読みやすい利用規約づくりが企業の義務になる日

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利用規約の99.6%が学術論文レベル——ウェブサービスのストレスの一つである利用規約の「読みにくさ」について、客観的に分析した研究が話題に。利用規約の読みやすさを向上するポイントとは。

読みやすさの基準を満たした利用規約は500サービス中たったの2つ

ウェブサービスを利用する際、利用者がなかば読むことを「強制」される利用規約について、その可読性(読みやすさ)を分析した研究 が話題になっています。

Most Online ‘Terms of Service’ Are Incomprehensible to Adults, Study Finds(MOTHERBOARD)

Two law professors analyzed the sign-in terms and conditions of 500 popular US websites, including Google and Facebook, and found that more than 99 percent of them were “unreadable,” far exceeding the level most American adults read at, but are still enforced.

同研究は、Alexa社の米国トラフィックランキングのトップ1,000サイトから、“sign-in-wrap contracts” すなわち「利用規約に同意してサインイン」するタイプのサービスを500個抽出。

これらのサービスの利用規約をFREテストとF-Kテストの2つの可読性テストにかけたところ、500中498サービス、割合にして99.6%が、一般消費者向けの文書としての読みやすさの基準を満たしておらず、大学の学術論文レベルに等しいという結果になったというものです。

この論文は、社会科学・人文学のオープンアクセスリポジトリSSRN(Social Science Research Network)上で公開されています。

Benoliel, Uri and Becher, Shmuel I., The Duty to Read the Unreadable (January 11, 2019). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3313837

読みやすさ向上のカギは「要約版」

では、どんな利用規約であれば、一般消費者ユーザーにとっての読みやすさを確保できるのでしょうか?

この 研究で推奨されているのは、「要約版」を用意する方法 です。論文では、利用規約本文の後に要約を添えているTumblrの利用規約が、模範的事例として挙げられています。

Tumbler利用規約 https://www.tumblr.com/policy/en/terms-of-service より

まるで話し言葉のようなやわらかさで、13歳以下の児童に対し、「親にプレステ4でもおねだりしてなさい」と説くあたり、ちょっとクスッと笑えるような要素もあります。

古くから日本語版の利用規約でもこのような「要約版」を添えていたのが、写真共有サービスのPinterestの利用規約です。Tumblerのようなウィットに富んだ書き方ではないものの、ユーザーに対して誠実であろうとする姿勢が伝わってきます。

Pinterest利用規約 https://policy.pinterest.com/ja/terms-of-service より

研究によれば、こうした要約を添えた利用規約は、調査対象サイトの4.8%存在したとのこと。日本発のウェブサービスではまだそれほど見かけませんが、今後増えていくであろうことが予想されます。

利用規約を読む負担がユーザーから企業に転嫁される時代へ

同論文の著者らは、その結論部で、ユーザーには利用規約を読むことを強制しながら、自らは読みやすい利用規約をつくろうとしない企業の姿勢を強く批判 しています。

Sign-in-wrap contracts permit online firms to contract with millions of users, with no negotiation and without verifying that the contract was read (let alone understood). While consumers are legally presumed to read these contracts, websites are not obliged to provide consumers with readable ones.(P36)

では、読みやすい利用規約をつくることは、企業の法的義務なのでしょうか?

日本では、これに近いものとして、訪問販売等の特定の商取引に関し、クーリングオフ等の条件を消費者に通知する書面に「赤枠・赤字」「8ポイント以上」を用いるなどの形式要件を定めています(特定商取引法施行規則)。しかし、これはあくまで形式についての規制であって、内容面の読みやすさについてまで義務化するものではありません。読みやすい利用規約をつくる義務までは、企業には課せられていない のが日本の現状です。

特定商取引法施行規則に定められた「赤枠・赤字」「8ポイント以上」の形式要件

一方で、FREテストやF-Kテストのような、一般人にとっての可読性を客観的に判定できるテストの存在を知らしめ、利用規約に適用したこの研究の意義は、決して少なくないものと考えます。

特にGAFAと呼ばれるような巨大IT企業が提供するサービスが、それなしでは通常の生活が難しいほどにインフラ化しつつあります。こうなると、可読性テストをクリアできる利用規約であったかが対ユーザー紛争時の契約解釈に影響をおよぼすようになっても、不思議ではありません。

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(橋詰)