電子契約の運用ノウハウ

電子契約における「いまボールはどこ?」問題の解決策


電子契約の導入により、契約業務に関わる全員の事務工数が削減されれば大成功だが、利用する電子契約ツールや運用方法によっては、法務部等一部の関係者にしわ寄せを生むことがある。本記事では、その原因と解決方法について考えてみたい。

電子契約の現在地がわからなくなる「いまボールはどこ?」問題

先日、電子契約は事業部側の工数削減には繋がるものの、法務部等契約プロセスを管理する側の工数をむしろ増やすばかりなのでは? という趣旨の話題を目にした。

「先日お願いした電子契約なんですけど、いま、誰のところで止まってるんでしょうか?」

紙の契約書と違い、移動するさまが物理的に目に見えないためか、事業部から法務部に対し、電子契約の承認ステータスに関する問合せが増加するため、総合的に見ると手間は増えているのでは、ということである。いわば、「電子契約のボールはいまどこ?」問題 だ。

確かに、紙の契約書の場合には、締結進捗状況を事業部が法務部に確認するといったことが起こることは稀だったから、法務部から見れば、単純にこの問合せへの応答業務が追加されているように見える。ただでさえ法務部の役割は世間的に増加傾向にあるのだ。この手の手間は避けたいところである。

「電子契約のボールはいまどこ?」問題はなぜ発生するのか

そもそも、なぜ電子契約の場合に「ボールはいまどこ?」問題が発生するのだろうか。

その理由として、以下2点が考えられる。

理由1—電子契約では法務部が送信者(対応者)になるケースが多いため

1つ目は、紙の契約書の場合と異なり、法務部が送信者(対応者)になるケースが多いため だ。

紙の契約書の場合は、契約書に押印をもらうための作業や相手方に郵送する作業、相手方から契約書を受け取る作業は誰がしているだろうか。おそらく、多くの場合では事業部だろう。相手方と直接やり取りをしているのだから、事業部が対応することが自然なことである。

しかし、電子契約の場合になると、法務部が送信者になることが多いようだ。そうなると、

①そもそも法務部が既に送信したのか
②社内の承認者は承認をしたのか
③相手方の承認者は承認をしたのか
④契約は締結に至っているのか

といったステータスが、事業部からは見えなくなる。これにより、「ボールは何処?」問題が発生する。

理由2—紙の契約書よりも審査・承認者が多く設定される傾向にあるため

2つ目は、紙の契約書の場合と比較して、承認者が多く設定される傾向にあるため だ。

紙の契約書の場合だと、各社で事前に社内稟議が通されるとしても、実際に契約の書面上に表れる記名押印者は、各社1人であることがほとんどである。そのため、社内の押印者が押印をしたか、相手方の押印者が押印をしたかの2ポイントのみを考えればよい。

だが電子契約の場合、途端に承認者が多く設定される傾向がある。相手方の担当者→担当者上長→課長→法務部担当者→法務部長→支社長→代表取締役と、合計7名を承認フローに組み込む事例なども、目撃したことがある。

このように、ボールを回す先が増加しがちであることも、「ボールは何処?」問題を発生させる理由の一つであろう。

電子契約の現在地とステータスを見失わないための対策

では、これらにより発生する、電子契約特有の「ボールは何処?」問題を解決する方法はあるのだろうか。

本記事では、以下4つの解決策を提案してみたい。

解決策その1—コミュニケーションツールとの連携機能を活用する

「ボールはどこ?」問題を解決する最も直接的な方法は、チャットに代表される常時オンラインのコミュニケーションツールとの連携を活用 することだろう。

電子契約のサービスによっては、承認時、却下時、締結完了時等、ステータスが変動する時点でコミュニケーションツールに対し通知が送られるようにすることができる。コミュニケーションツールは事業部も常時開いていると思われるので、そのステータスをリアルタイムに把握することができるというわけである。

例えばクラウドサインの場合であれば、slack, Teams, LINE WORKS等と連携しており、ステータスの変動に応じた通知するができる。

コミュニケーションツールとの連携機能を活用し、電子契約の「ボールはどこ?」問題を解消する
コミュニケーションツールとの連携機能を活用し、電子契約の「ボールはどこ?」問題を解消する

ただし、社内秘の情報を電子契約で対処する場合には注意が必要である。通知される情報は、タイトルや送信者に限定はされているが、それらが社内で伝えてよい情報なのかどうかは確認しておきたい。

