【弁護士監修テンプレートあり】人材紹介契約書とは?主な記載事項・チェックポイント・収入印紙の要否などを解説

労働者の採用を目指す企業と人材紹介を行う企業の間では「人材紹介契約書」を締結します。人材紹介に関するトラブルの発生や深刻化を防止するため、適切な内容の人材紹介契約書を作成してください。
本記事では人材紹介契約書について、主な記載事項やチェックポイント、収入印紙の要否などを弁護士が解説します。
人材紹介契約書とは
「人材紹介契約」とは、労働者の採用を目指す企業に対して、転職エージェントなどの企業が求職者を紹介する際に締結する契約です。「人材紹介契約書」は、人材紹介契約の内容を記載した書面に当たります。
人材紹介の事業は、職業安定法上の「有料職業紹介事業」に当たります。人材紹介契約書を作成する際には、人材紹介の条件を明確に定めるとともに、職業安定法上の規制を踏まえて条件を設定することが求められます。
人材紹介契約書の主な記載事項|例文も紹介
人材紹介契約書に記載すべき主な事項は、以下のとおりです。
②人材紹介の方法(手続き)
③人材紹介手数料(返戻金制度を含む)
④直接取引の禁止
⑤人材紹介会社の免責事項等
⑥紹介条件の開示・掲載等
⑦個人情報の取扱い
⑧苦情処理
⑨その他
各事項について、条文例を示しながら解説します。
人材紹介の委託(取扱職種の範囲等を含む)
第1条 (人材紹介の委託)
- 甲は乙に対し、次に掲げる業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
① 甲の求めに応じ、求職者を紹介する業務
② 前号の紹介に関する相談及び助言の業務
③ 前各号に付随関連する業務 - 本業務によって乙が甲に対して紹介する求職者の職種は、全職種とする。ただし、職業安定法第32条の11の定めによって紹介が禁止されている職業を除く。
人材紹介業務を委託・受託する旨を定めます。紹介する職種の範囲についても定めておきましょう。
有料職業紹介を行う事業者が取扱職種の範囲やその他業務の範囲(=取扱職種の範囲等)を定めた場合には、厚生労働大臣に届け出なければなりません(職業安定法32条の12第1項)。人材紹介契約に定める取扱職種の範囲等も、届出内容の範囲内に限定する必要があります。
また、港湾運送業務と建設業務については、民間事業者による求職者の紹介が禁止されているのでご注意ください(同法32条の11第1項)。
人材紹介の方法(手順)
第2条 (人材紹介の方法)
本業務による人材紹介の方法は、次に掲げる要領に従うものとする。
① 甲が乙に対し、紹介を希望する求職者の条件(資格、能力、職歴、給与等を含むが、これらに限らない。以下「紹介条件」という。)を明示した書面又は電子ファイルを交付し、求職者の紹介を依頼する。
② 乙は、前号の依頼を受けた後、遅滞なく、紹介条件に適合する可能性がある求職者を選定し、甲に対して紹介する。ただし、紹介条件に適合する可能性がある求職者がいないと合理的に判断したときは、乙は甲に対し、紹介条件の変更を求めることができる。
③ 前号の定めによって乙が紹介した求職者が希望したときは(この場合の求職者を以下「応募者」という。)、甲が当該応募者に対して自ら選考を行う。甲は、当該選考の結果を決定したときは、乙に対し、その内容を速やかに書面又は電磁的方法によって通知しなければならない。
④ 甲が前号に定める応募者の採用を決定したときは、甲は当該応募者との間で雇用契約を締結したうえで、乙に対し、その旨を速やかに書面又は電磁的方法によって通知しなければならない。
人材紹介を行う際の手順を定めます。
一般的には、求人をする企業(=求人者)が書面か電子データで条件提示を行い、それに従って人材紹介会社が求職者を紹介します。選考は求人者が独自に行い、人材紹介会社はタッチしません。
人材紹介手数料を計算・請求するために、雇用契約の締結に至った場合はその旨を通知する義務を定めておきましょう。
人材紹介手数料(返戻金制度を含む)
第3条 (手数料)
- 甲は、本業務によって応募者との間で雇用契約を締結したときは、乙に対し、当該雇用契約の締結日から2週間以内に、本業務の手数料(以下「紹介手数料」という。)として、当該応募者の年額報酬の○%(消費税及び地方消費税別途)に相当する額を支払うものとする。振込手数料は甲の負担とする。
- 前項に定める「年額報酬」は、法定内残業手当、時間外手当、休日手当及び深夜手当その他これらに準ずる変動費用を除く賃金(基本給、諸手当及び賞与を含むが、これらに限らない)の総額とする。年額報酬の具体的な金額は、法令、雇用契約及び甲が定める給与規程、賞与規程その他の社内規程等の内容を踏まえて合理的に定まるものとする。
