ブックレビュー 中野友貴『先生!バナナはおやつに含まれますか? 法や契約書の読み方がわかるようになる本』

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小学生でも知っている「おやつバナナ命題」を使って、法令や契約書に書きこまれた「ルール」の読み方を徹底的にトレーニング。法令の読み方はもちろん、契約書はなぜ必要か?そして契約書の限界がどこにあるのか?を、自分の言葉で説明できるようになります。

書籍情報

先生!バナナはおやつに含まれますか?―法や契約書の読み方がわかるようになる本―
  • 著者:中野友貴/著
  • 出版社:第一法規
  • 出版年月:20180828

一切釣り無しで「おやつバナナ命題」を法的に解説した本

黄色の表紙にバナナのイラスト。タイトルは「先生!バナナはおやつに含まれますか?」。法律書籍の棚にあって、これが目立たないわけがありません。

バナナはおやつに含まれるか、鉛筆はOKでもシャーペンはNGなのか、日本の小学校に通った方なら子供心に疑問を感じた覚えがあるであろうこの問い。

「どうせタイトルは釣りで、おやつバナナの命題なんてどこかのページにちらっと出てくるだけでしょう?」

てっきりそう思って読み始めたのですが、驚くべきことに、

といったことを、一貫しておやつバナナ命題を使って説明しています。弁護士である著者が、弁護士の最大の武器でもある「ルール=法令・契約の上手な使い方」を、おやつバナナ命題を通して本気で伝授する書籍 なのです。

中野友貴『先生!バナナはおやつに含まれますか? —法や契約書の読み方がわかるようになる本』P104-105

「要件」と「効果」を理解すれば法令と契約が読みこなせるようになる

法律をある程度勉強したことがある方であれば、「要件」と「効果」の言葉が意味するものとその関係について、学んだことがあるはずです。

ルールを読んで「要件」と「効果」に分解でき、その「要件」に事実をあてはめることができれば(事実の立証に成功し認定されれば)、得たい「効果」を発生させることができる。この関係が理解できれば、ほとんどの法令・契約書を自分の力で読み解くことができ、それらのルールをうまく使ってトラブル解決や契約交渉を有利にすすめられるようになります。

しかし、法学部出身でもない人に、短い時間でこの要件・効果・事実認定といった概念を理解させ刷り込むことは、ふつうはできないでしょうし、しようとも思わないはずです。

本書がすごいのは、一般向けには解説されることが滅多にないこれらの言葉の用法についての解説を一冊を通じて辛抱強く繰り返し、分からせてしまうところにあります。

効果とは、「ルールを適用した結果として起こること」をいいます。例えば、「廊下を走った生徒は、罰として放課後に掃除をしなければならない」というルールが適用されれば、「罰として放課後に掃除をしなければならない」、という結果が起こります。これが効果といえます。このように、ルールには、「何が起こるのか」という効果が定められているので、ルールを使うことによって、人に何かを説得することができます。
 
一方で、要件とは、「効果が生じるための条件」のことをいいます。要件を見ることで、どのような条件が満たされれば、効果が生じるのかを理解することができます。「廊下を走った生徒は、罰として放課後に掃除をしなければならない」というルールがあれば、「生徒」が「廊下を走った」場合に、効果が生まれることになります。そのため、「生徒であること」や、「廊下を走ったこと」が要件であるといえます。(P61)

巻末には、読者自身が独力でルールを要件効果に分解して読み解けるようになったかを試す練習問題が用意されているのですが、本書を読み切った暁には、こうした要件効果分析もすらすらとできるようになっていることに驚くことでしょう。

中野友貴『先生!バナナはおやつに含まれますか? —法や契約書の読み方がわかるようになる本』P190-191

「なぜ契約書を作成しても揉めごとが発生するのか」の構造と原因がわかる

初学者向けの契約書に関するレクチャーでよくあるパターンが、実際には滅多に発生しない契約トラブルをことさらに強調して契約に対する恐怖を植え付ける → 極端に単純化した契約文例を読ませて契約書の意義や必要性を「わかった気」にさせようとする、そんなしらじらしい手法です。こうしたレクチャー手法は、契約書に親しみを感じさせるどころか、「災いの元」「うとましいもの」であるというよくない印象ばかりを植えつけてしまいます。

それに対し、本書はそうしたものとは対極の手法を取り、一見子供じみた「バナナおやつ命題」で契約に対する読者の心理的ハードルを思いっきり下げたうえで、本当の法律論をわかりやすい言葉で語るという誠意ある姿勢で、その本質を理解させようとします。

没収をするX先生の立場からすると、バナナ1本も「おやつ」というべきであるため、バナナ1本が「おやつ」に含まれるように「おやつ」という言葉を解釈します。そのうえで、バナナ1本が「おやつ」に当たるとあてはめることになります。
一方で、没収されたくないA君の立場で見れば、バナナは「おやつ」に含まれないように「おやつ」を解釈して、バナナが「おやつ」に当たらないと主張していくことになります。
PART1でみたとおり、これはルールに書かれている「おやつ」という言葉だけを見てもよくわかりません。このように、ルールの要件の内容が不明確であることがあります。このときには、ルールの要件の内容を解釈して、起こった出来事が要件に含まれるのかどうかを定めていく必要があります。(P107)

少し遠回りにはなるけれども、要件・効果の基礎を辛抱強く理解させる → それ基礎に、かんたんなあてはめと解釈のトレーニングを繰り返す → これにより、契約書を自分の頭で理解しながら読み下し、条文として定められていないエアポケットは何か、条文の定めが解釈のゆれを起こして相手と揉める余地どれくらいあるか、そんなことまで読者自身で判定できるようにしてしまうのです。

タイトルのおふざけ感と、中身が目指す高いゴール設定のギャップに、「これは誰のために書かれた本なのだろう?」とちょっと混乱しますが、1,600円(外税)という法律書籍らしからぬ低めの値段設定を見る限り、著者は、一般ビジネスパーソン向けにこのレベルの法的スキルを広めていきたいとお考えなのでしょう。その情熱は読んでいて十分伝わってきます。

法務に配属でもされない限り、一生身に付けることはないであろう本物の法的スキルを身につけさせてくれる、稀有な書籍です。

(橋詰)