【弁護士監修テンプレートあり】労働者派遣基本契約書とは?主な記載事項・チェックポイント・収入印紙の要否などを解説

企業間で労働者の派遣と受け入れを行う際には「労働者派遣基本契約書」を締結します。派遣元・派遣先間のトラブルを防ぐため、適切な内容の労働者派遣基本契約書を作成してください。
本記事では労働者派遣基本契約書について、主な記載事項やチェックポイント、収入印紙の要否などを弁護士が解説します。
目次
労働者派遣基本契約書とは
「労働者派遣基本契約」とは、企業間で労働者の派遣と受け入れを行う際に締結する契約です。「労働者派遣基本契約書」は、労働者派遣基本契約の内容を記載した書面に当たります。
労働者を派遣する側は「派遣元事業主」、派遣された労働者を受け入れる側は「派遣先」などと呼ばれます。最初に派遣元事業主と派遣先の間で労働者派遣基本契約を締結し、実際に労働者を派遣するたびに個別契約を締結するのが一般的です。
基本契約書と個別契約書の関係
労働者派遣基本契約は、派遣元事業主と派遣先の間で、労働者派遣に共通して適用するルールを定めるものです。これに対して、個々の労働者の職種や労働条件などは「個別契約」によって定めます。
個別契約には、原則として基本契約の内容も適用されます。ただし、基本契約と個別契約の内容が矛盾抵触する場合は、個別契約を優先するのが一般的です。
労働者派遣基本契約書の主な記載事項|例文も紹介
労働者派遣基本契約書に記載すべき主な事項は、以下のとおりです。
②個別契約に関する事項
③派遣料金
④派遣労働者の遵守事項
⑤派遣元責任者・派遣先責任者
⑥指揮命令者
⑦派遣元事業主の遵守事項
⑧派遣労働者の交代
⑨その他
各事項について、条文例を示しながら解説します。
契約の目的
第1条 (契約の目的)
本契約は、甲の雇用する労働者(以下「派遣労働者」という。)を乙に対して派遣し、乙が当該派遣労働者を指揮命令して業務に従事させる取引(以下「本件労働者派遣」という。)につき、必要な事項を定めることを目的とする。
労働者派遣について必要な事項を定めることを、契約の目的として宣言します。
個別契約に関する事項
第2条(個別契約)
- 甲及び乙は、本件労働者派遣を行う都度、本契約とは別途、個別労働者派遣契約(以下「個別契約」という。)を締結するものとする。
- 個別契約には、以下の事項を定めるものとする。
① 派遣労働者が従事する業務の内容
② 派遣労働者が労働に従事する事業所の名称、所在地その他派遣就業の場所並びに組織単位
③ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
④ 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
⑤ 派遣料金
⑥ その他労働者派遣法の規定により、又は本契約及び個別契約の目的を達するために必要な事項 - 本契約に定める事項は、別段の定めがない限り、個別契約にも適用される。ただし、本契約の定めと個別契約の定めが矛盾抵触する場合は、個別契約の定めが優先するものとする。
労働者派遣のたびに個別契約を締結する旨、個別契約に定めるべき事項、基本契約と個別契約の優先劣後関係を定めます。
基本契約と個別契約を合わせて、労働者派遣法で記載が義務付けられている事項をカバーする必要があります。詳しくは「個別契約のひな形を別途準備する|労働者派遣法所定の事項を漏れなく記載」をご参照ください。
派遣料金
第3条 (派遣料金)
- 乙は甲に対し、本件労働者派遣の対価として、個別契約に定める派遣料金を支払うものとする。ただし、次に掲げる条件を適用する。
① 派遣労働者が労働基準法第32条に定める法定労働時間(以下「法定労働時間」という。)を超えて労働するときは、法定労働時間を超える部分(以下「時間外労働」という。)につき、派遣料金の25%(ただし、ある月における時間外労働が60時間を超えるときは、60時間を超える部分につき、派遣料金の50%)に相当する額を加算する。
② 派遣労働者が労働基準法第35条に定める法定休日に労働するときは、当該労働につき、派遣料金の35%を加算する。
③ 派遣労働者が午後10時以降翌日午前5時までの間に労働するときは、当該労働につき、派遣料金の25%を加算する。なお、本号に基づく加算は、前二号に基づく加算と重複することができる。