- 第1項に定める雇用契約の締結後、当該応募者の責に帰すべき事由によって解雇され、又は当該応募者が自己都合によって退職したときは、乙は甲に対し、紹介手数料のうち次に掲げる額を返還しなければならない。ただし、紹介手数料の全部又は一部が未払いである場合は、未払金を当該返還すべき額に充当することができる。
雇用契約の終了日 返還すべき紹介手数料の額 締結日~締結日の1か月後応当日 紹介手数料の80%相当額 締結日の1か月後応当日の翌日~締結日の3か月後応当日 介手数料の50%相当額 締結日の3か月後応当日の翌日~締結日の6か月後応当日 紹介手数料の10%相当額 - 前項に定める場合を除き、応募者が退職したとしても、乙は甲に対して紹介手数料全額を請求することができ、すでに受け取った紹介手数料は返還を要しない。
人材紹介手数料の計算方法や支払方法などを定めます。
手数料の額は、採用に至った応募者の年額報酬を基準に定めるのが一般的です(「年額報酬の30%」など)。
上記の例では、年額報酬には残業代などの変動費用を除く賃金がすべて含まれるものとしています(2項)。年額報酬の範囲について、できる限り疑義が生じないような定めを心がけてください。
一定期間内に応募者が退職した場合に、手数料の一部を返還する「返戻金制度」を設けるケースもあります。その場合、人材紹介会社は求人者に対し、人材紹介契約等によって返戻金制度に関する事項を明示しなければなりません(職業安定法32条の13、職業安定法施行規則24条の5第1項第2号)。上記の例でも、返戻金制度について定めています(3項)。
直接取引の禁止
第4条 (直接取引の禁止)
- 甲は、乙に対して事前に書面で通知することなく、応募者と直接連絡を取り、又は応募者と雇用契約その他の契約(以下「雇用契約等」という。)を締結してはならない。
- 前項の定めに反して、甲が応募者と雇用契約等を締結したときは、乙は甲に対し、前条に定める手数料全額を請求することができる。
人材紹介会社が紹介した応募者に対して、紹介を受けた企業が直接連絡を取って雇用契約等を締結することは「直接取引」などと呼ばれています。
手数料の支払いを不正に免れる余地が生じてしまうため、直接取引は禁止するのが一般的です。万が一直接取引がなされた場合は、手数料全額を請求できる旨も定めておきましょう。
人材紹介会社の免責事項等
第5条 (乙の免責事項等)
- 乙は、応募者が甲との間で雇用契約を締結しない限り、当該応募者に対して、甲以外の事業者を紹介することができる。乙は甲に対し、応募者の併願状況に関する情報を提供する義務を負わない。
- 応募者が甲に対して伝達する情報(文書、口頭その他の方法の如何を問わない。)は、応募者の責任において伝達するものであり、乙はその内容の真実性又は正確性を一切保証しない。
- 乙は、甲と応募者の間の雇用契約の締結に関して、代理又は媒介その他の事実行為を一切行わず、その結果に関して一切の責任を負わない。
人材紹介会社の免責事項として、応募者に対して他の企業を紹介できること、応募者に関する情報の真実性や正確性を保証しないこと、雇用契約の締結にタッチしないことなどを定めます。
過大な責任を負わないようにする観点から、人材紹介会社にとって重要な条項です。
紹介条件の開示・掲載等
第6条 (紹介条件の開示・掲載等)
- 甲は、紹介条件及び一般に公開されている甲の企業情報を、本業務に必要な範囲内で、乙が運営、提供又は指定する媒体において開示又は掲載等をすることに同意する。
- 甲は、紹介条件及び一般に公開されている甲の企業情報を、本業務に必要な範囲内で、乙が求職者(応募者を含む。以下同じ。)に対して開示することに同意する。
求人者の情報の取り扱いについては、職業安定法によって求人者に対する明示が義務付けられています(同法32条の13、職業安定法施行規則24条の5第1項第1号)。
具体的には、求人を行う企業に関する情報のうち、求人に必要なものを各種媒体に掲載し、または求職者に対して開示できる旨などを定めます。もし開示すべきでない情報がある場合は、契約の条文に明記しておくことが望ましいです。
個人情報の取扱い
第7条 (個人情報の取り扱い)
- 乙は、甲が応募者に対する選考を行うに当たって必要な範囲内で、甲に対し、応募者の氏名、連絡先、職務経歴等の個人情報(以下「個人情報」という。)を開示又は提供するものとする。
- 甲は、前項に基づき乙から開示又は提供を受けた個人情報を、善良なる管理者の注意をもって秘密として厳重に管理するものとし、当該個人情報を選考以外の目的に利用してはならない。
- 甲は、選考結果の如何を問わず、前項に定める個人情報を、第三者に対して開示又は漏洩してはならない。ただし、次に掲げる場合は、必要最小限の範囲内に限り、当該個人情報を第三者に対して開示することができる。
