Wordファイル以外で契約書案を送る理由とその対処法

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この記事では、PDF・Excel・製本済み書面などWordファイル以外で契約書案が送信されるのはなぜか、それに対しどのような対処法が考えられるのかについてまとめています。送信者の意図を汲んだ上で、冷静な対応を行うことで、その後の契約交渉をスムーズに運ぶことができます。

契約書案のやりとりは原則Word形式

契約書案のやり取りには、ほとんどの場合Wordファイル(.docx)が用いられています。これは以下の理由によります。

  1. 書類作成やデザインに必要な機能が充実したツールであること
  2. 修正が容易であること
  3. 修正の履歴が分かりやすいこと
  4. 商習慣上、多くの法務関係者が用いていること

近年、Googleドキュメントをはじめとするクラウドエディタも普及し始めています。しかし 現時点では、ビジネス文書の下書きに用いられるソフトウェアのデファクトスタンダードはまだまだWordであり、筆者もこれを用いるべき だという立場です。

一方、ビジネスシーンにおいて、Wordファイル以外の形式、具体的には

などで契約書案が送られてくることも、決して少なくありません。

このような、Word形式以外で契約書案を送信してくる相手方の意図はどこにあるのか?そうしたファイルを受け取った場合どう対処すべきか? 送信者の意図と、受信者としての対処法について、以下代表的なPDF・Excel・製本済み書面の場合を例に整理をしてみます。

契約書案のやりとりは原則Word形式だが、PDF・Excel・製本済み書面で送られてくるケースは少なくない

PDF形式で契約書案を送る理由と受け取った側の対処法

Wordに次いで、契約書案をやり取りするファイル形式として目にするのが、PDF形式です。

PDFで契約書案をやりとりする送信者の意図・メリットとしては、以下2点が挙げられます。

  1. 好み等での修正を入れにくくなるため、大量の案件を捌くときの手間が軽くなる
  2. 契約条件の変更が難しいことを暗に示すことができる

その内容が公平なものであり、多くの取引先に同じ内容をお願いするようなものであれば、ちょっとした好み等で修正が容易に入れられるWordよりも、適している場合もあります。しかし、これらの理由は送信者にとってはメリットであっても、まだ条件交渉がまとまっていないうちにこの形式で送りつけられた受信者には、攻撃的な印象を与える ことになります。

では、相手方がPDF形式で契約書案を送ってきたとき、受け取った側の対処法としてどのようなものがあるでしょうか。

PDF契約書への対処法1:修正を希望する部分をメール等で相手方に伝える

PDFファイルがあるということは、相手方はその元となったWordファイル等を持っており、それを修正できる立場にあるはずです。

そうであれば、実際に修正する作業は相手方に任せ、当社からはあくまで「修正したい部分」をメール等で淡々と伝えるだけに徹する という方法が取りえます。

修正困難なファイル形式で送ってきたのは相手なのですから、多少見にくい手書きで修正案を書き加えるでも、メール本文に箇条書きにするでも良いでしょう。

PDF契約書への対処法2:修正覚書を作成する

PDF形式で送ることが、原契約を変更することを避けるためのものであるなら、覚書を作成して原契約とは別に締結する というのも一つの方法です。

ただし、稟議や押印の文書量が増えるために、会社によっては社内決裁までにさらに時間を要するという弊害があります。

それだけで締結に至るまでの期間が大幅に増える会社もあるので、その点は相手方とうまくコミュニケーションをとる必要があります。

PDF契約書への対処法3:Wordファイルに変換して修正する

PDFファイルは、Adobe Acrobat Pro DCなどの専用ソフトがないと編集できないと思い込んでいる方も多いのですが、実は、PDFファイルをWordファイルに変換する様々な方法があります。

例えば、PDFからWordにコンバートする無料ウェブツールとして、Adobe社が公式に提供している「PDFを Wordに変換」ツール があります。Wordに変換することで、通常のWordとして修正を加えることができます。

https://www.adobe.com/jp/acrobat/online/pdf-to-word.html 2021年7月12日最終アクセス

相手方がPDFを使用した意図を無視することになるため、軋轢を生まないよう、相手方との力関係等を考慮して行った方が良い場合もあります。

Excel形式で契約書案を送る理由と受け取った側の対処法

数は多くはないかもしれませんが、Excel形式の契約書も存在します。

Excel形式の契約書は一般にすこぶる評判が悪く、受け取った法務担当者がげんなりすることが多いものです。なぜなら、修正作業に手間がかかり、修正履歴が追いかけづらいファイル形式 だからです。

しかし、以下のような利点から、Excel形式の契約書が活用されることもあります。

  1. 計算式を使用できる
  2. マクロを組んで契約書を一括で作成できる

事実、行政等がサンプルとして公開している契約書の中には、Excelで作成されているものも少なくありません し、筆者の経験として、産業廃棄物処理委託契約書についてはExcelで作成されたものを過去何度も見たことがあります。

