契約実務

エージェント契約とは?メリット・デメリット、所属契約との違いを解説

芸能事務所がタレントやクリエイターとの関係性を築くうえで、近年増えているのが「エージェント契約」です。

タレントの育成から活動までを一手に担う「マネジメント契約・所属契約」とは異なり、仕事の営業やギャラ交渉など、主に「仕事を獲得する部分」を事務所が代行する業務提携の形式です。事務所側は育成コストや管理工数を抑えつつ、即戦力となる人材と提携できるメリットがあります。

本記事では、おもに芸能事務所の契約担当者の方向けに、エージェント契約の仕組みやマネジメント契約との違い、実務上の留意点を整理して解説します。

なお、本記事の内容と関連して重要となる契約実務の効率化について、先に関心のある方もいらっしゃるかもしれません。エージェント契約を書面で交わす際のコストや手間を削減し、迅速な締結を実現する「電子契約」について、基礎から知りたい方は以下の資料を無料でダウンロードしてご活用ください。

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エージェント契約とは?

エージェント契約とは、タレントと事務所が対等な立場で業務提携を行う契約形態です。従来のマネジメント契約・所属契約とは異なり、タレントが一定の独立性を保ちながら事業連携を図る点が特徴です。

契約自由度の高さや管理コストの抑制といった点から、芸能・スポーツ業界をはじめ幅広い分野で活用が広がっています。

【事務所側】エージェント契約を結ぶメリット

エージェント契約は、事務所にとって柔軟で効率的な契約形態です。

従来の所属契約に比べて管理負担が軽く、初期投資も抑えられるため、限られたリソースで多様な人材と連携したい場合に適しています。

以下では、事務所側の主なメリットを具体的に紹介します。

育成コストをかけずに即戦力と提携し、効率的に収益化できる

すでに活動実績のあるタレントや知名度を持つクリエイターと直接契約できるため、新人発掘や長期育成にかかる時間・費用を大幅に削減できます。

初期投資が少なく、成果が見込める案件に即時対応できるため、効率的な収益化が可能です。契約ごとに発生する成果報酬型が基本であり、事務所は運営コストを抑えつつ収益機会を確保できます。少人数で事業を運営する事務所にとっては、リスクを抑えた戦略的な提携手段となります。

少ないマネジメント工数や固定費で事業運営ができる

タレントのスケジュール管理や送迎、レッスンといった日常的なサポート業務は原則として不要です。事務所の業務は営業や交渉などに限定されるため、人員リソースやマネジメント工数を最小限に抑えられます

所属契約と比べて固定費が少なく済むため、複数のタレントと並行して契約しやすく、事業リスクの分散にも繋がります。

幅広い分野の専門家やクリエイターと提携しやすい

業務委託に近い性質を持つため、芸能関係に限らず、多様な専門人材と連携しやすいのが大きな特徴です

例えば、本業を持つ医師や弁護士、研究者などを「専属所属」させるのは現実的ではありません。しかし、彼らが持つ専門性を活かしたメディア出演や監修といった業務を仲介するエージェント契約であれば、柔軟な提携が可能です。事務所の専門性を活かした多様な事業展開につなげることができます。

エージェント契約を結ぶデメリット

エージェント契約は柔軟な運用が可能な一方で、事務所側にとって一定のリスクや制約も伴います。 契約内容やタレントとの関係性によっては、予期せぬトラブルや損失につながるケースもあるため、導入前に留意すべきポイントを整理しておくことが重要です。

事務所の収益率が低くなりやすい

エージェント契約は、事務所の業務が営業や交渉などに限定されるため、包括的なサポートを行うマネジメント契約に比べて、事務所の報酬(手数料)率が低く設定されるのが一般的です。 大きな案件を獲得できたとしても、事務所の取り分が少なくなり、収益性が伸び悩む可能性があります。なお、契約形態ごとの報酬率について公的な統計データは存在しませんが、マネジメント契約では事務所とタレントの取り分が5:5〜6:4程度であるのに対し、エージェント契約では事務所の取り分がより低くなる傾向があるとされています。

タレントの不祥事による評判低下のリスク

タレントが不祥事を起こした場合、最終的な法的責任は独立した事業者であるタレント本人が負うのが原則です。 しかし、代理人として関わる事務所の名前も報道などで取り上げられるため、ブランドイメージの低下や取引先からの信用失墜といったレピュテーションリスクは避けられません。

営業活動にかけたコストが回収できないリスクがある

将来性のある人材と契約しても、すぐに成果が出るとは限りません。案件獲得のために営業や提案にかけた時間や労力が、収益に結びつかないまま契約が終了してしまう可能性があります。 育成投資とは異なるものの、営業コストが回収できないリスクは存在します。

収益がタレントの活動に依存し、安定しにくい

事務所はタレントの活動を主導できず、最終的な出演可否の判断は本人に委ねられます。そのため、事務所が主導権を握るマネジメント契約以上に収益の見通しが立ちにくく、タレントの意向次第で収入がゼロになる可能性もあります。 特定のタレントへの依存度が高い場合、経営への影響はより深刻になります。

