ブックレビュー 遠藤元一『債権法改正 契約条項見直しの着眼点』

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契約書の改正民法対応で地味に大きな影響を与えそうな、400条「善管注意義務」規定の改正。日本の契約書も、英文契約書のように長文化していくのかもしれません。

書籍情報

債権法改正 契約条項見直しの着眼点
  • 著者:遠藤元一/著・編集 稲田和也/著
  • 出版社:中央経済社
  • 出版年月:20180319

『業務委託契約書作成のポイント』の著者からおすすめいただく

先日、『業務委託契約書作成のポイント』のブックレビューを書きtweetをしたところ、同書著者のお一人であるかっぱちゃん先生こと菅野邑斗先生より、わざわざコメントを頂戴しました。誠にありがとうございます。

かっぱちゃん先生から頂いた推薦コメント https://twitter.com/kappa0909/status/1047156948167086080

次々発売される改正民法の実務書。もうそろそろ打ち止めにしておこうかなと思った矢先でしたが、これほどまでのご推薦とあらば、と読んでみたのが本書です。

マーカーと取消線で契約書の改正民法対応の修正ポイントを詳細に解説

先生からのご推薦ポイントの「掘り下げ」の深さがよく分かる例を一つ挙げるとするならば、請負型の契約において、旧民法の「瑕疵担保責任」を改正民法の「契約不適合責任」に置き換える際の問題 についての解説があります。

みなさんの会社の請負契約や業務委託契約書でも、必ずひな形の修正が必要になるはずです。それにもかかわらず、多くの実務解説書が、売買契約の「瑕疵担保責任」→「契約不適合責任」への移行について詳しく述べる一方で、請負契約の瑕疵担保責任の改正法対応については、詳細な説明を割愛しています。これに対し本書では、売買契約と請負契約における契約不適合責任の違いを丁寧に抽出し比較 した上で、修正時の注意点を指摘します。

売買契約では現行・改正民法上の救済手段の保全ないし前提要件として商人間売買に関する商法526条所定の検査・通知義務を果たすことが必要であり、瑕疵担保条項もそれを前提とした規定になっているため、権利行使期間が通知期間に基本的ルールが変更されても影響は生じない。これに対して、請負では商法526条は適用されず、またそれに類する規定はないため、現行民法から改正民法への基本的ルールの変更による影響を検討することが必要である。受託者の側で、委託者が主張する時期よりも早期に担保責任の起算点である「不適合を知った時」が到来していたことを立証することは、情報が非対称であること等を考えると困難であり、受託者に現行民法よりも契約不適合責任を長期間負担させる可能性が生じるからである。(P164)

マーカーや取消線を使って、見え消し方式で修正すべき条項の直し方を具体的に図示 してくれているのも、本書の大きな特色です。

遠藤元一『債権法改正 契約条項見直しの着眼点』P164-165

実務でよく遭遇するものの疑問を抱かざるを得ない、請負型でない準委任型の業務委託契約でよく見られる「委任業務の完了報告」を、契約不適合責任との関係でどう解釈すべきかについても言及されていました(P167)。法務担当者がひな形を修正作業中に遭遇するであろう細かな疑問や悩みも、丁寧に拾おうとしてくださっているのがわかります。

日本の契約書にも“Whereas Clause”を書く日が(予想通り)やってきた

本書をご紹介したいと思ったもう一つ理由。それは、善管注意義務について定める第400条に「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」の文言が追加された点に関する、この重要な指摘があったからです。

改正民法の下では当事者の合意が重視される。「債権の目的」(改正民法400条)、「債務の本旨」(改正民法415条1項本文)等で確定されることになる契約の内容や帰責事由の範囲が、契約書の記載のみで疑義なく確定され、「取引上の社会通念」により上書き・修正される事態を防止し、予測可能性を担保することが望まれる。
このような観点からは、従来、目的規定を定めていない契約書にも、「契約の目的」の規定を設けることが望ましいように思われる。(中略)
具体的な項目としては、各当事者の役割や、目的物は性質上代替可能か否か、目的物を売買する目的(自家消費なのか、部品であり他の製材品と組み合わせるのか、そのまま他社に転売するのか)等を「契約の目的」その他の当該契約書の条項にあらかじめ明記するか、あるいは契約の前文等で、契約締結に至った経緯を明確にしておくことを検討することになる。(P10-11)

新たに400条に追加された文言が契約実務に与える影響として、「詳細な目的条項を設けるべき」と具体的に提案している実務書は、おそらく本書ぐらい ではないでしょうか。

冒頭にかんたんな目的条項を置く契約書はあるとはいえ、当事者の合意の背景をこと細かに書いた、英文契約書でいうWhereas Clauseのような記載をする契約書はそれほど多くありません。契約書の作成をひな形の穴埋めですますのではなく、個々の取引の背景をこまかに文章化する作業が都度必要となれば、実は質的にも量的にも 改正民法が契約実務に与える影響でもっとも重たいもの となるかもしれません。

そして実はこの点、私自身も5年前に懸念していたことでした。

個々の契約条件とは別に、あえてはっきりと「取引通念がどうかに関係なく、本契約の趣旨はこれこれこうこうであるということで合意しました」と、契約の趣旨を構成する諸要素を契約書に明記してしまうという作戦。たとえ完全合意条項が無効化されても、契約の趣旨そのものがその言葉を使って契約書にストレートに書いてあったら、裁判所もそこに書いていないことを持ちだして「本契約の趣旨は本来こうこうこれこれである」とは言いにくくなるんじゃないかと。(中略)
なんかあれですね。英文契約書の最初に置かれるWhereas Clauseが置かれるようになるってことなんでしょうかね。最近の英文契約実務ではWhereas Clauseも流行らなくなってきているのに・・・。(企業法務マンサバイバル 「民法改正に備えて、『契約の趣旨』を契約書に書く練習をしてみた」2013.5.25付記事)

2013年当時は冷やかし半分でこんなことを書いていたつもりでしたが、日本の契約書も、だんだんと英文契約のように長くなっていく方向にあるのでしょうか。

(橋詰)