④ 派遣料金の計算に当たり、派遣労働者の労働時間は5分単位で計算するものとし、5分未満の端数は切り捨てる。
⑤ 本項柱書及び前四号の規定に基づく計算を行った際、派遣料金の額に生じた1円未満の端数は切り捨てる。 - 甲は乙に対し、毎月10日までに前月分の派遣料金に係る請求書を交付し、乙は当該請求書に従い、甲が指定する口座に振り込む方法により派遣料金を支払うものとする。振込手数料は乙の負担とする。
派遣料金の計算方法や支払方法などを定めます。派遣料金の計算方法については、時間外労働・休日労働・深夜労働の取り扱いや、端数処理の方法などを明記しておきましょう。
派遣労働者の遵守事項
第4条 (派遣労働者の遵守事項)
- 派遣労働者は、乙が定める社内規程その他の合理的な規律を遵守しなければならない。
- 派遣労働者は、乙の施設に立ち入る際には、乙が定める手続きに従うとともに、当該施設の管理に関する規律を遵守しなければならない。
- 甲は、派遣労働者が前二項の規定を遵守するよう指導しなければならない。派遣労働者が前二項の規定に違反したことにより、乙が損害を被った場合は、甲は乙に対してその損害を賠償するものとする。
派遣労働者が遵守すべき事項を定めます。
派遣労働者は労働者派遣基本契約の当事者ではないため、上記の規定によって直接義務を負うわけではありませんが、派遣元事業主に指導の義務を負わせることによって実効性を確保します。
派遣元責任者・派遣先責任者
第5条 (派遣元責任者)
- 甲は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)第36条及び関連法令の規定に従い、甲の事業所ごとに、自己の雇用する労働者の中から、当該事業所に専属の派遣元責任者を選任しなければならない。
- 派遣元責任者は、派遣労働者に対する助言及び指導、並びに乙との連絡調整など、労働者派遣法第36条及び関連法令によって定められた事項を行うものとする。
第6条 (派遣先責任者)
- 乙は、労働者派遣法第41条及び関連法令の規定に従い、乙の事業所ごとに、自己の雇用する労働者の中から、当該事業所に専属の派遣先責任者を選任しなければならない。
- 派遣先責任者は、本件労働者派遣の条件等の関係者に対する周知及び甲との連絡調整など、労働者派遣法第41条及び関連法令によって定められた事項を行うものとする。
派遣元事業主は派遣元責任者、派遣先は派遣先責任者を、それぞれ自己の雇用する労働者の中から、事業所に専属の者として選任することが義務付けられています(労働者派遣法36条、41条)。労働者派遣基本契約書においても、派遣元責任者と派遣先責任者の選任について定めておきましょう。
派遣元責任者に就任する者は、事前に厚生労働大臣が定める「派遣元責任者講習」を修了していなければなりません(労働者派遣法施行規則29条の2第1号)。就任後も、3年以内ごとに再度講習を修了する必要があります。
派遣先責任者についても、厚生労働大臣が定める「派遣先責任者講習」の受講が推奨されています。
参考:派遣元責任者講習の日程及び講習機関等について|厚生労働省
参考:派遣先責任者講習|厚生労働省
指揮命令者
第7条 (指揮命令者)
- 乙は、派遣労働者の就業場所ごとに、自己の雇用する労働者の中から指揮命令者を選任するものとする。
- 指揮命令者は、労働者派遣法並びに本契約及び個別契約に定める事項を遵守し、これらに違反することとなる業務上の指示を行わないように留意しつつ、派遣労働者が安全かつ適切に業務に従事するため必要な事項を、派遣労働者に対して周知及び指導するものとする。
派遣労働者が実際に働く就業場所において、派遣先が指揮命令者を選任すべき旨を定めます。指揮命令者は、派遣労働者に対する法令に沿った労務管理や、業務に関する事項の周知・指導などを行います。
派遣元事業主の遵守事項
第8条 (甲の遵守事項)
- 甲は、乙が派遣労働者に本契約及び個別契約の定めに従った労働をさせることにより、労働基準法その他の法令の違反が生じないように、労使協定その他の法令上必要な手続きを行わなければならない。
- 甲は、派遣労働者が乙の指揮命令下で適切に業務に従事するように、派遣労働者に対して必要な教育及び指導等を行わなければならない。
- 甲は、本契約及び個別契約の目的を達するために、乙に対し、必要な資格、能力、知識、技術、技能、健康、経験等を有する適格の労働者を派遣しなければならない。
