ブックレビュー 河村寛治『債権法改正対応版 契約実務と法』

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発売されたばかりの契約実務書を早速ご紹介します。私も2008年の初版から愛用している書籍の第三版にあたる本書。民法(債権法)改正に正式対応されるのをずっと待っていた一冊です。

書籍情報

債権法改正対応版 契約実務と法-リスク分析を通して-
  • 著者:河村寛治/著
  • 出版社:第一法規
  • 出版年月:20180222

2017年5月に改正民法が成立してそろそろ10ヶ月。改正のポイントを解説した書籍のリリースラッシュも一段落し、民法学者の手による教科書・基本書・逐条解説書の改訂版もだんだんと出揃ってきました。

改正民法の施行日は2020年4月1日とまだ先、ではあるものの、数年単位で更新する取引基本契約や長期ライセンス契約の更新時期を控えるなど、そろそろ改正ポイントを踏まえた具体的対応を考えなければなあとそわそわしだしている方がまわりに増えています。本書は、そうした企業の管理部門ご担当者にとって、ちょうど良いタイミングでの刊行かもしれません。

改正ポイントを踏まえてどの契約条項をどう修正すべきかが分かる

本書初版からのコンセプトは、契約書をゼロから作成するにあたり知っておかなければならない民商法の総論を前半で総ざらいした上で、後半の契約類型ごとに分かれた各論パートで復習および発展させながら、結局のところどのような文言で契約書の中に規定したらよいかまでを示そう、というもの。

そうしたコンセプトはそのままに、現行法から改正法への変化を踏まえて、具体的にどう文言を修正すればよいかを指南します。たとえば、契約書の後ろの方にまとめられた一般条項に必ずと言っていいほど規定されている、契約解除の条項について。

なお,現行法では,法定解除の種類を,履行遅滞,履行不能による場合など債務者による債務不履行の内容の違いにより分類していたが,改正民法においては,法定解除の種類を,「催告による解除」(改正民法541条)と「催告によらない解除」(改正民法542条)に整理している。契約実務においても,催告が必要となる場合,また無催告で解除ができる場合とに整理して規定をしておくことが必要となる。(P103)


修正しなくてよい条項もはっきりとそう断言

また、改正民法の影響を受けないものの契約書ひな形に通常規定されているであろう条項と、改正民法との関係についても、「この条項は従前のとおりの規定ぶりで問題ないよ」ということをはっきりと断言してくれている点も、読者にとっては安心感があります。

たとえば、実務からの批判を受けて民法の条文から規定が削除された経緯のある危険負担について、売買基本契約のパートで、

上記のとおり,危険負担に関する民法の規定は状況に応じて複雑であるほか,特定物売買においては当事者間での不公平感も否めず,また,不特定物売買においても売主にある種無限の調達責任を負担させるのは現実的ではない。このような不都合を回避するために,学説上も危険負担,すなわち当事者間におけるリスク移転の時期について登記,引渡しまたは代金支払等を基準とする解釈がなされているが,いずれにせよ,契約で危険負担の時期を明確に規定することが肝要であるとされていた。
これに対し,改正民法では,上述のような不都合を解消すべく,債権者主義を規定した現行民法534条1項とこれに関する規定である同2項および535条はすべて削除されることとなった。
実務上は,売買契約を例にとると,ほぼ例外なく,特約または商慣習により,商品の引渡しの時(買主による検査合格時とする場合もある)に危険が買主に移転するとされている。実務的には,この危険負担の移転時期は重要なリスク分担の問題であることから,法律上,規定が削除されたかどうかに関係なく,当事者間では,契約上重要な規定になることは,当然であろう。(P191-192)

という一般論が説明された上で、機械売買契約書の各論パートにおいて、

民法改正では,民法における債権者主義を定めた危険負担の条文(534条)が削除されることとなったが,実務的には,危険負担の移転時期の規定をあえて削除する必要はない。(P246)

ときっぱり。気持ちいいですね。

取り上げられている契約類型は12種

各論編で具体的契約条項を解説してくれる契約類型は、以下の12種となっています。

法務がひな形を用意することの多い契約類型は一通り押さえられているかなと思いますが、一般には使用頻度は高くない保証系の契約書が複数取り上げられているのは、著者の河村先生が商社ご出身だからでしょう。

秘密保持契約書の解説がないのは、ちょっと残念に思われる方がいらっしゃるかもしれません。

おまけ 『改訂版 契約実務と法』との索引差分

本書の第二版にあたる『改訂版 契約実務と法』をお持ちの方のために、第二版と本書の索引と見比べて、追加されたワードを列挙してみました。目検での作業につき取りこぼしがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

Win-Winの関係, Win-Loseの関係, Whereas Clause, 基本契約確認条項, 極度額, 契約不適合, 契約不適合責任, 契約不適合担保責任, 契約への適合性, 欠陥等の修補, 更改, 催告によらない解除, 催告による解除, 債務不履行責任説, 時効の完成猶予及び更新の効力, 責めに帰すべき事由, 前文, 総販売代理店, 総販売特約店, 代金減額請求権, 担保責任, 定型取引, 定型約款, 電子消費者契約, 動機の錯誤, 根保証, パートナーシップ, 保証委託契約書, 保証上限, 無権代理, 目的条項, 要素の錯誤, 予見可能性, 履行の追完請求権

クラウド契約・電子契約を商売にしている者としては、著者の河村先生が依然として書面によらないインターネットを利用した電子商取引のリスクに対してやや厳しい態度を示されている(P75)ところだけは気になりますが(苦笑)、本書のタイトルにもずばり表現されているとおり、「契約実務と法」を1冊で、できるだけコンパクトなボリュームで身につけたいという方におすすめです。

(橋詰)