ブックレビュー Kenneth A. Adams『A Manual of Style for Contract Drafting(英文契約書ドラフティングのためのスタイルマニュアル)』

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英文契約書に用いるフォント、レイアウト、書式、定型句・重要語句の使い方など、今どきの英文契約書を作成するにあたって正確に知っておくべき「常識」と「作法」が一冊にまとめられた、定評あるマニュアルの第4版が出ました。

書籍情報

A Manual of Style for Contract Drafting
  • 著者:Kenneth A. Adams
  • 出版社:American Bar Association
  • 出版年月:20180508

シンプルな英語を用いた英文契約書作成を提唱

著者Kenneth A. Adams氏は、2006年から続くブログ「Adams on Contract Drafting」の著者であり、契約書のドラフティングとその教育を専門とするエキスパートとして定評のある人物です。

英文契約書の書き方に関する類書はいくつかあるものの、一人の著者がここまで精緻に情報を整理してアップデートし、版を重ねている書籍は見当たりません。日本の類書で言えば、中村秀雄『英文契約書作成のキーポイント』がこれに近いでしょうか。

本書は、“A Manual of Style”のタイトルの通り、請負契約や秘密保持契約といった契約類型について解説するものではなく、契約書の形式面にフォーカスしています。全編を通じて貫かれている彼のモットーは、一般人には読みづらい伝統的な法律英語の使用をできるだけ排除し、誰にでも読みやすいシンプルな英語で契約書を書くべき、というもの。

本書の付録にある、昔ながらの書式の契約書をこのマニュアルにしたがってドラフティングし直した使用前・使用後のサンプルで、その差を見てみましょう。

MSCDスキーム適用前
MSCDスキーム適用後

英文契約の伝統的構文とされる「This Agreement 〜 WITNESSETH THAT: WHERAS, 〜 NOW, THEREFORE …」を使わず、「ABC and XYZ therefore agree as follows: … 」というような、軽やかで明瞭なスタイルを推奨するAdams氏。読みやすさ、必要な情報の探しやすさを優先したフォント・インデント・ナンバリングのルールを軸としたこのスキームは、本書頭文字を取って「MSCDスキーム」と名付けられています。

米国ロースクールの授業などでも、こうしたシンプルイングリッシュが推奨されていると聞きます。英語圏ではないアジアでも英語を共通言語として国際契約が結ばれていることを考えると、本書が提唱するシンプルな英語とナンバリングスキームを用いた契約スタイルが世界のスタンダードとなっていくのでしょう。

リーガルテックの先駆け?MSCDスキームを踏襲した契約書作成ソフト「Contract Express」

Adams氏の契約書フォーマットへのこだわりは、ブログや本書にとどまりません。「MSCDスキーム」に従った書式で契約書が作成できるツールも提供されています。それが、現在トムソン・ロイターが販売者となって提供されているContract Expressという製品です。

Contract Express

デモ版では、ライセンス契約などいくつかの契約書の作成を体験できます。

プリセットされた選択肢を選んでいくと、その選択に応じた契約書がWordファイルで契約書がアウトプットされる仕組み。契約相手方の設立根拠法に応じ、契約書の準拠法も変化させるなど、トムソン・ロイターらしいグローバルな取引を意識した作りにもなっています。

ウェブサイトによれば、自社で保有しているひな形をベースにして質問と選択肢を作ることで、契約文書の作成を半自動化するDocument Automationツールも提供しているようです。2010年ごろから販売されている古い技術によるもので、AIが契約書を自動作成するような先進的なリーガルテックには及びませんが、その先駆けと言ってもよいでしょう。

書籍版はリング製本からハードカバー製本へ変更

第3版から4年経ち、全体に最新の裁判例を反映し、契約用語集も大幅に拡充された他、著者Adams氏の真骨頂である緻密な調査にもとづく“reasonable / best efforts”の研究に関する記述が再整理されるなど、100頁以上にわたり修正と加筆がされた本書。

Kindle版も発売されていますが、本書のヘビーユーザーであれば、ハンドリングのしやすさを優先して書籍版を購入される方も多いと思います。その点に関して一つ捕捉情報を。今回私もはるばる海外から書籍版を取り寄せて知ったのですが、本書第3版の特徴でもあったリング製本は今回は採用されず、第4版は普通にハードカバー製本に変更されています。

手前がハードカバー製本の第4版、奥がリング製本の第3版

リング製本の第3版は、予備校のルーズリーフ型テキストのように見開きしやすく、躊躇なく余白に書き込みする気にさせてくれる風情があって好きだったのですが、一気に高級辞典のような風格を備えてしまいました。ちょっと寂しい気もしますが、その代わりリング製本の第3版よりも自立しやすいので、机の上に常備してサッとひもとくには便利かもしれません。

(橋詰)