契約書の契約締結の日付はいつで記載するべき?決め方を解説
契約書の末尾に必ずといってよいほど存在する契約締結日欄。その契約がいつ結ばれたかを記録する大切な欄ですが、誰がどのように記入・入力すべきか、考え方を整理してみました。
契約書の契約締結日の決め方にもさまざまな流派が存在
契約書の末尾には、日付を入力する欄があります。
まれに日付欄はあるがなぜか空欄になったまま調印されて保管されていたり、日付欄を設けること自体を忘れていてなかったりと、記載を忘れてしまうといつ契約が結ばれたのか、担当者に聞かないとわからなくなってしまうなど、トラブルの原因にもなりうる大切な欄です。
ところが、この契約締結日の決め方について調べてみると、意外にもマナーや定説がはっきりと整理された文献が多くないことに気づきました。そこで、定評のある契約実務書も参照しながら、この謎を解いておきたいと思います。

採用しうる考え方
契約書の末尾の日付欄を埋める際の考え方として採用しうるものを、以下5分類してみました。
(1)契約期間の初日
あまり深く考えないで採用してしまいがちなのが、契約書に書いてある契約期間の初日に契約締結日を合わせる、という考え方です。
実態としてはそれでもほとんど問題とならないのかもしれません。しかし、たとえば4/1から秘密を交換し守秘義務が発生する契約書を締結したが、前もって3/15に秘密保持契約書を締結しておいた場合、このルールですと、まだ到来していない未来の日付である4/1が入力され押印された契約書が3月時点で存在することになります。
この状態で、(秘密情報を事業部門がフライングして渡していた場合など)3月中になんらかの契約違反が発生した場合、そもそもこの契約書の効力は発生していたのかといったところから、争いとなってしまいます。
(2)先に契約書に押印する当事者が押印した日
契約を締結する当事者のうち、先に押印をする当事者がその押印日を入力・記入するという考え方です。
後の当事者にとっては、相手がいつ押印をしたかという社内事務の事情については知る由もありません。自分がまだ契約書を確認もしていないうちに相手の都合で締結日が決められてしまうことに、違和感を感じるはずです。
(3)後に契約書に押印する当事者が押印した日
それでは、後で押印する当事者が入力・記入するというのはどうでしょうか。Word上で作成する際には空欄にしておき、先押印者はそのまま2通の契約書を作成・製本。相手方に送付し、受け取った相手が押印日した日を2通の空欄に記入するというやり方です。
おそらく、一般的な企業の契約シーンで最も採用されているのがこの方法でしょう。Twitterで行われていた契約締結日に関するアンケートでも、この方法に投票が集まっていました。
また、この方法は印紙税の課税文書判定ルールにも合致します。国税庁のウェブサイトに掲示された「外国で作成される契約書」の印紙税課税判定の回答で、以下のように最後に調印したタイミングで課税文書が作成されたこととなる旨の見解が示されています。
ご質問の契約書は、双方署名押印等する方式の文書ですから、貴社が課税事項を記載し、これに署名押印した段階では、契約当事者の意思の合致を証明することにはならず、その契約当事者の残りのA社が署名等するときに課税文書が作成されたことになり、その作成場所は法施行地外ですから、結局、この契約書には印紙税法の適用はないことになります。
しかしその一方で、この方法にはリスクもあります。一つは、契約書が作成され一方当事者は押印している以上、後押印者が日付を自由に記入できてしまう点です。契約締結日と契約条件がリンクしている場合(「末尾記載の契約締結日をもって発効し」など)には、特にトラブルになりかねません。
また、よくあるのが契約締結日を入力しないままにしてしまう事故です。そもそも、Wordの不動文字で印刷された契約書に手書きで日付を入力するのは、誰でも気が引けるものです。そのため、押印者が入力をせずにそのまま保有してしまうケースを、実務でもかなり頻度高く見かけます。この場合も、1つ目と同様、トラブルの原因となります。
(4)基本的な契約条件に実質的に合意した日
契約書が作成される以上、それ以前に事業部門が相手方とビジネス上の基本条件について交渉を行い、「では、この条件でやりましょう。よろしくお願いします」と、実質的に合意した日が存在したはずです。
多くの場合は、会議の場でそれが口頭合意されていることでしょうし、リモートでの合意であればメールでそのような合意に達しているでしょう。その会議日やメール受信日を特定し、Wordで契約書を作成した段階で(空欄とせずに)その日付を不動文字で入力して、お互いに押印をするという考え方です。
もちろん、ビジネス交渉の場面では、契約書の一般条項に書かれるような細かい条件まで詰めているはずはありません。「最後の一文字まで調整し終わって初めて契約に合意したことになる」という厳格な立場に立つと、この考え方は受け入れられないわけですが、実際にビジネスを進めている事業部門の立場からは、一番納得感のある日付となるのではないでしょうか。
(5)全当事者の社内承認が完了した日
Twitterで@jank_2525さんよりご指摘をいただきました。
年度末は特に注意しますが、基本は「当事者双方社内承認日が揃った日」ですね。「押印日を締結日」とすると、送付や署名・押印対応で年度跨ぎが起きて税務・会計上問題となる(税務監査で指摘される)ケースがあるので、4Qで申請や相談がきた案件は予算都合なども鑑みて早期に時期を見積します。
確かに、(4)のように現場の実態に合わせに行き過ぎるのも問題となる場合があります。特に、企業規模が大きくなれば、会議・商談の出席者だけでは決裁権を持たず、社内稟議手続きをもって正式な契約締結となることも多いと思います。
そのような企業同士では、全当事者の社内承認取得報告を待って、最も後の日付を入力・記入し押印するフローを正とすべきでしょう。
契約実務書では後押印日が一般的とされている
冒頭にも書いたとおり、契約締結日の重要性にもかかわらず、この問題について整理された文献はあまり多くありません。
そうした少ない文献の中で、定評のある契約実務書から、この末尾の日付欄の考え方について述べている一節をピックアップしてみました。
「調印日はいつでもよいのですが、いつにしたらよいでしょうか」という相談があった場合には、①契約当事者が会して同時に調印する場合には、会した日、②それぞれの会社において別個に調印する場合には、後から調印した当事者が実際に調印した日、とするのが普通であると考えられます。(P59)
実際に契約書が作成された日を記載するのが原則である。後日の証明手段という観点からは、いつ契約書が作成されたかが重要な意味をもつ場合があり、記入漏れのないようにする必要がある。(P008)
契約は申込みと承諾の各意思表示が合致した時点で成立しますから、当事者が一堂に会して調印した場合には、その日付を表記しますし、そうでない場合には、後に署名(記名)押印した当事者がその日付を記入するということになります。各当事者が署名(記名)押印した日付を各別に記入するという方式によっても構いません。(P343)
このように、契約実務書においては、「一堂に介して合意した場合はその日」という理想論も述べつつ、国税庁の印紙税見解同様の「書面上最後に押印した日」を締結日欄に記入・入力する方法を、原則として採用しています。
まとめ
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書面作成完了日説
上記(3)で述べたようなリスクも承知しつつ、契約書に最後に押印をする当事者の押印日を採用する考え方 -
実質合意日説
都度丁寧に事業部門にヒアリングし、書面上ではない真の「申込と承諾」による合意がなされた日を採用する考え方 -
全当事者社内承認完了日説
全当事者の社内承認取得報告を待って、最も後の日付を採用する考え方
契約締結日の考え方を整理すると、この3つのいずれかに整理できそうです。
画像:ronnarong / PIXTA(ピクスタ)
(2019/02/01 7:30 橋詰改訂)