① 法令等の定めに基づき、又は監督官庁、裁判所その他の公的機関から開示要請を受けた場合に、その要請に従って開示するとき
② 本契約の目的のために必要な範囲内で、弁護士、公認会計士、税理士、その他法律上秘密保持義務を負う専門家に対して開示するとき
③ 本契約で定める秘密保持義務と同等の義務を負うことを条件に、自らの役員又は従業員に対して開示するとき
個人情報の適正な管理は個人情報保護法によって義務付けられているほか、有料職業紹介事業の許可基準の一つとされています(職業安定法31条1項2号)。個人情報が漏洩すると深刻なトラブルになるため、安全管理措置などの対応を徹底してください。
苦情処理
第8条 (苦情処理)
乙が、本業務に関して甲又は求職者から苦情を受けたときは、誠意をもって当該苦情の適切かつ迅速な処理を図るものとする。苦情処理の対応窓口や対応手順については、乙が別途定める。
苦情の処理についても、職業安定法によって求人者に対する明示が義務付けられています(同法32条の13)。
上記の例では対応窓口や対応手順を具体的に定めていませんが、人材紹介会社において別途規程を作成するなどして、契約締結時までに求人者へ明示してください。
その他
上記のほか、人材紹介契約書には以下の事項などを定めます。
- 秘密保持
- 損害賠償
- 有効期間
- 契約の解除
- 反社会的勢力の排除
- 合意管轄
弁護士監修の人材紹介契約書ひな形ダウンロード
人材紹介契約書のひな形は、以下のリンクからダウンロードできます。適宜調整したうえでご利用ください。
人材紹介契約書を締結する際のチェックポイント
人材紹介契約書を作成・締結する際には、特に以下のポイントに注意してください。
手数料について、職業安定法の規制を遵守する
人材紹介手数料については、職業安定法で規制が設けられています。一定の水準を超える手数料を徴収する場合は、あらかじめ厚生労働大臣に手数料表を届け出て、その内容に従わなければなりません(同法32条の3第1項)。
手数料表を届けることなく徴収できる人材紹介手数料の上限額は、下表のとおりです(職業安定法施行規則別表)。これを超える場合は、必ず手数料表を厚生労働大臣に届け出てください。
| 上限額 | |
| 受付手数料 | 受理した求人の申込み1件につき710円(免税事業者は660円) |
| 紹介手数料 | ①無期雇用で6か月を超えて雇用された場合 以下のうち、いずれか大きい額 (a)6か月間に支払われた賃金額の11%(免税事業者は10.3%) (b)6か月間に支払われた賃金額から、臨時に支払われた賃金および3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除いた額の14.8%(免税事業者は13.9%) ②有期雇用で6か月を超えて雇用された場合 ③①②以外の場合 |
| 第二種特別加入保険料に充てるべき手数料 | 支払われた賃金額の0.55% |
「就職お祝い金」の支給は禁止されている
求人者と応募者が雇用契約を締結した際、人材紹介会社が応募者に対して「就職お祝い金」などの名目で金銭を支払うことは禁止されています。
人材紹介の質やサービスとは関係がない部分で人材紹介会社が選ばれるとすれば、求人者や求職者にとって不利益になり得るからです。
「就職お祝い金」を支給しないことは、有料職業紹介事業の許可条件の一つとされています。違反すると許可が取り消されるおそれがあるので、十分ご注意ください。
人材紹介契約書に収入印紙を貼る必要はない
人材紹介契約書に収入印紙を貼る必要はありません。印紙税法上の課税文書に当たらないためです。
「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)に当たるようにも思われますが、人材紹介を内容とする契約書は対象外とされています。
まとめ
人材紹介契約書を作成する際には、職業安定法の規制を踏まえつつ、手数料などの条件を明確に定めることが大切です。
また、人材紹介契約書は、電子契約によっても有効に締結することができます。郵送費や印刷費などのコスト削減や、管理を効率化できるなどのメリットが得られるので、積極的に電子契約の導入をご検討ください。
なお、当社の提供する「クラウドサイン」は国内シェアや認知が高い電子契約サービスで、メールアドレスがあればどなたでも使うことができますので、人材紹介契約書を作成する際は、ぜひクラウドサインをご活用ください。
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ダウンロードする(無料)この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。