ブックレビュー 加嵜長門、篠原航『ブロックチェーンアプリケーション開発の教科書』

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1月末に出たばかりの新刊をご紹介します。スマートコントラクトおよびブロックチェーン技術に関する書籍が乱刷されている中、10冊以上購入して私が読んだ中でも、一般のビジネスパーソンや法律家にも幅広くおすすめできるバランスの良い書籍です。

Kindle版を自分で購入した後で、著者の加嵜さまおよびマイナビ出版編集部さまより書籍版をご恵贈いただきました(本レビュー内容に影響はありませんが、念のため関係性明示をしておきます)。

書籍情報

ブロックチェーンアプリケーション開発の教科書
  • 著者:加嵜長門/著 篠原航/著 丸山弘詩/編集
  • 出版社:マイナビ出版
  • 出版年月:20180131

著者のお二人は、DMM.comラボに所属し、スマートコントラクトアプリケーションの開発に今まさに携わっていらっしゃるエヴァンジェリストとエンジニア。先日、そのうちのお一人加嵜さまにお会いすることができ、スマートコントラクトの今後の展望と法的規制についてディスカッションをしている中で、この本が出版されることを教えていただきました。

タイトルに入る「開発」の文字で、使用言語、コードの組み方やライブラリの解説を中心とした技術書だろうと思い込んでいたのですが、いい意味でその期待を裏切る内容となっています。

全321ページ中、P134-248の110ページ弱はコードを実際に触ってブロックチェーンとスマートコントラクトを体感する章として当てられています。ただしその難易度は、前回本メディアのブックレビューでもご紹介した『スマートコントラクト本格入門』をクリアできた方であれば十分に付いていける、配慮されたレベルです。一方、3分の2を占めるそれ以外のパートは、スマートコントラクトが将来のビジネスにどのように活用されていくかを想定し解説するものとなっています。

私が読んでの見どころは、大きく以下3つありました。

技術用語・キーワードの網羅性が高い

「ハッシュ(チェーン)」、「Proof of Work」、「ウォレット」といった基本用語はもちろんのこと、今発生しているコインチェック事件によって有名になった「NEM」のような、ビットコイン・イーサリアムと比較すると無名だが高機能なオルトコイン(オルトブロックチェーン)についても解説。

また、スマートコントラクトのアプリケーション開発を研究すると必ず出てくる「オラクル」「ファイナリティ」「ライトニングネットワーク」「プラズマ」「シャーディング」といった用語まで網羅しているのは、私が購入した日本語で読める書籍の中ではこの本ぐらいです。

解説が文系学部出身者にもわかるよう噛み砕かれている

こういった専門書は、技術用語があらかじめインプットされていない読者にも分かるように説明するのは著者の負担が重く、その犠牲を払った上で解説の順番・噛み砕くレベルの検討に相当骨を折らないと、途中で読者が置いてきぼりにされる本になってしまいます。

本書は、私のような文系学部出身者でも理解できるような例え話、具体的事例、現在ある技術との比較がテンポよく間に挟まっているのが効果的ですし、技術用語や概念が連発されついていけなくなりそうなときにさりげなくサポートしてくれる図表も豊富です。

文系出身の私にもすんなり読めるのは、ただのエンジニアではない「エヴァンジェリスト」でもある加嵜さんの本領が、いかんなく発揮されているところでしょう。

スマートコントラクトのリスクを正面から開示

「スマートコントラクトが広まれば、世の中はこんなによくなる」を語る本はあれど、「スマートコントラクトにも、技術的なリスクはたくさんある」を一つの章をまるまる使って正直に語った本は、本書が初めてではないでしょうか。

本書でピックアップされているリスクについて、見出しを並べてみました。

法律職・企業法務・内部統制等の業務に携わる方々にとっては、エンジニアからのこのようなリスク情報の積極的開示は、大変貴重なものだと思います。

コンピュータ書籍棚分類コードで「E1-99 ネットワーク・サーバ」が振られていることもあり、おそらく、書店ではエンジニア向け技術書コーナーに置かれてしまうのではと予想しますが、これからスマートコントラクトで何ができるかを企画・検討したいというビジネスパーソンや法律家にもおすすめできる書籍です。

(橋詰)