その変更、覚書で大丈夫?覚書の締結が必要なケースと契約書との使い分けを解説

取引先との間で「単価を少しだけ変更したい」「契約期間を半年延長したい」といった状況が生じた際、「わざわざ契約書を最初から作り直す(巻き直す)べきか、それとも『覚書』で済ませて良いのか」と判断に迷う法務・営業担当者は少なくありません。
実は、この判断を誤ると、業務が非効率になるだけでなく、印紙税の過払いや、最悪の場合は申告漏れ(過怠税の対象)とみなされるリスクもあります。
本記事では「覚書(おぼえがき)」と「契約書」の法的な効力の違いや、実務において覚書を選択すべき具体的な3つのケース、そして絶対に知っておくべき印紙税や法的リスクについて解説します。
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法的視点で見る「覚書」と「契約書」の違い
実務では「新規の取引は契約書」「ちょっとした変更は覚書」という使い分けがされる傾向がありますが、法的な観点から見ると「覚書」と「契約書」の間に効力の優劣はありません。
民法上の原則:書面のタイトルで法的効力は変わらない
日本の民法第522条(契約の成立と方式)では、契約は当事者双方の「申込み」と「承諾」の意思表示が合致すれば成立すると定められています(契約自由の原則)。
つまり、文書の表題(タイトル)が「契約書」であろうと「覚書」「念書」「合意書」であろうと、そこに権利義務に関する合意内容が記載され、双方が合意(署名・捺印)していれば、法的には全く同じ「契約」として強い拘束力を持ちます。
では、なぜ実務ではわざわざ「覚書」という名称を使うのでしょうか。
それは、心理的なハードルを下げる目的や、元の契約(原契約)が存在することを前提とした「付随的・補足的な合意」であることを明示するためです。
なお、覚書についてもう少し詳しく知りたい、必須項目などの基本的な書き方を知りたいという方は、下記の記事をご覧ください。
実務で「覚書」を締結すべき具体的な3つのケース
覚書と契約書の法的効力が同じであることから、実務上の利便性やコストを考慮してそれぞれを使い分ける必要があります。以下のようなケースでは、契約書の巻き直しではなく「覚書」の締結が推奨されます。
ケース①:既存契約の「一部条件」のみを変更する場合
最も多いのが、既に締結している契約の一部を変更するケースです。
- 具体例
取引単価の変更、納期の延長、支払いサイトの変更など。 - 覚書にすべき理由
数十ページに及ぶ基本契約書をすべて作り直し、再度法務部門のリーガルチェックを通すのは非効率です。変更したい条項だけをピンポイントで上書きする覚書を用いれば、素早くスムーズに合意形成ができます。
ケース②:基本契約に基づく「個別の合意」を行う場合
大枠のルールを定めた「基本契約」が存在し、特定のプロジェクトや案件ごとに特殊な条件を追加したいケースです。
- 具体例
業務委託基本契約にはない「特定の機密情報の取り扱いルール」を追加する、システム開発におけるフェーズごとの個別要件を定めるなど。 - 覚書にすべき理由
基本契約自体を改定すると他の全取引に影響が及びますが、覚書であれば「本件のプロジェクトに限り適用する」といった柔軟な対応が可能です。
ケース③:正式な契約締結前の「基本合意」を記録する場合
M&A(企業の合併・買収)や大規模な業務提携などにおいて、最終的な契約を結ぶ前段階で、現時点での合意事項を確認するケースです。
- 具体例
基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)や意向表明書(LOI:Letter of Intent)の締結。 - 覚書にすべき理由
交渉の途中経過を記録し、お互いの認識のズレを防ぐために用います。なお、「覚書」という言葉は、ケース①のような法的拘束力を持つ変更契約を指すこともあれば、このケースのように法的拘束力を持たない合意(MOU)を指すこともあります。後者の場合、あえて「本覚書は法的拘束力を持たない」という条項(ノンバインディング条項/法的拘束力を否定する条項)を入れる特殊な使い方がされることもあります。
「覚書」と「新規契約書の巻き直し」はどちらを選ぶべき?
自社の状況において、「覚書で済ませるべきか、契約書を新しく作り直すべきか」迷った際は、以下の紙の契約書における判断基準を参考にしてください。
| 「覚書」で対応すべき場合 | 「新規契約書」を巻き直すべき場合 | |
| 変更の範囲 | 単価や日付など、数箇所の 条項のみの変更 |
スキーム全体の変更や、 半数以上の条項の改定 |
| 書類管理のしやすさ | 元の契約書(原契約)と セットでの保管・参照が必要 |
1通の文書で完結するため、 管理や参照が容易 |
| 印紙税のコスト |
変更内容によっては非課税、 または少額で済む場合がある |
新規契約となるため、 所定の印紙税が全額かかる |
| 取引のフェーズ | 進行中の取引における 微調整やトラブル対応 |
取引の開始時、または契約期間満了 に伴う条件の刷新 |
電子契約を利用する場合は「完全巻き直し」も選択肢に
上記は主に「紙の契約」を前提とした判断基準ですが、近年普及しているクラウドサインのような「電子契約サービス」を利用する場合は事情が少し変わります。
電子契約では印紙代が一切かからず、印刷や製本の手間もないため、覚書にしても問題はありませんが、契約書全体を巻き直す「コストや手間を抑えるために覚書にする」という本来の理由が薄れます。
そのため、あえて覚書を作らず、最新の条件を反映した契約書で「完全に巻き直す(再締結する)」という選択肢もあります。巻き直しをしてしまえば、原契約と覚書をセットで紐付け管理する手間がなくなり、1つの最新ファイルだけを見れば済むため、管理が楽になります。
ただし、契約書を全文巻き直す場合には、「変更箇所だけでなく、契約書全体に意図しない修正が加わっていないか」を相手方の法務部門が最初からリーガルチェックし直す手間が発生する可能性があります。
「契約書自体が数ページ程度であれば、相手方の手間は少なくなると考えられるため、巻き直しをする」「原契約が重く、手を加えたくない・加えられないため覚書にする」などのように自社の管理のしやすさと、相手方の確認の手間のバランスを見て判断しましょう。
知っておくべき「覚書」の法的リスクと注意点

