SaaS・サブスクリプションビジネスの利用規約—免責・責任限定条項とその限界

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入門編第3回は、SaaS・サブスク事業者の命綱となる免責および責任限定条項の定め方と、その法的効力の限界について整理します。

免責・責任限定条項はSaaS・サブスク事業者の命綱

SaaS・サブスクリプションサービスは、定型的・画一的なサービスを大量のユーザーに提供し、薄く広く利用料を徴収するビジネスモデルです。この特長により、ユーザー数がスケールすればするほど事業効率が向上し、利益率も高まるようになっています。

その一方で、サービスに何らかの事故やトラブルがひとたび発生すれば、大量のユーザーの事業に影響を与えてしまうことは避けられず、彼らから一斉に損害賠償を請求されるリスクもはらんでいます。

仮にBtoB SaaSで1,000社にサービスを提供していたとして、全ユーザーが数日間サービスを利用できない事故が起き、その間の営業損害を100万円ずつでも賠償することになれば、10億円の損失となります。SaaS事業者としての事業継続はおぼつかないでしょう。

このようなサービスの特性に鑑みると、前回検討したSLAの定め方と同様、サービスが契約どおり提供できなかった場合の責任を免除または一定範囲に限定する条項を利用規約に設けておく ことは、事業存続のための命綱となります。

以下、日米のSaaS・サブスクビジネスにおける免責・責任限定条項の水準について、比較検討してみることにします。

JISA「ASPサービスモデル利用規約」では「現実に発生した通常損害」かつ上限「平均月額料金1ヶ月分」に限定

日本のSaaS・サブスク業界における免責・責任限定条項の業界水準を示す文書として、一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)が定める「ASPサービスモデル利用規約」が参考になります。

このモデル利用規約第39条の条文を具体的に見てみましょう。

JISA「ASPサービスモデル利用規約」 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/legal/download/asp_policy_model.pdf

モデル利用規約では、事業者の債務不履行、不法行為その他さまざまな原因によって発生する損害のうち、「契約者に現実に発生した通常の損害」のみが責任の対象であって、かつ1ヶ月分のサービス料相当額を超えないもののみに損害賠償責任を限定 しています。

その上で、特別損害や逸失利益について責任を負わないこと(免責)も明記 しています。

この損害賠償責任の免責と限定の構造を図に表すと、以下のとおりとなります。

JISA「ASPサービスモデル利用規約」第39条の構造図解

この図を見ると、1ヶ月分のサービス利用料相当額しか責任を負わないという結論がどのような条文構造で導かれているのか、よくわかると思います。

Y Combinatorひな形では「12ヶ月分の支払済み利用料」が基準

一方、米国においてはどのような水準で免責・責任限定条項が定められているのでしょうか。このシリーズ入門編で注目する Y Combinator ひな形 TERMS & CONDITIONS の 8.LIMITATION OF LIABILITY を見ると、以下のように定められています。

NOTWITHSTANDING ANYTHING TO THE CONTRARY, EXCEPT FOR BODILY INJURY OF A PERSON, COMPANY AND ITS SUPPLIERS (snip), OFFICERS, AFFILIATES, REPRESENTATIVES, CONTRACTORS AND EMPLOYEES SHALL NOT BE RESPONSIBLE OR LIABLE WITH RESPECT TO ANY SUBJECT MATTER OF THIS AGREEMENT OR TERMS AND CONDITIONS RELATED THERETO UNDER ANY CONTRACT, NEGLIGENCE, STRICT LIABILITY OR OTHER THEORY:
(A) FOR ERROR OR INTERRUPTION OF USE OR FOR LOSS OR INACCURACY OR CORRUPTION OF DATA OR COST OF PROCUREMENT OF SUBSTITUTE GOODS, SERVICES OR TECHNOLOGY OR LOSS OF BUSINESS;
(B) FOR ANY INDIRECT, EXEMPLARY, INCIDENTAL, SPECIAL OR CONSEQUENTIAL DAMAGES;
(C) FOR ANY MATTER BEYOND COMPANY’S REASONABLE CONTROL; OR
(D) FOR ANY AMOUNTS THAT, TOGETHER WITH AMOUNTS ASSOCIATED WITH ALL OTHER CLAIMS, EXCEED THE FEES PAID BY CUSTOMER TO COMPANY FOR THE SERVICES UNDER THIS AGREEMENT IN THE 12 MONTHS PRIOR TO THE ACT THAT GAVE RISE TO THE LIABILITY, IN EACH CASE, WHETHER OR NOT COMPANY HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES.

