契約実務

契約書の印刷方法に関する常識・非常識—契約書の両面印刷はマナー違反か

契約書の印刷方法に関する常識・非常識—契約書の両面印刷はマナー違反か

本記事では、契約書の印刷方法とそのルールについて解説します。契約書作成にかかるコストや製本の手間を考えると、印刷の枚数はできるだけ少なくしたいもの。ページ数を減らすため、契約書は両面印刷で作成してもよいのか?メリット・デメリットもあわせて説明します。

1. 契約書の印刷方法

企業の法務部門や総務部門にお勤めでもなければ、契約書の印刷に慣れているという方は少ないと思います。しかし、ビジネスに契約書はつきものです。
何ヶ月か1回にでも契約書の印刷をしなければならない時に備えて、契約書の印刷に関する基礎知識を身につけておくと、役に立ちます。

1.1 印刷する紙は上質紙を選び、品質の悪い紙は使用しない

まず、印刷する紙について確認します。結論としては、できるだけ上質な紙に印刷することが基本です。

ESGの時代、もはや再生紙を使うことは常識とはいえ、さすがに藁半紙のような品質の悪い紙や感熱紙等の変質しやすい紙を使用しないことが重要です。

  • 長期間保管した際に、用紙が変色してしまう
  • プリント時に、インクトナーがきれいに乗らない

ことで、品質の悪い紙に印刷すると、長期間経過後に契約条文・文言が読めなくなってしまい、契約解釈に疑義が生じうるためです。

1.2 紙の色は白色が基本、まれに着色した紙に印字することもある

なお、契約書の印刷に用いる用紙が白色であることは、絶対条件ではありません。

たとえば、音楽業界で用いられている著作権譲渡契約書(いわゆるMPA書式)は、日本音楽出版社協会が販売している契約用紙自体に色がついており、これが公式なものとなっています。その他、企業によっては、管理上目立つように注文書・請書等文書ごとに着色した紙を用いているケースもあります。

ただし、印字・記入する文字が読みにくくならないよう、色をつけるとしてもできるだけ薄い色を選択します。

1.3 公文書にならい、紙のサイズはA判とする

日本では、国際規格に準拠するため、平成6年以降公文書(行政文書)のA判化が徹底され(「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第三次答申」)、これに伴いビジネス文書も次第にA判化されていきました。

裁判所に提出する訴訟書類については、平成12年12月31日まで、民事訴訟規則に

訴訟書類には、できる限り、日本工業規格B列四番の用紙を二つに折ったもの又は日本工業規格B列五番の用紙を使用しなければならない。ただし、図面、統計表その他これに準ずるものについては、この限りでない。

との定めがありましたが、裁判所は平成13年1月1日より原則としてA判横書書面での提出を求めるようになりました(平成12年9月20日日弁連企第186号)。

企業においても、古い契約案件などでは、B5用紙に印刷されているものを見かけることがあるかもしれません。しかし、契約書は契約相手方にも同じものを保管していただく必要があります。契約相手方の文書保管やファイリング上不便をかけないよう、よほどの事情がない限りA判サイズとすべきです。

A4に印刷すると複数枚となる場合には、A3に製本印刷し、これを折りたたむことで袋とじ等の手間を削減することもあります。この点については後述します。

1.4 片面印刷を好む契約実務家は多いものの、両面印刷でも可

契約書を印刷する際、片面印刷とするか両面印刷とするかは、さまざまな考え方があります。

後述するとおり、企業法務や契約実務家は、片面印刷を好む傾向にあります。この理由として、裁判所に提出する訴状等の書式において、片面印刷での提出を求められる実務があるからと考えられます。

ただし、これは裁判所に提出する際の書面の書式のルールです。契約当事者双方が合意を確認する書類としての契約書は、その合意の内容が記録され確認できればよく、両面印刷をしたからといって、契約時に交わした内容が無効になってしまうことはありません。

1.5 印刷が複数枚となる場合は、袋とじ・契印をする

長い契約書になれば、印刷した紙も複数枚にわたることになります。

そのままバラバラに保管をすると、契約書の一部を悪意のある取引先に差し替えられ、合意していない契約条件が合意されたかのような契約書を偽造することができてしまうことになります。

このようなことが起きないよう、印刷後に、各ページを一つの本のように綴じて製本・袋とじをし、製本が改ざんされないように契印と呼ばれる押印をします。この製本・袋とじ・契印の詳しい方法については、本メディアの記事「契約書の製本(袋とじ)の方法と契印割印のルール」で詳しく解説しています。

2. 契約書の片面印刷・両面印刷に関するルールとマナー

契約書の印刷方法とそのルールについて、賛否両論分かれるのが、契約書の両面印刷についてです。この点について考えてみましょう。

2.1 企業法務アンケートでは「原則として契約書は片面印刷」派が63%

実際、片面印刷と両面印刷、現状の多数派はどちらなのか? 法務担当者や弁護士をはじめとするビジネスパーソンがフォロワーに多いTwitterのタイムラインで、アンケートを依頼しました。

企業法務アンケートでは「原則として契約書は片面印刷」派が63%

その結果、投票数176を集めて、合計63%が「原則として片面印刷」派 となりました。

特に、「絶対に両面印刷はしない」という方が23%もいらっしゃるというのは驚かされます。

2.2 裁判所の「訴状等の印刷仕様は片面印刷」書式指定の影響

片面印刷を好む契約実務家が多い理由として、裁判所が片面印刷を標準書式と定め、訴状等の提出を求めていることが挙げられます(日本弁護士連合会 平成12年11月16日日弁連企第231号)。