覚書は手軽に作成できる反面、作成方法を誤ると後から法務トラブルや税務上のペナルティに発展するリスクがあります。特に以下の2点には細心の注意を払ってください。
リスク①:元の契約書(原契約)との優先関係の不明確さなどによるトラブル
覚書で一部の条件を変更した場合、「どの原契約(元の契約書)に対する変更なのか」を正確に特定することは基本的かつ重要なポイントです。
「いつ、誰と誰が結んだ、どの契約書か」が書面自体に記載されていないと、合意しても法的な効力が担保できません。
また、「原契約」と「覚書」の内容が矛盾してしまうことも発生する可能性があります。これを防ぐために、覚書には必ず以下の文言を記載し、優先関係を明確にしましょう。
覚書の冒頭(前文)には、以下の3点を明記し、対象となる原契約を特定するようにしましょう。
- 原契約の名称(例:業務委託基本契約書)
- 原契約の締結日(例:202X年X月X日)
- 当事者名(例:株式会社Aと株式会社B)
そのうえで、一部の条件を変更したことによって「元の契約書」と「覚書」の内容が矛盾してしまうトラブルを防ぐため、以下の文言を記載し、優先関係を明確にしましょう。
- 「本覚書と原契約の定めに抵触(矛盾)が生じた場合は、本覚書の定めが優先して適用されるものとする。」
- 「本覚書に定めのない事項については、原契約の定めに従うものとする。」
リスク②:「印紙税」の判断ミスによる過怠税徴収のリスク
「覚書というタイトルだから収入印紙は不要だろう」という思い込みは非常に危険です。印紙税法では、文書の名称ではなく「実質的な内容」で課税文書に該当するかを判断します。
特に、契約金額の変更を伴う覚書(変更契約書)は取扱いに注意が必要です。
- 増額の覚書
増額分に対して印紙税が課税されます。(例:100万円を150万円に変更する覚書の場合、差額の50万円に対する印紙税が必要) - 減額の覚書
契約金額を減額する内容の覚書は、原則として「記載金額のない課税文書(第2号文書または第7号文書など)」として扱われ、一律の印紙税(200円など)が必要になるケースが多いです。
印紙を貼り忘れると、本来の税額の3倍にあたる「過怠税」が徴収されます。詳しくは国税庁のガイドラインを確認するか、専門家に相談してください。
実務の効率を最大化するなら「電子契約の活用」を
このように、覚書の締結には「原契約とのセット管理」や「複雑な印紙税の判断」といった実務上のハードルが伴います。
こうした課題を一挙に解決する手段として、近年大企業から中小企業まで浸透しつつあるのがクラウドサインのような電子契約サービスを用いた覚書の締結です。
メリット①:収入印紙代が不要になる
前述した複雑な印紙税の計算や、印紙の購入・貼付の手間は、電子契約を利用することで完全に不要になります。
日本の印紙税法は「紙の文書の作成(交付)」に対して課税される仕組みであるため、PDF等の電子データで合意(電子署名)した覚書は、課税対象外となり印紙税が一切かかりません。 複雑な印紙税の計算や、印紙の購入・貼付の手間を省くことができ、金額変更の覚書などを頻繁に交わす企業にとって、確実なコスト削減につながります。
メリット②:「原契約」と「覚書」をセットで管理しやすくなる
紙の文書による管理では、締結時期が異なることから「原契約は数年前のバインダーにあり、覚書は直近のファイルに保管されている」「Excelの管理台帳に覚書の存在が追記されておらず、担当者が変更前の古い条件を参照してしまう」といった問題が起きることもあります。
クラウドサインを用いた電子契約であれば、以下のような方法で「最新の取引条件がどれかわからない」というリスクを回避できます。
- 「書類情報項目」でのURL管理
クラウドサイン単体での利用の場合、「書類情報項目」の欄に原契約のURLを貼付しておくことで、検索性を高め、原契約との紐付けを運用でカバーすることが可能です。 - 「 クラウドサイン カンリ」による「親子関係」の自動紐付け
契約管理サービス「クラウドサイン カンリ」を導入している場合は、AIが書面上の社名や契約書名を参照し、原契約と覚書を自動的に紐付ける(親子関係を持たせる)ことが可能です。

「ほんの一部を変更したいだけなのに、印刷・製本・郵送・印紙の貼付に何日もかかっている」、「原契約と覚書が別々の場所に保管されていて、いざという時に『最新の取引条件』がすぐに確認できない」などのお悩みがある担当者の方は、これを機に覚書の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、クラウドサインでは、契約締結のスピードアップとコスト削減に向けた第一歩として、無料のサービス説明資料をご用意しています。
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弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部
