DXの第一歩 電子契約導入プロジェクトに必要なメンバーとその役割

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DXの第一歩として、多くの企業が脱ハンコ、電子契約の本格導入に挑戦されています。法務が活躍するチャンスですが、法務だけが頑張ってもうまくいきません。導入プロジェクトには、どのようなメンバーの協力が必要でしょうか。

電子契約DXプロジェクトはボトムアップ型が多い

一般に、社内の業務改革プロジェクトは、

のどちらかでスタートしますが、電子契約の場合、圧倒的にボトムアップ型が多い のではないかとは感じています。

その理由について、まず整理してみます。

ボトムアップになりやすい理由―生産性向上と時間創出ニーズ

企業競争力強化のためのデジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれるようになり、それまで法務パーソンぐらいにしか関心が持たれなかった電子契約は、経営者の関心事項にもなっています。とはいえ、「DX」ブームの掛け声だけで電子契約導入プロジェクトがスタートできるのは、ワンマン経営が通用する中小企業までではないでしょうか。

電子契約を早期に導入できた会社は、日々の契約業務に煩わされていた現場のニーズが大きかったはずです。特に、多拠点・大企業では、本社管理部門から離れた座席や事業所で勤務していると、ハンコをもらうのに管理部門のオフィス↔︎自分↔︎取引先と郵送を伴う移動を繰り返し、書類をやり取りせねばなりません。こうした 非生産的業務ではなく、顧客への付加価値提供のための時間を創出したいというニーズ から、プロジェクトが発足するケースは多かったはずです。

そこにきてのコロナ禍。契約業務のためだけに出社を余儀なくされたり、これまで以上に長いリードタイムが必要になったりして、契約業務のペインはますます増大し、ついに爆発 しました。

筆者の場合も、本格導入したいという声が営業などから聞かれ、多くの支持を得て導入プロジェクトが発足しました。

トップダウンになりにくい理由―経営者には「契約業務のペイン」がない

このように経営陣にとって、電子契約導入による「ペーパーレス化」や「働き方改革の推進」は重大な関心事となりましたが、経営者が具体的に「電子契約を導入せよ」と言ってくれるケースは、そう多くはありません。電子契約は経営課題を解決する手段の一部分に過ぎず、その課題をどう解決していくかの手段レイヤーの選択は、現場に委ねられるのが通常だからです。

また、経営者は契約書に押印することはあっても、製本・郵送・保存することも、相手方とやりとりすることも、印紙税額がいくらかを検討することもほとんどありません。電子契約の存在や特徴を知っていても、もたらすメリットを十分に体感できない立場です。

つまり、経営者にとって、売上・利益の額に響く「失注」は許されざることであっても、契約業務それ自体のペインやその解消法は、関心事ではない のです。

電子契約プロジェクトが全社を巻き込む大プロジェクトにもかかわらず、経営者に進言しても彼らがなかなか旗を振ってくれない理由がここにあります。

電子契約導入プロジェクトに参加すべき部門(総論)

ボトムアップでプロジェクトが発足した場合、経営者のリードや潤沢なリソースを望むことは難しく、「最小限」かつ「今いる人」で進めていかなければなりません。では、どのような部門からメンバーを招聘すべきでしょうか

この点について、電子契約のの導入実務について詳しく解説する以下2冊の書籍を確認しました。

書籍情報

電子契約導入ガイドブック[国内契約編]
  • 著者:高林淳/編集 商事法務/編集
  • 出版社:商事法務
  • 出版年月:20200814

書籍情報

即実践!! 電子契約―電子契約・DX・文書管理(文書の電子化)の導入から運用まですべてを体験できる
  • 著者:高橋郁夫/編集 北川祥一/編集 斎藤綾/編集 伊藤蔵人/編集 丸山修平/編集 星諒佑/編集 ほか
  • 出版社:日本加除出版
  • 出版年月:20200902

これらでは、以下のような説明とともに、法務・情報システム・総務・財務経理の4部門 の参加が提案されています。

法務

「法令上,契約を電子化できるか否か,電子化する際の要件,電子帳簿保存法や税法への対応など,電子契約をめぐる法令を整理しつつ,社内の契約のうちどの契約につき電子契約の対象とするか等を検討する役割を担います。(略)また,総務部などの主管部門と協力して規程類を整備し,営業部とマニュアル作成や研修の実施を行っていくことが必要でしょう。」(即実践74頁-75頁)

情報システム

「システム導入の中心的役割を担い、既存の企業のシステムとの連携や整合性を図る役割を担う。」(ガイドブック25頁)

総務

「総務部は、多くの企業で文書管理の主管部署であり、電子契約導入後の新たな文書管理ルールを制定し、既存ルールの改定を行う。」(ガイドブック25頁)

