印鑑の法律知識 —契約書押印業務における頻出用語まとめ

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印章・判子・印影の意義や押印・署名・電子署名の法的効果の違いなど、契約書の締結や証拠化に関連して正確に把握しておきたい法律知識をまとめました。

印鑑に関する様々な法律用語とその定義

まず最初に、印鑑にまつわるさまざまな法律用語の定義 について、表にまとめながら分けて整理をしてみましょう。

印鑑にまつわるさまざまな法律用語の定義を条文・判例ベースで整理

(1)印鑑・印章・判子・印影

「印鑑」という語の正しい用法を理解するためには、まず「印章」「印影」の正しい定義をおさえておく必要があります。

用語 読み方 定義
印章 いんしょう 印材を成型し文字を刻んで作成した押印に用いる道具本体
判子 はんこ 印章の通称
印影 いんえい 紙に印章を押すことで付着する跡
印鑑 いんかん 取引先等に提出され相手方が照合に用いる印影

この表の定義から、「印章(判子)」を用いて押印した結果が印影 であり、「印鑑」はその照合に用いる印影 を指す、という関係にあることがわかります。

日常生活では、印章・判子のことを「印鑑」と呼んでいるケースが多いと思われます。本来はこうした厳密な使い分けがなされ、法的には印章による「印影」が重要な意味を持つ語ということになります。

印章の語は、刑法の私印偽造罪の条文や民法の秘密証書遺言の条文などに登場しますが、通称としての判子は法令では使われていません。

第百六十七条 行使の目的で、他人の印章又は署名を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。
2 他人の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。

印鑑は多数の法令に登場します。最も古いものとしては公証人法での使用例が挙げられます。

第二十一条 公証人ハ其ノ職印ノ印鑑ニ氏名ヲ自署シ之ヲ其ノ所属スル法務局又ハ地方法務局ニ差出スヘシ
2 公証人前項ノ印鑑ヲ差出ササル間ハ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス

印影については、民事訴訟法第229条ほかで用いられています。

第二百二十九条 文書の成立の真否は、筆跡又は印影の対照によっても、証明することができる。

(2)実印・認印

次に、契約を締結する場面でしばしば遭遇する実印と認印の定義を確認します。

用語 読み方 定義
実印 じついん 法人設立時に法務局に印影を提出し、印鑑証明の交付を受けることができる印章の通称
認印 みとめいん 実印以外の、印鑑証明の交付を受けることができない印章の通称

日本で株式会社を設立する際には必ず登記が必要であり、その登記の際には法令により代表者の印鑑の提出が必要となります(商業登記法第20条および商業登記規則第9条)。この 会社設立登記の際に提出する印が実印 となります。

一方、実印とは別に印鑑証明の提出を求められないような 一般的な書類に押印するために、登記所等への提出がなされていない印鑑も通常作成します。これが認印 と呼ばれるものです。

このように考えると、実印と認印には大きな違いがあるように見えるのですが、民法および民事訴訟法上は、認印を重要な書類に押印しても有効であり、ともに証拠としても通用します。つまり 実印も認印も、その法的効果に違いはない のです。

それでもなお実印を求める取引先がいるのは、

ことが期待できるためです。

(3)押印・捺印

ここまでの説明ですでに何度か使っている「押印」は、文字通り印を押すことを意味します。これに似た用語で、「捺印」を見聞きしたことがある方も多いと思います。

用語 読み方 定義
押印 おういん 作成者の意思により作成された書類であることを証するため、作成者の印を押す行為
捺印 なついん 古くからある法令で用いられる「押印」の旧来の言い回し

押印と捺印は同じ意味 です。現行法令では「押印」を用いる ことが多くなっています。

ネットで「捺印」をキーワード検索すると、「署名と一緒に印を押すことを署名捺印、スタンプやプリンターなどの記名と一緒に印を押すことを記名押印」と説明している記事を数多く見かけますが、これは誤りであり、「署名押印」「記名捺印」と言っても差し支えありません。

押印の語は600件以上の多数の法令に用いられています。以下は民法470条より。

第四百七十条 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。

他方、捺印の語は最近の法令では使われなくなっており、手形法など一部の法令に残っているのみです。

第八十二条 本法ニ於テ署名トアルハ記名捺印ヲ含ム

(4)契印・割印・消印・捨印

その他、特に契約書やそれに関連する書類で用いられる印に関する用語について、主なものを4つ確認します。

用語 読み方 定義
契印 けいいん 書類の各ページが後で差し替え・抜き取りされないよう、書類の綴り目に押す印
割印 わりいん 複数の書類を作成する際、内容が関連することを証明するため、書類をまたいで押す印
消印 けしいん 書類に収入印紙を貼付して印紙税を納付する際に、印紙の再使用を防止するために押す印
捨印 すていん 後日訂正箇所が見つかったときに訂正印を押す手間を省くため、あらかじめ欄外に押す印

このうち契印・割印はよく混同・誤用されるため、しっかりと使い分けができるよう違いを理解しておきたい語句です(参考記事:契約書の製本(袋とじ)の方法と契印のルール)。

