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法務省による不動産登記・商業登記のデジタル化推進計画

法務省による不動産登記・商業登記のデジタル化推進計画

これまで、デジタル化にはあまり積極的ではないと思われていた法務省が、ついにその重い腰を上げて不動産登記・商業登記のデジタル化へと舵を切り始めました。令和4年度予算案を見ながら、法務省の取り組みを分析します。

法務省が不動産登記・商業登記のデジタル化を加速する予算を計上

令和3年12月末、法務省ウェブサイトに令和4年度予算(案)の速報が掲示されました。

まず最初に、会計区分ごとの予算金額内訳および昨年対比が一覧化されています。ここでは、デジタル庁が所管する予算額4,700億円のうち、約600億円を法務省関連の物件費(情報システム経費)として一括計上している点に注目です。昨年度の物件費が420億円であったことに鑑みると、全体では1.4倍近くの増額要求となります。

この予算をもって取り組む主要施策の概要についても開示されています。特に注目したいのは、「法務行政における質の向上及び業務の効率化を図るためのデジタル化の推進」に、昨年度の59.3億円から一桁増額した504億円を充てているという点です。

たとえば以下のポンチ絵では、

  1. Webブラウザのみで登記申請を可能とする取り組み
  2. 登記情報提供サービスを、スマートフォンで利用可能とする取り組み

などが具体的に言及されています。

1については、お世辞にも使いやすいとは言えなかった法務省指定の「申請用総合ソフト」が不要となり、2については、これまでWindowsPCのみが推奨指定されていた(タブレット等の利用は明確に保証対象外とされていた)点を改善。特に一般ユーザーにとって、メリットの多い投資となることが期待できます。

 

クラウド型電子署名サービスの普及を進めた「名脇役」としての法務省

予算額の昨年との対比だけを見ると、「これまでデジタル化に対して消極的だった省庁」と思われてしまいがちな法務省。しかし、実は2020年以降のコロナ禍において、法務省こそがいち早くデジタル化実現のための行動を起こしていた省庁であったことも事実です。

以下、2020年以降に法務省が取り組んだデジタル化施策のうち、象徴的な2つの取り組みを振り返ってみます。

(1)取締役会議事録作成のクラウド型電子署名利用を解釈通知により推進(2020年5月)

コロナ禍の脱ハンコとデジタル化を加速したのが、取締役会議事録の電子化に利用できる電子署名についての解釈通知です。

会社法の定めにより、取締役会に出席した取締役及び監査役は、取締役会議事録に署名又は記名押印をしなければなりません(会社法369条3項)。そして、この「署名又は記名押印」を電子化するには、「電子署名」が必要となります(同条4項,会社法施行規則225条1項6号,2項)。

ところが、これまでこの電子署名は、商業登記電子証明書を利用した電子署名等の当事者署名型による必要があると考えられていました。

そこでは法務省は、クラウドサインのような事業者署名型のクラウド型電子署名サービスを利用した電子署名であっても、この要件を満たすという解釈を、2020年5月の段階でいち早く経済団体に通知しました(関連記事:取締役会議事録もクラウド型電子署名で—2020年5月29日付法務省新解釈の解説)。

この解釈通知により、特に社外取締役を多く抱えているような大手企業において、脱ハンコへの取り組みが具体的に動き出しました。「契約書の電子署名化までには至っていなくても、取締役会議事録の電子署名化を先行導入でき、助かっている」という声もたくさんいただくようになっています。

(2)商業登記手続きのクラウド型電子署名利用を商業登記規則改正により推進(2020年6月および2021年2月)

さらに、クラウド型電子署名の普及を促進したもう一つの法務省の取り組みが、商業登記手続きの電子署名利用促進策です。

従来、書面ではなくPDFファイル等の電磁的記録で登記添付書面を作成した場合、商業登記電子証明書等を利用した、いわゆる当事者署名型の電子署名が必要でした(改正前商業登記規則36条5項)。これは大変にハードルが高く、商業登記の電子化を事実上阻むための規則だったと言って過言ではありませんでした。

そこで法務省は、2020年6月15日、および2021年2月15日の二段階に分けて商業登記規則を改正(改正前商業登記規則36条5項を削除)し、商業登記に利用できる電子証明書の範囲を拡大。クラウドサイン等指定されたクラウド型電子署名サービスを利用したPDFファイルを添付した場合でも、要件を満たせば電磁的記録として商業登記申請を行えるようにしました。

この改正については、特に商業登記実務に携わる司法書士の皆様から歓迎の声をいただいており、クラウドサインも共著に参加した書籍でも、そのメリットについて詳しく解説しています(関連記事:『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A—電子署名・クラウドサインの活用法』を上梓しました)。

以上のとおり、法務省はその一般的なイメージに反し、どの省庁よりも行政手続きのデジタル化に積極的かつスピーディに取り組んだ、日本のデジタル化の「名脇役」と言うべき存在です。

法人代表者を公的に認証する商業登記電子署名もクラウド化へ

令和4年度の予算案には盛り込まれませんでしたが、デジタル庁とともに電子署名法を共管する法務省では、さらに野心的な取り組みも検討しています。その象徴的な取り組みの一つが、これまでICカード等ローカル型でしか認められてこなかった商業登記電子証明書を利用した電子署名のクラウド化です。

デジタル庁が公表した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」76ページにも、

電子署名、電子委任状、商業登記電子証明書については、今後、活用の機会が増加し、多様化すると考えられることから、普及を更に強力に推進する。商業登記電子証明書について、法人の本人確認をデジタル完結させる手段として一般的に利用されるよう広報活動を行う。令和3年度(2021 年度)中に、利便性の向上策や無償化の可否を検討する。あわせて、クラウド化に向けた検討を行う。また、費用対効果も踏まえつつ、令和7年度(2025 年度)までの可能な限り早期に新規システムの運用開始を目指す。

と、期限付きで検討を進めることが明記されています。

もしこれが実現すれば、民間の認証局が法人代表者を自然人ベースで「私的に」認証した電子署名ではなく、法務局が法人代表者の資格証明付きで代表者を「公的に」認証する初めてのクラウド型電子署名となり、法人の代表者印を真の意味で置き換えうるものとなります。

政府ITシステムのクラウドネイティブ化が進められる中、登記をはじめとする「法的に重たい手続きのデジタル化」で法務省が先陣を切れば、これに消極的な他省庁も重い腰を上げ、オールクラウド化が現実味を帯びてきます。

(文:橋詰)

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