契約実務

契約書の収入印紙代はどちらが支払うべき?

印紙税法上、作成した契約書に貼る収入印紙の購入費用は、契約当事者の誰が負担してもよいことをご存知でしょうか。大企業に電子契約を拒絶され、泣く泣く4,000円の印紙代を負担させられたフリーランスのつぶやきから学んでみましょう。

契約書の収入印紙代4,000円を大企業に負担させられたあるフリーランスのつぶやき

僕はフリーランスエンジニアだ。「Go言語」というプログラム言語が操れることをウリにして独立し、そろそろ3年目になる。

Goは最近ようやく注目されはじめた言語だが、これを扱えるエンジニアは日本にはまだ少ない。そのおかげで報酬もわりといいし、何より、普通ならフリーランスとは付き合ってくれない大企業からの発注も増えている。先週も、知人の紹介で超大手企業のH社さんからの発注をもらった。「押印の前に念のため確認を」と、取引基本契約書の電子ファイルが送られてきた。

契約書の押印といえば、独立して2年目に入ったころから、契約が必要なときは積極的に「クラウドサイン」を使っている。大手ゲーム会社から仕事を受けたとき、「うちの契約は紙とハンコではなく、クラウドサインでお願いしてます」と、電子契約なるものが送られてきて、初めてこのサービスを知った。

https://www.cloudsign.jp/ サービス紹介動画より
https://www.cloudsign.jp/ サービス紹介動画より

電子契約なら、郵送費がいらないのはもちろん、なんと収入印紙も貼らなくても適法 だそうだ。というか、最初にクラウドサインを送信したとき、「印紙貼ろうっと……、と思ったら契約書が紙じゃねぇし!」と、思わずノリ突っ込みをしてしまったw。4,000円といえども貴重なおカネだし、しかも書類を保管しておくスペースすらないフリーランスには、本当に神様のようなサービスだと思う。

H社みたいな、歴史ある大企業様はきっとこういう新しいツールを知らないだろう。とは言っても、法的にも有効だし、すでに大手企業の利用実績もある。こんな快適な契約ツールを初めて体験したら、H社もびっくりするはずだ。そう思いながらクラウドサインを送信して1週間後のことだった。

当社法務部に確認しましたが、『クラウドサインはTVCMなどで知っているが、当社は電子契約を締結した前例がないから受け付けられない』と言われてしまいました。申し訳ないのですが、こちらで製本した契約書を2通送ります。御社分の1通に4,000円の印紙を貼っていただいて、押印の上返送してもらえますか。

と、つれない返事が返ってきたのだ。

H社にもコストがかからないのがクラウドサインのメリットなのに、そして電子契約ならH社も僕もお互いに印紙税もかからないっていうのに。

なんでうちが4,000円の収入印紙代を出費しなきゃらないんだ……?

「紙の契約書とハンコ」から離れられないために発生した収入印紙の費用は誰が負担すべきか

クラウドサインは、契約業務のスピード化・効率化を図る大企業のみならず、郵送費や印紙税コストを最小化したい中小企業やフリーランスのみなさまにも、ご好評をいただいています。

そんなユーザーの皆様から聞くお悩みに、「紙の契約書にこだわる一部の大企業が電子契約を受け入れてくれないために、契約に関するコスト削減が徹底できない」というものがあります。

紙の契約書にこだわり、電子契約を拒絶する一部の大企業
紙の契約書にこだわり、電子契約を拒絶する一部の大企業

中小企業やフリーランサーにとって 決して軽くないコストが収入印紙代 です。基本契約書ともなれば、1通4,000円もの収入印紙を貼る必要があります(第7号文書)。電子契約なら、この印紙代は税務上不要(関連記事参照)となるにもかかわらず、です。

下請事業者の立場であるフリーランサーから電子契約を希望しているのに、大企業の都合で紙の契約書を指定され、契約書に印紙を貼る必要が生まれる。このシチュエーションでフリーランサーが自社分の印紙の購入費用を負担するのは、法律上の決まりとして避けられないことなのでしょうか?

印紙税は「連帯納税義務」はあるが負担割合は自由

契約書を2通作成した場合、自社が保管する分の印紙代は自社が負担する義務がある。一般的にはそう考えられていると思います。

ところが、印紙税法3条および印紙税法基本通達47条を読むと、連帯納税義務はあるものの、「按分して負担すべき」とも「自社の契約書の印紙代は自社が負担すべき」とも実は書かかれていません

国税庁 印紙税法基本通達 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/07.htm 2020年9月2日最終アクセス
国税庁 印紙税法基本通達 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/07.htm 2020年9月2日最終アクセス

このように、

そのうちの1人が納税義務を履行すれば当該2以上の者全員の納税義務が消滅するのであるから留意する。

と、どちらか一方がまとめて購入して貼付・消印をし納税すれば、それでもOKとはっきり書いてあるのです。つまり、印紙代を契約当事者の一方に全額負担させても、法律上は差し支えありません

印紙代負担の強制が下請法の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」とならないよう注意

印紙代の負担のあり方について規定するものではありませんが、下請代金支払遅延防止法では、親事業者が下請事業者から金銭・労務の提供等をさせることが禁じられています(第4条第2項第3号「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」)。

これを踏まえると、親事業者の立場としては、印紙代を下請事業者に全額強制負担させるようなことはすべきではありませんし、適法に削減できるはずのコストを、正当も理由ないまま下請事業者に負担させないよう配慮をすべきでしょう。

公正取引委員会 親事業者の禁止行為 https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyakinsi.html 2020年9月2日最終アクセス
公正取引委員会 親事業者の禁止行為 https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyakinsi.html 2020年9月2日最終アクセス

下請事業者から大企業に対し「印紙税はそちらが全額負担してほしい」とは、取引におけるパワーバランス上言い出しにくいかもしれません。とはいえ、法的に按分負担義務がない中で大企業の都合で紙の契約書での締結を強制されるのであれば、交渉によりその費用を求めること自体は決して不合理なことではない と考えます。

画像:bee / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

関連記事

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。