財務・経理

「税法上,証憑は紙で保管しておくことが原則であり,従来は税務調査や監査時に契約書原本のサンプリング調査がなされていたケースは多々あることかと思います。(略)また,支払処理を行う際の必要書類などについて,経理財務部が社内フローや社内規程を主管している場合には,電子契約で締結されたものについて提出方法や処理方法といった体制を整備する必要があります。」(即実践74頁)

その他の部門

上記4部門は、2冊に共通して提案されていますが、そのほかにも次の部門の参加を提案する記載も確認できました。

ステークホルダーそれぞれの視点を取り入れるために必要となるメンバー

どの部門がどの業務を担当するかやその部門の影響力は、企業により異なります。部門を横断した 立場・役割・視点から、この一大プロジェクトに必要なメンバー を検討してみます。

法的視点

電子契約サービスは使いやすければ何でもいいというものではありません。次のような法的事項について、電子契約事業者のセールストークを鵜呑みにせず、法的有効性や適法性を検討する視点 が必要です。

当然に法務が中心的に活躍するところですが、①電子署名法に関する玉石混交の情報の中から正しい情報だけを選別できるリサーチ能力を備え、②一定の法務実務経験に基づくリスク感度があり、③システムの法的安全性を自分の手も動かしながら検証できる人材が参加すべきだと考えます。

また、財務・経理の理解と協力も必要です。財務・経理にとっては、支払プロセスにとどまらず、税務や監査法人対応にも影響があるため、こちらも業務全体を把握している実務責任者クラスの参加が必要に思われます。

技術的視点

普及している電子契約サービスはいずれもSaaSであり、単体利用であれば導入の負担は重くありません。しかし、全社で利用するとなると、既存システムとの連携維持に配慮したり、情報システムによって構築されたこれまでの業務フローや権限を設計し直したりする必要 があり、文字通り一大プロジェクトです。

以下の点から、技術的側面からの支援が欠かせません。

ハード・ソフト・ネットワーク技術に明るい情報システム担当者が必要でしょう。

ユーザー視点

従来型のオンプレミスな電子契約システムと違い、SaaSの場合には、導入するシステムに合わせてユーザーの業務行動を変えてもらう必要があります。そのため、ユーザーの業務フローのどの部分がすぐに変更可能で、どの部分が時間や負担をかけるのか、早期に見定めることがポイント です。これを無視して導入すると、現場の変化に対するコンセンサスが得られなくなり、結果として電子化が徹底できなくなります。

具体的には、特に次の立場・役割から、業務フローの変化に対する難易度・実現可能性を評価してもらうが必要です。

具体的な候補は、頻繁に利用することになる営業担当者や契約管理担当者、企業規模によってはシェアード部門の担当者などでしょう。

筆者の所属先では、営業担当者とシェアード部門で契約管理を行っている担当者がメンバーに加わっています。電子署名を行う決裁者には、電子契約サービスの最終決定時に確かめてもらうことになりそうです。

内部統制視点

ユーザー視点からの使いやすさは重要ですが、電子契約が利用しやすいあまり、統制上新たな問題を発生させないか、そのバランスの観点から評価 する役割も必要です。

ユーザー視点とも重なる部分はありますが、それに加えて財務経理・情報システム・総務・内部監査といった、組織の内部統制にも関わるメンバーが、バランスの良し悪しをチェックし、必要に応じ事故を防ぐための対策を検討することが望ましいと言えます。

社内規程やマニュアルの整備など利用環境を整える

そのほか、プロジェクトで対応しなければならないタスクには、次のようなものもあります。

社内規程の整備は総務が、利用マニュアルの作成や利用方法の説明は営業や契約管理担当者が、経営陣への説明は経営企画や情報システムが、それぞれ法務とタッグを組んで担うことが考えられます。

利用マニュアルの作成・改訂には、本社所属でない従業員の関与も必要です。本社であれば法務や情報システムがサポートできますが、本社にいない人にはそれが難しいことと、電子契約導入の効果を最も実感できるのが本社から離れたところで勤務している従業員だからです。

「船頭多くして船山に上る」にならないために

まとめると、電子契約導入プロジェクトの推進には、法務と情報システム2部門の主体的な参加は必須 であり、企業規模に応じて営業、財務経理、経営企画、総務、内部監査を招聘する のがよいと考えます。

電子契約の導入には、社外だけでなく社内にも多くの利害関係者が存在します。できる限り関係者のコンセンサスをとって進めたいところですが、「船頭多くして船山に上る」になってしまいかねません。意思決定は、人が少なければ少ない方が早くなります。

王道の進め方は、まずは少数精鋭で始めて、徐々にメンバーを拡大していくことではないでしょうか。そして、その手綱を握るのは、全体を見る力を持つ法務だと筆者は考えます。

(イラスト・文 いとう)

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