  • 印刷仕様は片面印刷
  • A3判の袋とじは使用せず、A4判によるものとする。
  • 複数枚の文書の綴じ方は左綴じとし、左余白30㎜以内のところで、ホチキスにより2か所をとめる。
  • 使用文字の大きさは12ポイントの文字で、見出しの文字の大きさを変更するのは任意である。

近年、法律事務所でキャリアを積んだ弁護士が企業内弁護士に転身する例も増えています。それまでの職務・職場で当然のルールとされていたこの片面印刷ルールが、法律文書作成の常識として染みついているということも影響していると思われます。

2.3 「A3・両面印刷」を指定する例もある

その一方で、A4ではなくA3を利用した両面印刷を指定するケースも少なくありません。

一例として、鹿児島大学病院では、取引事業者に対して「契約書の印刷方法について」と題する指示書をインターネット上に公開しています。これによれば、契約書はA3用紙に製本印刷することを指示しており、できるだけホチキス・製本テープ・契印等が発生しないように配慮しています。製本印刷について、プリンターの印刷設定方法まで案内しているのは親切です。

鹿児島大学病院では両面印刷を指示

1.2で紹介した、一般社団法人日本音楽出版社協会が販売する著作権譲渡契約書(MPA書式)も、A3用紙に両面印刷された様式で販売されています。音楽の著作者たちは、これを購入して必要箇所を記入の上調印し、契約しています。

3. 契約書を両面印刷する場合のデメリット

さて、このような実態もある中、企業によっては両面印刷に根強い反対派もいます。反対派が指摘するデメリットを整理して考えてみました。

3.1 両面印刷できるプリンター・コピー機がないとできない

コンピュータが普及し、高速なプリンターが普及したのは実はそれほど昔のことではなく、ここ20〜30年の話です。一般企業で契約書が片面印刷とされてきたのは、実はこの 「両面印刷できるプリンター・コピー機がオフィスになかったから」 が主な理由だったのではないかと推測します。

今でも、小規模オフィスで導入される小型のプリンター・複合機などでは、両面印刷機能がないものもあるでしょう。それでも、手差し印刷機能を使えば、誰にでも両面印刷は可能なはずなのですが。

3.2 レビューしにくい

アンケートで片面派が多数になった理由のもう一つの理由に、回答者バイアスが働いた可能性があり、こう考える法務担当者が多かったとしても不思議ではありません。

確かに、製本前のバラバラな紙片を並べて契約書レビューをしているような段階では、両面印刷にしていると裏表ぺらぺらとめくり返す必要がでてくる ため、今自分がどこまで読んだのがわからなくなったり、並べて一覧することがしにくくなります。しかし、法務担当者のわがままといえばそれまでのような気もします。

3.3 製本・押印後のPDFスキャン作業が面倒になる

実務的には共感する理由がこちら。製本し押印が完了した契約書をデータでも保管するため、スキャニングをしてPDFにすることは多いと思います。この際、両面印刷で製本されていると、袋とじを壊さないようにデリケートに扱いながら、スキャンの位置決めに気を使うなど、たしかに面倒 にはなります。

以前、契約書スキャン作業を代行するクラウドサインSCANの作業現場を公開したことがありましたが、この作業過程でも、両面印刷のスキャンはひと手間かかるというお話がありました。

4. 契約書を両面印刷する場合のメリット

一方で、契約書の両面印刷には確実なメリットがあります。言わずもがな、というものも含めてあらためて整理してみましょう。

4.1 紙資源の無駄とコストが削減できる

単純に考えて、両面にしただけで紙の使用量が2分の1 になります。

会社としてのコスト削減はもちろんのこと、長期的な紙資源の無駄遣いをなくし、森林環境の保護の重要性に鑑みれば、多少のデメリットに目をつぶってでも両面印刷は推奨されるべきでしょう。

4.2 製本と契印が不要になる

契約書の製本(袋とじ)と契印のルールについての記事にもあるとおり、どんなに 手慣れた担当者でも、袋とじ作業と契印の押印には10分程度の時間 はかかります。

短いNDAや業務委託契約書など、A4✕4枚までの契約書なら、A3用紙に2 in 1 &裏表印刷することで1枚の紙におさめることができ、製本作業がなくなります。普段は片面派の法務担当者でも、このときだけは両面印刷を認めるという例もよく聞きます。

またこの場合、契約書のページが複数枚に分かれたときに必要とされる契印ももちろん不要です。契約相手方の押印の手間も同時に減らすことができます。

4.3 保管スペースが削減できる

ページ数が半分になるため、単純計算で物理的な保管スペースが半分で済むことになります。増えていく一方で、いつ捨ててよいかもわからない契約書。企業が若いうちは気にならなくても、成長を続けるにつれて必ず保管スペースが足らなくなる問題に直面します。

特に都市部のお客さまが電子契約をご検討される理由に、

  • 高い家賃のオフィスで保管スペースを確保すること
  • 遠隔地の倉庫に入れて探しにくくなること

に限界を感じてという理由であるのも、これが理由です。

特に都市部のお客さまがのような電子契約をご検討される理由の一つが、高い家賃のオフィスで保管スペースを確保すること、遠隔地の倉庫に入れて探しにくくなることに限界を感じてというものなのも、これが理由です。

5. まとめ

以上、契約書の印刷方法に関するルールと常識・非常識を整理してみました。

契約書は、ビジネスのための文書ですが、法律文書でもあるため、その取扱いに慎重になる方もどうしてもいらっしゃいます。クラウドサインのような電子契約が普及するにつれて、こうした紙の印刷に関する負や悩みも解消されていくことが期待されますが、すべての契約書が電子化されるまで、もう少しの時間がかかりそうです。

それまでの間、紙の契約書を作成する際には、片面・両面、A4・A3、それぞれのメリットとデメリットを勘案して、印刷方法を選択する必要があります。

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