派遣労働者が派遣先において適切に業務を行えるようにするためには、派遣元事業主の協力が欠かせません。
派遣元事業主の遵守事項として、労働法令上必要な手続きの履践、派遣労働者に対する教育・指導、適切に派遣労働者を選定すべき旨などを定めておきましょう。
派遣労働者の交代
第9条 (派遣労働者の交代)
- 乙は、派遣労働者が不適格であり、本契約及び個別契約の目的を達することができないと合理的に判断したときは、甲に対して派遣労働者の交代を求めることができる。この場合、甲は乙に対し、直ちに代替人員を派遣しなければならない。
- 病気、事故、退職その他の事由により、派遣労働者に欠員が生じたときは、甲はその欠員を補充するため、乙に対し、直ちに代替人員を派遣しなければならない。ただし、乙が代替人員の派遣を希望しない場合は、この限りでない。
- 前二項に基づく代替人員の派遣が行われないときは、乙は甲に対して相当の期間を定めて催告したうえで、個別契約を解除することができる。
- 甲は、やむを得ない事情がある場合に限り、個別契約に定める派遣期間の途中であっても、交代を行う日(以下「交代日」という。)の30日前までに乙に通知して、派遣労働者の交代を申し出ることができる。この場合、乙は当該交代を受け入れるか、又は交代日付で個別契約を解除するかを選択できるものとする。
派遣労働者を交代できる場合や交代の手続き、代替人員の派遣などについて定めます。
派遣労働者の交代についてはトラブルが生じやすいので、労働者派遣基本契約書においてルールを明確化しておきましょう。
その他
上記のほか、労働者派遣基本契約書には以下の事項などを定めます。
- 就業機会の確保
- 苦情処理
- 個人情報の取り扱い
- 秘密保持
- 安全及び衛生
- 損害賠償
- 有効期間
- 契約の解除
- 反社会的勢力の排除
- 合意管轄
弁護士監修の労働者派遣基本契約書ひな形ダウンロード
労働者派遣基本契約書のひな形は、以下のリンクからダウンロードできます。
労働者派遣基本契約書を締結する際のチェックポイント
労働者派遣基本契約書を締結する際には、特に以下のポイントにご留意ください。
個別契約のひな形を別途準備する|労働者派遣法所定の事項を漏れなく記載
労働者派遣基本契約書を作成する段階で、実際に労働者派遣を行う際に締結する個別契約書のひな形も準備しておきましょう。
労働者派遣法26条1項・2項および労働基準法施行規則22~24条では、労働者派遣契約に定めるべき事項が明記されています。基本契約と個別契約の少なくともいずれかには、これらの規定に掲げられた事項を定めなければなりません。漏れのないようにチェックを行ってください。
派遣元指針・派遣先指針を遵守する
厚生労働省は、派遣労働者の保護等に関して講ずべき措置につき、「派遣元指針」と「派遣先指針」を定めています。
派遣元事業主は派遣元指針、派遣先は派遣先指針を遵守することが求められます。労働者派遣基本契約書を締結し、実際に労働者の派遣や受け入れを行う際には、これらの指針の内容を十分踏まえて対応してください。
労働者派遣基本契約書に収入印紙を貼る必要はない
労働者派遣基本契約書に収入印紙を貼る必要はありません。印紙税法上の課税文書に当たらないためです。
「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)に当たるようにも思われますが、労働者派遣を内容とする契約書は対象外とされています。
まとめ
労働者派遣基本契約書を作成する際には、基本契約と個別契約の関係、派遣料金、派遣労働者の交代などの重要な規定をはじめとして、明確な文言で条文を記載することが大切です。
また、労働者の派遣や受け入れを行う際には、労働者派遣法の規定や派遣元指針・派遣先指針を踏まえた対応に努めてください。
労働者派遣基本契約書は、電子契約によっても有効に締結することができます。郵送費や印刷費などのコスト削減や、管理を効率化できるなどのメリットが得られるので、積極的に電子契約の導入をご検討ください。
関連記事:人材派遣業界で電子契約を導入するメリットとは?電子化の成功事例を交えて解説
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ダウンロードする(無料)この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。