捨印については、銀行等金融機関に提出する書類で求められることがありますが、相手方が任意に書類を訂正できてしまうことになるため、拒絶すべき印と言ってよいでしょう。

契印・割印の語句は、民法施行法(明治三十一年法律第十一号)第6条2項に登場しています。

第六条 私署証書ニ確定日附ヲ附スルコトヲ登記所又ハ公証人役場ニ請求スル者アルトキハ登記官又ハ公証人ハ確定日附簿ニ署名者ノ氏名又ハ其一人ノ氏名ニ外何名ト附記シタルモノ及ヒ件名ヲ記載シ其証書ニ登簿番号ヲ記入シ帳簿及ヒ証書ニ日附アル印章ヲ押捺シ且其印章ヲ以テ帳簿ト証書トニ 割印 ヲ為スコトヲ要ス
2 証書カ数紙ヨリ成レル場合ニ於テハ前項ニ掲ケタル印章ヲ以テ毎紙ノ綴目又ハ継目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス

また消印については、印紙税法8条2項に登場します。

第八条 課税文書の作成者は、次条から第十二条までの規定の適用を受ける場合を除き、当該課税文書に課されるべき印紙税に相当する金額の印紙(以下「相当印紙」という。)を、当該課税文書の作成の時までに、当該課税文書にはり付ける方法により、印紙税を納付しなければならない。
2 課税文書の作成者は、前項の規定により当該課税文書に印紙をはり付ける場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない

捨印は、法令中でも使用されている事例はありません。

印鑑の提出と証明

語句の定義の確認でみたように、印鑑とは、取引先等に提出され相手方が照合に用いる印影のことをいいます。

ところで、取引先としては、契約書等に押印された印鑑が本当にその会社の代表者によるものかを確認したいはずです。この目的で、実印による押印とともに取引先から求められるものが、印鑑証明書 です。

印鑑証明書は登記所(法務局)で発行されます。以下では、この印鑑証明書に関する実務についてまとめます。

登記所(法務局)への印鑑提出と印鑑証明書実務

(1)会社印鑑の提出(登録)方法

法人の印鑑登録義務については、商業登記法第20条および商業登記規則第9条が根拠法となります。なお法人における印鑑登録は、正式には印鑑の「提出」という表現が使われます。

商業登記法
第二十条 登記の申請書に押印すべき者は、あらかじめ、その 印鑑を登記所に提出 しなければならない。改印したときも、同様とする。

商業登記規則
第九条 印鑑の提出は、当該印鑑を明らかにした書面をもつてしなければならない。この場合においては、次の各号に掲げる印鑑を提出する者は、その書面にそれぞれ当該各号に定める事項(以下「印鑑届出事項」という。)のほか、氏名、住所、年月日及び登記所の表示を記載し、押印しなければならない。
(中略)
四 会社の代表者(当該代表者が法人である場合にあつては、その職務を行うべき者)
  商号、本店、資格、氏名及び出生の年月日(当該代表者が法人である場合にあつては、氏名に代え、当該法人の商号又は名称及び本店又は主たる事務所並びにその職務を行うべき者の氏名)
2 前項の書面には、商号使用者にあつては、商号をも記載しなければならない。
3 印鑑の大きさは、辺の長さが一センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが三センチメートルの正方形に収まらないものであつてはならない。
4 印鑑は、照合に適するものでなければならない。

この定めにより、法人が設立登記を申請するにあたっては、会社の代表者が「あらかじめ」印鑑を登記所に提出することが義務づけられています。これにより、登記された日本の法人はもれなく実印を作成し、提出する必要があることになります。

(2)印鑑証明書の請求と取得

このようにして 印鑑が提出されると、その印影が確かに代表者と紐づいたものであることを証する印鑑証明書を登記所(各地方自治体の法務局)で発行してもらえる ようになります(商業登記法第12条)。

第十二条 第二十条の規定により印鑑を登記所に提出した者又は支配人(中略)でその印鑑を登記所に提出した者は、手数料を納付して、その 印鑑の証明書の交付を請求することができる

登記所が発行する印鑑カードを作成し手数料としての収入印紙を貼付して請求することにより、管轄の登記所はもちろん、全国の登記所どこでも印鑑証明書を請求することができます。

印鑑証明書の取得には申請書・印鑑カード・収入印紙(手数料)が必要

(3)印鑑証明書の有効期限

印鑑証明書には、本来、有効期限は定められていません。しかし、多くの実印を使った取引で、3ヶ月以内に発行された印鑑証明書の提出を求められるケースに遭遇します。

この理由としては、不動産の所有権移転登記等に添付すべき印鑑証明書の期限が、法令により「作成後3ヶ月以内のもの」と定められていることに影響されている ものと推測できます。以下は不動産登記令第16条の抜粋です。

