ブックレビュー Matthew Butterick『Typography for Lawyers(法律家のためのタイポグラフィ)』

投稿日:

言葉を商品とする法律家たるもの、タイポグラフィの技術は抑えておきたいもの。本書は、画面上で見やすい文字とはどういうものかに重点を置いた、法律家向けの英文タイポグラフィ専門書です。

書籍情報

Typography for Lawyers
  • 著者:Matthew Butterick
  • 出版社:Jones McClure Publishing
  • 出版年月:2010.10

「ディスプレイで見やすい法律文書づくり」特化型のタイポグラフィ指南書

文字を綺麗に、読みやすく見せる技術であるタイポグラフィ。デザイナーだけでなく、文字を通じてコミュニケーションし、文書という商品を生産する法律家も、ぜひ知っておきたい技術です。

しかし、いざタイポグラフィの参考書・専門書を探してみると、ポスターや雑誌など、広告印刷物へのプリントを前提としたデザイナー向けの古い書籍ばかり。ビジネスパーソン向けの書籍となると、さらに限られてしまうのが実情です。

そんな中で本書は、ビジネス文書の中でもさらに専門的な法律文書にフォーカス。それだけでなく、印刷物以上に 画面(ディスプレイ)上での文字の見え方・見せ方に力点を置いた、PCを武器に戦う弁護士・法律専門職のための、貴重な一冊となっています。

Matthew Butterick『Typography for Lawyers(法律家のためのタイポグラフィ)』P182—183

Wordを使った具体的テクニックの数々を収録

Basic/Advanceにレベルを分け、文字の実例をサンプルで示しながら、目からウロコなタイポグラフィーのルールが次々と紹介されます。英文タイポグラフィの本ではありますが、多くは日本語の契約書を作成するときにも使えるノウハウとなっています。

私も本書で初めて知ったタイポグラフィールールがいくつかありますが、その中の トップ3 が以下。

  1. スペースは空けたいが、行の折り返しが来てもそのスペース部分で自動改行をしないために、“nonbreaking space”と呼ばれるスペースの打ち方(macではoption+space)がある
  2. ダッシュには“en dash”と“em dash”の二つがあり、“en dash”は年号やページ数の幅表記(例:1880–1912)や言葉の関係や対比(例:conservative-leberal split)に用いる
  3. Wordでシグネチャーライン(署名欄の下線)を作る正しい方法は、アンダースコアを連続入力するのではなく、スペース(空白)を入力してそれにアンダーラインを設定する方法である

さらにただのタイポグラフィ本ではない、現代に即した本書の特徴がもう一つ。法律文書でよく使われる、

などの 記号類をキーボードからどう打つかといったデジタルTips が、逐一紹介されているところです。とくにマルシーマーク(©)などは、キーボードから直接打てるのを知らず、日本語変換エンジンで出している方も多いのではないでしょうか。なお“(c)”などと表記している例もよく見かけるのですが、タイポグラフィ的にはNGなのだそうです。

よく使われるこれらの記号類とその打ち方は、本書裏表紙に一覧化もされており、あとで参照するのに便利です。

裏表紙に収録されたTYPE-COMPOSITION REFERENCE

英文フォントの王者Times New Romanを全否定

こんなマニアックな本書が知られている理由の一つが、日本語フォントの王者ともいうべきMS明朝のように頻度高く使用されるフォント、“Times New Roman”を全否定 しているところです。

If you have a choice about using Times New Roman, please stop. Use something else.
Did you make your business cards and letterhead at your local copy shop? No, you didn’t, because you didn’t want them to look shoddy and cheap. If you cared enough to avoid the copy shop, then you care enough to avoid Times New Roman, Times New Roman connotes apathy. You are not apathetic.(P111)

「あなたの成果物が安物の印刷屋で作る名刺のように見られたくなかったら、Times New Romanのフォントを使うのはやめたほうがいい」と、かなり辛辣な言い回しで批判する著者。英文フォントの王者を全否定するこの一節は、以前ご紹介したKenneth A. Adams『A Manual of Style for Contract Drafting(英文契約書ドラフティングのためのスタイルマニュアル)』でも引用されています。

著者がTimes New Romanをここまで否定する理由、それはフォントの成り立ちにまでさかのぼります。イギリスの新聞Times誌のデザイナーによって作られたこのフォントは、新聞のような狭い横幅と行の折り返し処理を伴う体裁にあわせ、一行にたくさんの文字量が収められるよう、字間が狭くデザインされているのが特徴。一方、現代のA4縦長のビジネス文書では一行は長く、字間の狭いフォントは逆に見づらくなるだけであり、わざわざTimes New Romanを使う必要はないはずだと。

では、代わりにどのフォントを用いればよいのかについては、ぜひ以下の関連記事をご覧ください。

関連記事

契約書を作成する際のフォントの選び方【英文契約書編】

(橋詰)