相手方がExcel形式で送ってきたときの対処法として、以下が考えられます。

Excel契約書への対処法1:修正を希望する部分をメール等で相手方に伝える

Excel形式の契約書は特に一行の文字数等との関係で修正が面倒です。そのため、PDFの場合と同様 実際に修正する作業は相手方に任せ、自社はあくまで修正したい部分を伝える だけに徹したいところでしょう。

通常Word形式が用いられるところ、相手方が相手方の都合でExcel形式を用いているわけで、修正作業を相手方に負担させても特に文句も出ないはずです。

Excel契約書への対処法2:ファイルを直接修正する

Excelのアプリケーションを持っていれば、PDF形式とは異なり直接修正することは可能 です。修正する量がさほど多くないような場合は、直接修正してしまう方が早い場合もあります。

ただし、修正によりページがずれることや計算式が崩れることには留意しなければなりません。

Excel契約書対処法3:Wordに変換して修正する

少しアクロバティックな方法として、ExcelファイルをいったんWordファイルに変換した上で修正する というものがあります。

具体的には、Excelファイルを「印刷」の「Microsoft Print to PDF」等を用いてPDF形式で保存し、そちらを前述の「PDFを Wordに変換」ツール等を用いてWord形式に変換する方法があります。これにより、修正がしやすくなるほか、修正履歴も追いかけやすくなります。

なお、Excelファイルを「名前を付けて保存」からPDF形式を選択して保存してしまうと、Word形式への返還時にセル情報が残り上手くいかない場合があるので、注意が必要です。

製本済み書面で契約書案を送る理由と受け取った側の対処法

契約書のやり取りにおいては、相手方の押印まで済んでいる製本済み契約書が送られてくることもあります。受け手が最も憤慨する方法です。「修正は一切認めない!」という意思を突き付けられたかのように感じてしまう からです。

送信者にとっては、以下のような意図・メリットがあります。

  1. 受信者が契約書案を受け入れ可能なら、最短の所要時間で契約が結べる
  2. 好み等での修正を入れにくくなるため、大量の案件を捌くときの手間が軽くなる
  3. 変更が難しいことを暗に示すことができる

ただし、1のスピードの問題であれば、現在は契約締結方法として電子契約が選択肢として存在するわけであり、本当にそれが理由だったとしても、PDFでの送信以上に相手方に高圧的な印象を与える結果となります。

この方法で契約書案が送られてきた場合の対処法は限られています。

製本済み書面契約書への対処法1:Wordファイルを入手する

修正が必要であり、Wordファイルが必要であることを相手方に伝えて入手 する方法です。

そもそもファイルがない以上、できること自体が限られるため、自ずとこの方法になると思われます。

製本済み書面契約書への対処法2:書面を返送し修正希望部分をメール等で相手方に伝える

このままでは受け入れられないことをはっきり表明するために、書面を返送し、修正したい部分を相手方にメール等で伝え ます。

そもそも自社にはファイル自体が無いので、この方法で相手方から文句が出ることはまず無いと思われます。

製本済み書面契約書への対処法3:OCRでWordに変換して修正する

スキャナをお持ちであれば、OCR(Optical Character Recognition/Reader、光学的文字認識)を施して、文字情報付きPDFファイルを作成し、さらにそれをWordファイルに変換して修正 するという手法も取りえます。

ただし、OCRの精度やソフトウェアの性能によって、改行やインデント等を整備する手間が発生することは否めず、非常に手間のかかる作業です。

契約書案のファイル形式をWordに統一すべき理由

本記事では、契約書のやり取りの際に用いられる各形式について、送信者の立場での利点と、受信者側の対処法について整理しました。

筆者としては、Word形式を用いるべきだと考える立場です。それは デファクトスタンダードに従うことでの双方の利便性や双方の生産性の観点に加えて、今や数千社単位で活用され始めているリーガルテックへの親和性の観点から です。

Hubble・LegalForce・AI-CON・LAWGUE等、契約書の作成やレビューをサポートするリーガルテックにおいては、Word形式を中心に据えて開発がされています。ユーザーが手間なくそれらを活用するためには、使用するファイルが最初からWord形式であることが望ましいところですし、Word以外の形式でのやり取りが増えれば増えるほど、Word以外の形式にも対応するために、リーガルテック開発会社が費用や手間を割かざるを得なくなって行きます。これにより、法務部門ユーザーが真に欲する機能の実現が遅れていくことにもなります。

Wordファイルがクラウド型エディタと比べてベストかどうかは、議論の余地もあるかもしれません。しかし、Word形式にしておけば、少なくとも相手方に迷惑をかけることはありません。不毛な争いを続けることで、法務の生産性向上やDXの進展に遅れを発生させないようにしたいものです。

(文:あいぱる、画像:toa55 / PIXTA, ゆうごろ / PIXTA)

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