労働条件通知書の電子化がついに解禁—労働基準法施行規則の改正ポイント

2019年4月より、労働条件通知書の電磁的方法による提供が認められることに。これまで書面交付が義務とされ雇用契約の完全電子化を阻んできた古い規制が緩和されることで、電子契約の利便性が更に向上します。

労働条件通知書の電子メール等による提供が可能に

労働者保護の観点から、雇用契約手続きにおいて必須とされてきた「労働条件通知書」の書面交付義務。

契約の電子化を推し進めるクラウドサインでも、雇用契約を電子化するにあたり労働条件通知書に限っては別途書面を交付していただく必要がある旨、お客様にご案内をしていました。

しかしついにこの 書面原則が緩和され、電子メール等による労働条件通知が認められる ことになりました。

労働条件の通知、メールで可能に 厚労省、来春から適用(2018/10/8付日本経済新聞)

厚生労働省は、企業が労働者に書面で交付すると定めている労働条件の通知方法を、電子メールなどでも可能にするよう規制を緩和する。利便性を高めるための措置で、書面として印刷できれば情報管理上、問題ないと判断した。労働基準法に基づく省令を改正し、2019年4月から適用する。

本記事では、現状の労働条件通知義務をまず説明し、その後、2019年4月1日に施行される新しい施行規則に基づく義務について、解説します。

ついに労働条件通知書の電磁的方法による提供が解禁

労働条件通知書の書面交付義務とは

現時点での労働条件通知書の書面交付義務を規定している法令を、おさらいしておきたいと思います。まずは、労働基準法 第15条1項の条文から。

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示 しなければならない。

この条文でいう「厚生労働省令」とは、労働基準法施行規則 第5条のことを指しています。

第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
   一 労働契約の期間に関する事項
   一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
   一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
   二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
   三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
   四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  (四の二〜十一 略)
2 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
3 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付 とする。

つまり、労働基準法本体では明示の方法はあえて明確化せず、その具体的方法の定めを厚生労働省が定める労働基準法施行規則に委任し、その施行規則が書面交付義務を定めているという構成となっています。

施行当初から「書面の交付」が明記されたこの施行規則は、昭和22年制定後改正されない状態が長らく続き、「規制のない雇用契約は電子化できるのに、労働条件通知書は書面で交付しなければならない」というあべこべな状態が発生していました。

厚生労働省東京労働局が定める労働条件通知書ひな形

改正労働基準法施行規則に定められた電子化3要件

今回の規制緩和は、働き方改革法に基づき2018年9月7日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令」に基づくものです。この省令は、2019年4月1日に施行されることが決定しています。

これにより、改正後の労働基準法施行規則は第5条4項(同条に1項が新設されるため旧3項が新4項に繰り下がり)に、以下の但し書きが追加されます。

4 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる
 一 ファクシミリを利用してする送信の方法
 二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(略)第二条第一号に規定する電気通信をいう。 以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法 (当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

この内容を詳しく見ていくと、労働条件通知書の電子化を認める要件として、以下3つが定められていることがわかります。

(1)「労働者が希望した」こと

まず、労働者がFAXまたは電子メール等での交付を希望することが条件となっています。

厚生労働省としては、自宅にパソコン等がない労働者を想定したものと思われます。実際の実務運用としては、人事担当者が内定段階で労働者に対し「FAXまたは電子メール等で送りますか?書面で送りますか?」と確認することになるでしょう。

就職・転職活動自体をスマホやPCで行うのが当たり前となっている中、わざわざ書面で送ってもらうことを希望する労働者は限定的だと思いますが、企業としては、本人の意向を確認をせず一方的に電子メール等で労働条件通知をしてしまうと、省令上は問題となる可能性がある点、注意が必要となります。

(2)「受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」によること

その労働条件が適用される労働者本人を特定して、その本人のためだけにネットワークを通じて送信されることが要件として定められています。

この要件、法令であまり見かけない表現なので解釈に戸惑う部分があるのですが、調べてみたところ、ストーカー規制法で同じ言い回しが使われていました。

推測するに、たとえば、誰でもダウンロードできるようなファイルスペースにアップロードする方法は認められないという解釈もありうるかもしれません。

(3)「労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成」できること

これはつまり、その電子メール等により発行した労働条件通知書が、紙に印刷(プリントアウト)できるものでなければならない、ということです。

あえて印刷できない電子ファイルを送るというシチュエーションはあまり考えられませんので、この要件についてはそれほど大きな障害にはならないはずです。ただし、LINEなどの印刷を前提としないチャットツールによる伝達は、この要件を満たさない可能性 もあります。

労働者の希望・特定した電気通信・印刷可能要件に注意

労働分野以外のさらなる規制緩和にも期待

以上、今回の労働条件通知における書面交付義務の緩和について、まとめてみました。

労働者の拒否権や印刷可能要件等の注意点はあるとはいえ、携帯電話やスマートフォンを使わずに就職活動やアルバイト探しをする労働者はほぼゼロと言ってよい現代において、労働条件通知書をわざわざ書面で出すことを求める労働者は、限られた存在だと思います。来年4月からの労働条件通知は、電磁的方法が事実上のスタンダードになっていくことでしょう。

そしてそのこと以上に大きいのは、もっとも生活に密接に関わるこの労働という分野において、契約関係書類の完全電子化が認められた という点です。

電子契約サービスに携わるものとしては、たとえば借地借家法第38条に定める定期借家契約の「書面」原則など、「紙は安全・電子は危険」という先入観だけで書面化に拘泥し電子化を拒んでいたその他の古い規制の緩和もあわせて進んでいく ことを、期待してやみません。

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(2018.10.19 橋詰改訂)