本当にあったこわい契約書の話—秦周平・仲晃一・山中俊郎『契約書リーガルチェックのポイント』

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契約書の条文を適当に書いていたら、本当に裁判に発展し、判例にまでなってしまった…。そんな冷や汗ものの問題条文ばかりを集めた、契約書レビュー実務の指南書がありました。

書籍情報

契約書リーガルチェックのポイント
  • 著者:秦周平・仲晃一・山中俊郎/著
  • 出版社:新日本法規
  • 出版年月:20200402

架空のケースではなく実際の裁判例から契約書起因のトラブル事例を収集

何度か「こんな本あったらいいなあ」と期待したことがあったけれども、いつの間にか探すことすらあきらめていたような本と出会いました。

以下、はしがきより引用します。

本書は、契約書の文言の解釈が実際に問題となった過去の判例や事例を、弁護士と弁理士が共同で検索し、これを解説することを通じて、契約書の文言をどのように改善すればよいかを紹介しています。また、税理士が、契約書全般並びに各種契約類型において特有の税務上の問題をコラムとして紹介しています。

本書は、判例データベース等から契約書の文言の書きぶりが原因で紛争となった実例を探し出し

第1章では、どの契約書にも記載される一般条項ごと
第2章では、売買・賃貸借・請負・業務委託・金銭消費貸借・雇用・株式譲渡といった契約類型ごと

それぞれ 体系的に整理する という作業を根気強くやり遂げた、契約書をレビューする担当者なら読んでおいて損のない一冊です。

秦周平・仲晃一・山中俊郎『契約書リーガルチェックのポイント』目次

類似のコンセプトの書籍として、加藤新太郎『判例法理から読み解く企業間取引訴訟』(第一法規, 2017)がありますが、ここまで契約書レビューという視点に寄せた判例解説はなかったと思いますし、むしろこれまでの契約実務書がなぜこの作業にフォーカスしてこなかったのかを問うているようにも思われます。

問題点の抽出に加え改善条文例も提案

各項目のページ構成もパッと見やすい・調べやすい ものとなっています。一般に、長文で一般人には読みやすいとは決して言えない判例上の契約文言に関する紛争をたんに並べて読ませるのではなく、

に整理し、一般化・抽象化しています。

つづく解説では、「こうした文言で実際にトラブルになった裁判例がこれで、こんな論点が争われて判決に至ったんですよ」と、判決文を読み慣れていない一般の読者でもわかるレベル感で説明があります。

秦周平・仲晃一・山中俊郎『契約書リーガルチェックのポイント』P160-161

上記は、業務委託契約類型の中でも、Webサービスの利用規約などで設定する「変更権留保条項」の解説。法務部の多くの皆さんが、こうした利用規約を作ったことが一度ならずあるはずですし、その度にいかにもトラブルになりそうな危ない条文だなあと感じていたはずです。

実際に裁判例まで調べて検討し、文言を作成していた方は、果たしてどのくらいいらっしゃるでしょうか。

契約書に関する税務コラムをアクセントに

もう一つ本書のユニークな部分が、編著者に税理士を招き、契約書作成における税務上の留意点について、途中途中のページにコラムとして加えている点 です。

秦周平・仲晃一・山中俊郎『契約書リーガルチェックのポイント』P286

非上場株式を保有し他社に譲渡するケースなどは、近年のベンチャー投資・CVCブームにおいてしばしば発生しているはずですし、それ以外にも、固定資産の売買契約での収益認識のタイミング、賃貸借契約での借地権の認定課税・家賃の一括払いと損金算入の可否など、幅広い税務ノウハウが披露されています。

冷静に考えると、「実際に紛争の火種になった条項例をまとめる」という本書のコンセプトとおよそ関係はなく、唐突さは否めないのですが、税務に疎いまま契約書を書いていると後々収益に直接の悪影響を与えるトラブルにつながるという意味では、知っておいて損はない知識でしょう。

新型コロナ禍の2020年4月に刊行され危うく気づかないままになりそうでしたが、久しぶりに、掘り出しものの本を見つけました。

(橋詰)

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