事業者署名型電子契約と本人確認—令和2年建設業法グレーゾーン解消制度で明らかにされた新解釈

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事業者署名型の電子契約には、本人確認(身元確認)を利用者自身で行うものとするサービスもあります。これが建設業法の要件を満たすかについて確認を求めた、グレーゾーン解消制度の回答を紹介します。

令和2年建設業法グレーゾーン解消照会の回答で示された新解釈

令和2年(2020年)10月14日付で、グレーゾーン解消制度を利用した、建設業法上利用可能な電子署名をめぐる新たな照会に対する回答が公開 されました。

グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました ー電子契約サービスに係る建設業法の取扱いー https://www.meti.go.jp/press/2020/10/20201014002/20201014002.html 2020年10月20日最終アクセス

建設業法のグレーゾーンといえば、2018年1月に弊社が申請し、クラウド型電子契約が適法と初めて認められた件があります(関連記事:グレーゾーン解消制度を活用して、クラウドサインによる契約の適法性を確認しました)。当時、建設業界の専門誌でも取り上げられるなど、エポックメイキングな見解として話題になりました。

一見するとこれと同じ内容にも見える今回の申請ですが、今回の国土交通省の照会内容には、ひっそりと行われていた建設業法施行規則の改正に関わる、ある重大な論点に対する回答が含まれています

国土交通省による令和2年10月1日付建設業法施行規則改正で追加された「本人確認措置」要件

建設業法の主務官庁である 国土交通省は、建設業法施行規則13条の2を改正して、平成31年(2018年)に弊社がグレーゾーン解消制度で適法性確認をした時点では存在しなかった要件を追加 し、令和2年10月1日付施行しました。

https://www.mlit.go.jp/common/001361331.pdf 2020年10月20日最終アクセス

この建設業法施行規則(旧13条の2改め)新13条の4 2項3号に追加された、

三 当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること

の文言を一見すると、身元確認を行なった上で電子証明書を発行する、当事者署名型の電子契約の利用を促しているのではとも読める内容です。

そこで、今回のグレーゾーン解消制度照会者は、「本人しか使用しないものとして自己申告したメールアドレスをあらかじめサーバーに登録しておく」仕様が本人性の確保の手段であることを詳しく説明した上で、このようなクラウド型の電子契約が適法であるかについての確認を求めました。

https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/201014_shokaisho.pdf 2020年10月20日最終アクセス

照会者の申請日が施行日の直前である令和2年9月14日だったことからも、その目的は新しく追加された「本人確認措置」要件の射程を確認するもの であったことは確実でしょう。

「契約当事者による本人確認措置」がなされれば事業者署名型でも問題なく利用可能

そして、新しい要件が追加された建設業法施行規則13条の4の施行直後となる令和2年10月14日。国土交通省が下した見解は、以下の通りとなりました。

https://www.meti.go.jp/press/2020/10/20201014002/20201014002-1.pdf 2020年10月20日最終アクセス

問題の「本人確認措置」要件については、

③契約当事者による本人確認措置を講じた上で公開鍵暗号方式による電子署名の手続きが行われることで、契約当事者による契約であることを確認できると考えられること

このように第三者である認証事業者ではなく「契約当事者」、つまり 本人同士が(メールアドレスを用いた)本人確認措置を行った上でクラウド上で電子契約を行なっているのであればそれで足り、クラウド事業者が第三者として本人確認を行うことは要件ではない という見解を主務官庁としてはっきり示したわけです。

事業者署名型電子契約に対する誤解とその解消の一助となる重要な文書

ある電子署名が押印同様に法的に有効なものとなるために、契約当事者以外の第三者による「本人確認(身元確認)」が要件となるのか?

印鑑証明書がない、すなわち実印として登録していない印章による押印でも、法的効力が発生することはよく知られています。実際、実印でなく認印を押印して契約書や申請書を作成し、別途パスポートや免許証で相手と本人確認を行うことは、日常的に何の疑いもなく行われています。にもかかわらず、なぜかこれを電子契約に移し替えるとなると、「認証局から当事者の電子証明書が発行されないタイプの電子署名は、法的に有効ではないのでは?」といった誤解が広がったまま、電子署名法は2020年までの失われた19年を過ごしました。

電子署名法上の論点については、総務省・法務省・経済産業省が示した電子署名法2条1項および同法3条に関する見解で、電子署名サービス事業者による本人確認は法律上の要件ではない ことが明らかになっています(関連記事:「電子署名法第3条Q&A」の読み方とポイント—固有性要件はどのようにして生まれたか)。さらに、電子署名法を解説する書籍や法律専門誌の記事なども次々と刊行され、ユーザーの一部が抱いていた誤解がようやく解かれたという経緯があります。

NBL No.1179 2020年10月1日号 P38-39 福岡真之介「電子署名法 3条の推定効についての一考察」

今回の建設業法グレーゾーン解消制度の照会結果によって、「押印同様、電子契約であっても、本人確認はその電子契約を締結する当事者同士が行えばよい」という、ある意味当たり前のことが文書に明文化されたわけです。

こうして法の遅れ(Law Lag)がだんだんと修正され、新しい時代にあった新しい契約方式に対する法的整理が進んでいます。

(橋詰)

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