ブックレビュー 岡田仁志『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』

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ブロックチェーンとは何か。そしてそれを用いたスマートコントラクト・ビジネスを設計する際の最大のポイントとは。

実際にブロックチェーンを使って駆動する仮想通貨ビットコインを支える技術と法律の分析を通して、その本質を理解させてくれるのが、本書『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』です。

書籍情報

決定版 ビットコイン&ブロックチェーン
  • 著者:岡田仁志/著
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 出版年月:20180413

仮想通貨を技術と法律の両面から正確に捉える

ビットコインとブロックチェーンをさまざまな切り口で解説する書籍は、枚挙にいとまがないほど刊行されています。

その中で、後発となる本書の際立った特徴は、仮想通貨の分類上の位置付けを、技術的側面からだけでなく、法(改正資金決済法)的側面からもしっかりと抑えた上で解説されている点にあります。

法定通貨・電子マネー・仮想通貨の分類 岡田仁志『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』P72より

すなわち、仮想通貨とは、強制通用力のない決済手段であって、汎用性および転々流通性を備えるものであり、国家の裏付けを持たないものを指す。(P73)

ところで、この法律【編集部注:資金決済法】が定義する仮想通貨というのは、ビットコインのような分散型仮想通貨のことを指すのでしょうか。あるいは、発行者が明確に存在する中央型仮想通貨のことを指すのでしょうか。文言を読む限り、これらのいずれを指すものではありません。つまり、資金決済法が定義した仮想通貨という文言は、仮想通貨取引所が取り扱う客体としての仮想通貨の外延を決定するためのものであって、仮想通貨そのものの性質を正面から定義したものではないのです。(P77)

特に技術系出身者によって執筆されることが多かった類書においては、ブロックチェーンの技術的特徴を軸に、サーバー型電子マネーとビットコインの違いを述べるところまでがせいぜいでした。

技術面のみならず、支払指示型電子マネー・端末電子マネー・ゲーム内通貨のそれぞれとの比較や、改正資金決済法の定義を立法経緯も踏まえて説明できている書籍は、本書以前に目にしたことがありません。

これができるのは、国立情報学研究所で電子マネーを長らく研究してきた著者 岡田仁志氏だからこそでしょう。

仮想通貨による決済なくしてスマートコントラクトなし

特に法律面からスマートコントラクト・ビジネスを検討している方にとって、本書のエッセンスは、この図とこの一節に凝縮されています。

第一層としての仮想通貨もしくはこれに代わる決済サービスと、第二層としてのブロックチェーンによるサービス提供基盤というのは、独立して存在するのではなく、おそらく不可分一体のものとして普及するであろうと予想されます。そうであれば、土台としての仮想通貨もしくは決済サービスで覇権を握ることが、第二層の主導権を握るために重要となってくるわけです。(P173)

ブロックチェーン・エコノミーの三層構造 岡田仁志『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』P174より

国境を越えるサービスにおいては、どちらの法律が適用されるかという準拠法の問題が生じます。これは二国間または多国間で話合って決めるべきことですが、先にブロックチェーンエコノミーの覇者が登場してしまった場合には、勝者の提示するルールに従うほかなく、法の制定権を失うことになりかねません。(P174)

ブロックチェーンを用いて権利を管理したり契約を自動執行しようという、いわゆる「スマートコントラクト」的なサービスは、まさにこの三層構造図の第二層にあたる部分です。

この第二層に関しては、弊社でも、りそな銀行・デジタルガレージと共同でスマートコントラクトの実証実験を開始しています。また、大手レコード会社などが、音楽著作権管理などにブロックチェーンを活用を検討していることも報じられています。

また経済産業省が「ブロックチェーン技術を活用したサービスに関する国内外動向調査報告書」で、

といったユースケースを紹介するなど、これらを国家的な産業として育てていこうというという意志を感じます。

一方で、マウントゴックス事件やコインチェック事件などのトラウマがあるからか、上記引用部でいう「第一層(通貨)」レイヤーをどう育てるべきかの議論は、アンタッチャブルにされたままです。

世界との競争の中では、第一層の通貨レイヤーでの主導権をとることこそがまず重要。これを失えば、一体不可分である第二層の経済レイヤーでも勝てなくなり、引いては第三層の法制度レイヤーの決定権をも失ってしまうが、それでよいのか?著者はそう警告します。

技術の飛躍がもたらすトラストレス通貨の時代

銀行のようななんらかの信頼の源泉であるような主体が発行する中央型仮想通貨を指向すべきか、それともビットコインのようなトラストレスな分散型仮想通貨を指向すべきか。

冒頭紹介した図にもあるように、幸いにして資金決済法の定義上はどちらも「仮想通貨」ですが、当局としては、コインチェック事件以降、前者を指向せざるを得なくなっているようにも見えます。

この点について、著者岡田氏自身は明言はしていないものの、本書終盤にこんな一節があります。

たとえ、信頼の源泉であるような主体が発行したものであっても、社会システムとして受け入れられるとは限らないことは、歴史が教えてくれます。発行主体の信頼を重んじる立場からすれば、発行主体さえも存在しないようなものが貨幣として流通することなど、あってはならないことでしょう。にわかに信じ難いものが登場するのが、技術の飛躍というものです。(P233)

金・銀など、自然界に存在する稀少「物」で作られた貨幣は、国家や中央銀行が人工的に作りだす稀少「性」へと抽象化されて紙幣となりました。この金銭的な価値をさらに抽象化し、社会契約を仮想の台帳に書き込むブロックチェーン技術を使って化体させたものが仮想通貨です。そこに主体は実在する/しなければならないのか?

本書を最後まで読みブロックチェーンとビットコインを理解した読者の多くは、長い時間をかけて揺り戻しは何回か起こりこそすれ、いずれ分散型仮想通貨の時代がやってくるという予感を強くするのではないでしょうか。

(橋詰)