契約法務のためのブックガイド2019
年末年始も近づき、ブックガイドの季節がやってきました。今年刊行された法律書籍の評判も参考に、きたる2019年に備え手元に揃えておきたい契約法務必携本12冊を、契約特化型メディア「サインのリ・デザイン」編集部がセレクトします。
目次
(1)契約法務の心構えを作る
契約法務に取り組む「心構え」を作る本。この分野には名著が多数あり、2019年おすすめの一冊を絞るのに相当悩みました。
『民法案内』で語られる私法の基本原理、『法律文書作成の基本』で語られる文書作成の要諦、さらに『訴訟の心得』・『要件事実入門』で語られる訴訟と契約書の関係をすべてカバー、それでいて180ページ弱の薄さに凝縮した「これ一冊」感で本書を選びました。
折に触れ読み直すたびに新しい気づきがある、ノウハウが高密度に詰まった本です。
(2)契約用語の基礎体力を培う
法令用語のルールに忠実な言葉づかいで契約書を書けるようになることは、契約法務担当者の基礎体力ともいうべき能力。
そのトレーニング方法は、本書のような法令用語集を机の上におき、何度も確認しながら契約書を作成することに尽きるでしょう。
(3)条文から判例・学説をリサーチする
『法律実務家が知っておきたい作法』P107以降でも言及がありますが、判例・学説をリサーチするとき、逐条でそれらをまとめてくれているコンメンタールが出発点となります。
改正民法の解説が薄すぎるという点で、実はあまり評判がよくないこの第5版。しかし総則・物権・債権が一冊にまとまった利便性は代え難いものがあります。
(4)改正民法のポイントと影響を正確に理解する
2020年改正民法施行までいよいよあと1年。法制審議会や国会審議等を踏まえた改正民法の立法趣旨詳細、新旧法の違いによる契約解釈への影響などを正確にフォローし、『我妻・有泉コンメンタール民法』を補完するために欠かせません。
余裕があれば、サインのリ・デザインでも紹介ずみの『定型約款の実務Q&A』『債権法改正契約条項見直しの着眼点』も、あわせて揃えておきたいところです。
(5)契約法を体系的に理解する
改正後の民法をベースに債権各論(契約法)について体系的に学ぶ基本書としては、定評のあるこちらを推薦します。
コンパクトで無駄がなく読みやすい筆致、そして見やすい二色刷りです。
(6)契約審査業務をマニュアル化し漏れをなくす
書式集を兼ねた契約実務書の分野では、阿部・井窪・片山『契約書作成の実務と書式』が定番とされてきましたが、刊行から年数も経ち、改正民法対応が優先される2019年はこちらを推したいと思います。
秘密保持契約にはじまり、売買・賃貸・請負・業務委託・労働・代理店と幅広い契約類型・サンプル条項を収録しているのが特徴。さらに、事業部門からヒアリングすべきことや契約類型ごとに設けるべき条件について、チェックリストも完備。
法務部員がこれを常に参照することで、契約業務の品質の底上げを図ることができる、「マニュアル」の名に偽りのない本です。
(7)IT契約の様々な類型にキャッチアップする
『契約審査手続マニュアル』に欠けているのが、近年契約締結の頻度が高くなる一方のIT系契約のバリエーションです。
システム保守委託契約・クラウドサービス利用・データ提供契約など、頻出するIT系契約を網羅する本書でひな形と知識を補充しておくことをお勧めします。
(8)知財系契約を網羅的にカバーする
こちらも『契約審査手続マニュアル』に不足している知財分野を補うための一冊。特許・意匠等の産業財産権契約から、出版・演劇・映画・キャラクター・パブリシティといったエンタメ系契約までをカバーする知る人ぞ知る名著。
2007年刊行後改訂がなく、職務発明制度などの直近の法改正対応がなされていないことと、いまや入手困難となっているのが玉にキズです。
(9)他社と協働しオープンイノベーションを推進する
2019年は、自社だけではなし得ない知恵を生み出すオープン・イノベーションへの取組みがますます広がりそうな機運を感じます。
大阪弁護士会知的財産法実務研究会がNBLに連載した「共同研究開発契約の理論と実務」をベースに、企業、大学の知財・法務担当者らが加筆してできたのが本書。こちらも入手困難となりつつある隠れ名著です。
(10)件数が増え身近になったM&Aに慌てず素早く対応する
若い起業家の台頭とともに、中小企業の創業者引退に伴う事業承継も増え、2019年も活況となりそうなM&A取引。
M&A各種スキームの解説・進行スケジュールなどの細かな実務・契約条項案がバランスよく解説されている点、知りたいことがすぐに探せる逆引きの便利さ、加えて著者の宮下先生によるYouTube講義(音声)が無料公開されている点から、本書を選書しました。初学者向けとの評価もあるようですが、本書レベルで会社法・契約法の知識を身につけ体系的に整理できている法務担当者は、そうそういないと思います。
なお、契約条項よりも交渉のポイントやイレギュラーケースへの実務を深く知りたい上級者には、柴田堅太郎『中小企業買収の法務』もおすすめです。
(11)利益率に直結する税務をおろそかにしない
売上から費用を引き、残った利益からまず徴収される税金。「うまい話」はないものの、スキームの選択や条項の書き方にちょっとした配慮をすることで、利益に差が出ることもあります。
類書はいくつかありますが、契約書への落とし込み方に関する具体的な記述が多い本書を推薦します。
(12)英文契約はまずはこれを購入するところから
日本企業で英文契約に携わる人なら、その存在を知らない人はほとんどいない定番書。会社の蔵書に頼るのでなく自分用の一冊もぜひ買って読み込みたいところです。
外国企業から送りつけられる強気なドラフトを骨抜きにする防御テクニック論については、本メディアでもご紹介した『負けない英文契約書』もおすすめです。
次回、「X-Tech法務のためのブックガイド」をお届け予定です。
(橋詰)
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