送を求められている。しかも、更新料自体は入金済みだ。

あんまり管理会社の人を困らせるのもな、と思いつつも、意地でも契約書類を送らないという対応をとった場合、どうなるだろうか。

借地借家法26条には、

第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。

とある。現実には使用を継続しているため、法定更新が適用されそうではある。契約書は返送していないけれど、更新料も支払い済みだ。これで大きな問題になる要素は見当たらないのだけど。

「ケイヤクショオクレ」の督促はオンラインで

そこで更新料だけ支払いをしておいて、しばらく様子を見ることにしてみたのだが、スマートフォンのショートメッセージで、契約書の返送を促すメッセージがきたときは、膝から崩れ落ちてしまった。

督促はオンラインなんかい。

これでメッセージに「更新に同意します」という返信をしたら、それで済まないのだろうか。そもそも更新料を自主的に支払っている段階で合意とみなしてほしいというのは、欲張りすぎなんだろうか。

不動産業界のそんなアナログな面ばかりフォーカスしてしまったけれど、大きな業界だけに、すぐに変わらないのはしょうがない。では、いったいどんなきっかけがあれば、そしていつになったら変わるのだろう。

赤羽国土交通大臣が2020年10月23日に行った会見では、

不動産取引のオンライン化等を早期に実現するため、デジタル化関連の一括法案の整備を御検討いただきたい旨や、マイナンバーカードの活用促進等について、積極的に取り組むに当たり政府全体としての支援をお願いしたいと申し上げたところです。

と、オンライン化を推奨する声を上げていたが、大臣が背中を押したら変わるものなのだろうか。

VR内見やYouTube内見の定着が先か、賃貸借契約の完全電子化が先か

大臣が背中を押す前から、不動産業界の未来を提案する企業はあった。

2016年からバーチャルリアリティ(VR)の技術を使った内見サービスを提供している会社がある。VRブームがきた際に、その技術をすぐに取り入れ、あっという間にサービス化していた。毎日のように内見動画をYouTubeにアップロードしている不動産会社も少なくない。

こうした影響もあってか、リクルート住まいカンパニーのある年の調査では、見学をしないで契約を決めた人が10.2%もいたようだ。上京や転勤といったことで、引越し予定地まで非常に遠いようなケースがあったのだろう。最近はコロナ禍ということもあり、なおさら重宝されそうな仕組みだ。

今後、VRヘッドセットや撮影カメラの性能の向上、5Gインフラの強化により、バーチャル内見と現地内見との差はますます小さくなり、時間帯別の明るさや騒音の状況と言った周辺環境まで体験できると見ている。

想像上の新生活をバーチャルリアリティで体験した後に、わざわざ現実に戻り、紙の契約書にハンコを押すのは寂しいだろう。ヘッドセットの中で、契約まで全て完結できる新しい賃貸借契約体験。きっとそっちのほうが楽しい。

(写真・文 宗田)

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