ブックレビュー 久保田龍ほか『ブロックチェーンをめぐる実務・政策と法』

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ブロックチェーン技術をビジネスに適用した場合の法律・会計・税務面の課題を、各分野の最先端を知る研究者・実務家14名が学術的レベルに踏み込んでまとめ上げた書籍です。

書籍情報

ブロックチェーンをめぐる実務・政策と法
  • 著者:久保田隆/編集
  • 出版社:中央経済社
  • 出版年月:20180401

ブロックチェーン実務の国内第一人者14名を贅沢に執筆陣に揃えた最先端の論稿集

はしがきに、編者みずから本書の編集方針を一言でまとめてくださっています。

本書の特徴は何か。一言でいえば、一般のビジネス書としての利用だけでなく、大学・大学院での教科書としての教育・研究用の利用を念頭に置き、類書に比べて中級レベルの解説に踏み込んで、制度や政策等に関する幅広い専門家による研究の最前線をまとめた点に特徴がある。

表紙左上に居並ぶ氏名を数えていただくと分かる通り、本書には、14人もの研究者・実務家が執筆参加しています。この専門家それぞれが、序章を含む合計14の章に分かれて、原則一人が1章を受け持つかたちで、自己の専門領域に沿ったテーマについて最先端の議論を紹介するスタイル。

こうした章ごと分担型の共著は、論点にダブりや抜け漏れが発生したり、筆致がばらばらになってしまったりしがちで、一般に法律書ではあまり好まれないスタイルかもしれません。しかし本書に関しては、編者の強いリーダーシップのもと、それぞれの専門家が他の章とのダブりを恐れず、かつその章の理解に必要な前提知識から自己の研究領域について一章完結型で書き切っており、どこから読んでも、また自分の関心分野だけ読んでも差し支えがない構成にもなっている点、むしろメリットとも言えるものになっています。

また、論点の抜け漏れについては、ブロックチェーンと法に関わる現時点での各分野の国内第一人者を片っ端から集めることによって、これを発生させないことに成功しているようにも思いました。

なお形式面ではありますが、本書の特徴として念のため触れておきたいのが、最先端のテーマを扱う本にもかかわらず、最近では法律書でも珍しくなった「縦書き」スタイルを採用しているところ。

これには古い世代の私ですら少々驚きました。ブロックチェーンに関心を持つ若い世代の方々にとってはもしかするとネガティブな印象を与えるかもしれませんが、この理由についても、はしがきに触れられていました。

類書の多くは横書きであるが、日本人の場合、横書きよりも縦書きの方が速読しやすいので縦書きとしたうえ、脚注を避けてなるべく本文に盛り込んだ。

こんなところにも、編者久保田隆先生の強いこだわり・リーダーシップが感じられます。

資金決済法以外のブロックチェーン関連法についても網羅

内容面についても簡単にご紹介をしておきたいと思います。全体の構成としては、

第1部 ブロックチェーン総論
第2部 実務と政策の視座
第3部 日本の法制度の詳解

の3部構成となっています。第2部で語られるIMF・BIS・UNCITRAL等の国際機関の視座も、類書にはない情報で大変参考になるものの、契約の再発明、特にスマートコントラクトを扱う本メディアとしては、やはり第3部の法制度の詳解に注目です。

仮想通貨を定義する資金決済法に関する記述がほとんどかと思いきや、むしろそれ以外の法令との関連をどこまで想像し深掘れるか、研究者・実務家たちが楽しみながらチャレンジしている様子が伺えました。以下、本文中言及のある法令をご覧いただくと、その網羅性の高さが伝わるかと思います。

各論点の研究の深さについて一例を挙げると、仮想通貨の私法的性質について、民法上の①権利・②物・③物権・④債権・⑤金銭・⑥財産権のいずれでもないこと、条理を法源とし物権法の法理を類推すべきものであること、アルゴリズムがデファクトとして機能するが当事者間の具体的な意思の合致があるわけではないことから債権的アプローチはとりえないこと(片岡義弘「ブロックチェーンと仮想通貨をめぐる法律上の基本論点」)などといったことまでが触れられています。

また、私自身金融機関の法務経験がないため正確に評価できる立場にありませんが、犯収法・テロ資金凍結法といった同業界特有の法令について、コラムとして外出しにされたこぼれ話や著者私見を見ているだけでも、本書のようにブロックチェーンの特性を加味して踏み込んだ解説にチャレンジしている文献はなかったであろうことは、容易に想像できます。

仕事柄各学会誌や法律専門誌に投稿されるブロックチェーンやスマートコントラクトについて言及された文献はくまなくウォッチしているつもりですが、資金決済法以外の法令との関係についてここまで網羅的にまとめた本格的な文献は、日本初だと思います。

(橋詰)