解決策その2—共有者設定する

2つ目の方法は、電子契約の送信時に共有者として事業部を含めるよう選択する ことだ。

電子契約サービスによっては、送信をする際に、内容の審査承認にはかかわらないが、締結時・取消時・却下時にそのステータスを通知するメールアドレスを設定する機能がある。この機能を利用すると、事業部からの問い合わせは減少するだろう。

ただし、承認ステータスが変わるごとに連絡がいくわけではないので、全ての問い合わせを無くすというところまではいかないのが実情だろう。このあたりは、各電子契約サービス事業者の更なる工夫と開発を期待したいところである。

クラウドサインヘルプセンター https://help.cloudsign.jp/ja/articles/385197 より
クラウドサインヘルプセンター https://help.cloudsign.jp/ja/articles/385197 より

参考までに、クラウドサインでは、合意締結・取消・却下の結果をメールで通知する共有機能が実装されている。

クラウドサインの開発者によれば、すべてのステータス変動が起こる度にメールで通知する発想もあったが、顧客ニーズを踏まえ、実装段階では重要なステータス変動に絞った経緯があるそうだ。このあたりは、今後はユーザーが選択できるようにしてもよいかもしれない。

解決策その3—事業部を承認フローに組み込む

3つ目の方法は、事業部を承認フローの最初に組み込む ものである。

例えば、①送信者→②事業部→③自社の締結権限者→④相手方の担当者(任意)→⑤相手方の権限者 といった承認フローにするということだ。

このとき、事業部にも電子契約サービスのIDが与えられている場合には、電子契約サービスにログインすることでその後の承認ステータスを確認することができる。法務部に問い合わせることなく、事業部自身で確認をすることができるようになる。

なお、付随的な効果として、事業部が過去の契約書を閲覧できる点が挙げられる。これにより、契約書の閲覧依頼の件数を減らし、業務効率化に繋げている例もあるようだ。

デメリットとしては、事業部が承認するという手間が増えることだろう。この手間と利便性とのバランスを考えたい。また、電子契約サービスによっては、このために発行するIDの数が増え、料金が高騰する場合があることにも注意が必要だ。

解決策その4—事業部が送信者(対応者)になる

4つ目の方法は、そもそもの送信(対応)を事業部が担う するという方法である。

この場合には、解決策その2と同様に、電子契約サービスにログインすることでその後の承認ステータスを確認することができる。そのため、法務部に問い合わせることなく、事業部自身で確認することができる。

この方法を取り入れると、当然事業部の負担は増えることになる。しかし、ここで根本的な問題を考えてみたいと思う。

紙の契約書の場合は、既に述べたように、契約書に押印をもらうための作業や相手方に郵送する作業、相手方から契約書を受け取る作業は事業部がしていることが多い。ところが、電子契約になると、法務部が送信者になることが多くなる。なぜ法務部がすることになるのだろうか?おそらく、導入担当者の想いとしては、事業部に負担をかけたくないこと、事業部が電子契約サービスを上手く使用できるかが分からないことがあるのだろう。

しかし、紙の契約書を郵送するの作業量と比較すると、電子契約で送信する場合の作業量は大きく減っているはずである。また、電子契約サービスにもよるが、最近の電子契約サービスは操作性を重視しているため、誰でも比較的簡単に使いこなすことができる。

さらに、最近は特定の承認者を承認フローに入れなければ、相手方に送信ができないといったような「承認機能(ゲートキーパー機能)」をオプションで備えているサービスも存在する。これらを考慮すると、送信行為は事業部がしても良いのではないだろうか。これから導入を検討するのであれば、このような点も考慮した上で、送信者を事業部にするのか法務部にするのかを検討されたい

解決策を踏まえた電子契約サービスの選定

以上、「ボールは何処?」問題を解決するための方法を4点紹介した。

どの電子契約サービスでもこれらの解決方法を使用できるのかというと、そうではない。そうした点も吟味の上で、電子契約サービスを選ぶ選球眼だけでなく、使いこなす運用力の両方が必要 だ。

このような話題が目に付くようになってきたこと自体、電子契約が世の中に浸透し始めた証であろう。筆者が電子契約を導入した当時は、法的問題点等の議論が多かったものの、オペレーション(運用)における悩みを議論し合うことが少なかった。このような議論が生じること自体が、筆者としては嬉しくもある。

電子契約の世界をより良くするためにも、こうしたリーガル・オペレーションにまつわる議論をさらに重ねていきたい。

(文 あいぱる、画像  まさがみ / PIXTA)

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