タレントの活動方針を直接コントロールできない

事務所はあくまで代理的立場であり、タレントの活動方針やブランディングを直接コントロールすることはできません。 事務所側が望む案件や戦略にタレントが同意しない場合、思うようにプロジェクトを進められないこともあります。良好な関係構築と相互理解が不可欠です。

エージェント契約でよくあるケース

エージェント契約は、芸能やスポーツ業界だけでなく、さまざまな業種・業態で活用されています。

企業が自社の専門外業務を外部に委託する際や、個人の専門家が交渉や業務調整を他者に任せる場面など、多様な形で導入されています。ここでは代表的なケースを紹介します。

スポーツ選手と代理人

プロスポーツの分野では、選手が移籍交渉やスポンサー契約などを代理人に委ねるケースが一般的です。選手本人に代わり、代理人が契約書の精査、年俸交渉、スポンサーとの調整などを行います。

法的な知識やビジネス経験をもつ代理人が交渉を担うことで、選手の利益を最大化し、公平な条件を引き出すことが期待されます。たとえば、日本プロ野球では選手会公認の代理人制度、サッカーJリーグでは仲介人制度が存在します。

芸能人とマネジメント事務所の契約

芸能人やモデルは、出演交渉やスケジュール管理などをマネジメント事務所に委託することが多く、これもエージェント契約の一形態です。

専属契約ではなく、業務ごとに委託する形をとるケースもあり、近年は業務委託とエージェント契約を組み合わせたハイブリッド型の運用も見られます。自由度と効率性を両立させる契約形態として広がりを見せています。

外資系メーカーと国内代理店の契約

海外メーカーが日本市場に参入する際、国内企業に販売や営業活動を委託する契約が結ばれます。現地に自社の拠点を設けることなく、代理店を通じて販路拡大を図ることが可能です。

一定の地域や分野における「独占的販売権」を付与する独占エージェント契約が用いられることもあり、相互に明確な役割分担が求められます。

スタートアップ企業と営業代行会社の契約

営業リソースの限られたスタートアップ企業が、リード獲得や商談機会の創出を外部の営業エージェントに委託する例も増えています。

自社の人件費を抑えつつ、専門性のある営業活動を展開できる点がメリットです。

契約形態は成果報酬型や月額固定型などさまざまで、事業フェーズや目的に応じて使い分けられています。

不動産オーナーと仲介業者の契約

不動産の売却や賃貸にあたって、オーナーが宅建業者と媒介契約を結び、買主や借主の募集・契約手続きなどを委託するケースも代表的です。

宅地建物取引業法に基づき、「専任媒介契約」や「一般媒介契約」など、契約の自由度や情報公開義務の範囲が異なる複数の形態が存在します。オーナーのニーズに応じて、適切な契約方式を選ぶことが重要です。

翻訳・通訳エージェントの契約

通訳者や翻訳者と企業の間に立ち、スケジュール管理や報酬交渉を行う翻訳エージェントとの契約も広く利用されています。

専門職が業務に集中できるよう、エージェントが契約調整や納期管理を代行します。案件ごとに契約書を締結するケースもあれば、一定期間にわたる包括契約を結ぶ例もあります。

エージェント契約とマネジメント契約の違いは?

エージェント契約とマネジメント契約は、契約の性質と両者の関係性が異なります。以下で詳しく解説しますが、エージェント契約は限定的な業務委託型、マネジメント契約は包括的な所属型と整理できます。ただし、これらはあくまで典型的な分類であり、実際の契約内容は個別の合意によって柔軟に設定されるため、業務範囲や報酬体系を契約書で明確にすることが重要です。

ここではそれぞれの違いについてのまとめ、比較表とそれぞれの項目について具体的な内容を細かく解説していきます。

エージェント契約

タレントは事務所に所属せず、独立した立場を維持したまま、必要な業務のみを委託する契約です。事務所は出演交渉や契約代行などを業務範囲とし、報酬は成果に応じて発生します。契約の自由度が高く、柔軟な連携が可能です。

マネジメント契約(所属契約)

タレントが事務所に専属で所属し、スケジュール管理・営業活動・育成支援などを一括で任せる契約です。事務所側が全面的なサポートを担う分、報酬体系は固定給や歩合制など多様です。責任も広範に及びます。

エージェント契約 マネジメント契約(所属契約)
契約形態 業務委託契約 専属契約(雇用に近い関係性の場合もある)
契約の自由度 タレント自身が案件を選択できる 事務所が業務を決定し、本人の選択権は限定的
報酬の流れ 本人が報酬を受け取り、規定の手数料を事務所に支払う 事務所が報酬を一括で受け取り、契約に基づき本人に分配する
権利関係 著作権などの権利は本人に帰属しやすい 契約内容により、一部の権利を事務所が管理・保有する場合がある
活動の独立性 フリーランスとして独立して活動 事務所の方針に沿って活動
サポート範囲 交渉や契約手続きなど、特定の業務に限定されることが多い スケジュール管理、育成、送迎など総合的なサポート
主な利用者 芸能人、スポーツ選手、専門職の個人など タレント、俳優、モデルなど

