契約実務

定形約款とは?定形約款に該当するもの・しないもののまとめ


改正民法の施行日は2020年4月1日ですが、定型約款に関する規定については、2020年3月31日までに当事者より反対の意思表示が書面(電磁的記録による場合を含む)によりなされない場合、施行日前に締結された定型取引についても適用されることとなっています。

この反対の意思表示を行っておく必要がないか、現時点で自社取引で用いている契約条項が定型約款にあたるかあたらないかについて、確認しておきましょう。

定型約款とは

運送・証券取引・保険・旅行・通信販売など、不特定多数の当事者同士の取引は、インターネットの普及によって増加しています。そうした中、企業が大量の契約を迅速かつ効率的に締結・処理するために、条件を細かく定めた「約款」が用いられるのも珍しいことではなくなりました。

こうした約款を用いた取引では、内容が十分に理解されないまま、または交渉がなされないままに契約にいたり、一方当事者の利益が害される可能性も懸念されます。そこで、改正民法においては、

  • ある特定の者(定型約款準備者)が不特定多数の者を相手方として行う取引であって(不特定多数要件)、
  • その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(合理的画一性要件)

の2つの要件を満たす取引を「定型取引」と定義した上で

  • 定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体

を「定型約款」と定義し、こうした定型約款を用いて契約をする場合の組入(くみいれ)要件、約款内容の表示方法、不当または不意打ち条項規制、約款内容を変更する場合の要件について、ルールを改めて整備・明確化しました(改正民法548条の2〜548条の4)。

定型約款に該当するもの

では、「定型約款」としてこのルールに服することになる約款とは、どのようなものが挙げられるのでしょうか。

定型約款に該当するかしないかは、本来、そこに書かれた具体的文言やそれぞれの取引実態等の個別事情によっても左右されるものの、ここでは理解の便宜のために、国会答弁および末尾に掲げる参考文献において「該当する」とされているものをリストします。

定型約款に該当するものの例
預金規定
証券総合サービス約款
投資信託約款
消費者ローン契約書
保険約款
旅客運送約款
宅配便運送約款
旅行業約款
宿泊約款
電気供給約款
電気通信役務提供約款
ソフトウェアライセンス規約
インターネットサイト利用約款

定型約款に該当しないもの

一方、一見すると「定型約款」に該当するようにも思われるものの、「該当しない」と考えられているものとしては、以下が挙げられます。

定型約款に該当しないものの例
事業者間の契約書ひな形
事業者間の基本契約に基づく個別売買取引
民間建設工事標準請負契約約款
建設工事標準下請契約約款
労働契約書

これらが定型約款に該当しない理由としては、冒頭の定義に立ち返り、

  • 契約相手方の個性に着目して締結される=不特定多数要件を満たさない
  • 契約相手方が変更を求めずに契約を締結することが取引通念に照らして合理的と言い難い=合理的画一性要件を満たさない

と考えられるためです。

定型約款に該当するかしないか議論があるもの

以下に列挙するものは、国会答弁では「(原則として)該当しない」と整理されたものの、文献によっては取引実態に照らし定型約款該当性に議論の余地があるという指摘があります。

定型約款に該当するかしないか議論があるものの例
銀行取引約定書
住宅ローン契約書
賃貸借契約書ひな形
フランチャイズ契約

銀行取引約定書については国会答弁を知るまで「修正要望に応じることもある」という取引実態があることを知りませんでしたし、また、フランチャイズ契約などは画一的であるからこそフランチャイズというシステムが成り立っているであろうことを考えると、原則という限定付きとはいえ「該当しない」と断定してよいかには疑問も残るところです。

参考文献

  • 筒井健夫・村松秀樹『一問一答・民法(債権関係)改正』(商事法務,2018)
  • 潮見佳男『新債権総論Ⅰ』(信山社,2017)
  • 潮見佳男『民法(債権関係)改正法の概要』(金融財政事情研究会,2017)
  • 渡邉雅之『改正民法に基づく業種別定型約款のつくり方・見直し方』(日本法令,2018)
  • 青山大樹・宮地賛「定型約款の定義—該当例・非該当例の具体的検討」(ビジネス法務2018年7月号)

画像:
CORA / PIXTA(ピクスタ), Graphs / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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