太字を中心に追いかけて読んでみると、「会社(当社)は、間接的・例示的・偶発的・特別・結果的損害については責任を負わず、また顧客が会社(当社)に契約に基づき支払済みの過去12ヶ月分のサービス料を超える金額について、責任を負わない」こと等が記載されています。

特別損害を免責した上で、残る通常損害のうちの一部金額のみ責任を認めるという構造は、日本のモデル利用規約のそれと同じです。しかし、JISAのモデル利用規約が損害賠償の上限を1ヶ月分相当額に水準を置いていたのと比べると、12ヶ月分というのは、利用規約の有効性に争いが起きないよう配慮した上限設定 のようにも思われます。

米国では名目的損害賠償や懲罰的損害賠償制度があり、一般的に賠償額が高額化しがちであることも、高い水準設定の原因となっているものと考えられます。

なお、この12ヶ月分相当額を上限とすることが適切かすらも議論があり、ひな形の末尾を見ると、

[Note: Liability limitations are frequently heavily negotiated in larger deals. This starting point is very Company-favorable but may need to be scaled back with larger customers]

と、大口利用顧客とはこの条項について激しい交渉が予想され、損害賠償の上限をもっと高く変更する必要があるだろう、という趣旨の注意書きも添えられています。

BtoBのSaaS利用規約では免責・責任限定条項は原則有効

日本の裁判において、こうした利用規約による免責・責任限定条項は有効なのでしょうか?

確定的な判例が存在するわけではありませんが、レンタルサーバーサービスにおいて、サーバー障害が発生しRAIDシステムも機能しなかったことにより、プログラム・管理業務データ・ユーザー分析結果、購入履歴、代理店の顧客情報が消失し訴訟となった事例があります(東京地裁平成21年5月20日判決)。この判決で裁判所は、事業者の利用規約中に

と定める免責規定および責任限定規定があることや、プログラムなどのデジタル情報は容易に複製が可能であり、ユーザーらが消失防止策を講じることも容易であったとして、原告の損害賠償請求を棄却しました。

下級審では大筋がこのような考え方が採用されていることから、BtoBのSaaS利用規約では、事業者に故意・重過失のない限り、ほとんどの免責・責任限定条項は原則として有効に機能するものと考えられます。

ただし、法人間のシステムの開発業務等委託契約の紛争において、民法上の信義公平の原則の観点から 契約上定められていた責任限度額が低すぎるときは、契約の内容にかかわらず合理的な額を上限とすべき とした裁判例もあり(東京地判平成16年4月26日 平成14年(ワ)第19457号 損害賠償請求事件)、限度額の設定根拠には留意が必要です。

BtoCサブスクリプションサービスの利用規約では消費者契約法により免責・責任限定条項が無効となる場合あり

これに対し、個人向けのサブスクリプションサービスの利用規約では、消費者契約法による不当条項規制に注意が必要 です。

「一切の責任を負わない」と記載する全部免責パターンがよくある不当条項の典型例ですが、事業者の責任を一方的に免責する条項は消費者契約法8条および10条により無効となります。

利用規約の定めが無効となる典型例6パターンを表にまとめてみました。

消費者契約法により規制される条項 条文
(1)債務不履行→損害賠償責任を全部免除 8条1項1号
(2)故意・重過失による債務不履行→損害賠償を一部免除 8条1項2号
(3)不法行為→損害賠償責任を全部免除 8条1項3号
(4)故意・重過失による不法行為→損害賠償を一部免除 8条1項4号
(5)瑕疵担保責任を全部免除 8条1項5号
(6)軽過失→非常に低額の賠償上限を設定 10条

(6)について、「非常に低額」がどの程度であるかは、当該契約の内容にもよります。

モデル利用規約第39条の「平均月額料金1ヶ月分」に責任を限定する事例などは、消費者契約法が適用されないBtoB SaaSの場合は適法でも、BtoCのサブスクリプションサービスにおいては内容により論点となりうるでしょう。

改正民法による約款規制(不当条項規制)の影響

最後に、2020年4月より施行される改正民法の約款規制 についても、あわせて認識しておきましょう。

一般に、SaaS・サブスクリプションサービスの利用規約は、改正民法にいう定型約款に該当することが多いと考えられます。この点、改正民法548条の2第2項において、

2.前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

と、消費者契約法10条に類似した不当条項規制が設けられた点には、注意が必要です。というのも、消費者契約にのみ適用される消費者契約法とは異なり、民法の定型約款規制はBtoBの法人取引にも適用されうる からです。

BtoBの定型約款に本条不当条項規制の適用があったとしても、消費者契約法10条よりは無効になりにくいという説もありますが、今後の判例動向を慎重に見守るべきでしょう。

参考文献

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(橋詰)