契約形態

業務ごとに委託する形が一般的なのに対し、所属契約は継続的な管理・育成を含む関係が前提となります。前者は自由度が高く、後者は事務所との一体性が強いのが特徴です。

契約の自由度

本人が仕事を選べるかどうかに大きな違いがあります。業務委託型では拒否権もあるのに対し、所属型では事務所が仕事を割り振るため、希望と異なる案件が入ることもあります。

報酬の流れ

報酬の管理主体にも差があります。本人が報酬を直接受け取り手数料を支払うのが委託型、対して所属型では事務所が一括で管理し、取り分を決定するスタイルが一般的です。

権利関係

出演や著作などの権利が誰に帰属するかもポイントです。個人に残るケースが多い委託型に比べ、所属型では一部を事務所が保有する契約も見られます。

活動の独立性

フリーランス的に動けるか、それとも事務所の方針に沿って動くことになるかは、契約形態によって変わります。

どこまで自由に判断できるかが、活動スタイルや契約内容の決まり方に大きく影響します。

サポート範囲

業務内容にも差があります。交渉や契約手続きに限定されるケースがある一方、スケジュール管理や育成支援まで一括で担うマネジメント契約も存在します。

主な利用者

フリーランスとしての動きが求められる専門職や著名人は業務委託型と相性が良く、タレント活動に専念したい人材は、所属契約による全面的なサポートを求める傾向があります。

エージェント契約を結ぶときの事務所側の注意点

エージェント契約は柔軟な分、契約内容の設計次第でトラブルの火種となることもあります。 とくに事務所側は、報酬や業務範囲、契約期間などの基本事項を明確にしないまま進めると、後々の責任や交渉に支障が出てしまうかもしれません。以下に、契約時に押さえておくべきポイントを整理します。

報酬や手数料の割合を明確にする

契約の際は、報酬の配分や手数料の割合を明記しておくことが重要です。口頭での取り決めでは後のトラブルにつながりかねません。 業務の範囲や成果報酬の有無も含め、金額の算定方法を具体的に定めておきましょう。また、フリーランス保護新法では、発注者(事務所)は報酬の支払期日(原則60日以内)を明示・遵守する義務などを負います。こうした法的要請も踏まえる必要があります。

契約期間と解除条件を確認する

契約の有効期間や更新条件、途中解約の可否なども事前に取り決めておく必要があります。 契約途中での一方的な解約を防ぐためにも、解除条件や違約金の有無を文書で明確にしておくことが望まれます。

業務範囲と責任の所在を明確にする

どこまでが事務所側の業務範囲で、どこから先が本人の判断となるのか、線引きをはっきりさせることが重要です。 スケジュール管理、報酬交渉、契約締結など、各業務の責任主体を明記することで、後のトラブルを防げます。

契約内容の公平性に注意する

エージェント契約は契約自由の原則に基づきますが、タレント側にとって一方的に不利な条項を盛り込むと、後に契約無効や損害賠償を巡る訴訟に発展するリスクがあります。

過度な競業避止義務や、育成投資の回収といった合理的理由がないにもかかわらず長期にわたってタレントを拘束するような契約期間は、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたる可能性があると公正取引委員会も指摘しています。契約内容は常に公平性を意識し、妥当性を確認することが重要です。

出典:公正取引委員会「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書

秘密保持義務の範囲を確認する

業務上知り得た情報の取り扱いについて、秘密保持義務の範囲を明確に定めておくことも重要です。 契約終了後の情報漏洩などを防ぐためにも、必要な条項を盛り込むことが検討されます。

口約束ではなく必ず書面にする

信頼関係がある場合でも、口頭のやりとりに頼るのは絶対に避けるべきです。公正取引委員会の調査では、芸能事務所の約3割がタレントと「全て口頭」で契約している実態が明らかになっていますが、これは極めて高いリスクを伴います。

契約内容は必ず書面で交わし、双方が署名・保管しておくことで、後日の紛争を未然に防げます。電子契約の活用も有効です。

電子契約で業務効率化・コスト削減を

エージェント契約は、紙に印刷しなくても電子契約によって法的に有効に締結することが可能です。電子署名法により、本人による適切な電子署名が行われた電子契約書は、紙の契約書への署名や押印と同等の法的効力が認められています。

とくに、タレントや専門職との契約では金額が大きくなりやすく、収入印紙のコストが高くなるケースも少なくありません。

電子契約であれば、印紙税法上の「課税文書」に該当しないため、印紙税が不要となります。また、契約手続きの迅速化や保管・管理の効率化も期待できます。

本記事で解説したように、エージェント契約では業務範囲や報酬などを書面で明確にすることが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。しかし、契約のたびに書類を作成・印刷し、郵送・返送を待つプロセスは、時間もコストもかさみます。

電子契約を導入すれば、印紙税や郵送費といったコストを削減できるだけでなく、契約締結までのスピードを大幅に向上させることが可能です。タレントやクリエイターが国内外どこにいても、オンラインで迅速に契約を完了できます。コストとリスクを抑えた契約運用の一環として、電子契約の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部

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