第十六条 申請人又はその代表者若しくは代理人は、法務省令で定める場合を除き、申請情報を記載した書面に記名押印しなければならない。
2 前項の場合において、申請情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書(住所地の市町村長(特別区の区長を含むものとし、地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、市長又は区長若しくは総合区長とする。次条第一項において同じ。)又は登記官が作成するものに限る。以下同じ。)を添付しなければならない。
3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない

(4)印鑑の照合方法

印鑑照合とは、相手方が書類に押した印影が本物かどうかを、本物であると確認済みの印影と照らし合わせる作業 を言います。この作業のために、先ほどの印鑑証明書が必要となるわけです。

なお、印鑑照合を具体的にどのような方法で行うべきかについて、折り曲げて重ねて照合したり拡大鏡等の機械を用いる必要はなく、二つを並べて比較する平面照合でよいとした最高裁判例 があります(最判昭46・6・10民集25巻4号492頁。参考記事:契約書の印鑑照合に関する法的義務)。

銀行が自店を支払場所とする手形について、真実取引先の振り出した手形であるかどうかを確認するため、届出印鑑の印影と当該手形上の印影とを照合するにあたつては、特段の事情のないかぎり、折り重ねによる照合や拡大鏡等による照合をするまでの必要はなく、前記のような 肉眼によるいわゆる平面照合の方法をもつてすれば足りる(後略)

印鑑の法的効果

印鑑を押印することの法的効果を規定しているのは、民事訴訟法第228条4項 の条文です。

第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
(2項〜3項省略)
4 私文書は、本人 又はその代理人 の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する

公務員でない一般の個人・法人が作成した文書を「私文書」と言います。たとえば、秘密保持義務について取引先と合意した契約書も、私文書の一つです。

こうした 文書に押印があれば、民事訴訟法上はその文書が印影の一致する印章を保有している本人の意思によって作成されたのだろうという推定効が働く こととなります(最判昭和39年5月12日民集18巻4号597頁ほか。参考記事:電子契約において「印影」が法的に不要なのはなぜか)。

この推定効を覆すには、反対当事者がそれに足るだけの証拠を出して反論しなければならなくなるため、「言った・言わない」の水かけ論とならずに済むという効果があります。

紙ベースの世界では、民事訴訟法第228条4項に基づく推定効が重視されている

押印と署名

さきほど確認した民事訴訟法 第228条4項に「本人(又はその代理人)の署名又は押印があるときは」とあったとおり、私文書の真正な成立を証するもう一つの手段に「署名」 があります。いわゆる手書きで氏名をサインする方法です。

日本で契約書等の法的な文書を作成する場合、

のいずれかを求めることがほとんどで、署名のみ・押印なしというケースはほとんどありません。これは日本の根強い慣習に基づくものですが、条文上「署名又は押印」と併記されているとおり、署名には本来それだけで押印とまったく同じ法的効力 が認められています。

ただし、登記所で印鑑証明書が発行できる印鑑と異なり、署名が本人のものであることを証明する手段が乏しいのは事実です。この点、外国企業とサインにより重要な契約をする場合に対応するために、公証人によるサイン証明という制度があります(参考記事:印鑑証明書を確認する私たちがサイン証明書を確認しないのはなぜか)。

署名はペン一つで作成できる一方、印鑑証明書のような簡便な証明方法に欠ける

署名と電子署名

さらに違いが分かりにくい、混乱を生む法律用語として「電子署名」があります。

電子の署名と聞くと、電子タブレットに手書きして作成するサインのようなイメージに捉えられますが、実はそうではありません。日本における「電子署名」は、電子署名法によって以下の通り定義されています(参考記事:電子署名法とは)。

第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

かんたんにまとめると、「電子署名」とは、電子ファイルに対し、本人が行ったことを示し改ざんが行われていないかを確認できる措置 となります。「道具を使って電子文書に証を加える」という点に注目すると、署名とは名ばかりで、デジタル化された印鑑に近いのです。

印鑑を電磁的かつセキュアに行えるようにしたものが電子署名

紙文書は電子文書へ、そして印鑑は電子署名へ

以上、印鑑の基礎知識と、これに関連する署名や電子署名について、法令上の定義を確認しました。

紙にペンで手書きをすることで文書を作成していた時代が終わり、ワードプロセッサ・PC等デジタル機器を使って文書を作成するようになってしばらく経ちましたが、記録・閲覧・保存に便利な媒体としての「紙」と、それを簡単に証拠化できる証拠作成ツールとしての「印鑑」は、現代でも根強く使われています。

しかし近年、インターネットというインフラと、PC・スマートフォン・タブレット等の端末が国民のすみずみにまで普及した現代、媒体としての「紙」に情報を出力する必要性は加速度的に減っていき、「電子ファイル」のまま取り扱われるようになってきています。電子ファイルに押印することはできない以上、これに代わるなんらかの手段が必要です。

情報を記録・閲覧・保存する媒体が紙から電子ファイルへと移行する流れがこのまま進むならば、印鑑もまた電子署名のような新しい証拠作成ツールへと置き換えられていくであろう ことは、想像に難くありません。

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(橋詰)